東方霊想録   作:祐霊

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どうも、祐霊です。
途中で時間が飛ぶのでお願いします。


#97「吸血鬼との再会」

 華扇と勝負した翌日、俺は一晩で考えた事を華扇に話した。

 

「え、もう帰っちゃうの?」

「はい。今は妖斬剣を沢山創造できるようになる事が最優先だと思うんです。刀を作る度に華扇さんに迷惑をかけるのも申し訳ないですし」

「そう……力になれなくて申し訳ないわ」

「いえ! 助けてくれただけで十分嬉しいです。それに、新技のヒントも得られました。本当にありがとうございました」

 

 その後、華扇は俺を安全な場所まで送ってくれた。実は、華扇の屋敷は妖怪の山の中にある。妖怪の山は文字通り沢山の妖怪の住処なので、人間がうろちょろしているのは不味いのだ。身体強化と縮地を駆使すれば直ぐに下山できそうではあるが、万が一ということもあるので大人しく華扇を頼った。

 

 移動し、本当の別れをする時に華扇は「今度は博麗神社で会いましょう。皆でお酒呑もうね」と言った。

 

 華扇と別れ、俺はまた独りになった。だが、以前とは違い、今は前向きに物事を考えられるようになっていた。

 

 ──よし、早速修行を始めよう。

 

 打倒八雲紫。『 弾幕ノ時雨・妖斬剣(レインバレット)』──仮名──を完成させるのが当面の目標だ。妖斬剣の創造に慣れ、霊力の消費量を最小限に抑える修行をしようか。

 

 ───────────────

 

 祐哉が新技の開発に勤しんでいる頃、白玉楼には客人が来ていた。その客人は博麗の巫女と瓜二つの少女だった。彼女は友人の神谷祐哉を見つける手掛かりを探るために、知人と情報交換をしているのだ。

 

 白玉楼の前には紅魔館に赴いており、主のレミリアやメイドの咲夜、門番の美鈴に図書館のパチュリーにそれぞれ尋ねたが、有力な情報は得られなかった。祐哉なら行きそうな場所も相談したが、大体は人里が話題に出た。しかし、まず一番に人里を調査していた霊華は手掛かりを得られず落ち込むのであった。

 

 人里の調査は、「自分は避けられている」と考え、変装をした上で行っていた。なので、何日も人里を歩き回っていれば遭遇できるはずなのだ。それなのに遭遇できないということは、祐哉は人里には居ないのかもしれない。

 

 勿論、祐哉の方も変装をしている可能性もある。そう思った霊華は、人里を調査している間は常に霊力感知に神経を割いていた。一週間に及ぶ調査が終わる頃には、彼女の霊力感知スキルは相当高まっていた。

 

「そうは言っても、祐哉(アイツ)の能力を使えば霊力感知を誤魔化せるんじゃないか?」

「できないことはなさそうだよね」

 

 人里での調査結果を聞いた叶夢が、祐哉が能力を使った可能性について述べ、妖梨がそれを肯定した。その傍らでは妖夢が頷いている。

 

「そんなことされたらどうしようもないよ……」

 

 叶夢の意見を聞いた霊華は項垂れてしまった。

 

「アイツは……一体どうしちまったんだろうな」

「二人は神谷くんに会ったんだよね?」

「うん。だけど、僕も叶夢も詳しい事情は分からないんだ」

「どんなに聞いても『俺から離れろ』の一点張りだったぜ。ムカついたからアイツの刀折ってやった」

 

 叶夢の発言を聞いた霊華は目を丸くした。

 

「折ったって……刀を? そんな簡単に折れるものなの?」

「俺の刀は特殊なんだよ。まあ、刀を失って追い込まれたからまともな刀を創造できるようになったんだ。アイツにとってはプラスだろうさ」

「補足すると、叶夢の刀も折れてるからね。だから相打ちかな」

 

 霊華は、叶夢と妖梨の話を聞いて、刀に対するイメージが大分変わっていった。

 

 ──刀って意外と脆いのかな? 

