目が覚めた。俺は布団の中で仰向けに寝ている。誰かが運んでくれたんだろう。助かった。正直あの階段を登る気力がない。起き上がろうとしてもダルすぎて動けない。
「うー」
「あ、神谷君! 起きたの?」
「れい……か……」
「うん、霊華だよ。大丈夫?」
どうしよう、霊華が見える。あの世にいるのかも。
『白玉楼は冥界にあるのだから合ってますよ』
いや、そういうこと言ってるんじゃなくてね?
「れいか、げんき?」
「私のセリフです! 話は聞きましたよ。あの二人ったら私が駆けつけた時呑気にお喋りしてました。流石に怒っちゃいました」
「おこらないで、れいか。わらってるほうがかわいいよ」
「~~!! どうしたんですか神谷くん。もしかして寝ぼけてますか?」
「ねるぅ」
「もう……ゆっくり休んでください。ずっとここにいますから」
あの世の霊華、優しいな。可愛いな。名残惜しいけど眠ろう。もう1秒だって起きてられないや。
──数時間後──
「あーなんかめっちゃ寝た気がする!」
気怠さは無くなったものの、全身筋肉痛を起こしているため「痛てて」と言いながら寝返りを打つと、外が薄暗くなっていた。
「この感じ、夕方というよりは朝だよな。……え、マジ? そんなに寝たの?」
後ろから服が擦れるような音がする。後ろに寝返りを打つと、可愛い子が眠っていた。
「天使か?」
リボンを付けておらず、白い寝巻きを着ていて一見誰だかわからないが、もしかしなくても霊華だろう。俺は無意識に彼女の髪に触れていた。
──なんで霊華がここにいるんだろう。
俺は眠っている彼女の頭を撫でた後立ち上がって居間へ向かう。
「痛ぇ……」
主に腕と足が痛い。どっちも馬鹿みたいに重く感じる。動かすのがしんどい。
「あ、祐哉。起きたんだね、おはよう」
「おはよう、妖梨。あのさ、なんで霊華がいるの?」
「遊びに来たんだよ。タイミングが悪かったね。いや、巻き込まなくて済んだのだから良かったのかな? でも怒られちゃった。助けられなくてごめんね。想像の何倍も激しい戦いだったらしいね、お姉ちゃんが驚いてたよ」
「そうだ、妖夢はどうなった?」
そう尋ねると、「おはよう」と声をかけられた。振り向くと妖夢が立っていた。
「妖夢! ごめんなさい!」
「え、どうしたの?」
「その……殺す勢いで攻撃しちゃったから……」
「大丈夫。そうさせたのは私だし、打撲程度だからね」
大丈夫だよ、と優しい笑顔を見せてくれる妖夢。とても複雑な気分だ。あの時俺は、「妖夢に勝つ」ではなく、「敵を倒す」ことしか考えていなかった。師匠であり、友である妖夢に対してだ。
「本気を出してくれて、しかもその本気が凄く強くて、私は嬉しかったよ! いい技でした」
俺の斬撃で吹き飛んだ後、気絶していたらしい。相打ちだったということだ。
「弟子と相討ちなんて……私、修行不足だなぁ」
「いや、待ってよ。昨日の俺はおかしかった。今やれって言われてもできないよ……」
「うん。完全にリミッターが外れてたんだろうね。その証拠に、全身筋肉痛でしょ?」
「正直立ってるのも辛い」
「あの本気が常に出せるようになったらすごいと思わない?」
妖夢の言葉に妖梨が頷いた。妖梨も同じことを聞こうとしていたらしい。二人が注目してくるのに対し、俺は肯定した。
「すごいけど、なれるのか──」
「──なれるよ。必ず。ただ、普段の4倍くらいの強さだったから、気合入れてね! あ、今日は休んでね。明日からまた頑張ろう」
妖夢はそう言って部屋に戻っていった。「気合を入れてね」と言われた時、俺は気づいた。
──もしかして、俺にやる気を出させるためにあんなことを?
──迷惑かけちゃったな。でもお陰で自分の成長に可能性があることがわかった。あの「九頭龍閃」、必ず身につけてみせる。それが妖夢と妖梨に対する恩返しだ。
洗面所で顔を洗った後自室に戻る。霊華はまだ眠っているので起こさないように刀を手に取る。昨日手入れをせずに寝てしまったので、今から行うのだ。今日も使わないから念入りに。
手入れを終えて時計を見ると、もうすぐで朝食の時間になることに気づいた。俺は眠っている霊華に近づいて頭を撫でる。
「博麗さん、もうすぐでご飯だよ」
「ん……」
うっすらと目を開けて数秒経った後、モゾモゾと動いて目を閉じた。
「眠い?」
そう問いかけると無言で頷いてきた。
「ご飯食べない?」
今度は首を振ってきた。どうやら相当眠いらしい。仕方ないので部屋の障子を開けて日の光を取り込むことにする。
「まぶしい……」
「博麗さんってそんなに朝弱かったっけ?」
「昨日はなかなか寝付けなくて……心配したんですからね?」
俺のせいか。そういえば昨日、寝ぼけて霊華に変なこと言った気がする。何て言ったっけ?
