ノーカウントです。
それでは楽しんでいってください!
うわ、どうしよ……お腹痛い……。
俺はルーミアに殺されたんじゃないのか? 何故か布団に寝かされている。誰か病院に運んでくれたのかな……それならここは永遠亭か。
うん、頭はちゃんと動く。ルーミアに蹴られた所と、刺された腹が超痛いということ以外は健康。五体満足だ。助かった。
──ナースコールとかある訳ないよな。確認したいことがあるんだけど……
部屋の襖が開かれた。
「いいタイミングだ、鈴仙」
「あ、起きたのね! 良かった。突然死にかけの祐哉が運ばれたからびっくりしたんだよ」
「助けてくれてありがとう。いくつか聞きたいことがあるんだけど」
「うん。なに?」
鈴仙は寝ている俺の横に正座した。
「俺を運んでくれたのは誰?」
「霊夢よ。妖怪に襲われている所をたまたま見つけて運んできたみたい」
「霊夢が? あんな遅い時間に起きてたなんて珍しい。……そうか、じゃあ霊夢が片付けてくれたのかな」
来てくれたのが霊夢でよかった。
「霊夢、元気にしてるのかな」
「ええ? 今は自分のことを心配した方が……」
「確かにそうだな。永琳さんに話を聞きたい。俺は起き上がっても平気?」
「まだ寝てて。お師匠様を呼んでくるね」
鈴仙はそう言って部屋を出ていった。
それにしても、怖かったな……。途中まではいい感じに戦えていたのに、あの再生力には驚いた。妖怪って皆あんな感じなのかな?
それともある程度力をつけた妖怪だけなのだろうか。俺の刀は妖怪によく効くらしいけど、アレは効いていたのかな?
よく効いていたからルーミアを真っ二つに斬れたのかな。
疑問が増えるばかりで落ち着かない。今の俺は寝ていることしかできないから試すこともできない。
襖がノックされた。返事をする前に開かれ、赤い人が入ってきた。
「あ、霊夢……」
「わっ、起きたんだ。良かった……。心配したのよ」
「そうなの? ありがとう、嬉しいよ」
「何でそんなに嬉しそうなのよ。心配かけてごめんとか無いわけ?」
「霊夢が心配してくれた事が嬉しくって……」
私だって心配するわよ。と言いながら霊夢は俺の横に座る。
「霊夢、まずは助けてくれてありがとう。それと、迷惑かけてごめん。ルーミアを止めてくれたんだよね?」
「どういたしまして。ちゃんと封印して元通りになったわ。おかげで今日は寝不足だけど」
霊夢はそう言いながら「ふぁあ」と欠伸をする。
「そっか、眠いのにお見舞いに来てくれたんだ……」
「霊華が心配で居てもたってもいられないって言うから連れてきたのよ」
「うぇっ? れ、霊華も来てるの?」
「……あのね、祐哉。私と魔理沙は最初から貴方を信じていたわ。犯人だって見つけたわ。貴方も否認してたのにどうして居なくなっちゃったの?」
「それは……なんでだろうな。もう、帰りたくないんだ」
「どこに行くのも自由だけど、行く前に一言言ってよ。紅魔館にも白玉楼にも居ないから心配したのよ!」
感情的になったのか、霊夢の声が大きくなってきた。そんな霊夢を見て俺は何故か
そんなに霊夢が心配してくれるとは思っていなかった。友達だとは思っていたけど、霊夢が俺をどう思っているのかは分からなかった。
「ごめん、ありがとうね」
「意味わかんないだけど!」
「はは……」
照れてるのか、怒っているのかよく分からないけど、推しともう一度話せていることがとても幸せなのでとにかく嬉しい。
再び襖が空いた。
「はい、彼と話したいので少しいいですか?」
鈴仙が呼んできた永琳が事務的な敬語で霊夢に声を掛けた。
霊夢がスっと横に座り直したのを見た永琳は廊下の方を見て「あなたは? ……そうですか」と言った。
永琳は一人で部屋に入り、襖を閉めると俺に挨拶をしてきた。
「すみません永琳さん、助けていただいてありがとうございました」
「
うん? 俺は何も渡してないけどな。
「例の如く貴方の傷は縫合がしやすかったので直ぐに退院してもいいでしょう。幾つか薬を出しておきます。毎食後に飲んでください。それと、暫く休んでいってもらって構いません。貴方、身体の疲労がかなり溜まっているようですから」
「え、もう退院できるんですか?」
「はい。貴方の傷口は
用が済んだ永琳は部屋を出ていった。
んな馬鹿な!? 俺は妖怪になった覚えはないぞ!!
