東方霊想録   作:祐霊

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大変お待たせしました。東方霊想録79話でございます。

今年のGWもとても忙しかったです。

久しぶりの戦闘回。弾幕戦より書きやすいですね。


#79「パクリじゃあない、オマージュだ」

 研究所が現れてから1ヶ月経過した。これにより、密かに行われていた交換留学は終了し、ある日の朝には研究所の姿が無くなっていた。現れた際は「ずっと前からそこに建っていた」が、今では「最初から何も無かった」ように感じられる。

 

 ───────────────

 

 最近日が暮れるのが僅かに早くなってきた。夏が終わっても白玉楼で修行している。夏の猛暑の中──といっても今年の最高気温は30℃──階段駆け上り修行を続けた俺と叶夢は体力と瞬発力をかなり鍛えられた。

 

 だが、剣術の修行は思うように進んでいない。ド素人状態から始めた剣術。基本の斬撃を教わった頃はすぐに成長できたが、段々と成長速度が遅くなってきた。簡単に言うと修行のレベルが上がったのだと思う。妖夢との修行では真剣同士の試合をしている。最初は妖夢を斬ってしまったらどうしよう、と言う不安があったが、俺の実力ではどうやっても彼女に攻撃を当てられないということを散々思い知らされているため、躊躇せず刀を振っている。

 

 刀で人を斬ったことはない。剣術を学んでからは、妖怪さえも斬ったことがない。そもそも風見幽香以来、妖怪と戦っていない。斬るための技術も、実際に斬らなければ大して役に立たないし、向上心も生まれにくい。成長速度が落ちた理由は、無意識下で自分の実力に満足しているせいかもしれない。

 

 そんな事を考えているからか、イマイチ修行にも集中しきれない。挑んでも挑んでも、妖夢に汗をかかせることさえ叶わず、寸止めで斬り返される。

 

「最近集中できていないですね」

「えっと……」

「誤魔化しても無駄です。ひょっとして、今の自分に満足しているんじゃないですか?」

 

 驚きのあまり体が震えた。集中できていないことには気付かれたとしても、その理由まで言い当てられるとは思っていなかった。

 

「そんな貴方を今から襲っちゃおうと思うんです」

「──へ?」

 

 いったいどう言う意味で──なんて考える暇もなく胸ぐらを妖夢に掴まれた俺は上に投げ飛ばされた。宙を舞っている間に目に映った妖夢はこちらを見上げながら楼観剣を抜刀しようとしていた。その後ろでは叶夢が呆気にとられている。

 

 膝を曲げて構えているところからして、俺の着地を待たずに妖夢の方から跳びかかってくるのだろう。俺は咄嗟に帯刀を引き抜き、重力を活かして迎撃する。互いの刀が衝突し、甲高い金属音が耳を刺激する。拮抗して弾きあった結果、互いに退いて着地した。同時に中段の構えを取り睨み合う。

 

「飛天御剣流──龍槌閃! なんてね」

「良かった。迎撃してこなかったら今頃永遠亭送りですよ」

 

 高校のときハマった剣客漫画の必殺技、憧れて真似してたっけ。いつの間にか見様見真似でもそれっぽいものができるようになっていた。

 

 それはそうと、今怖いこと言ったよね、妖夢。怒らせちゃったかな……? 

 

「ごめんなさい! 明日から真面目にやります!」

「貴方はいつも真面目に修行しているじゃないですか。ただ、目的を忘れているだけです。貴方は最初、護身のために剣術を学ぶと言いました。ですが、途中で私に言いましたよね、()()を守るために力が欲しいと」

 

 妖夢は喋りながらジリジリと距離を詰めてくる。俺は半歩引いて全身に霊力を纏い、集中する。

 

 妖夢は斬撃はもちろん、スピードが速い。短距離の瞬間速度なら幻想郷最速を自称する鴉天狗よりも上だと言う噂もあるほどだ。だが、毎日妖夢と手合わせをしている俺と叶夢は油断しなければ避けることができる。

 

 ──普段なら

 

 次の瞬間には妖夢の姿が消えていて、腹に鋭い痛みが走った。

 

「ガッ──!?」

 

 思わず背中から地面に倒れてしまう。咄嗟に受け身を取って勢いよく回転して膝立ちの姿勢を取る。腹は斬られていない。峰打ちか。

 

「──本気でかかって()()()()。私を、彼女を危機に晒す危険因子だと思いなさい。私を倒せなかったら今日をもって()()とします!」

 

 ───────────────

 