『笑ってる方が可愛いって言ってましたね』
『うっっっっっっわ! 聞かれてたのかよ』
『あの後、すぐ起きると思っていたようですが、夜になっても目を覚さないので心配そうにしてましたよ』
「ごめん」
「だめです」
「今度団子おごるから」
「本当ですか!?」
霊華は急に飛び起きた。
「そんなに団子好きなの?」
「好きですけどそれより一緒にお出かけできると思うと……やったぁ」
今から楽しみと言うように目を輝かせている。自分と出かけることを楽しみにしてくれるのは嬉しい。
「いつ行こうか」
「いつでもいいですよ。神谷くんの予定に合わせます」
「じゃあ後で妖夢と相談してみるね。決まったら連絡する」
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今日は叶夢の修行の様子を見ていた。指導が叶夢のみに集中するためか指導が厳しかったようで、修行が終わってから怒られた。俺だって別にサボっていたわけではない。二人が試合している間、特に妖夢の動きを観察して学べるところを探していたのだ。
叶夢の修行が終わって自由時間になった後、俺は一人で人里へ向かった。折角だから今度霊華に会う時にプレゼントを渡そうと思ったのだ。何がいいかと探して回った結果、
俺が人目を避けようとしている理由は、今から無茶な術を使うからである。誰にも邪魔されたくないし、目撃もされたくない。白玉楼の中で行えば強い霊力を発する為にバレてしまう。妖夢たちにバレなくても、幽々子の目を欺くことはできないだろう。
「さて、実に3、4ヶ月ぶりにあの力を使うんだけど……」
確か発動条件は「強い想い」だったはずだ。
色んな妖怪に霊華を人質にとられた時のことを思い出す。
十千刺々が霊華を殺そうとしたこと。
意識を取り戻したら霊華が腹を刺されて倒れていたこと。
レミリアが俺と戦いたいと言う理由で怖い思いをさせたこと。
風見幽香が俺にやる気を出させるために殺害予告をしてきたこと……
皆俺のせいで彼女を危険にさらしているのかもしれない。前に一度、「もう巻き込むのは嫌だから、一緒に出かけるのはやめようか」と言ったことがある。そうしたら、泣きそうな顔をされてしまった。「人質になるのは嫌だけど、神谷くんと出かけられない方が嫌だ」と返された。俺だって嫌だ。でも、
一緒にいるときなら彼女を守る手段があるが、懸念すべきは霊華が一人でいるときに何者かに襲われるケースだ。誰もそばにいない時にまで守ろうとするのは過保護とも言えるが、霊華には「愛される程度の能力」があるため楽観的にはなれない。そこで考えた手段がこの簪である。彼女が普段身につけるものに術をかけることで守るのだ。
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今日は待ちに待ったデートの日。今日の服装はいつもと同じ巫女服だ。本当はこの日のためにおしゃれをしたかったけど、一緒に服を選んでくれた霊夢曰く「巫女服が一番似合っている」らしく、これに落ち着いた。
待ち合わせ場所に着いて時計を見ると、約束の40分前に来てしまったことがわかる。当然神谷くんの姿はなく、彼が来るのをのんびりと待っている。
暫くすると向こうから神谷くんが歩いてくるのが見えた。私が手を振ると、彼も振り返してくれた。待ちきれず自分から彼の元へ駆け寄る。
「神谷くん、早かったですね」
「こっちに来て」
神谷くんは私の手を握ると歩き始めた。珍しく積極的な様子を見てドキドキしていると路地裏に入っていた。一体こんな所へ何の用だろうと思い尋ねると、神谷くんは不敵な笑みを浮かべながら振り向いてきた。
「な、なんですか? どうしたの?」
「ふふ……まんまと騙されたね」
「一体何の話を──きゃっ!?」
何の話をしているのか問おうとすると突然首を絞められた。
──息が出来なくて苦しい。止めてよ……どうしてこんな事するの?
声を出そうにも出せず、首を絞める手を払おうにも恐怖で震えた身体では抵抗もできない。大幣を振ることも、御札を投げることも叶わず、私の意識はどんどん薄くなっていく。身体が痙攣するのを感じた時、身体から力が抜けていった。
──神谷くん……どうして……?
霊夢と魔理沙。そして祐哉と霊華。4人は平凡だが幸せな生活を過ごしていくうちに、それを当たり前の日常だと思っていた。明日もまた、同じことの繰り返し。だがそれは退屈という程悪いものではない。
そんな【日常】は唐突に生まれ変わる。
【彼】の目に映る【
だがそれは、幻想郷を包む異変の影響とは限らない。
誰かにとっての【