『まあ、落ち着いてください。私が少し力を使ったのです』
『アテナが?』
『多少の応急処置なら私にもできます。貴方の霊力が皆無だったらできませんでしたが……助かりましたね』
アテナ曰く、俺の霊力を操作して傷口に蓋をして極力出血しないように、また傷口が開かないように抑えてくれたらしい。そういえば十千刺々との戦いでもそんなことがあったな。これほど繊細な霊力操作ができるとは正に神業だ。俺の中にアテナがいてくれて良かった。そうじゃなかったら死んでただろう。
『ありがとうございました』
『いえ、しかし危なかったですね……。妖怪があんなにも再生力に満ちているとは思いませんでした』
「なあ霊夢。妖怪の再生力って皆ああなのか? ルーミアを真っ二つに斬ったんだけど、直ぐに再生したんだよ」
「真っ二つですって!? 貴方そんなことできたの?」
「霊力を込めた真剣で、それもかなり位置エネルギーを溜めたあとの斬撃だったから相当な運動エネルギーだったと思うよ。ああ、更に空中で足場を蹴って勢いもつけたから……後は真っ直ぐ斬ればいけるんじゃない?」
「いやいや、妖怪の体ってそんなヤワじゃないのよ。確かに妖夢なら斬れるかもしれないけど、修行して半年でそこまでできるものなのねぇ」
霊夢は感心したように頷いた。
「あー、もしかしたら俺の刀の力かもしれない。俺の刀も拾ってくれた? 風見幽香によると妖怪によく効く力を持っているらしい」
「へえ? 刀ならちゃんと持ってきたわ。どれどれ──ねぇ、抜けないんだけど」
「えっ!? 錆びたのか?」
俺は慌てて霊夢から刀を受け取って刀を抜こうとする。
「簡単に抜けるけど?」
そんな力が必要って訳でも、抜くのにコツがある訳でも無い。俺は鞘に戻した刀を霊夢に渡す。霊夢はフルパワーで抜こうとするが抜けない様子。
「あー? 何なのよこれ!」
「ははは! 霊夢にパントマイムの特技があるなんて知らなかったなぁ」
「いや、本気で抜けないんだけど!」
嘘だぁ。普通の妖怪キラーの刀だぜ?
──待てよ。この刀、普通じゃないんじゃ……?
「妖夢は抜けたけど……」
「まさか刀を抜くのに修行が必要とか言うの? じゃあいいわ、抜いたのを見せて?」
そんな訳ないじゃん。スムーズに抜くのにコツがあるのは当然だけど、ただ鞘から抜くだけなんだから赤ちゃんにもできる。
俺は仕方なく刀を抜いた状態で霊夢に渡す。霊夢はじっと刀を見つめる。
「確かにこの刀は
「妖夢に貰った」
「へぇ」
「いや、妖刀と普通の刀、どっちがいいかって聞かれて普通の刀を選んだんだけど……若しかしてこっちが妖刀?」
「ううん。妖刀っていうのはワケありで怨念や邪気が刀に取り憑いた物を言うの。コレは妖刀の逆よ。言うなら私の大幣や御札みたいなものよ」
ということは俺は当たりを引いたのかな? やったぜ! ざまーみろ叶夢! ……今頃妖刀に取り憑かれてないかな? 大丈夫かな?
「封印が解けたルーミアを真っ二つにできたのはこの刀の力が大きいと思う」
霊夢は納刀して刀を床に置いた。
──納刀はできるんだ? 確かにこの前俺が倒れた時も他人が納刀していたはず。
「もしかしたらこの刀は祐哉にしか抜けないのかも」
「妖夢が抜いたよ」
「それっていつ?」
「その剣を貰った日が最後かな?」
「修行している時はその刀を使っているのよね。それなら刀が貴方を持ち主だと認識して鍵が掛かっているのかもよ」
つまり、もう妖夢にも抜けないと……?
