東方霊想録   作:祐霊

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こんにちは。祐霊です。

まさか祐哉の剣が折れるとは思いませんでした()
なんか、夢中で書いてたら刀折れてるんですわ……

それはさておき、今日も楽しんでいってください!


#91「望斬剣(叶夢) vs 妖斬剣(祐哉)

 俺の刀は折れていた。

 

「嘘だろ……」

 

 約半年間毎日時を過ごし、共に苦難を乗り越えてきた相棒が。

 

 普通の刀だと思っていたのに妖怪に効果的な力が付与されていることがわかって、これから先も頼りにしていた俺の刀が……折れてしまった。

 

 手入れは怠っていなかった。簡単に折れたりはしないはずなのにどうして……。

 

「俺の『望斬剣』は、解放時のみ持ち主が斬りたいと願った物だけを斬ることが出来る。勿論、スッパり斬れるかどうかは使い手の腕次第だが……。勢い余ってお前を斬っても何ともないのはそういうことさ」

 

 斬りたい物だけを斬る。それがあの妖刀の能力なのか。妖刀が解放されてから、刀から膨大な量の妖力が漏れ始めた。なるほど、刀としての能力と、纏っている妖力が叶夢をアシストした結果、俺の刀を折ることが出来たのか。

 

 ──コレは……? 

 

 俺は無言で折れた刃先を回収し、柄と一緒に鞘にしまう。

 

「お前の負けだ。帰るぞ」

「俺の……負けだと?」

「そうだ。刀は折れたんだ。もう終わりだろ」

「違うな。まだ決着はついてないぜ。言ったはずだ! これは剣術と霊力、能力の全てを使った戦いだと! 剣術のひとつを封じただけでは勝負は決まらない。そして俺は……刀を作れるんだぜ?」

 

 なんと言われようとも、俺は白玉楼には帰れない。刀を失ったら他の手段を以て倒す。

 

「ハッタリか? お前は十分な強度を持つ刀を作れなかったはずだ」

「──ああ、確かに俺は不完全な刀しか作れない。けどな、刀の断面を見た時、何かを掴んだ気がした」

 

 思えば俺は、本物の刀の断面を見たことがなかった。だから、創造する時の認識が甘かったのだろう。

 

 俺の『物体を創造する程度の能力』は、創造したい物のイメージが頭の中に出来ているほど、高い精度で造りだせる。俺は刀を創造する為に外観を観察して探究した。しかし、中身は考えたことがなかったのだ。

 

 要するに俺は外見は本物そっくりの、中身がスカスカなレプリカを造っていたのだ。

 

 今刀が折れたことで、俺は刀の断面までイメージできるようになった。次は従来とは比にならない強度の刀を造れる自信がある。

 

「ましてやこの状況だ。絶対に負けられないという気持ちが能力の精度を高めるだろう」

 

 俺は無手の状態で叶夢に接近する。無手でも、格好だけは刀を持っている。俺の気迫がまるで刀を持っているように見せているのか、叶夢も望斬剣を構えて肉薄してくる。

 

 ──創造! 

 

 俺の手に刀が握られるのを感じた瞬間に大きく振り切る。互いの斬撃は重なり、先程同様──否、今回は創造した刀が砕け散った。

 

 ──まだ、不完全なんだ。でも! 

 

「刀を造れたところで無駄だ! 俺の望斬剣は本物の刀を斬ったんだ!」

「まだ終わんねぇぞ!」

 

 俺は刀を振った時の勢いを殺さないように身体を回転させて2撃目に入る。

 

 ──確かに俺は刀を失った。正直精神的に応えている。だが、()()の死は無駄にしない! 

 

「無いものは創造する! それが俺の──やり方だぁああああ!! 創造──『()()()』!!」

 

 刀の銘を決めた時、「上手くいった」という確信が生まれた。その確信は正しく、望斬剣と数回斬り合っても砕けていない。

 

 これまで以上に本物を握っている感覚。大成功だ。

 

 己の刀で砕けない事に驚きを隠せない叶夢はヤケになって無数の斬撃を繰り出してくる。

 

 霊力強化を以て応戦し、叶夢の体勢が崩れた隙に敢えて背を向けて()()()()

 

 体勢を立て直した叶夢は、俺が見せた隙を突くように斬りかかってくる。しかし、その時既に俺は刀を抜いていた。

 

「抜刀術ならお前の縮地より俺の斬撃の方が速い! まずはお前の刀をへし折る!」

「ぬかせ! お前に望斬剣が斬れるかよっ!」

 

 長刀の性質を利用して遠心力を高めた叶夢の斬撃と、俺の抜刀術による斬撃が交差する。

 

 互いの刀を斬る、という最早目的が変わってしまった戦いを制したのは俺の方だった。

 

 ──否

 

「「どうだ! 斬ってやったぞ!」」

 

 互いの刀はほぼ同時に斬り落とされた。

 

 力が解放されていた両刀は鎮まっていく。

 

「はぁ、はぁ、俺はまだ刀を造れるぞ。それでもお前は続けるのか?」

「たりめーだろ! 俺は妖夢に約束しちまったんだ! 手ぶらで帰るわけにはいかない!」

 

