ゆるキャン△短編まとめ   作:パープルフレイム

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薄口の斉藤恵那概念です。濃くなる直前のところで物語を終わらせているっていうのもあるんですけど。
vipで書いた台本形式のssを小説形式にリメイクしたやつです。


黒歴史

誰しも、人には言えない過去というものが存在する。所謂黒歴史というやつだ。

中二病を拗らせた挙げ句の闇のノートとか、かつて犯してしまった過ちの数々とか。

そういう、出来ることなら一生埃を被らせておきたい思い出が私にもあるのだ。

 

それは高校生の頃のこと。ソロキャン後の帰り道で、私はお土産を購入した。

それ自体は何の変哲もないことだ。遠出したからには何か土産物を買いたいと思うことは自然の摂理だろう。

問題なのは、購入したお土産というのがペアリングだったことだ。

意味が分からない。何を考えているんだ。遠出しなくても買えるような物じゃないか。しかもよりにもよってペアリングだなんて。

そう言われても無理のない話だし、実際今の私もそう思う。

しかし、当時の私は想像してしまったのだ。私とお揃いの指輪をはめたなでしこ――各務原なでしこ――が、にへらと笑っている光景を。

それが決め手だった。気が付いたら私はペアリングを購入していた。してしまっていた。

購入直後の気分の昂りようといったら、もう有頂天だった。昂る気力、充填されていくエネルギーが凄まじいことこの上なく、「今の私なら全国の電力供給を一手に担うことが出来る」と本気で考えたほどだ。

そんな感じでかつてないほどの高揚感に包まれていた私だったのだが、しかしやはりというか、時間が経つにつれてどんどん不安になっていった。

冷静になってしまったのだ。

「どういう顔してこれを渡せばいいんだ」「なでしこは食べ物の方が喜ぶよな」「なんでこんなの買っちったんだ」「でも私と同じ指輪をはめたなでしこ、凄く見てみたい」

葛藤の末、私は理性を優先した。

だって恥ずかしいし。なでしこが喜ばないかもしれないし。……これ渡したことでなでしことの関係性が変わったら嫌だし。

そういうわけで、「お土産は絶対に衝動買いしてはいけない」という教訓を新たに心に刻みつつ。捨てようにも捨てるに捨てられず、結局ペアリングは部屋の片隅に追いやって、

その記憶ごとなかったことにしていたのだった。

 

が。

 

「……出てきちゃったかぁ」

 

部屋を掃除していたらなんか出てきた黒歴史を前にして、私は溜め息を吐いた。

酷い記憶を前にしたとき、人はなんとかそれを飲み込もうとする。咀嚼すらせずに。

だから、結局消化しきれなくて。ふとした拍子にそれは吐き出されて、またご対面する羽目になるのだ――なんてことをどっかの本で読んだ気がする。

今の私は、まさしくそれだった。

……これ、どうしよっかなあ。どうやら、この期に及んでもなお、私はペアリングを捨てられそうにないみたいだ。

それはそうだ。今捨てられる決心が付けられるのなら、そもそもあのときに付けていただろう。

掘り返したくはないけれど、処分することはいつまで経っても出来やしない。それが黒歴史というものだ。

何より。どんなに思い出したくなくても、掘り起こしたくなくても、埃を被らせておきたくても。

それは、きっといい思い出だから。

私の人生の、糧となっている筈だから。

 

「それを、忘れないためにも」

 

手元の箱を暫し眺めてから、私は。

 

再び、部屋の片隅にしまったのだった。

 

 

 

 

――それが、再び私の目の前に現れたのは、意外にもその数日後。

斉藤――斉藤恵那が、私の家に遊びに来たときだった。

 

「あれ? リン、ここに意味深に置いてある箱は何?」

 

そう聞かれたとき、私は脳みその全神経がぴたりと止まったかのような錯覚を覚えた。

……そうか、いつもはもっと物が積まれてたから目立たなかったけど、今日は部屋が綺麗だから。

その分だけ、ペアリングの箱が目立ってしまったのか。

簡単に斉藤に発見されるくらいに。

 

「ねえリン、この箱開けていい?」

 

いつものように、マイペースを崩さずに聞いてくる斉藤。

私は、なんと、頷いてしまった。箱が見つけられてしまった衝撃からまだ立ち直っていなかったのだ。

思考回路が復旧する前に斉藤のテンポに飲まれたというか、とにかく私は頷いてしまったのだ。

そして、その事を認識した頃には、もう手遅れになっていた。

 

「……っ!」

 

斉藤が箱を自分のそばに引き寄せるのが見えた。

斉藤が、箱の開閉口に優しく触れるのが。そこから躊躇もなく、箱を開くのが。規則よく並んだ二つの指輪を、彼女にしてはどこかうっとりとした目線で眺めるのが。執刀する手術中の医者のような手つきで指輪を取るのが。……指輪をあっさりと指に嵌めるのが。立て続けに目に飛び込んできた。

 

止めようとした。やめて、だとか、それは斉藤が触っていいものじゃないだとか、あるいはもっと口汚い言葉を口に出そうとした。

しかし、出来なかった。声が声にならなかった。縫い目がほどけて、言葉を紡ぐことが出来ないかのようだった。

 

斉藤はいつものように笑って、指輪を嵌めた薬指を見せつけてきた。

 

「えへへ。リン、どう~?」

 

私の心の中で、どす黒い何かが渦を巻いていくのを感じた。

コーヒーみたいな深みすらない苦いだけの液体が、体のどこかで溢れていった。

 


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