東方霊想録   作:祐霊

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どうも! 祐霊です!
最近難しい内容になってしまっていますが、それでも読んでもらえて嬉しいです。

堅苦しい未来の技術のお話は今回で終わりなので安心してください!


#78「解析と検索」

 幻想生命科学部情報収集部隊は、幻想郷での調査を正式に認められた日から活動を開始した。部隊名から明らかであるように、情報収集が彼らの仕事である。具体的には植物の生態と妖怪についての情報を集めている。

 

『正体を当てるマシン出張所』を人里に配置した。これは移動型の出張所で、リアカーにマシンを乗せた状態で里を徘徊する。見慣れないものをチラつかせて妖怪の興味を引く事が狙いである。しかし困ったことに、同時に人間の興味を引いてしまう。人間の気配は雰囲気でわかるので、マシンの使用を拒絶したいところではあるが、仕方なく正体を当ててあげることになっている。結果は言うまでもなく『人間(ヒト)』。

 

「私は魔法使いに縁のある人間だ。覚えておきな」

 

 金髪で黒と白のエプロンのような服を着た少女は、魔女が被っているような帽子に触れながら不満そうに呟いた。部隊員は「魔法使いに育てられた子供なのかな?」と思い、念の為遺伝子情報を保管することにした。

 

『正体を当てるマシン出張所』では1週間は安定して採取できた。

 

 ───────────────

 

 情報収集部隊は2グループに別れており、3人ずつの計6人構成である。片方のグループが人里で遺伝子情報を集めていた間、もう一方のグループは迷いの竹林へ向かっていた。

 

 昼間であれば、妖怪に食われることはそう無いという事で、研究員のフィールドワークは日中に行われている。迷いの竹林の特性は八雲紫から語られているが、竹林の防衛機能的存在である「十千刺々」については教えられていない。いや、強いて言うなら、「竹を切ったら命の保障はできない」とは語っていた。

 

 情報収集部隊が迷いの竹林に到着し、足を踏み入れようとした時、声を掛けられた。

 

「アンタら、噂の研究員か?」

「ああ、我々は竹林の土壌調査と竹のサンプルを採取しに来た」

「すぐ終わるなら案内してあげるよ。ただ、竹を切るのはやめた方がいい。やるならタケノコのほうだ」

 

 研究員達は白髪の女に連れられて竹林の中へ入っていく。研究員はキョロキョロと物珍しそうに竹林を観察している。1人の研究員が女に問いかけた。

 

「あのぉ……竹を切るとどうなるんでしょう?」

「竹林の養分にされるぞ。骨も残らず、な」

「ほ、骨も残らず!? 強酸で溶かされるんでしょうか」

「……少し前、この竹林に足を踏み入れた2人の若者が()()()に襲われた。竹で身体を一度刺されそうになったし、別の機会には刺されたらしい」

 

 案内人の話を聞いた研究員達の顔色が段々悪くなってきた。研究員といえば、架空の存在の都市伝説等、「非科学的」と言って嘲笑う印象が強いが、彼らの反応は極一般的なものだった。それは彼らが「非科学的な存在」を「現実で再現」しようとしているからだ。神や妖怪といったオカルトチックな存在を信じているのだ。

 

「で、でも、妖怪は夜にしか出てこないのでは?」

「ふん、そんな考えを持っているなら今すぐ捨てた方が身のためだ。ある程度力を持った妖怪は余裕で昼間にも活動している。尤も、夜の方が活発に動くことには変わりないが……。それに、竹妖怪には朝も夜も関係ない」

「……と、言いますと?」

「──竹を切る。それが竹妖怪が姿を現す条件だ。どうしても切るというなら、正当な理由を示す必要がある」

 

 案内人の話を聞いて恐怖でいっぱいになった研究員は、今すぐ帰りたいという気持ちを抑えて妥協案を脳内に浮かべた。

 

 ──タケノコ採取に切り替えよう。

 

「あれ、タケノコは採取しても平気なんですか?」

「だいぶ昔に私が交渉した。3日くらい殴りあったっけ……」

「だいぶ昔って、貴方何歳なんですか? 同じくらいに見えるのだけど」

「さあな」

 

 研究員の年齢は18。幻想生命科学部の多くは10代である。27世紀の世は年齢ではなく、学力や技術といった実力が全ての世界だ。

 