「おいおい、いったい何事だよ? 妖夢のやつ、どうしちまったんだ?」

「手出しは無用だよ、叶夢」

 

 突然始まった喧嘩とも言える戦いに驚いていると、妖梨が意味ありげなセリフを吐く。

 

「何か知ってんのか?」

「最近、祐哉はスランプに陥っていてね、お姉ちゃんが活を入れようとしているのさ」

「よくわからんがアレは演技ってこと?」

「どうかなあ、本当に破門かもよ?」

 

 祐哉がスランプだなんて全く気づかなかった。いつも通り修行しているようにしか見えなかった。

 

「修行自体は熱心にやっているんだけどね、僕やお姉ちゃんに負けてもあまり悔しがらないでしょ?」

「確かに。前は一緒に悔しがってたのに。慣れたんじゃないか」

「うん。その『慣れ』が『負けても仕方ない。どうせ負ける』って言う考えに繋がってるんだよ」

「言われてみりゃアイツ、後ろ向きだよな。打算的というか何と言うか……負ける戦いをしたがらない」

「そうそう。実戦なら構わないけど、修行で師匠に負けるのは当然だからね。かと言って諦めちゃったら成長が止まってしまうんだ。だからお姉ちゃんはああやって襲ってるの」

「ふーん。それじゃ俺たちは見物人決め込みますか」

 

 そう言って縁側に座ると、妖梨は悪戯っぽく笑った。

 

 ───────────────

 

 ──突然破門にするってそんな! 

 

「……どうしても師匠を敵とは思えない」

「そうですか、それなら実際に敵になるまでです」

 

 妖夢は納刀し、背を向けて物凄い速さで走り出した。

 

 ──まさか妖夢、本当に霊華を人質に取るつもりか!? 

 

「人質……」

 

『人質』と言う単語を頭に思い浮かべただけで過去の出来事を思い出した。

 

 竹妖怪から守れなかったこと。

 

 レミリアに霊華を利用されたこと。

 

 幽香に霊華を人質にとられたこと。

 

「……あの子を襲う奴は誰であろうと敵だ!」

 

 俺は、相手が師匠であることを思考から消すことにした。右手に刀を持ったまま、霊力を使って地面を蹴って駆け出す。白玉楼の広い敷地を数秒で駆け、閉められた門を飛び越えて長い階段を降りる。適当な踊り場に着地するのと同時に、もう一度地面を蹴って駆け下り──否、文字通り()()降りる。風を切る鋭い音を聴きながら、遠くに見える妖夢の背中を追いかける。

 

「──星符『スターバースト』!!」

 

 常に俺の横に存在し続ける魔法陣を創造してレーザーを放つ。スターバーストを放ちつつも階段を降り続け、最下段に到着して幽明結界を越えようとしたとき、背後から強い衝撃が襲ってきた。

 

「ぐうっ!」

 

 レーザーを止めて振り向くと妖夢が刀を振り、弾幕を飛ばしていた。いつの間に背後に回っていたのか。

 

「レーザーの弱点はその轟音! 五感のうち一つを失えば攻撃に気づきにくくなり、不意を突かれる!」

 

 叫びながら弾を飛ばしてくる妖夢。上手く見切って避け、払っていると直接斬りかかってきた。

 

 ──今度は見えた! 

 

 踏ん張りが効くように足と腰、腕に多めの霊力を纏って斬り合う。最高に集中できている上、怒っている今、速さでは劣るものの力では優っている。刀身を擦り合い、力押ししていると妖夢が初めて苦悶の声を上げた。俺は敢えて力を抜き、彼女の右に回って上段の構えを取り、渾身の力を込めて楼観剣の側面に刃を当てる。

 

 どんなに優れた刀でも、側面からの衝撃には弱い。最初に学んだことだ。

 

「甘い!」

 

 武器破壊を狙われる可能性を考えているのも当然か、俺の目論見は失敗に終わり、お返しとばかりに刺突してくる。高速すぎて避けるので精一杯だ。

 

「こんなものでは私は倒せません! ()()()()にも! 大妖怪に人質にとられたらどうするんですか!」

 

 ──くそ! 俺に喋ってる余裕はないってのに! 霊力で身体能力を強化しても太刀打ちできないのか! 

 

 妖夢は霊力操作を()()()()()らしい。しているなら体の周りに霊力が見えるはずだ。純粋な身体能力に勝てないのは反則だ。華奢な体つきからは想像できない優れた能力だ。

 

 ──もっと、纏う霊力を増やせ! 俺が持っている全ての力を駆使しろ! 

