あれですね、祐哉と霊華の仲が悪くなっちゃったんですよね。忘れてt……ゴホゴホ。
それでは楽しんでいってください!
時刻は少し遡り、祐哉と魔理沙が別れて少し経った頃。魔理沙は人里で異変が起きていないか調査を行っていた。
魔理沙は、今回のような事件が他にも起きていると睨んでいる。つまり、祐哉と霊華と同じような被害を受けた人がいるのだ。彼女は里を歩きながら人々の会話に聞き耳を立てる。
──どうでもいい世間話ばかりだな。
とは言っても、まだ里の半分も探索していないのでこれからだろう。
結局、その日はなんの手がかりも掴めなかった。
だが、魔理沙は諦めなかった。そもそも一日で調査を終えられるとは思っていない。これまでも里で起きたちょっとした異変の調査をしたが、数日間ウロウロして情報を集めてきたのだ。
三日目で
仲が良かった夫婦が急に仲違いをしたり、カップルの間に亀裂が生じたり、八百屋で買ったトマトが潰れているといった話だ。
どれも、ここ最近、それも同日に起きた話のようだ。それだけではなく、徐々に被害が拡大しているらしい。三日目の夕方になる頃には、三十分に一度くらいの感覚で噂を耳にするようになった。
どの噂も、タチの悪いイタズラ程度の物だった。
──やはり祐哉と霊華は何者かにイタズラされたんだろう。問題はどんな奴がイタズラを仕掛けているのかだが……
魔理沙には腑に落ちない点があった。
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「何故犯人の目撃情報がないのか、ね」
そう言って煎餅を口にする友人を前にお茶を啜る。
「離れたところからイタズラを仕掛けてるのかな」
「違うと思う。多分」
「勘か?」
「いや、離れたところから物をすり替えたり、仲違いをさせるって相当なことよ。一瞬貧乏神を疑ったけど、アイツが関わってるならこの程度じゃ済まないわよね」
二人は沈黙した。あまりにも情報が少なすぎる。
「まず分かっているのは、里で何らかの事件が起きていること。根拠としては、ここ数日で被害が急増したことが挙げられるわ」
「その被害の大半は仲違い……と」
「とは言っても、それ以外にもイタズラ程度の被害が出ている事から、『仲違いをさせる妖怪』とは限らないわね」
霊夢は祐哉を疑っていない。祐哉と霊華の関係を知っている彼女だ。祐哉が霊華を襲うとはどうしても思えなかった。どうしたものかと考えているところへ魔理沙が訪ねてきたのだ。そして、里で何らかの異変が起きていることを知った。
「ところで、祐哉が何処にいるか知らない?」
「さあ。白玉楼にはいなかったから、てっきり此処にいると思っていたんだが」
「アレから戻ってきてないわ。……仕方ないわね」
お茶を飲みきった霊夢が立ち上がる。
霊夢としては、里で何らかの事件が起きていることが分かれば十分だった。イタズラしている妖怪を退治するよりも、行方不明になった友人の安否確認を優先したいと思っている。だが、彼女の立場がそうさせない。
「どこ行くんだ?」
「仕事に行ってくるわ」
それなら、と魔理沙が立ち上がるが、霊夢は共に行こうとは言わなかった。代わりに、
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「待ちな、白黒魔法使い」
「門番が機能しているなんて珍しい。これは明日と言わず、今日あたり槍が降るな」
「お嬢様に用があるならそう言ってくれない? 通すから」
「いやいや、お手を煩わせる訳には行かないなあ。という訳で、強行突破だ」
槍という単語からグングニルを連想し、紅槍使いのレミリアだと解釈した紅魔館の門番、紅美鈴だが、魔理沙は単純に皮肉を言っただけである。
魔理沙は門番と弾幕勝負を始めた。
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「楽しそうだね」
「美鈴と魔理沙が戦っているようです」
「あら、ちゃんと仕事しているのね。これは星が降ってくるわ」
紅魔館の当主、レミリア・スカーレットとその従者、十六夜咲夜が話していると、部屋の壁に亀裂が走った。崩壊音を立てながら壁に穴が空き、流れ
「おや、本当に星が降ってきたよ」
「止めて参ります」
「魔理沙を連れてきて」
咲夜は主人に一礼した後、文字通りその場から消えた。次の瞬間には
「おわっ!? ──と、どうやら忍び込む手間が省けたようだぜ」
「そこの壁を治してくれるんだろうね?」
レミリアは魔理沙を軽く睨みつけるが、その程度で怖気付く魔理沙ではない。
