チマチマ書いていたので、94話を含めて5話のストックがあります。
これを一週間程度の頻度で投稿していきます。宜しくお願い致します。
曇天の下、夜も遅い時間に炸裂音と金属音が鳴っている。
俺は弾幕を難なく躱し、相手は涼しい表情で俺の斬撃を受け流す。
「ちっ、その扇子、一体何でできている?」
「これは至って普通の扇子。ただの扇子でも、刀を流すことは可能だわ」
「馬鹿にするな! 扇子が俺の攻撃を受け止められるわけないだろうがっ!」
週一で繰り広げられる難関イベント。それは八雲紫との戦闘である。彼女は毎週決まった時間に姿を現し、襲ってくるのだ。もう何度目かになる戦闘。未だに俺は彼女に勝つことはできていない。
しかし負けたこともない。紫は、俺が彼女のスペルカードを何枚か凌ぐと必ず去っていくのだ。
「ふふ、目を凝らして良く
話しながらも、紫は俺の斬撃を逸らし続けている。百歩譲って、攻撃を流すのは分かる。俺の全力を軽々と流されのは悔しいが、相手が相手なので納得はできる。だが、真剣による斬撃を扇子で受け止めるのはおかしい。
俺は霊力を眼に集中させて目を凝らした。
「これは……扇子に妖力を込めているのか。通りで霊力を込めた剣が通らないはずだ」
「その通り。霊力を込めた刀を相手にするなら生身というわけにはいかないわ」
──それなら、風見幽香も妖力を使っていたのだろうか。あの時は、最初の一撃で少し傷を付ける事ができたが、それ以降は首を斬ろうとしても傷付けることはできなかった。途中から妖力を使って防御力を上げていたというのなら腑に落ちる。
「そういう事だったのか」
──厄介だな
ただでさえも頑丈な肉体を持つ妖怪が、妖力を使ってガードすれば、霊力を使った剣も通らない。
「どうあっても人間が妖怪を傷つけることはできないってことか」
「そう。私を物理攻撃のみで倒すのは不可能よ。……まあ、貴方の持つモノならそれを可能にするかもしれないけれど」
「この刀のことか。全く効いてなさそうだけど?」
紫はスキマを使って俺から距離をとって話し始めた。
「あら、ヒントを上げたつもりだったのだけど知っていたのね。それなら分かるでしょう。その刀はまだ本領を発揮できていない。それだけのことよ」
「……へぇ?」
妖斬剣の力を解放した状態ならば、大妖怪相手にも効果があるのだろう。思った通りだ。
──でも、今はまだそのときではない。
紫は俺の刀が特殊である事には気付いているし、刀に眠る力がある事も分かっているようだ。しかし、俺が既に妖斬剣を解放できることを知らない様子。それなら、あの技が完成するまでは我慢だ。
──全ては確実に勝利するために。
「喋りすぎたかしら。今日はもう帰るわ」
「……アンタ、本当に俺を殺す気があるのか?」
「いつかはね。でも直ぐには終わらせたくないの。言ったでしょう。貴方には色々な弾幕を見てから死んでもらうって」
紫はそう言い残して去っていった。
「……性格悪すぎるだろ」
今日まで色々な妖怪と戦っている。分裂する妖怪やルーミアの他にも、名も知らぬ妖怪と頻繁に交戦している。最近は弾幕戦闘の技術を伸ばすために、スペルカードを駆使して戦っている。その過程で何枚か新スペルカードを開発できた。
意外なことに、強敵と呼べる妖怪と戦った事はあまり無い。最後に戦ったのは紫以外だと
俺を舐めて弱い妖怪を送ってきているんだろうが、精々遊んでいればいい。
──お前にとっての遊びを利用して成長し、いずれお前を倒してやる。
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紫が去って暫く経った。戦闘による興奮も落ち着いてきた。
寝床を作った俺は簡易布団の上で横になっている。草っ原のど真ん中で布団を敷いて寝られるのは創造の力のお蔭だ。この力があればある程度の
黒い宙を眺める。視界には数多の星粒が散らばっている。俺はそれを見ても何も感じなくなった。昔の俺なら、あまりの美しさに感動していたというのに。今では「ただ星が光っている」という事象を観測しただけに過ぎない。
──俺は変わってしまった。
先に変わったのは俺の環境だ。俺の居場所は無くなった。命を狙われるという、数ヶ月前の自分には想像もつかない状況だ。
そんな状況が俺の全てを変えた。何をしても楽しくない。だが、何も感じないのかといえばそうではない。残念ながら、負の感情だけは強く残っている。「俺は独りだ」とか「生きてて何になるのか」とか「明日を迎えられるのか」など、暗いことばかり考えている。
「寝るか……」
今の時刻は深夜の2時。夜行性になりかけている俺だが、いつもなら既に寝ている。この生活をする前は夜の10時くらいには眠っていたと考えれば、十分夜行性と言えるだろう。
最近は朝までぐっすり眠ることが無くなった。寝ている途中で妖怪に襲われそうになると使い魔かアテナが叩き起してくれるのだ。
毎日一度は妖怪と戦っているので、割と睡眠不足である。それに、かなりストレスが溜まっている。
──全ての妖怪が滅べばこんな思いをしなくて済むのでは?
