時は遡って数日前のこと、場面は変わって博麗神社。
気が付くと自室の机の上に手紙が置かれていた。その時、霊華は
──これは、神谷君の創造?
──神谷君の能力の射程距離は確か30m……場所は……
霊華は前に聞いていた祐哉の射程距離を思い出すと、霊力感知を始めた。そして、見つけることが出来た。
霊華は一目散に神社を飛び出して祐哉のもとへ向かった。
「神谷君!」
霊華に声を掛けられ、近づいてくる彼女の存在に気づいた祐哉は驚きながら逃げ出した。彼の全力の身体強化による疾走に追いつくことはできなかった。霊華は諦めることなく追い続けたが、感知範囲外に出てしまい探す手段を失った彼女は足を止めた。
やっと話せると思っていたところで逃げられてしまい、泣きそうになりながら部屋に戻った。祐哉からの手紙の存在を思い出した霊華は封筒を開けて紙を取り出した。
──どんな内容だろう。酷いことをした私に対しての怒りだろうか……
『博麗霊華さんへ
元気にしていますか。突然の手紙に驚いたかな。実は俺、手紙の内容を書いた状態でも創造できるんだよ。この前気づいたんだ。
さて、どうでもいいことは置いておくとして……俺は今幻想郷を旅しています。自分探しの旅って奴です。だから、しばらくは皆のところに戻りません。でも大丈夫だよ。俺は強くなったから、その辺の妖怪に襲われても追い払えるからね。
博麗さんを守る為に強くなろうとしていたんだけど、暫くは会えそうにない。だから、申し訳ないけど博麗さんには自己防衛手段を用意して欲しい。
なんでそんな必要があるのか気になると思うんだけど、それは今から話す博麗さんの能力と関係があるよ。
博麗さんの能力は『愛される程度の能力』という。あ、これは俺が勝手に名付けたから、好きな名前に変えていいからね。幻想郷での能力は自己申告だからね。俺の『物体を創造する程度の能力』も、『物体を作る程度の能力』って言ってもいいんだよ。ただ、創造って言った方がかっこいいから読んでいるだけで。
……話が逸れまくるね。博麗さんと話したいことがいっぱいあるんだ。どうでもいいことを沢山話したい。でも、手紙で我慢するよ。
えっと、『愛される程度の能力』についてだったね。これは、博麗さんの「動物や妖怪に好かれる体質」のことだよ。実はこれ、研究所の月見菜乃花ちゃんに解析して貰ったんだ。どうやら、動植物だけでなく、神や自然、運命にも愛されるらしい。
ここで注意して欲しいのは、「愛される」というのは、客観的に見た場合であり、必ずしも博麗さんにとって都合のいいものとは限らないということ。
心当たりがあると思うけど、やたら妖怪に狙われたりしているよね。アレは間違いなく博麗さんの体質によるものだ。だから、出掛ける時は普通の人間よりも気をつけなくちゃならない。妖怪にとっては戯れ付いているつもりでも、人間にとっては致命傷を負うものかもしれないから。敢えてオブラートを剥がして言い直そうか。──下手をすると殺されるから気をつけてね。
申し訳ないけど今の俺は博麗さんを守れない。一緒に居れば君を危険に巻き込んでしまうから。だから、霊夢や魔理沙に頼ってね。なーに、2人は俺よりも強いから安心だよ。
……本当は俺が博麗さんを守りたい。博麗さんと一緒にいたい。あー今のは忘れてくれ。何でもない。余計だったね。
もしもの時は、何処にいても必ず駆けつけるよ。──例え、博麗さんに嫌われていようとも。それが俺の意志だ。
神谷祐哉』
手紙を読んでいる途中から霊華の視界は涙で潤んでいた。
──私は神谷君を疑ってあんなに酷いことを言ったのに……どうして優しくしてくれるの……
祐哉の手紙には、恨み言は一切書かれていなかった。書かれていた内容の大半は、霊華を心配するものだった。
──私の能力は『愛される程度の能力』
──私は神谷君に嫌われていなかった。私を守るって言ってくれるのはきっと、能力の影響なんだ。
──私は神谷君や皆を無意識に洗脳しているのかな……
───────────────
霊華が手紙を読んでから数日後
