「──神罰『幼きデーモンロード』!」
最初に動いたのはレミリアだ。
この技は少しだけ記憶に残っている。持っていて良かった、久しぶりに役立った、原作知識。
俺は身体全体を覆うように反射鏡を創造する。反射鏡は透明にしてあるので、鏡に視界を奪われることはない。これで幼きデーモンロードに対抗する準備が完了した。
準備が終わった頃、複雑に絡みあった細いレーザーが撃たれた。その性質は俺のリフレクトトラップと似ていて、網目状に流れるレーザーに動きを制限されてしまう。更に、大小様々な弾幕が襲いかかってくる。
──危なっ!
弾幕の密度はとても濃く、弾を避けることに集中しすぎてレーザーに掠った。反射鏡の盾が無かったら今頃お陀仏だ。
──1秒も掠ってないのに、2枚壊れた。念の為6重の盾にしておいて良かった。
レミリアが放つレーザーは細い分、光が一点集中するので直ぐに反射鏡が壊れてしまう。
1枚目のスペルカードからヒヤヒヤしたが、幼きデーモンロードは何とか凌ぎきった。
「次は俺の番だ! ──銀符『
俺は、全長1m程の十字架を二人の周りにありったけ創造する。十字架は、クルクルと回転しながら自由に動き回り、ある十字架は青色の十字レーザーを、ある十字架は赤色の小弾幕をばらまいていく。
悪魔には十字架が効くというが、この世界の吸血鬼には効かないらしい。それは知っていたが、銀製ならば別だろう。尤も、銀が有効なのかは確認が取れていないのだが。「効いたらいいな」程度である。
「気をつけなさいフラン」
「ただの十字架じゃなさそう。この感じ、銀製かな?」
「お願いしていい?」
「任せて、お姉様。──禁忌『禁じられた遊び』!!」
フランがスペルカードを使った。彼女が何かを撒き散らすと、その物体は十字にレーザーを放ち始めた。赤色の十字レーザーを放つ十字架は俺の身長の数倍もあり、十字架同士が重なると避けるのが難しくなる。
互いに似たようなスペルカードを使っているが、何を隠そう、俺の『悪魔祓いの十字架』は、フランの『禁じられた遊び』を参考に作っているのだ。原型との勝負は中々面白い絵面だ。
『
──2枚目のカードも終了。
「悪魔退治用のとっておきが効かないとはね。これならどうだ? ──星符『スターバースト』!!」
俺は自分の目の前に巨大な魔法陣を展開し、青と赤の極太レーザーを放つ。その後直ぐに二体の使い魔を創造し、命令を与える。使い魔によって放たれる小粒の星型弾は、銀河を彷彿とさせる渦巻き弾幕を形成した。二つの銀河は衝突し、爆発を引き起こした。
──俺の十八番、スターバースト。効いてるかな?
俺は、レーザーから離れて二人の様子を探る。
「……うわ、避けてる」
驚いた。二人は極太レーザーを難なく躱した後、複雑に飛び交う星型弾幕をすり抜けるように飛び回っているのだ。
──それこそ紅魔館なんて丸呑みできるほど巨大なレーザーなのに、あの一瞬で範囲外へ逃げたのか!
恐ろしいスピードだ。これが吸血鬼か。
勿論、レーザーも一点ばかりを狙っている訳ではない。逃げる相手を自動で追尾し、逃げる行方を星型弾幕が阻む筈なのだ。しかし、それらは彼女達になんの効力ももたらさなかったようだ。
──流石チート種族。夜において無敵か!
だから戦いたくなかったんだ。けど……
「……楽しいな」
こんな気持ちは久しぶりだ。俺は今間違いなく、この戦いを楽しんでいる。決して有利な状況ではないのに、ワクワクしている。こんな純粋な気持ちで弾幕ごっこをするのはいつぶりだろうか……。
「勝ちたいな」
戦いをやり過ごすのでは足りない。俺はこの勝負に勝ちたい。スペルカードルールがあるのだから、人間にだって勝つ可能性はあるのだ。
──やってやる。
「──水星『アクアバレット』!」
俺はスターバーストを終わらせ、3枚目のスペルカードを使う。この技を使うのは久しぶりだ。今回は、消費する使い魔の数を増やす事で、直径50mの球体を作り出す。これは、本来の5倍大きい。
かなりの大きさ故に、二人は突然の光景に驚いているようだ。
「──降り注げ」
遥か上空に生成された巨大な球から水が漏れ始めた。落ちてくる雨滴の数は少しずつ増していき、数秒後にはシャワーの様に降り注いだ。一粒の雫が、人一人を飲み込める程のサイズになっている。加えて、雨滴は空気抵抗の影響を受けないため、凄まじい速度で、凄まじい威力で落ちてくる。
俺には雨滴を目に捉えることはできないが、彼女達ならそれが適うはずだ。しかし、2人は全く動いていなかった。
──思った通り、
吸血鬼は流水に弱い。『流水』の定義の中に、雨が含まれるのか心配だったが、それは杞憂に終わった。
「雨粒が大きく、粒の間隔が広い……小人になった気分だわ」
「……これがパチェと作り上げた
「あは、壊していいの?」
「ええ。でも、破壊にも華やかさが必要だわ」
レミリアはフランに頷いた。それを受けた彼女は、直ぐに行動を始めた。
「分かっているわ。──禁忌『レーヴァテイン』!!」
フランの手に、弓なりの棒が握られた。
レーヴァテインは、北欧神話に登場する神器である。それは剣という説もあれば、杖という説もあるとか。実際のところの定義はされていないが、フランにとってのレーヴァテインは、剣のようだ。
レーヴァテインを宙に掲げると、刀身から炎が伸びた。
──デカすぎる……!