「アホか。妖怪がいなかったら幻想郷じゃないだろうが」
好き好んで妖怪がいる地で生きると決めたのだ。今更文句を言っても仕方ない。
今日は中々寝付けず、眠りにつくまでに1時間はかかった。
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──俺の目の前に青い巫女服を着た女の子がいる。
女の子が俺に話しかけてきた。
「神谷くん」
俺の意識はハッキリしていなかった。ぼーっとしながらその言葉を聞いて、ただ一言「なに?」と返した。
「どうして……」
次の瞬間、女の子は声を荒らげた。
「どうして私を襲ったの!? 私が何かしましたか!? 答えてよ! ねえ!」
この子がこんなに感情的になっているところを見たことがない。俺は初めてこの子に怒鳴られた。
「俺じゃないって! 俺が君を襲うはずがないだろ! 俺は君を守るために力をつけたんだ……! 襲ってどうするんだよ!!」
「逆ギレしないでください!」
もうダメだ。やっぱり俺はこの子に嫌われている。俺がなんと言おうと、信じてくれない。俺の信用はその程度だったんだ。
──もう、どうしようもない。
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目が覚めた。どうやら、さっきの出来事は夢だったようだ。
「はぁ……」
周りはまだ暗闇に包まれている。まだ秋とはいえ、夜は寒い。防寒着を着ていなければ、寒くて凍えているだろう。
「使い魔君、今何時?」
使い魔によれば、今は夜中の4時前だ。1時間も寝られていない。
この手の悪夢は頻繁に見ている。霊華が夢に出てきたことは数回程度しかないが、登場する時は霊華と和解できずに目が覚める。
こんな夢を見る度に俺は生きるのを辞めたくなるのだ。仕方ないだろう? 好きな人に嫌われて、怒鳴られたり責められたりするのだから。例え現実の出来事ではないとはいえ、有り得ない話ではない。実際の霊華も俺を嫌っているだろうから、夢と似たようなことを言われるのだろう。
──俺じゃないのに。
何より、少しでも「霊華を襲った犯人が俺ではない」という可能性を信じてくれないことにショックを受けている。所詮、霊華にとって俺は信用に値しない人物なのだろう。
好きな人に嫌われている。友達とも一緒に居られない。全ての妖怪は俺を殺そうとしている。それも、一息に殺すのではなく、ジワジワと弱らせてくる。こんな生活をしていて何が楽しい?
「俺は、何のために生きてるんだろう……」
ため息をつくように呟いた一言は、アテナに拾われた。
『いっそ、気ままに生きてみてはどうですか。この世界に嫌われているのです。この世界に気を使う必要などないはず。好きなように、やりたいことをやって生きたらどうでしょうか』
──俺の一番の望みは、霊華と一緒にいることなんだよ。それ以上の望みなんてない。そして、それ以外の望みもない。強くなりたかったのも、あの子と一緒にいるためには、彼女に降りかかる脅威から守る必要があるからだ。
『そう、ですね。貴方の心には常に彼女の存在があった。どんな苦難も、彼女を思えば乗り越えられた。貴方は支えを失ってしまった』
アテナは暫く間を開けてから再び話しかけてきた。
『やはりこれしかないでしょう。祐哉、霊華と話しなさい。神社に行けば彼女に会えるはずです』
──なんで怒鳴られに行かなきゃいけない? あの子だって、俺に会いたくないはずだ!