 

 今、彼女の頭の中では刀がポキポキと折れるイメージが浮かんでいるが、流石にそこまで脆くはない。何でも斬れる程無敵ではないが、正しく使えば簡単に折れたりしない。白玉楼にあった刀なら尚更だ。

 

「そうそう、霊華ちゃん。アイツの刀ってすげーんだぜ! 妖斬剣って言ってな、妖の類を斬ることができるんだ! お蔭で俺の妖刀が簡単に折られちまってよ〜」

 

 叶夢は、まるで自分のことを自慢するように祐哉の刀や剣の腕前を語った。それを聞いた霊華は、最近の祐哉のことを知ることができて嬉しく思うのと同時に、益々会いたい気持ちが強くなっていった。

 

 ───────────────

 

 一方、紅魔館では。

 

 霊華が訪ねてきた後、主のレミリアとその妹、フランドールが会話をしていた。

 

「ユウヤがいなくなったって?」

「少し前からね。案外のんびり旅でもしているんだと思うけど。魔理沙もそうだったけど、皆騒ぎすぎなのよ」

「でもお姉様、折角の遊び相手が居なくなっちゃったら退屈しない?」

 

 フランドールは、飽くまでも雑談の流れで姉に提案した。

 

「探しに行ってみるのも面白いんじゃない?」

「珍しいわね。フランが外に出ようとするなんて」

「まあ、()()()()()()()()()()()を久しぶりに聞きたくなっただけよ。それに、お姉様に一度でも勝ったんだから、ちょっとくらい気になるわ」

「要するに、玩具と遊びたいのね」

「うん。お姉様も行かない?」

 

 フランは、「偶には身体を動かさなくちゃ」と言ってレミリアを見る。レミリアは特に断る理由もない為、妹の提案を承諾した。

 

 吸血鬼姉妹が手を組んだのと同時に、幻想郷のどこかに居る祐哉の絶望的な未来が確定した。

 

 

 ───────────────

 

 

 

 

 

 華扇に助けてもらい、『 弾幕ノ時雨・妖斬剣(レインバレット)』を完成させる修行を初めてから、()()()が経過した。

 

 ふと気になって使い魔に尋ねてみれば、今は睦月(1月)の中旬らしい。

 

 ──いつの間に年明けてたんだよ。

 

 孤独な俺にクリスマスなんてなかった。クリぼっち万歳! ……そもそも、幻想郷にそんなイベントはない。だが、もし外来人の中に企画を立てるのが好きな人が居たら、里でクリスマスイベントが開かれていたかもしれない。

 

 俺はクリスマスの日でも変わらず修行していた。勿論、大晦日やお正月も同様だ。紅白歌合戦も、年始の芸能人格付けチェックも見ていない。年越し蕎麦はもちろん、御節料理や餅も食べていない。

 

 本当に、いつの間に年を開けたんだ? 

 

「いや、待てよ? 俺は毎日里に行ってるんだから心当たりがあるはずだよな」

 

 俺は必死に過去を振り返る。俺は、1日3回、念の為変装をした上で人里で食事している。

 

「んっ! そういえば何日か店が開いてない日があったな。アレか!」

 

 幻想郷に、年中無休という概念は存在しない。故に、年末年始はどの店も休みだったのだ。

 

 ──通りで! てかなんで気づかなかったんだよ!? アホか俺は! 

 

 因みに、店が開いてなかった数日間は湖や川に行って魚を捕って食べた。味付けの手段が無くて寂しい思いをしたことを思い出した。

 

「そうか、もう三ヶ月ちょっと経ってるのか」

 

 俺が独りぼっちになってから、三ヶ月と半月程たっているらしい。この期間で俺は相当成長できたと思う。

 

 これだけの期間を過ごしていると流石に知っている妖怪と戦うこともあった。夜雀のミスティア・ローラレイや、リグル・ナイトバグ、三妖精等と戦った。どれも大妖怪程ではないが、ある程度の強さだったので、戦いの過程で学ぶものもあった。

 

 驚いたのは、少し前にルーミアと出会ったことだ。彼女はあの時の記憶が無い様子だった。今度は髪留め(御札)を千切らないように気をつけて戦った。覚醒したルーミアと戦ったあとだからか、簡単に勝利できたので拍子抜けだった。

 

 八雲紫との戦いは今も続いている。初めは彼女の弾幕に足が竦んで、避けるのも難しい状態だったが多少はマシになった。完全に余裕を持って挑めるようになるにはもう少しかかりそうだ。

 

「さて、一旦仮眠を取りますかね」

 

 もうすぐで日付が変わる。一応昼にも寝ているので、今はあまり眠くないのだが、特にやることもないので体を休めることにする。

 

 ──じゃあアテナ、今日もお願いします。

 

 俺はアテナに周りの警戒をお願いして眠りにつく。因みに、アテナは俺が再び一人になった時に話しかけてくれるようになった。どうやら、俺が衰弱していた時にも妖怪から守ってくれていたらしい。寝ている間に霊力が減っている時があったのは、そのためだ。

 

 

 

 ───────────────

 

 炸裂音がした。アテナや使い魔に起こされるまでもなく目を覚ますと、視界(夜空)いっぱいに色とりどりの弾幕が広がっていた。

 

 ──げっ!? 