 身体の限界が来ているのだろう。口では強がっているが、立ち上がるのがやっとと言ったところだ。

 

 それに対して俺の方はまだ余力が残っている。とは言っても、正直今すぐ休みたいのだが。

 

 仕方ない。続けると言うならアイツを気絶させるしかない。そう思って彼に近づこうとした時、第三者の声が飛んできた。

 

「そこまでだよ」

 

 何処かで聞いた懐かしい声。ついこの前まで毎日聞いていた少し低い声。

 

「もう決着はついたと言っていいだろう。叶夢は刀が無いと戦えないんだからね」

「──妖梨! くそ、すまねぇ! 俺はアイツに……勝てなかった!」

 

 第三者の正体は妖梨だった。彼の様子を捉えた叶夢は悔しそうに妖梨に向けて叫ぶ。

 

 妖梨はそれに応えるように頷いて、落ちている望斬剣を拾う。

 

「妖刀である望斬剣を斬るなんて、強くなったね、祐哉」

「……俺の刀はただの剣じゃなかったんだ。アレには「妖の類を祓う力」が籠っているらしい。俺はその力を再現した。だから、妖刀を斬ることができたんだよ」

「そうか。祐哉の創造は、物に力を付与できるんだったね。それなら僕の刀も斬られちゃうかも」

 

 僕の刀も? まさか妖梨の刀も妖刀なのか? 

 

 妖梨は望斬剣を鞘にしまって叶夢に持たせる。

 

「安心して、妖刀はちょっとやそっとじゃ壊れないから。鞘にしまって暫く待てば()()()()()()()

「「えっ!?」」

 

 素っ頓狂な声をあげた俺たちを見て、妖梨は解説を始めた。どうやら直すには専用の鞘が必要で、鞘が無くなれば完全に再起不能になるらしい。

 

「ってことはよ! 俺はまだ戦えるぞ!」

「いや、叶夢。君は屋敷に帰るんだ。刀を酷使しすぎだよ。祐哉との戦いで相当妖力を消費しただろう? 休ませてあげるのも大事だよ」

「でもよー! すぐに回復するんだろう?」

「回復っていうのは飽くまでも外見上の話だよ。刀の妖力が沢山あるならまだしも、空っぽになるくらい酷使したその状態ではどの道祐哉には勝てない」

 

 妖梨がそう言うと、叶夢は悔しそうに顔を歪める。正直な話、俺の妖斬剣も造るのに相当な霊力を消費するのであまり望斬剣を相手にしたくない。

 

「妖梨はどうするんだ?」

「僕は祐哉に用事があるから。君は先に帰って」

「……頼んだぞ」

 

 叶夢は渋々と言った感じだが、納得して白玉楼に帰っていった。その直前に、俺を一瞥してきたが俺は妖梨だけを見つめていた。

 

「さて、始めようか。刀を構えて」

「一応聞くけど、何を始めるんだ?」

「何って、修行さ」

「え?」

「君には伝えたい事がいっぱいあるんだ。それなのに居なくなっちゃうんだもん。一気に教えるから気合い入れてよ」

 

 ──いや俺もう疲れたんですけど……戦う気がないなら何もしたくないんですけど……

 

───────────────

 

「今から君に教える技は縮地というものだよ」

「叶夢が使ってきたやつか」

「知っているなら話が早いね。祐哉にも教えるけど、僕はすぐに帰らなくちゃならない。君は帰らないんだろう? それなら、頑張って覚えてね」

 

 さあ、刀を持って。と言われ、俺は普通の刀を創造した。普通の刀と言っても、強度は本物にも負けないものに仕上がっているはずである。

 

「鞘ごと……?」

「俺の剣は抜刀術も含めるからね」

 

 抜刀術の基本は妖梨に教わった。しかし、彼は抜刀術を頻繁に使うわけではなく、本格的に学ぶことはできなかった。飛天御剣流に憧れた俺は我流で修行をしたのだ。1日の修行が終わった後に自主練で抜刀の練習を重ねた結果、我流抜刀術──斬造閃を会得したのだ。

 

 抜刀術においては妖夢や妖梨にも優っていると評価を受けた。これは外でもない師匠たちのコメントである。これを聞いたときは嬉しかったものだ。まあとはいえ、彼らは斬造閃を容易く対処するのでなんとも言えなかったりする……。

 

「稽古試合の中で覚えてもらうよ。まずは──」

「──っ!?」

「一本」

 

 妖梨が消えたと思ったら一本取られた。何を言っているかわからねーと思うが俺にもわからなかった。──危ない。前知識がなかったら確実に「妖梨は時間停止能力を持っているのか」と尋ねていただろう。これが縮地だっていうのか? もはや叶夢がやっていたものとは別の技だ。

 

「こ、これが本当の縮地……?」

「そう。理屈は簡単だよ。祐哉は霊力で足を強化して加速するよね。あれを極限まで速くしたものが縮地の片鱗だよ」

「……今の技、記録させてもらえないかな」

「いいよ」

 