『それは貴方が怒鳴られると思っているだけです。そこに客観的な根拠はないはず。決めつけているだけでしょう』
俺は、イラついてきた。アテナの言うことは図星なんだ。本当は俺が思い込んでいるだけ。勘違いかもしれない。でも、もし本当に今でも嫌われていたら立ち直れなくなる。
『この数週間のうちに、魔理沙が貴方の無実を証明しているはず。彼女の誤解も解けているはずです。その後彼女が何を思い、どう行動するか、貴方なら分かるでしょう』
──霊華のことだ。絶対泣くだろう。謝るだろう。でも俺は謝って欲しいんじゃない。彼女と和解できたところで、紫をどうにかしない限り俺はあの子と居られない。和解したってなんの意味もない!
『何故そんなに馬鹿なんですか? もう少し賢いと思っていましたが』
──ムカつくな。なんでそんなに喧嘩売ってくるんだよ。
『和解できたら、生きる意味ができるでしょう。彼女とまた暮らすために生きようとするでしょう。そしてその思いは、紫を倒す原動力になります』
──和解できなかったら?
『そんなことはありえません。私を信じなさい』
──何の根拠があって言い切っているんだこの女神は! 俺はもう、霊華が分からない。あの子がどんな人間なのか分からない。もう彼女を信じることができない。
──互いにこう思っているはずだ。「向こうが先に裏切った」と。
「クソッ、何が好きな人だ。俺だってあの子を信じてないじゃないか! ──でも! 俺はずっと誤解を解きたかったんだよ! でもさっきの夢で心が折れた……もう嫌なんだよ」
『……貴方が壊れていくのも、時間の問題ですね。いえ、よく持ったほうでしょう。頑張りましたね。もう、好きにしなさい』
その日から、アテナとの会話は完全に無くなった。唯一残されていた心の支えを失い、俺の心には巨大な穴が生まれた。
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何日経過しただろうか。1日も経っていないかもしれないし、1週間経っているかもしれない。記憶を遡る手間をかける程の興味もない。
俺はあの夜からずっと同じ場所で横になっている。何もやる気が起きないのだ。何もかもどうでといいという気持ちなので、使い魔による監視も解いている。今までの反動か、何もかもを捨てた今は一日中眠っていられるようになった。
たまに目を覚まし、直ぐに眠りにつく。
不思議な事に、使い魔による警戒網を解いてから妖怪に襲われることが無くなった。そうでなければ俺は死んでいるはずだ。
これだけ眠っているのに、朝目を覚ますと霊力が減っている時がある。僅かにだが、刀を握っていた記憶がある時もある。もしかしたら俺は眠りながら妖怪を迎撃しているのかもしれない。そんなことあるか? まあ、どうだっていい。
──眠くなってきた。
そんなはずは無いのだ。ずっと眠っているのだから。でも、だんだん意識が無くなっていくのがわかる。もう何度目になるか分からない睡眠の時間だ。
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「あれは……」
──ここからでも分かる霊力と
「久米、行き先変更よ」
私は大鷲の久米に降下するよう命じた。
人影の正体はやはり、私の予想通りの人物だった。
「何か、弱っているように見えるわ」
近づこうとすると、彼から凄まじい神力が放たれてきた。これは山の神とは違った性質の力。しかし、その本質は神の力であることは間違いない。
──やっぱり、彼の中にいる神は和のものとは異なるようね。
「彼に危害を加えるつもりは無いわ。とても衰弱しているように見える。私に協力させてくれないかしら?」
そう言うと、突然目の前に紙が現れた。それを手に取ってみると、慣れてなさそうな字体で文章が書かれていた。
──『貴女は前から私の存在に気づいていましたね。私から事情を話すことはできませんが、彼はこのままでは衰弱死します。その前に助けて欲しい。できれば、貴方以外に彼の居場所が分からない場所へ連れて行って欲しいのです』
「いいわ。取っておきの場所があるの」
ありがとうございました。よかったら感想ください。