「祐哉に治してもらえばいいじゃないか。アイツの創造でさ。ここにいないのか?」
「ん? 祐哉は今冥界にいるんじゃないの?」
「いつの話をしているんだ? アイツは今行方不明だ」
魔理沙の言葉を聞いた二人は間違いなく驚愕していた。その様子を見た彼女は「ハズレを引いたな」と考えた。
「お前の運命を見る力で居場所を突き止められないのか?」
「私の力は探し物には向いてないよ。でも、お前の運命は見ることができる。──なるほど。心配はいらない。好きなように行動しな」
レミリアの能力──『運命を操る程度の能力』はその名の通り運命を読み取り、時には操ることができる。レミリアは魔理沙の運命を読み取った。そして近いうちに祐哉と再会する様子を見たのだ。だが、そのことを伝えなかった。下手に助言すれば、ほぼ確定している運命にズレを生じさせてしまうからだ。
レミリアの言葉の意味は魔理沙には伝わっていない。用が済んだ魔理沙は、こっそり図書館の本を持ち去ってから帰路に着いた。
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霊夢が人里に着いてから数分経った頃、彼女は早速事件を目の当たりにした。
男女がデートをしていたのだが、その途中、男が別の女にナンパしたのだ。
この様子を目撃した霊夢は訳が分からず、暫くの間硬直した。だが、すぐに男の様子に違和感を覚えた。
件の男女だが、女は男をビンタした後泣きながら走り去っていった。見事なまでの仲違いであり、修羅場である。
「待って!」
「何よ! 離して!」
霊夢は走り去った女の手を掴んだ。女は空いている方の手で泣いている顔を隠しながら、声だけは強気に反応した。
「アレをよく見て、何かおかしいと思わない?」
「何がおかしいって!? 恋人の私が居ながらも目の前で他の女に声を掛けること以外に何がおかしいって言うのよ!?」
霊夢の問いかけは、怒りと悲しみが混ざってしまった女には届かなかった。霊夢は溜息を堪えながら女の恋人の元へ歩き始める。
──おかしい事だらけなのよ。恋人に叩かれて直ぐにまた別の女に声を掛けるって、そんなことある?
霊夢が思うように、先程ナンパした男は別の女にも声を掛けている。霊夢はズンズンと歩みを進め、男に声を掛ける。霊夢に引っ張られている女は転びそうになりながらも必死について行っている。
「ちょっとアンタ」
「わあ、綺麗なお嬢さん。僕とお茶でも如何で──ぐわっ!?」
声を掛けられた男は霊夢にナンパした。霊夢は言葉を聞き終わる前に右手に持った大幣を叩きつけた。
「貴女、もう一度聞くけど
「ど、どういう……え……貴方、
霊夢に話しかけられた女は驚愕した。何故なら、巫女に叩かれた恋人が狸になったからだ。比喩ではなく、化けが剥がれたのだ。
「いや、何処かに本物がいるんじゃない? 例えば──
「え?」
霊夢は女の手を離すと、代わりに気絶した狸の尻尾を掴んだ。
「待ち合わせ場所はどこだった?」
「すぐ近くの団子屋……」
──団子屋、ね
「行くわよ」
霊夢は狸を引き摺りながら団子屋へ向かった。女は霊夢の行動の意図が理解できずにいたが、ついて行くことにした。
そして──
「あ、貴方!」
「やっぱりね……」
女の恋人は団子屋付近の路地裏に倒れていた。
団子屋は、
──全て繋がったわね。
幸い、気を失っている男は直ぐに目を覚まし、二人は感動の再会を果たした。女が一連の流れを説明すると、男はこう言った。
「僕は君に首を絞められたんだけど……それも狸の仕業なのか?」
男の話を聞いた霊夢は、尻尾を握る力を強めた。そして、カップルの為に口を挟んだ。
「そう。貴方達と同じような被害を受けた人がいるから間違いないわ。2人とも私の友達なんだけどね、すっかり仲が悪くなっちゃった」
「そんな……」
「貴方達は、お互いを信じてあげて。
そう言って霊夢が去ろうとすると、女が呼び止めた。
「あ、あの……ありがとう」
霊夢は複雑な気持ちを抱きつつも手を振った。
──もっと早くに気づけたら……祐哉と霊華は……
霊華は完全に祐哉を嫌ってしまった。あのままでは祐哉だけでなく、男性不信に陥るかもしれない。祐哉が悪いのなら仕方が無いが、そうでは無い。ならば二人の仲を戻してあげたい。ただの他人なら霊夢はこんなことを考えなかっただろう。だが、二人は霊夢にとって大切な友人なのだ。
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「ただいま」
