東方霊想録   作:祐霊

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#8「博麗を名乗る者」

()()()()。彼女はそう言った。まさか博麗という名字が外の世界にもあったとはな。俺が外の世界にいた頃、興味本位で『博麗 名字』と検索したことがある。すると名字検索ができるサイトが出てくるのだ。確かあそこに書かれていた内容は──『調査中』だったはず。別のところには『実在しない名字のひとつ』とも書かれていた。そう、『博麗』は架空の名字なのだ。──そう思っていた。

 

「ハクレイ……えっと、漢字も同じ?」

「はい。博士の『博』に麗しいの『麗』、博麗です」

 

 だがここに実在している。人が他人に会う確率が凡そ70億分の1だと言う。約70億人の中で幻想入りして尚且つその人の名字が博麗である確率は……あ、頭が痛くなってきた。

 

「祐哉ー? 早く来てよ」

「お、霊夢。この子も博麗なんだってさ。実は親戚とか?」

「えっ!?」

 

 俺と同じ反応を示した霊夢。……ふむ。今こうして二人を見比べてみると意外と似てる。そっくりさん、というよりは双子みたいだ。二人とも髪が長いのは偶々だろう。背の高さと顔のパーツの位置、それから……容姿の判断材料として使わせてもらうが胸の大きさも多分同じくらいだ。二人が同じ服装をしたら区別がつかなそう。

 

「アンタ、名前は?」

「博麗霊華です」

「…………」

 

 あらら、黙り込んじゃった。まあ、俺も結構衝撃受けたから博麗(当事者)はもっと驚──

 

「道理で可愛いわけね。私とそっくり!」

 

 ──あっ、はい……

 

 ───────────────

 

 朝食を済ませてから数時間が経ち、俺と霊華は居間で話している。霊夢は出かけており、俺がこの子のお守りを任されている。

 

「その制服、もしかして✕✕高校?」

「はい、神谷さんは○高ですよね? お隣ですね!」

 

 まさかお隣の高校だとはな。そんな近くに『博麗』がいたのか。因みに俺も彼女も制服を着ている。霊華はともかく三ヶ月前に幻想入りした俺が何故今も制服を着ているのかって? いや、下手な私服よりも制服の方がかっこいいじゃん。決して服買いに行くのが面倒とかじゃないから。引きこもりじゃないんで。

 

「博麗さんが幻想入りした時ってどんな感じだったの?」

「学校から帰る途中に見かけた猫を追いかけてたら森にいて……そしてあの妖怪が──」

「なるほど」

 

 下校途中に猫を見つけた、か。なんか俺と似てるな。俺の場合は犬だったけど。

 

 霊華は手で口を隠して欠伸をする。それから話しかけてきた。

 

「神谷さんはどうして幻想郷に残ったんですか?」

「俺は元々この世界のことを知ってたからね。ここ、向こうじゃとある作品の世界なんだよ」

「え、ここは二次元の世界なんですか?」

「創作の中の世界なのだからそうなるんだろうけど……細かいことはよくわからない」

 

 ──ん? 

 

「あれ、下校途中? 今幻想郷(こっち)は朝だ」

「そうなんですよね。そろそろ眠くなってきました」

 

 霊華が来た世界とこの幻想郷の間には時差が生じているということか。俺の時は多分無かったと思う。……へぇ、面白い。

 

 取り敢えず風呂場に案内して寝てもらおう。幻想入りして早々妖怪に追いかけられたわけだし、かなり疲れは溜まっているはず。

 

 ───────────────

 

 ──暇だ。

 

 拙者、とても暇でござる。霊夢は出かけたきり戻ってこないし、霊華の方は今寝ている。どうしたものかな。

 

「修行でもするか」

 

 早速自室へ移動して修行を開始する。俺は創造の能力を使いこなせるようになるための日課をこなしているのだ。内容はとてもシンプル。針を一日千本創造すること。次に、針を的に当てることだ。

 

 一つ目は霊力量を増やすことを目的としている。俺の能力は使う度に霊力を消費する。基本弾幕が(創造物)である以上、霊力はたくさんあったほうが戦えるのだ。そして霊力は体力同様、使えば増えていくものだ。

 

 二つ目の修行だが、これは精度を上げるための訓練だ。直接相手を狙うことが少ない弾幕ごっこが主流の世界に必要なスキルかどうかは不明だが、手先は器用なほうがいい。

 

 この方法は自分で考えたものだが、霊力の概念及び性質は霊夢に教わった。この能力に目覚めたのは幻想入りしてすぐのことだった。紫の言う『特別な力』かと思ったが違うらしい。創造の力に気づくことができたのはとある人の協力があったからなのだがその話はまたの機会に。そろそろ集中しないときつくなって来た。

 

「897……898……899…………900」

 

 数が増えていくにつれて創造にかかる時間が遅くなっていく。そして意外と数を数えることも苦痛だったりする。更に……

 

「901……」

「2、3、5、7、11、13」

「90……2? おい魔理沙」

「なんだ?」

隣で素数数えるのやめて(おはよう)

やだね(おはよう)

 

()()()()現れる魔理沙(素数カウンター)がいると余計キツくなるのだ。

 

「今日も頑張ってるな。ところでさっき霊夢の部屋に行ったんだが──」

「ああ」

「風邪でも引いたのか? あいつがこの時間に寝てるなんて珍しい」

「その件ですが魔理沙さん、落ち着いて聞いてくださいね」

 

 針を創造しつつ説明する。あ、いけね、今何本目だ?

 

「へ? 霊夢のそっくりさんが幻想入りして来た?」

 

『霊夢のそっくりさんが幻想入りしたそうですよ?』とかいうタイトルで小説書けば人気出そう。なんでしなかったんだろうね……おっとこれ以上はいけない気がする。

 

「そう、魔理沙でも見た目だけじゃ判別できないかもね」

「絆を試されているのか私は」

「ふ……966……ふ……966……ふ……966」

「……それで、霊夢(本物)は?」

「いや、寝てる方が偽物とかじゃないからね? ……976……知らね967……966」

「いやもう数数えるのやめろ」

「965? 964 963 962、961〜?」

「ふざけてんだろ」

 

 当然である。

 

 魔理沙に修行の邪魔をされ、すっかりやる気が失せてしまった。残りの量を一気に創造する。部屋には針が千本置かれている。適当に並べているため中々危険な部屋になっている。それを見て達成感に浸った後能力を解除する。

 

「いつも思うんだ。創造した物を消した時の粒子綺麗だなって」

「魔理沙も? 俺も好きなんだよね」

「この粒子の正体ってのは霊力なんだろ? ならお前の下に戻るのか?」

「いや、残念ながら戻ってこない」

 

 創造を解除された物は粒子となって消えてしまう。そして霊力は空気と混ざって無くなる。もしも俺の元に霊力が戻るなら間違いなくチート能力だっただろう。

 

「あ、そうだ。魔理沙にお願いがあるんだけど」

 

 霊華を挨拶回りに連れて行くこと、白玉楼まで案内してほしいことを話すと承諾してくれた。

 

 さて、俺は昼の買い出しにでも出かけようかな。霊華のお守り役は魔理沙に任せればいいし。

 

 いやー、()()に会うの楽しみだなぁ。……そうだ、いいこと思いついた。

 

 


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