「さて、そろそろ始めたらどうだ? くれぐれも竹は切るなよ。あんまりアイツと戦いたくないんでな」

 

 案内人にそう言われ、話に聞き入っていた研究員は慌てて採取の準備に取り掛かる。

 

 ───────────────

 

 研究所が現れてから早くも三週間の時が流れた。残された滞在時間は三日。役目を終えた情報収集部隊は研究所の移動準備を進めていた。

 

「チーフ、第二研究所の備品チェックが完了しました。20年は保ちます」

「うむ、設備チェックはどうなっている?」

「電力確保、予備電源、機材、インフラ、予定通りです」

 

 チーフと呼ばれた者は椅子から立ち上がり、メンバー全員に号令をかけた。

 

「いよいよ我々の最後の仕事に移る。これが最大の任務だ。皆、心してかかるように!」

 

 情報収集部隊は再び忙しく動き始めた。一方、菜乃花達「解析・生成部隊」は解析の最後の追い上げを行なっていた。解析部隊の解析は、「正体を当てるマシン」同様、プログラムによる自動解析を行っているため、BISDの一つ『解析(アナライズ)』を持つ菜乃花だけが活躍しているというわけではない。むしろ、菜乃花は能力を使っていないため、仕事の貢献度は他のものと全く大差ない。

 

 収集した遺伝子情報やサンプルのデータはデータベースに格納されている。自動解析プログラムはデータベースにアクセスしてデータを参照し、解析を行う。27世期の研究所の設備を用いれば百数個程度のデータ解析は瞬時に終えることができるが、幻想郷に建っている研究所は所詮仮拠点であり、超高速の演算を行うコンピュータを動かすには電力が足りない。一応彼らは膨大な量の蓄電池を用意しているのだが、電力を無駄にできない()()がある。

 

「解析が終わるまで残り58時間……ギリギリだな。よし、交代制で担当しよう。常に三人担当するようにシフトを組む。オフのものは適当に過ごしていいぞ」

 

 ───────────────

 

 休暇を言い渡された月見姉妹はシャワーを浴びた後、人里へ出かけた。半年ほど前に食べた団子を妹にも食べさせるために菜乃花が連れ出したのだ。幻想郷の通貨は用意してあるので、今回は誰かに奢ってもらう必要はない。まだ陽が出ているためか、道中で何者かに襲われることはなかった。妹、菜乃葉は「ほっぺたが落ちるの~」と言って幸せそうに団子を頬張っている。そんな妹を見た菜乃花は研究所では見せない笑顔を浮かべた。団子を食し、お茶を飲んでまったりと過ごしていると、姉妹の元に金髪の女がやってきた。

 

「やあ、相席いいか?」

「……どうぞ」

「いやーありがとう! 珍しく満席でね、困っていたんだよ」

 

 女は菜乃葉の隣に座り、魔女が被っているような帽子を脱いだ。女はお品書きに一瞥もくれずウエイトレスに団子を三つ注文した。菜乃花は心の中で首を傾げた。店内は満席どころかかなり()いているからだ。

 

「お前たちのその格好からして、あの研究所の者だよな?」

「そうなの~」

「……それがどうかしましたか?」

 

 妹が呑気に受け答えしている一方で、女が狙って相席したことを確信した菜乃花は警戒の目を向けた。それを感じた女は「これは失礼」と言って、こう続けた。

 

「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ。怪しい者じゃないぜ」

「お姉さん、魔法使いなの? 凄いの~!」

「魔法使いが何のようですか?」

「いや、未来人を見つけたから声をかけただけだ。暇なら話を聞かせてくれないか?」

 

 魔理沙は研究所の展示の内容を3割も理解できなかった。だからこそ彼らが住む27世紀に興味を抱いたのだ。

 

「そうだな、まずは脳内挿入型記憶装置について。もちろんタダでとは言わない。この団子をご馳走するぜ」

 

 魔理沙はたった今提供されたばかりの団子を姉妹の前に出す。それはさっき2人が食べたものとは違う商品だ。それ故に、二人は喉を鳴らした。大人ぶった研究者とはいえまだ12歳の少女である菜乃花と菜乃葉だ。好物には目がない。二人はBISDについて語り始めた。勿論、幻想郷の管理者との契約、「幻想郷に知識を与えないこと」に反しない範囲でだが。