「バイオメトリックスって奴? 生体認証……指紋認証とか、静脈認証とか。いやまさかそんなハイテクな訳ないよな」
「急に何言ってるのか分からないんだけど……まあいいわ。妖怪の再生力の話だったわよね?」
そういえばそうだ。完全に忘れていた。
「再生力は個体によるわ。あと、傷の程度にもよると思う」
そういえばレミリアに太陽光を当てた時、流石に再生に半日くらいかかるって言ってたな。アレは全身で日光浴したからであって、腕が千切れてもすぐに回復できると聞いた。このケースは正に今霊夢が言ったものだ。
「基本的に力の強い妖怪程回復力が高い。だから強い妖怪と戦うなら弾幕ごっこをするのがいいわ。力押しで勝てる相手じゃないのよ。そうねぇ、風見幽香もそうだし、貴方が知ってそうなヤツだと……幽々子にレミリア、それと
「──っ!」
「どうかした? 傷口が開いたの?」
紫という名前を聞いてハッとした俺を見た霊夢が心配してくれる。
──ま、まずい!
霊夢達と関わってしまった!
「霊夢、
「廊下でずっと待ってるよ」
──紫の奴……まさか霊華を……!
俺は飛び起きて廊下へ向かう。突然動いたせいか、とても退院が許されたとは思えない激痛を感じて膝から崩れるが、四つん這いになって襖を開ける。
「きゃっ!?」
そこには驚いた表情をしている霊華が居た。
『アテナ、紫の気配は?』
『しません。貴方が永遠亭に運ばれてからずっと感じられませんよ』
「……良かった」
「あ、あの……えっと……」
──!
霊華の背後に突然
──警告
警告。ただ2文字だけ書かれていた。
──ふざけやがって
俺は殺意を抱いた。何故好きな人と会う権利を剥奪されなくちゃならない?
「か、神谷く──」
「──ごめん」
「えっ?」
「もう……俺に…………近づかないで……お願いだから……」
俺は君に近づいてはならない。君も近づかないで。俺は君を失いたくないんだ……一緒にいられなくても、何処かで幸せになってくれるならまだマシだ。巻き込みたくないんだ。もう俺のせいで危ない目に遭わせたくないんだ。
「ごめん……元気でね……」
俺は部屋に戻って襖を閉め、創造物を使って固定する。
「ちょっと、祐哉。霊華は……」
「ごめん霊夢! 助けてくれたのは本当に感謝してる。心配してくれてありがとう。でも俺はもう皆とは居られない」
「それは……私達が貴方を疑っていると思ってるから? だとしたらもう──」
俺は霊夢の言葉を無視して予め文章が書かれた紙を創造して、紙と全財産を枕元に置く。
更に入院服を脱いで創造した浴衣を身に付け始めると霊夢が慌て始める。
「えっ、急に服脱いでどうしたのよ!?」
突然の行動だったからか、霊夢は言いかけていたことを別の言葉に切り替えた。
帯を適当に締め、刀を手に取って襖とは反対の方向へ歩き出す。
「ちょっと、何処に行くのよ!」
「──元気でね、霊夢。霊華と魔理沙にも宜しく言ってくれ。それと、霊華を守ってあげて欲しい。あと俺を探すのはやめてね。それじゃあ!」
俺は部屋の窓を開けると同時に下半身を霊力で覆い、脚力を強化して地面を蹴った。
俺は逃げた。大好きな霊華から。大好きな友達から。彼女らを巻き込まない為に……。
俺はクズだ! 折角心配してくれたのに! 助けてくれたのに! 霊夢には沢山の恩を受けたのに! 何も言わずに逃げる事しか出来ない!
「ごめん、れいむ。ごめん……まりさ……」
竹林を走っている俺の視界は潤んでいる。呟いた声も震えている。温かくなっていた心は再び孤独を思い知らされ、冷たく、傷ついていった。
思えば竹林に来る度に悪いことが起きている気がする。もう嫌だ。
──俺は独りなんだ! 独りでいなきゃいけないんだ! ふざけるなよ! どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ! 許せない!
嗚呼、それならやるべき事は一つ。
不可能に近いが同じ人間の霊夢と魔理沙にはできたんだ!
「くそ、やってやるよ……!」
俺は力強く刀を握り、喉を潰すように叫ぶ。
「──八雲紫!! アンタを弾幕で倒す!! 絶対にだ!! 何度負けようが必ず! 死ぬ前に負かせてやる! どんなに惨めになろうが! どんな敵が襲ってこようが関係ない! 俺はアンタを倒すぞッ! 紫ィィー!!」
俺の潤んだ視界は歪みを抑え、強い眼力と走りをもって竹林の先へと突き進んだ。
ありがとうございました。
書いててムカついてきました() 祐哉×霊華を邪魔するなとね、私はそう言いたい。(こんなシナリオ書いたの誰だよ)(私だよ!)