東方霊想録   作:祐霊

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#81「時間をかけて育てた【信頼】は一瞬で破壊される」

 約束の3()0()分ほど前に着いた。流石に早く来すぎたようで、彼女の姿は無かった。待たせるよりはマシだと思い、俺は待ち合わせ場所の周りを適当に歩いて時間を潰すことにした。

 

 ──あれは……? 

 

 道端に青いリボンが落ちていた。気になった俺は人の波をかき分けて拾いに行く。

 

 ──これは……霊華のリボンにそっくりだ。落としたのかな? 

 

 だとすれば、彼女は既に来ていて無くしたリボンを探しているかも。彼女の姿を探していると、何となく路地裏が気になった。目をこらすと人影が見えたので入ってみると、そこには予想もしていない人物が倒れていた。

 

「──れい……か?」

 

 青と白の巫女装束。俺が見間違えるはずがない。これは霊華の服だ。慌てて傍によって声を掛けるが反応がないので仰向けに寝かせる。やはり霊華だ。一体どうしてここで倒れているのか疑問だが、気を失っているようなので永遠亭に運ぶことにする。

 

 ───────────────

 

「博麗さん、こっち来て」

「神谷くん!」

 

 神谷くんに呼ばれた私は嬉しくなって小走りで近寄る。ああやっぱり、さっきのは夢だったんだ。

 

「今日は何処に行きますか?」

「そうだねぇ、────────」

 

 え? なんて言ったの? 

 

「─────────」

 

 何故か彼の言葉がよく聞こえない。何だか不安になっていって、突然()()()()()()()()

 

「へへ、引っかかったな!」

「うっ──どう、して……」

 

 また首を絞められた。やだ、やめて。神谷くんはこんな事しない! さっきのも、今のも、夢なんだ! 夢なら早く覚めて! こんなの嫌だよ! 

 

「──い、おーい、大丈夫か、霊華」

「ん……魔理沙」

 

 私を呼ぶ声がすることに気づいた時、意識が戻っていくのを感じた。やっぱり夢を見ていたんだと確信して浮上していく。目を覚ますと魔理沙が心配そうに私を見ていた。

 

「大丈夫か? うなされてたけど……」

「まりさぁ……」

「おー、よしよし。私が居るからな。霊夢もいるし、祐哉もいる。何も怖くないぜ」

 

 祐哉──そうだ、神谷くん。

 

 神谷くんの姿を探すと魔理沙同様心配そうに見ていた。私は彼の顔を見た時、察した。

 

 ──違う。アレは夢なんかじゃない! 現実だ。

 

 私は神谷くんと待ち合わせしていた。早くに着いたんだ。5分くらい経って彼が来たかと思うと路地裏に連れていかれて首を絞められた。夢と現実を間違えるはずがない。

 

 ───────────────

 

 霊華を永遠亭に運んで念の為検査してもらったが、気を失っているだけだと言われて今は寝かせている。使い魔を送って霊夢と魔理沙に知らせ、永遠亭に来てもらった。

 

「大丈夫? 博麗さん。一体何が──」

「──いやっ!」

 

 俺が霊華に声を掛け、何があったのか尋ねようとすると、質問し終わる前に言葉を遮られた。俺は霊華に()()()()。突然の事に唖然としていると、霊華は消え入りそうな声で「来ないで」と言った。ギュッと目を瞑り、震わせている。

 

「どうして──」

 

 ──なんで俺は怖がられているんだ? 

 

「どうしてって、それは私の台詞です!」

「お、おい。何があったんだよ?」

 

 魔理沙が俺たちの間に立って落ち着くように説得しようとする。

 

 霊夢は俺に「どういうこと?」と聞いてくるが、首を傾げるしかない。

 

 俺は約束の30分前に着いた。その後に青いリボンを見つけて、近くの路地裏で霊華が倒れているのを発見した。俺は何もしていない。遅刻もしていないから、それを責められているわけでもないはずだ。

 

 俺には拒絶される理由が思いつかない。

 

 ──そもそも霊華は何故あんな所で倒れていたんだろう? まるで誰かに襲われたみたいな……

 

 俺が考え込んでいると、霊夢が彼女に近づいて「里で何があったか話してくれる?」と言った。

 

「首を絞められたの……」

「誰に?」

 

 長い沈黙が生まれた。やがて絞り出したような声でこう言った。

 

「──神谷くんに」

 

 と。

 

 俺は耳を疑った。霊夢と魔理沙も同様だ。

 

「え、俺……?」

「驚かせるつもりだったんですか」

「待ってよ、俺じゃない。俺が着いたときには既に倒れていた!」

「嘘をつかないで! 私ははっきりと見たんだから! 声だって神谷君の声だった! あれが偽物だなんてありえない! さすがに許しません。私……すごく怖かった……」

 

 そう言って霊華は泣いてしまい、霊夢がなだめる。

 

「……真偽はおいておくとして、私たちは一旦席を外そうぜ」

 

 魔理沙が俺の肩に手をやって言う。そのまま魔理沙に手を引かれて外に出る。魔理沙が部屋の襖を閉めて歩き出した。

 

「俺じゃない、俺は何もしていない」

「ああ、わかってるよ。外で少し休もう」

 

 永遠亭の外に出た俺は、手頃な大きさの岩に腰を下ろし俯く。

 

 ──何がなんだかわからない。

 

 今頃霊華とデートをしているはずだったんだ。この日を楽しみに修行を頑張っていたのだから、このようなことをするはずがないじゃないか。

 

 そう考えていると、魔理沙が話しかけてくる。

 