 俺はあらゆる位置に使い魔を置いて、もう一度縮地を見せてもらう。

 

 ──創造、眼鏡。『再生付与』

 

 創造した眼鏡をかけると、先ほど妖梨が縮地を使っていた様子が映像として見えるようになった。この眼鏡は使い魔が記録した映像を見ることができる。俺は動画の速度を千分の一倍にして視聴し、妖梨のあらゆる動作を観察する。真正面から見た映像だけでなく、360度からの映像を確認したことによって俺は縮地の秘密を少し理解した。

 

「そうか、真の意味で縮地を使うには肉体強化だけじゃ足りないのか。脚力を強化しつつ、地面を蹴る瞬間に足から大量の霊力を放出している」

「流石、数秒でそこまで理解できるとはね」

「正直、肉眼でここまで見切るのは不可能じゃないか?」

「うん。だけど、研究しながら己の技術を磨いていくものだからね。本当なら全部を教えたりはしない。けど、君は時間がないんだろう?」

「知っているの?」

 

 妖梨の言い方は、まるで俺の事情を知っているようだった。しかし、妖梨はその問いに対して首を振った。

 

「何もわからないよ。でも、祐哉の霊力からは必死さと焦りを感じる。慌てて強くなろうとしている感じがするんだよ」

 

 妖梨は霊力のスペシャリストだ。彼の能力は「霊力を扱う程度の能力」。これは「物体を創造する程度の能力」のような発動型とは違い、特技という意味での能力である。つまり、誰よりも霊力について精通しているということだ。彼レベルになると、他人の霊力を見るだけで感情が読み取れるらしい。因みに、彼はその力を活かして相手の動きを先読みして戦う。また、霊力の揺らぎからも動きが読めるらしい。彼は高スペックな人間なのだ。俺は、妖梨なら弾幕でなければ霊夢にも勝てるんじゃないかと勝手に思っている。

 

「流石だな……。俺には時間がない。気を抜けば死ぬような生活をしている。卑怯なことをしてごめん」

 

 普通なら、時間をかけて技術を習得する。何度も失敗し、試行錯誤を重ねることで上達するのだが、俺は能力でスーパーコンピューターを作って解析したのだ。卑怯でしかない。

 

「卑怯だなんて言わないさ。祐哉は自分の力を使っただけじゃないか。それに、理屈で分かっても会得できるわけじゃないからね。大変なのはここからだよ。因みに叶夢は全然習得できてないよ」

「そうなるな。あれは肉体強化による加速しかなかった。確かに速かったけど目で追えないわけじゃなかった。でも、本物は目で追うどころか目に映らなかった!」

 

 叶夢がやっていたのはタダの霊力強化だ。以前見た時より速くなっていたので対処が遅れてしまったが、それは単純に叶夢が成長したからであって、縮地を会得したわけではない。

 

 本物の縮地は、霊力強化+霊力放出である。足から霊力を放出する修行は白玉楼にいる頃からやってきている。最初は真っ直ぐに進むことさえままならなかったが、今では自在に操れるようになった。

 

 霊力強化と霊力放出はそれぞれ習得済み。あとはこの二つの動作を同時に行うだけだ。

 

「さあ、やってごらん」

 

 俺は全身に霊力を纏い、筋肉を活性化させる。

 

 ──一歩踏み出すのと同時に足から霊力を放出する。

 

「ふっ!」

 

 瞬間、俺は超高速で駆け出すことができた。が、不味いことに気づく。

 

「うわあああああ!! 止まれねー!!」

「よいしょ」

 

 俺がなかなか止まれずに困っていると妖梨が俺を止めてくれた。

 

「なかなかいい感じだったよ。けど、霊力を放出するタイミングがちょっと早かった。足で地面を蹴りつけるのと同時に放出しないと速度が落ちてしまう。取り敢えず、着地のことは考えなくていいから何度もやってみて」

「おっす」

 

 それから半刻ほど繰り返した。なんとなく感覚を掴むことができたので、そろそろ着地の練習をしたいと思ったのだが、妖梨の時間がなくなってしまい、今日の修行は終わりになった。もうじき白玉楼は夕食の時間だ。

 

「着地も練習あるのみだよ。最初はゆっくりのスピードで練習して、段々速くすれば感覚が掴めると思う」

「わかった」

「一週間後、またここに来てくれたら稽古をつけてあげるよ」

「それは嬉しいんだけど、皆には……」

「内緒なんだよね? 大丈夫。言わないよ」

「助かるよ。ありがとう」

 

 妖梨は一度微笑んでから白玉楼へ戻っていった。

 

 縮地は妖梨が持つ奥義の一つらしい。そんな凄い技を教えてもらえたのだから、必ず会得したい。

 

 ──俺も夕飯を食べるか。今日はうどんの気分だな。温かいうどんを食べたい。

 

 

 




ありがとうございました。よかったら感想ください。

縮地を使えるようになれば祐哉はますます強くなれますね。

さて、遂に90話を超えましたね。そして高評価をいただきました。ありがとうございます!
何話まで続くかわかりませんが今後も宜しくお願いします。

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