 

 俺は咄嗟に魔法陣を創造して、スターバーストを放つ。自分に当たりそうな弾幕を全て消し去る頃には立ち上がって刀を腰に装備し終わった。

 

『突然弾幕が展開されました。丁度逆光ですね。月を見てください。敵はそこにいます』

 

 アテナに言われて空を見渡すと、月を背景にした人影が二つ存在した。

 

 人影は近づいてきて段々と大きくなってくる。

 

 ──これは驚いた。まさか、この日が来るとはな。

 

 人影は目の前に着陸し、洋風のお嬢様らしくカーテシーをする。

 

「最悪だ」

「あら、久しぶりの再会だというのにご挨拶ね」

「レミリアさん。その言葉、そのまま返させてもらいます。いきなり弾幕を撃って人を起こすなんて酷いですよ」

 

 紅魔館の吸血鬼姉妹が夜這いしに来た。俺の貞操()の危機である。

 

「最近顔を見せないから、こちらから出向いてあげたのよ。光栄に思いなさい?」

()()()()()()()()()()()

 

 ──()()()()

 

『こらこら、本音と建前が逆になっていますよ』

 

 ──やっちまったぜ! てへぺろ。

 

 だが、レミリアは特に気分を害してはいなそうである。

 

「今日は貴方と素敵な夜を過ごしたくて来たの」

 

 だから嫌なんだよ。どうせそれは俺にとって素敵じゃないから。知ってるから。

 

「刺激的で熱い夜になりそうですね……はぁ、お断りしてもいいですかね。寝たいんです」

「今夜は寝かせないわよ」

「……え、2対1で人間を襲おうとしてます?」

「安心なさい。私達は1人ずつスペルカードを使うわ。総枚数は互いに5枚。スペルカードを全て凌ぐか、先に被弾させた方が勝ち。貴方は私かフランのどちらかに一度でも被弾させることができればその時点で勝利となる」

 

 レミリアはこれでどう? と聞いてくる。

 

 嫌だなあ。でも断ってまた霊華を人質に取られるのは嫌だからな。仕方ない。

 

「二つ質問です。一つ目、剣術を使ってもいいですか?」

「構わないけどお勧めはしないわ」

「二つ目。前回同様、本気で能力を使わせてもらいますけど、いいですよね?」

「当然。少しでも加減を考えたことを後悔させてあげるわ」

「まさか、加減なんて考えたこともないですよ。ただ、何をしても怒らないで欲しいんです」

 

 今は夜なので、前回のように日光で倒すことはできない。ならば、若干反則に近いことをやるしかない。

 

 ──大丈夫。こういう時のために使い魔のストックは沢山用意してある。

 

 俺は常日頃から、霊力と魔力、それぞれを充填した使い魔を生産している。その貯蓄はエネルギー量だけでいえば霊夢や魔理沙はおろか、並大抵の妖怪にも勝るほどだ。まあ、だからといって勝負に勝てる訳じゃないんだが。

 

 ──半年以上かけて貯めたストックを全部使う訳には行かないし……

 

『今回の相手は手強いので、15体ずつ使用していいと思いますよ』

 

 ──大盤振る舞いですね。出し惜しみして死ぬよりマシか。

 

 俺は、アテナに使い魔のエネルギー管理のマネジメントを頼んでいる。そのマネージャーから、半月分のストックをこの数分に使う許可を得た。

 

「心の準備はいいかしら。フランも何か言ったら?」

「んー、そうね。私が勝ったらあの長ったらしい名前教えてくれる?」

「寿限無のことか。今言うから見逃してくれない?」

「それはダメ。私を楽しませてね、()()()

 

 何だ、ちゃんと俺の名前覚えてるじゃん。

 

 俺達は空を飛んで距離を取る。

 

「今夜は満月。月は紅くないけど楽しい夜になりそうね」

「永い夜になりそうだな」

 

 そして、戦いは始まった。




ありがとうございました。よかったら感想ください。

妖斬剣を使ったスペルカードを完成させるのに3ヶ月かかりました。
あまり時間を飛ばしたくないのですが、一週間程度で習得できるものじゃないと判断しました。
あと、3ヶ月前の祐哉では吸血鬼姉妹と戦えない()

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