そのサイズは、百メートルを優に超えるだろう。流石の
「そ〜れっ!」
フランは炎を纏った大剣を水星に向けて振り払った。
「すげーな……」
レーヴァテインに裂かれた水星は爆散してしまった。ただ裂かれただけならばまだ勝機があったが、爆散してしまえば水も蒸発してそれまでである。
スペルカードは破られたが、大迫力のスペルカードを見ることができたので満足だ。
「凄いですね。流石吸血鬼」
「今度はフランのレーヴァテインに細工してくるかと思ったわ」
細工……。前にレミリアと戦ったとき、内部破裂を使ってグングニルを壊したことか。
「アレは奥の手ですよ」
「ふうん。ほんの少し戸惑ったわ。本気で私たちの弱点を突いてくるとはね」
「まあ、貴女たちなら何とかすると信じていましたよ」
なんたって、最強クラスの種族だからな。
「……信じるついでにもう一枚いいですか? 下手をすれば死にますけど」
「フラン、私達舐められているわよ」
「随分と逞しい人間だねぇ。霊夢と魔理沙を思い出すわ」
先程までに確かに追い詰めていたはずだが、今のフランとレミリアからは余裕を感じる。次にどんな手を使っても必ず打ち勝てる自信があるのだろうか。それとも、俺をただの人間だと思って高を括っているのか。
「それで?」
「折角面白くなってきたんだもの。続けましょ? ユウヤ」
フランは楽しそうに言った。
「じゃあ、頑張って死なないでね。──太陽『ザ・サン』!!」
俺は数体の使い魔を創造して、先の水星よりも遥かに大きい太陽を生成した。その影響で、俺達の周りは昼間のように明るくなった。
日符系統のスペルカードには、霊力を充填した使い魔が最低3体必要である。今回は、使い魔を12体使用している。
太陽『ザ・サン』は、前に風見幽香に対して使った──日符『プロミネンス』──の上位互換である。
擬似太陽は、本物に劣らぬ光と灼熱を発している。
さて、今作った太陽は偽物だが、効果はどうだろうか? 俺の予想では、本物でなくてもある程度の効果があるのだが。
フランとレミリアの方を見ると、慌てたように弾幕を放っている。太陽に向けて放たれた超高密度の弾幕は、壁を作って日光を遮った。
「お姉様!」
「任せなさい。──神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」
グングニルは北欧神話の主神、オーディンが持つ槍である。この槍は決して的を射損なうこともなく、敵を貫いたあとは自動的に持ち主の手に戻ってくるという。余談だが、この槍はいつか創造してみたい神器TOP10のひとつにある。
レミリアの両の手には真紅の長槍が握られた。そして、間髪入れずに槍を擬似太陽に向けて投擲した。
「あーあ……これからだったのに」
擬似太陽は一瞬で炸裂し、崩壊してしまった。
明るくなっていた世界は再び闇を取り戻した。
「ふぅ、相変わらず殺意が高いわね」
「お姉様、恨まれてるの?」
「あの技、弾幕とか1つも撃ってないんですけど……」
「アレを見た瞬間に全身がヒリヒリしたわ。生憎傘を持ってきてなくてね。またの機会に見せてくれる?」
ほう、やはり偽物でも嫌がらせ程度にはなるのか。死にはしないけど嫌なんだろうな。
「偽物じゃなかったら死んでたわ」
……うん、そうだろうね。
「さて、これで互いに残りのカードは1枚ずつね。私達は、2人で行くわ」
「2人で1枚のカード? 聞いた事ないな……」
2人はアイコンタクトを取って、自身の背後に魔法陣を展開した。
「我等が吸血鬼に畏怖の念を抱きなさい」
「「──紅魔符『ブラッディカタストロフ』!!」」
──知らない技が来た!