「祐哉」

「俺じゃないって! 本当にやってないんだよ!」

「違う。水だ。貰ってきたから、飲めよ」

 

 顔を上げると魔理沙が湯呑みを持っていた。輪っかの中に「永」と言う文字が書かれていることから、永遠亭のものだと言うことがわかる。無言で水を受け取る。そして魔理沙は隣に腰掛けた。

 

「──もう何がなんだかわからないよ……」

「……これを聞くのは1回きりだ。あまり聞きたくないけど許してな? ──本当に、冗談抜きでやってないんだな?」

「当たり前だろ! なんで俺があの子を襲わなきゃならないんだよ! ふざけ──」

「──わかった。私はお前を信じるぜ。ってか、疑ってなかったけどな。お前は偶にふざけるが真面目な奴だからな」

 

 魔理沙は逆上しかけた俺の肩に手を置き、信じると言ってきた。

 

 ──良かった。

 

 正直、霊夢と魔理沙が俺を疑うんじゃないかと思っていた。少し考えただけでも泣きそうになる。友達に信じて貰えないのは相当堪えるんだ。

 

 ──いや、霊夢が俺を信じるとは限らないんだ……

 

「取り敢えず、お前が知ってることを教えてくれ」

 

 俺は彼女と待ち合わせをしていたことから全部話した。

 

「よしわかった。私がお前の無実を証明してやる。今こそ『何でも屋』の出番だ」

「活動してたんだな。でもどうやって証明する?」

「いいか、お前と霊華の話をまとめるとこんな感じだ。待ち合わせ場所の団子屋に居たら祐哉に首を締められた。──だがお前はやっていない。つまり第三者の犯行と言うわけだ」

「じゃあなんだ。誰かが俺に姿を似せてあの子を襲ったとでも言うのか?」

「ああ、私はそうだと思っている。妖怪の仕業だろうが悪戯じゃ済まされない。人間関係に関わるからな。私がきっちりと退治しておくぜ」

 

 一人だけで捜査するのは困難だろう。魔理沙が俺を信じてくれると言うのなら、依頼することにしよう。

 

「……魔理沙。何でも屋の魔理沙さん」

「なんだ?」

 

 魔理沙は立ち上がって、スカートをパンパンと叩いてホコリを落とす。

 

「捜査の協力を依頼したい。ただし、俺が退治する。スターバーストで消滅させるだけじゃ気が済まなそうだ」

「ああ、落とし前はお前に付けさせてやるよ」

「報酬は?」

「そうだな……私とデートってのはどうだ?」

「……お前が言うと何かの隠語に聞こえるが、了解した」

「そんじゃ早速行ってくるぜ。霊夢に伝えといてくれ!」

 

 箒を跨ぎ、帽子を深く被った魔理沙はすぐに飛び立った。彼女の行動力には素直に尊敬する。

 

 自分も調査に出かけよう。これは何かの異変かもしれない。もしかしたら、里で似たような事件が起きている可能性もある。そうと決まれば霊夢に話してこよう。そう思って立ち上がると、どこからか声をかけられる。遠い昔、どこかで聞いたことがあるような声。記憶を遡って声の主を思い出すのと同時に、本人が目の前に姿を現した。

 

「お話は終わったかしら」

「お久しぶりです。紫さんでしたよね?」

「ふふ……忘れたフリをすることに何の意味があるのかしら」

「フリではなく、ちゃんと忘れかけていましたが?」

 

 この人と会った回数は片方の指で数えられる程度。最後にあってからだいぶ経つし、あれからいろんな人に出会っているから名前を忘れかけていても不思議なことではないはずだ。

 

「あら酷い。貴方から見れば私は『親しんだ世界の登場人物』でなくて? そんな簡単に忘れてしまうものかしら」

「生憎、俺は頭が悪いので。すみません」

 

 そうなの。と言って上品に笑う。口元を扇子で隠しているので「うふふ」と言葉に出して「笑っているフリ」をしているだけかもしれないが。

 俺は「ええそうなんですよ」と言って紫に合わせて笑う。

 

「それで、何の御用ですか?」

「大した用でもないわ。何かあったようだから、心配して顔を見せたの」

「そうでしたか。お気遣いありがとうございます」

 

 ──紫ならば里で何かが起きていないかわかるのではないか? 

 

 確か人里にスパイを送り込んでいたはずだ。人間の様子を監視し、行き過ぎた騒動を起こさないようにするのが目的だったと思う。

 

「気にすることはないわ。そう、気にすることはない」

 

 紫は意味深なことをポツリと呟く。

 

 ──なぜ同じことを二度言ったのか

 

 俺はそれが気になって仕方がない。こういうのは決まって大きな理由がある。

 

「どうかなさったんですか?」

「貴方はもう悩む必要はないのよ。修行する必要もない。異変解決に貢献する必要もない。霊夢にそっくりなあの子を守る必要もない」

 

 間髪入れずに突きつけられた四連続の否定文は俺を震えさせた。嫌な予感がする。何故だか突然怖いと感じた。

 

「……それは、あの子に嫌われたからですか」

「そう。一度作られた亀裂はもう治らない」

 

 俺は考えるのをやめた。そして、大きく息を吸って、ため息として吐き出した。

 

「もう一度聞きます。何か御用ですか? 俺にはやることがあるので、早く済ませてほしいのですが」

「そうね。お喋りも飽きちゃった。面白くないんだもの。今日は合格通知に来たの」

 

 紫が纏う空気が変わった気がした。

 

「おめでとう。貴方──不合格よ」

 




ありがとうございました。
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