「お帰り、霊夢。……え、その狸どうしたの?」
境内の掃き掃除をしていた霊華に声を掛けると、彼女は霊夢が持ってきた土産に対してツッコミを入れた。
「うん、その前に魔理沙はいるかしら」
「魔理沙なら中でお茶飲んでるよ」
「そ。なら霊華も入って」
霊夢は狸を地面に落とし、結界を張って拘束してから部屋に入った。
「ん? 今日は狸鍋か?」
「お腹壊すわよ」
「冗談だ。そいつは
霊夢と魔理沙の会話に着いて行けず、霊華は頭の中で疑問符を浮かべる。
「さあ霊華、種明かしと行こうか」
「種明かし? 何の?」
「霊華には話してなかったけど、近頃人里で
霊華はピクリと反応した。「仲違い」という単語に思うところがあったのだろう。
「それで、犯人が彼処で倒れてる狸って訳だ」
霊華は理解力がある方だが、二人の説明が大雑把過ぎて首を傾げている。
「要するに、霊華を襲ったのは祐哉じゃないってことよ」
「狸が化けていたんだな」
「嘘……」
霊華は「それは違う」と思った。
「アレは確かに神谷くんの霊力だった! 妖怪が化けていたなら妖力を感じるはずでしょ!」
「そうね、私が見た時も完全に人間だったわ」
霊夢は、先程のナンパ男から霊力を感じていた。だから最初は妖怪だと思わなかった。彼女が確信した理由は次の通りだ。
「そもそも状況が不自然なのよ。普通恋人の目の前で他の女に声を掛ける? 掛けないわよね」
「女たらしの可能性もあるんじゃないか?」
「そうね。私も男が声を掛け続けなきゃそう思ったかも」
「確かに恋人に逃げられたのに声を掛けるのは不自然だな。──
魔理沙は事の顛末を知らない。だが、彼女は頭の回転が早い。故に正確に推測できていた。その証拠に霊夢が頷いている。
「怪しいと思って注意深く感知してみれば、うっすらと妖力を感じたの。調子に乗ってたんでしょうね。
霊夢は立ち上がって巫女服の袖から針を取った。それを境内に向かって鋭く投射すると、結界から出ようと必死になっている狸に刺さった。尾を貫かれた狸は恨めしそうに霊夢を睨む。
「霊華、自分で確認してみて」
俯いていた霊華は境内に歩みを進め、狸の前でしゃがんだ。
「貴方が……神谷くんに化けて私を襲ったの?」
「あははは!! お前も僕ちんに襲われたのかい? 生憎覚えてないよ。僕ちんはたーくさん人間をからかったからね。皆を騙すのは簡単。皆馬鹿みたいに仲悪くなるんだぁ」
魔理沙はスカートの中から八角柱の箱を取り出した。
霊夢は御札を構え、霊華は声を荒らげた。
「最低!」
「ふふん。なんとでも言えばいいよ。僕ちんからすれば、ちょっとイタズラしただけで簡単に仲が悪くなっちゃう人間の方が最低だけどね。君達の信用ってその程度なの? 流石
霊華の罵倒を鼻で笑い、言葉を続けた。哀れな
「……霊夢」
霊華は声を震わせながら友人の名を呼ぶ。
「なに?」
「私が退治してもいいかな」
妖怪でさえも生き物だと言い、殺し、退治することに抵抗を持っている彼女が殺意を見せた。
愛する友人との仲を割かれ、ある意味での正論を口にされた霊華の心は悔しさでいっぱいになっていた。
「悪いがダメだ」
霊華を制止したのは魔理沙だった。
「それは祐哉に渡すと約束したんだ。アイツの無実を証明すると、契約したのさ」
霊華はより悔しそうな表情を浮かべ、狸に刺さった針を抜いて結界を解除した。突然解放された狸は逃げ出そうと駆け出すが、霊華はそれを許さなかった。結界を解除した後、間髪入れずに大幣を払った。大幣で殴られた狸は境内の端まで吹き飛び、そのまま逃走するかのように思われた。
「そこでずっと大人しくしてて!!」
霊華が八本の針と6枚の御札を投げつけた。それらは立方体の結界を構成して狸を包みこんだ。
その様子を見ていた魔理沙はこう思うのだった。
──普段怒らない人が怒ると怖いってのは本当なんだな。
因みに霊夢は、
──そろそろ私の代わりに働いてもらおうかしら?
などと呑気なことを考えていた。
霊華の心は冷静な──呑気とも言う──2人とは正反対だった。
「神谷くん……ごめんなさい」
──今すぐ謝りたい。彼に酷いことを言ってしまった。
どうして私は神谷くんを信じられなかったのだろう。
真実を知った瞬間から彼女は自分を責め始めた。そして──
「神谷くん……帰ってきてよ……」
この期に及んで自分勝手な事を呟いてしまった自分を更に責めるのだった。
ありがとうございました。良かったら感想ください。
祐哉を疑った読者さんもいるかもしれませんが彼はそんなことしないのです。霊華ちゃん大好き人間ですからね。