レミリアは大量の矢をばら蒔き、フランは大きな紅弾を放ってくる。
──エグい! 人に向けて使う技じゃないだろ
『いや、貴方も人のこと言えませんよ?』
いーや! あの吸血鬼達は人じゃないからいいんですー!
『ふむ。それは一理ありますね。人間の貴方では死んで終わりでしょうから手を貸します。いいですか、あの矢はレミリアの魔法陣から出現しています。つまり、妖力で作られているものかと思われます』
なるほど。それなら俺にも対抗策がある。
この技はあまり人の目に触れたくないが、出し惜しみをして勝てる相手ではない。ここまで来たら勝ちたいんだ。
「──
俺は、魔法陣を沢山創造して刀を放つ。この刀は
この技は三段構えになっている。一つはばら撒き弾。もう一つは相手を直接狙う、所謂自機狙い弾。そして鉛直方向からの妖斬剣の雨である。
この三段構えにより、攻略難易度は非常に高くなっている。如何に戦い慣れしていようが、前方と上空からの攻撃を避けるのは至難の業だ。
「この刀、嫌な感じがするわね」
妖斬剣は吸血鬼にも問題なく効果があるようだ。
『祐哉、気をつけて。後ろからも来ていますよ』
アテナに言われて後ろを確認すると、確かに小さな弾幕が迫っていた。
──なるほど、フランが放った大きな弾は一定の距離を進むと分裂して帰ってくるのか。
時間が経過する毎に、レミリアが放つ矢が速くなっていく。無数の妖斬剣が近くの矢を
「楽しかったけど、そろそろ終わりにしましょう。死ぬ前に負けを認めなさい」
「嫌ですよ! 俺は負けない! ここで勝利し、
俺は妖斬剣を創造する頻度を上げ、2人を追い込む。
──必ずだ。絶対に勝つ!
───────────────
「──くそっ! 引き分けか……!」
勝敗の結果は両者引き分け。互いがスペルカードの制限時間以内に被弾しなかったのだ。
レミリアとフランの合体スペルカード──ブラッディカタストロフ──は、時間が経過するにつれて矢の数が増え、フランが大きな球を放つ頻度が上がった。正直、俺が『妖祓いの五月雨』を使っていなかったら致命傷を受けていただろう。それ程までに恐ろしい技だった。
「私達二人を相手に引き分けるなんて。育てた甲斐があったわね」
「流石、お姉様を倒した力は伊達ではないようね」
勝利はできなかったが、悔しさよりも楽しかったという思いの方が強い。大規模なスペルカードを連発することはそんなにないから、スッキリした。
「ストレス発散になりました。ありがとうございます」
「私もいい運動になったわ。また遊ぼうね、ユウヤ」
「弾幕ごっこならいいよ」
ガチの殴り合いは遠慮するけど。流石に吸血鬼は身体能力が高すぎて、剣術では太刀打ちできないだろう。こればっかりはどうしようもない。
「さて、満足したし私達は戻るわ」
「……あっ! 待ってください!」
俺は、あることを思い出して2人を呼び止めた。
「完全に忘れてたんですけど、2人は俺を殺しに来たんじゃないんですか?」
「まさか。折角育てたのに殺すわけがないでしょうに」
「壊しちゃうかもしれないけどね」
2人が嘘をついているようには見えない。
「……誰かから、俺の事情を聞いてないですか?」
「貴方が失踪したって話?」
もう少し反応を見るか。
「なんか、俺がお尋ね者になってるって噂を聞いたんですけど」
「ええ? 昔、天邪鬼がお尋ね者になっていたけど、貴方も何かしたの?」
「……俺は、何も。知らないならいいんです。呼び止めてすみません」
レミリアは黙って俺の目を見つめてくる。心を見透かされているようで怖くなるが、見透かされてしまった方が楽に思えて目が離せない。
「
「……大丈夫、です」
「そう、死ぬ前に家に来なさい。フランが悲しむわ」
「そうそう、死んじゃダメ。ユウヤは壊れない玩具なんだから」
──いや、俺は壊れるぞ。なんなら、もう既に壊れてしまったよ。見た目じゃ分からないところがね。
これ以上考えればまた憂鬱な気分になると思い、気持ちを切り替えて2人を見送る。
俺は悪いことを考えないように、頭に焼き付いた二人の弾幕を想起することにした。
──今はただ、楽しかったことを思い返そう。
ありがとうございました。よかったら感想ください。
あと、週一投稿ですら無理そうです。すみません。やらなければならないことが多いのでまたお休みさせてください。