霊夢は驚嘆した。
霊夢は霊華に修行をつけていた。修行と言っても、祐哉や叶夢が白玉楼でしていたようなレベルではないが、霊華は持ち前の才能で彼女なりに成長していた。
霊華は、他の者には無い力を持っていた。
「だんだんコツを掴んだ気がする!」
「良い調子ね。サクサク進んで私も嬉しいわ」
霊華はとあるスキルを身に付けつつあった。それは間違いなく特殊能力。その力は霊夢にも、魔理沙にも、祐哉にもない。正真正銘の固有能力だ。
霊夢は、自らの上達を喜ぶ青い巫女服に身を包む彼女を見て、数日前に届いた手紙を思い出した。
いつものように居間でお茶を啜っていた時、突然文書が現れたのだ。煎餅を取るはずだった手には手紙が握られていて、霊夢は怪訝に思いながら宛名を確認した。そこには、『神谷祐哉』と書かれていた。
祐哉は自身から半径30m以内であれば何処にでも物体を創造できる。つまりこの時、祐哉は博麗神社の居間から30m以内のところに居たのだ。しかし、少なくとも霊夢はそれに気づかなかった。
さて、手紙の内容だが、霊華の『愛される程度の能力』について書かれていた。
昔、霊夢と祐哉が推測した通り、霊華は「幸福なことや不幸なこと、なんでも引き寄せてしまう」体質を持っているという報告だった。
また、それを少しでもコントロールできないか試して欲しいとも書かれていた。
コントロールと言っても、具体的にどうすればいいかなんて、霊夢にはわからなかった。手段は手紙に書かれていなかったので、おそらく手紙の送り主にもわからないのだろう。
霊夢は、考えてばかりでは仕方ないと思い、霊華と弾幕ごっこをした。その際、霊華の特技を見つけた。それは、道具を器用に使うことだ。
霊華と霊夢は大幣と御札と針を使って戦う。御札を並べて障壁を作り、退魔針で妖怪を牽制する。近距離戦闘では大幣を使った棒術を使う。
霊華は更に、御札に霊力を込めた退魔針を投げつけることで爆発させることができる。これは霊夢にもできなかった。
「それにしても霊夢。私の『愛される』体質が道具に対しても有効だなんて、よく気付いたね」
「たまたまよ」
霊華の愛される程度の能力は、人間を含めた動物や植物は勿論、自然や神、運命などからも愛されるという物。しかしながら、彼女に注がれる愛情が必ずしも本人にとって都合のいいものとは限らない。故に、ラッキーな能力でもあり、アンラッキーな能力でもある。
人より幸せな思いができるがその分、人の数倍は酷い目に遭うことがある。そういった体質だ。
霊夢は無意識に仮説を立てた。無意識というのは、彼女は意図して仮説を立てるような人物ではないということだ。
霊夢の仮説は、動植物だけでなく自然や神、運命といった概念から愛されるというのなら、道具から愛される可能性もあるというものだった。
道具から愛されるというのは、道具自ら霊華に力を貸すことであり、それは
「道具に愛されるには、自分が愛する……つまり大切にすることが大事。供養する時は念入りにするから、針を投げたまま放置しないでね」
「わかった。でも、針の方から戻ってきてくれるから心配は要らなそうだよ」
「既に付喪神化しかけてるのかしら? まあ、大切にしている間は大丈夫かな」
霊華は遠くに投げた退魔針を手元に引き寄せた後、少し寂しそうに霊夢の方を向いた。
「どうしたの?」
「私の能力って、色んな人に愛されるんだよね。なんだか皆を騙しているような気持ちになるんだ」
霊華は、他人が自分に対して優しく接してくれるのは、愛される程度の能力の効果故のものなのではないかと疑い始めていた。自分がこの体質を持っていなかったら霊夢や魔理沙とも仲良くなっていなかったのかもしれない。そう思うと寂しいし、運命を強引に捻じ曲げているようで一種の罪悪感に苛まれる。
「いいんじゃない? だって、貴女の体質を含めて霊華なんだから。ほら、人に好かれる才能がある人っているじゃない。愛嬌がいい人とかさ。この人といると落ち着くとか、楽しいって思わせてくる人みたいなものよ」