 

 菜乃花は魔理沙を『解析』してみせた。

 

「霧雨魔理沙。年齢は1()8()。身長体重、スリーサイズは控えるとして──魔法の森に住んでいる人間で、霧雨魔法店という何でも屋を開いている。博麗神社に住む博麗霊夢と博麗霊華、神谷祐哉とは親しい友人。また、霊夢に対してライバル意識を持っている。天才の彼女の隣に立つために日々魔法の研究をしている。弾幕ごっこが得意で、パワー重視。自慢のレーザーを祐哉に跳ね返されて以来、更なる火力を求めて実験を繰り返している。更に──」

「──ま、待て。突然私の事を語り出してどうした? いや、それ以前に何故そこまで知っている? その事は誰にも言っていないはずだ」

 

『その事』とは、更なる火力を持ったレーザーを撃つための研究についてだ。研究をする際、魔理沙は不法侵入を防ぐ為の簡易的な結界を貼る魔法を用いている。セキュリティは万全のはずなのに何故か情報漏洩している事に彼女は不信感を抱いた。

 

「──これが私にインストールされたBISD。『解析(アナライズ)』だよ」

「知識はインストールする(取り込む)もの。確かにそう書いてあったな。だがそれは知識と言うよりかは能力だろう。……そうか、つまりお前は超能力者なのか」

「私も超能力者なの。何でも『検索』できるの。魔理沙さんのお財布の中にあるお金じゃ団子は一つしか買えないの」

 

 菜乃葉がそう言うと、魔理沙はぴくりと反応した。

 

「お前、なぜその事を?」

「言ったの。私は何でも検索できるって」

「そういう訳だから、私達はこれで」

 

 月見姉妹は自分達の分の伝票を取り、店員に銭を渡して店を出た。

 

「危ないところだったの」

「やっぱり菜乃葉の検索って便利だよね」

「お姉ちゃんの解析の方が便利なの〜」

 

 解析と検索。出来ることは似ているが、厳密には異なる。例えば、姉の菜乃花の超能力──『解析』は魔理沙について解析できる。これは菜乃葉の『検索』でも可能だ。だが、神谷祐哉について『解析』ができても、『検索』はできない。

 

『検索』は特別なデータベースにアクセスして情報を取り出す能力。創作世界である『幻想郷』に存在した人物についての情報は21世紀に保存されている為、魔理沙については検索できる。だが、神谷祐哉は現実世界から創作世界に転移した異邦人である。イレギュラーな存在についての情報はデータベースに無いため、検索が不可能である。

 

 ならば、『検索』は『解析』の下位互換か? 否である。そもそも解析と検索は全くの別物だ。『解析』とは()()なるものを理解する為の行為。『検索』とは、()()なるものを調べる行為。故にこの2つの能力の優劣は測れない。

 

 知識量が21世紀とは比にならないほど増えた27世紀では、情報が格納されたデータベースに検索をかけるのが常識になっている。BISDにインストールした『検索』は、端末無しでも自身の身体ひとつで検索できるようにしたものだ。

 

「私達姉妹は無敵なの〜!」

 

 妹に抱きつかれた菜乃花は微笑んで彼女の頭を撫でた。




あろがとうございました! 次回からようやく祐哉が出てきます!

【前回までのおさらい】
組織名:生命科学研究機構(幻想生命学部)
研究目的:空想の生き物を科学で再現する。
幻想郷にきた目的:妖怪の遺伝子情報を集める。
滞在期間:1ヶ月

【今回】
・情報収集部隊が各地で遺伝子情報を集めた
・契約期間の1ヶ月が過ぎようとしていて、移動の準備をしている
・月見姉妹達「解析・生成部隊」は機械を使って自動で遺伝子情報を解析
・双子の姉、月見菜乃花が持つ「解析」は未知なるものを調べるための力
・双子の妹、月見菜乃葉が持つ「検索」は既知なるものを調べる力

知識量が21世紀とは比にならないほど増えた27世紀では、情報が格納されたデータベースに検索をかけるのが常識になっている。菜乃葉がBISDにインストールした「検索」は、自身の脳を使うことで端末なしでもデータベースを参照できるもの。

次回の投稿は少し先になります。5月4日に投稿できるように準備します。頑張れたら5日毎日投稿しますが……わかりません! お待ちください!

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