ゆるキャン△短編まとめ   作:星見秋

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カレーめん

「リンに会ったの?」

 大晦日、私はなでしこちゃんとお昼ご飯を食べていた。

 年賀状のバイトを始めてからの数日間、私達はお昼を共にするのが習慣化していた。郵便局近くの河川敷にお弁当を持ち寄って、世間話に花を咲かせながら食べる。郵便局の中は人がいっぱいで、お弁当を広げるスペースが少ない。それにこの時間のお外は確かに寒いっちゃ寒いんだけど、おひさまの光がある程度和らげてくれている。風が吹きさえしなければ、澄んだ空気とぽかぽかの日光で心地よくお昼ご飯を食べられるんだ。

「うん。朝にね、休憩中におやつ食べようと思ってカレーめんを買ったんだけど、そしたらスクーターに乗ってるリンちゃんがいてね」

 思わず声かけちゃったんだー、と語るなでしこちゃん。手にはほかほかと湯気を立てるカレーめん、膝元にはおにぎりとタッパー。タッパーにはおかずが山ほど詰め込まれていて、おにぎりはおにぎりで別の容器にまだまだ入っていて、その上でカレーめんをおやつとして食べていて、なでしこちゃんはよく食べるなあ。ずるずると麺を啜って、スパイスの香りが音と共に辺りに飛び散って、私の鼻腔を刺激する。そういえば、最近カレーめんを食べていなかったなあ。最後に食べたのっていつだったかな、ちょっと思い出せないや。

「スクーターに乗ってたんだ」

「うん。きっと伊豆に行くんだと思うよ」

「そっか、前に言ってたね。正月休みに伊豆でキャンプするって」

 前に、というのは数日前、グループチャットでお正月のバイト休みに何をするかって話をしていたときのことだ。リンは伊豆でソロキャン、私は昼まで寝てからちくわと初詣、なでしこちゃんはおばあちゃんちに、あおいちゃんも親戚の家に遊びに行くらしい。あきちゃんはバイトが忙しくて休みを取れなかったみたいだけど。

 それにしても、伊豆かあ。リンは海から昇る初日の出を見たいと言っていたけど、それで実際に行こうとするんだもんなあ。原付様々って感じなのかな。

 まるで水を得た魚みたいに、原付を手に入れたリンは自転車では行けそうにない遠くの場所すらも行動圏内になった。この寒い中で運転して、長い間風に当てられながら伊豆に着いて、ひとりでキャンプをする。

 少し前の私はよくやるなあと思ったかもしれないけれど、クリキャンを経た今ならそういうことをやる気持ちもちょっとは分かる。確かに寒いけど、楽しい。けれどどうしてひとりでキャンプするのかってところはまだ分かりかねていて、でも多分、リンはそれが好きでやっているんだろう。別に誘う友達がいないからじゃなくて、ひとりでキャンプするのが好きだからやっている。

 でもそれを共感できるかというとまた別の話で、これは私も実際にソロキャンしてみないと分からないんだろうなと思う。本当にやるかどうかは、リンがあんなに惹かれているんだから興味がないわけじゃないけど、それでもやるかは分からないけどね。

 お弁当を食べながら思考を巡らせていると、なでしこちゃんが言った。

「そのとき、リンちゃんにカレーめん渡したんだ」

 私は目を瞬かせた。

「えっと、なんでカレーめんを?」

 首を傾げて問いかける。なでしこちゃんは笑みを浮かべた。

「お外で食べるカレーめんは美味しいからね」

「そっか。確かに美味しそうだよね」

 私も笑い返す。外で食べるご飯は美味しい。

 私がキャンプに行って学んだことの一つだ。

 とはいえ、リンはキャンプの準備をするときに事前に料理の具材も買っているだろうし、荷物になっちゃわないかな? とはちょっと思うけど。

「へへへ、美味しいのですよ奥さん。ちょっと一口食べてみます?」

 なでしこちゃんはおどけた調子でカレーめんを差し出してきた。割り箸によって引き上げられた麺が外気に触れ、周囲にいっそう湯気と匂いを振りまいている。

「え、いいの? じゃあ貰うね」

 私は遠慮なく箸を受け取って麺を啜った。外気に触れた時間が少々長かったからか意外と冷たかったけれど、それがむしろ外で食べているという実感を強めさせていて、なんというか、風情のあるカレーめんだなあと思った。

「どう? 美味しい?」

 なでしこちゃんが餌を待つ大型犬みたいな表情で尋ねてくる。

 私は頷き、

「うん、美味しい。やっぱり外で食べるご飯って美味しいね」

 と答えた。

 それで、なでしこちゃんはにこにこと嬉しそうに笑った。

 今度のお昼は、お弁当じゃなくてカレーめんにしてみてもいいかもしれないなあと私は思った。

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