 

「おおおおお!!」

「くっ……!」

 

 もっと速く、鋭く斬り込め。そうすれば妖夢を吹き飛ばせる! 

 

「なっ!?」

「今だ!」

 

 俺の猛攻に妖夢がよろけた瞬間、刀の峰で切り上げることで、妖夢を斜め上空に飛ばすことができた。

 

 俺は中段の構えを取り。地面を思い切り蹴って妖夢に飛び掛かる。

 

 ──創造、竹刀。

 

 ──『超速度投射』付与! 

 

「喰らえ! ──神速『九頭龍閃(くずりゅうせん)』!!」

 

 自身が持つ刀の他に八本の刀を創造し、同時に九つの斬撃を繰り出す神速の技。モロに攻撃を受けた妖夢は遥か上の踊り場まで飛んで行った。九頭龍閃──これも某剣客漫画の技だ。原作では一本の刀で本当の神速剣術で同時攻撃するのだが、リアルでは不可能なことだ。

 

 ──カッコいい技を真似できないっつーならよー! 9本の刀を使えばいいだけだろ! 

 

「は──っ! は──っ! ゴホッ! グウェ! はぁ、はぁはぁ……」

 

 ──くそ、カッコつかないな……! もう立てない……! 

 

 これまで経験した中では最大レベルの速さで心臓が動いている。全身が心臓になったようにドクドクと強く忙しく脈打っている。息をするのも忘れるほどに集中して、限界を超えた速度で動き続け、更には機能を付与した竹刀をコンマ数秒レベルの内に八本も創造したために激しい頭痛と吐き気が襲ってくる。

 

 ──目が回ってきた。平衡感覚が……

 

 ──やばい、死ぬかも

 

 ───────────────

 

 妖夢と祐哉が戦い始めた頃、博麗神社にいた霊華は出かけようとしていた。目的地は神の悪戯なのか、白玉楼である。だが、二人が激戦を繰り広げているとは知るはずもなく、のんびりとコロを撫でている。

 

「霊夢、ちょっと出かけてくるからコロをお願いね」

「祐哉にでも会いに行くの?」

「えっ!? 何でわかったの? 勘?」

「勘もなにも、顔にそう書いてあるわよ」

 

 霊華は、霊夢が言ったことが隠喩であるとわかっていながらも思わず姿見を確認しに行った。ついでに、巫女服にゴミが付いていないか確かめたり、頭と胸につけたリボンの位置を調整したり、髪の毛が乱れていないかどうか確認している。霊華の後ろ姿を見ただけで、鼻歌を歌いそうな程に機嫌がいいのがわかる。そんな彼女を見て霊夢はこう思うのだ。

 

「恋する乙女っていうのはああいうのを言うのかしらね?」

「恋する霊華さん、可愛いです!」

 

 霊夢とあうんの会話を聞いた霊華は慌てて反論しようとするが、上手い言い訳が思いつかず、照れを隠すように手で顔を覆いながら戻ってくるのだった。

 

 温かい目で見られながらお見送りを受けた霊華が白玉楼に着いた時、彼女は絶句した。大好きな人が白い顔で地面にうつ伏せで倒れているからだ。刀を握っているので修行で何かあったのかもしれない。まさか、と思った。

 

 ──階段から落ちたんじゃ……!? 

 

 前に見た思い出したくもない夢を思い出してしまう。夢の中では祐哉が階段から落ちる事故で死んだのだ。それが現実になってしまったのではないかと思うと、急激に脈が上がる。頭に響く鼓動音を聴きながら祐哉の身体に手を触れる。

 

「生きてる……良かった。気絶しているのかな。汗もすごい。一体どんな修行をしたらこんなことになるの?」

 

 早く彼を運びたいところだが、祐哉を担いでこの階段を上り切ることは霊華にはできない。白行楼に行って助けを呼びに行くことにした霊華はフワリと浮かび上がり、急いで空を飛ぶ。かなり上った頃、また人が倒れているのを見つけた。頭が痛くなるのを感じながら側によると、倒れている人が妖夢であることがわかった。

 

「妖夢ちゃん! しっかりして! 何があったの!?」

 

 妖夢も生きているが、意識がない。こうなってくると敵襲の可能性が浮上してくる。霊華は袖から大幣を取り出して再び空を飛んだ。

 




ありがとうございました。

天翔龍閃は登場しません。霊力を使って身体強化をすれば(少なくとも人間から見れば)超神速の抜刀術が使えると思いますが、アレは奥義なのでね。


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