「この力が無かったら私は霊夢と仲良くなれなかったかもしれないんだよ?」
「なら、その体質があって良かったってことになるわ。少なくとも私にとってはね。……その、私は貴女と会えて良かったと思ってるから、さ?」
霊夢はちょっと照れくさそうに自分の気持ちを伝えた。普段霊夢に友人として好きだという気持ちを伝えてもそっぽを向く分、照れながら「会えてよかった」と言われた時は嬉しくなった。
霊華は思わず霊夢に抱きついていた。
「ありがとう霊夢。大好きだよっ」
「もう……」
「あ……霊夢。もうひとつ、神谷君についてなんだけど……」
嬉しそうにしていた霊華はまた心配事を思い出した。
霊華は、祐哉が自分を守ると言っているのは、愛される程度の能力の影響なのではないかと相談する。もしそうなら、自分は祐哉を洗脳しているのと同じで、彼の人生を乱してしまっていることになる。
「……お嬢様を守る騎士様。……お嬢様のカリスマ性に魅了された騎士は力を求め鍛錬を積む、ねえ」
「からかわないでよ……」
「そう? 的を射る良い例えだと思うんだけど」
「客観的に見ればそうかもしれないけど、私はお嬢様じゃないもん。『フン、私の為に戦えることを光栄に思いなさい』なんて言うような人と一緒にしないで!」
「そうよねぇ。霊華はどちらかというと乙女なお嬢様だから『私の為にありがとう』って言うタイプよね」
霊夢にそう返され、霊華は「なんか違う」と思うのだった。
「本当なら神谷君はもっと自由に暮らしていたはずなんだよ。それなのに私のせいで毎日大変な修行をしていると思うと……」
「どうかなぁ。案外、貴女が居なくても関係ないかもよ? 幻想郷に来た時から『いつか白玉楼に行って剣を習いたい』って言ってたし」
「そうなの?」
「それに、結局は祐哉がやりたいようにやっているんだから問題ないと思う。それより困ったことがあるわ」
霊夢は深刻そうに呟く。霊華は何が困るのかと恐る恐る尋ねる。
「祐哉と霊華の恋路問題。ほら、その様子じゃ『神谷君が私を好いてくれるのは私の能力のせいであって真実じゃない』とか言って悩むでしょ?」
「うわわっ!? こ、恋路って……いきなり何てこと言うの?」
「何よ、まさか気づいてないとでも思った?」
霊夢に気持ちがバレていたことに驚きはしたものの、一度認識すれば意外と大人しくなった。
「……神谷君は私のこと、どう思ってるのかな」
それを聞いた霊夢は『そりゃ霊華のことが好きに決まってるじゃない。見れば分かるわ』と思うが、これは言わない方がいいのだろうと思って苦笑いをうかべた。
「少なくとも、嫌ってはいないはずよ。もし祐哉に告白されたら、能力のことを話してあげなよ。『貴方の気持ちは錯覚かもしれません』って。まあ取り敢えずは、祐哉以外の男と関わらない方がいいかもよ? 三角関係になるからね」
この力が異性にモテるという意味でも効果を発揮するなら、確かに気をつけないといけないかもしれないと思う霊華。霊華は、多くの人からモテるよりも、自分の想い人に好かれたら幸せと感じる人間だ。モテたくないのにモテてしまうという、周りから嫉妬の目を浴びそうな体質ではあるが、幻想郷ではその心配はないだろう。
「やっぱり私は神谷君に会いたい。旅に出ているとは言われたけど、来るなとは言われてないから」
「旅ねえ。その割には必死すぎたと思うんだけど……本当に旅なのかな? もっと深刻な事情がありそうだけど」
「それは私も思う。だからこそ、もう一度会って話したいんだ。本当に自分探しの旅をしているなら大人しく帰りを待つし、事情があるなら助けたい」
「うん、行っておいで。日が暮れる前に帰るのよ」
霊華は頷いて捜索を開始した。幻想郷の範囲は比較的小さいがそれでも人を一人見つけるのは大変だ。結局、彼女が彼と再開するのはかなり先の話となる。
ありがとうございました。良かったら感想ください。
なに? 霊夢はあんなこと言わないって? 今更すg…原作の数年後設定なんで精神的に成長してもいいんじゃないかという考えです。