ゆるキャン△短編まとめ   作:パープルフレイム

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志摩リンに各務原なでしこと焼肉キャンプに行ったと聞かされた斎藤恵那のお話です。
短いです。


レギュレーション違反

何が起きていたか分かりたくなかった。現実を、今目の前に厳然と転がっている現実を、受け入れる気にはならなかった。

スマホの画面に目を落とす。表示されているのは私たちがよく使っているメッセージアプリ。それの、リンとの個人チャット。

最後にメッセージが更新されたのはほんの数分前。リンの、こういうメッセージだった。

 

『なでしこと一緒に焼肉キャンプに行ってるよ』

 

どういう返信をしたらいいか、私は分からなかった。

リンがこのメッセを送った経緯は至極単純、私が彼女に『今日何してんの?』と送ったから。

先にこっちから聞いた以上、何か返事を返さなきゃいけない。それは分かっているのだが、私がしていたことはスマホをタップすることでもなく返信を考えることでもなかった。

ただ、今ここにはいない誰かに対して恨み言を吐き出していただけだった。

 

「一緒に焼肉やろうねって言ってたじゃん」

 

この間、私は図書室でリンと焼肉の話をした。メダル賽銭箱みたいな外見の焚き火台を持ってにやついていたリンをからかったりした。一緒に自炊焼肉について思いを馳せたりもした。そんなふうに話して、最後に私はこう言った。「一緒に焼肉やろうね」って。

そう言った筈なのに。冗談めかして伝えたとはいえ、確かにそう言った筈なのに。

それなのに、どうして。どうしてなでしこちゃんと焼肉してるんだろう。しかもキャンプというおまけまで付いて。どうして私じゃないんだろう。

胸中に多数の疑問符が吹きあがった。まるで火山が噴火したみたいだ。打ち上げられた疑問符はやがて思考回路に堆積し、心の箱を瞬く間に埋め尽くしていく。真っ黒に染め上げていく。

けれど、その真っ黒をそのままリンに放出するわけにもいかなくて。そもそも放出していいのかすらもあやふやで。当たり障りのないように「そうなんだ」と返すことも出来そうになくて。だけど、返事をしないなんて選択は選べない。リンに嫌われたくはない。

私は溜息をついた。

 

「ずるいよ、なでしこちゃん」

 

なでしこちゃんはずるい。仮にあのときの私とリンの会話を一部始終聞いていたんだとして。その上でリンに焼肉しようよって言ったんだとしたら。ついでにキャンプもしようよって言ったんだとしたら。

そんなの、……そんなの、ずるい。ずるいよ。なでしこちゃんはずるい女だ。天真爛漫のような顔をして、明るく元気な女の子のふりをして。それで、こんな所業をするなんて。

と、そこまで考えたところで気が付いた。焼肉キャンプをするに至った経緯をリンに聞けばいいんだ。

もしかしたら私の恨み言は全くの見当外れで、実際はリンから提案したことだったりするのかもしれない。「一緒に焼肉キャンプしようよ」と、あのマイペースな口調で誘ったのかもしれない。純粋で元気で天真爛漫ななでしこちゃんを誑かしたのかもしれない。本当にそうであるとは、私には到底思えないけれど。

私はようやく返事を打った。なるべく棘がないように、なるべく悟られないように気を付けながら。

『へぇ~』と送信した後、続けて『どういう経緯でそうなったの?』と送る。

果たして、リンからの返答は。

 

『なでしこが焼肉キャンプやろうよ! って言ってきてさ』

 

「――――っ」

 

――唾を飲み込んだ。声にならない声が口から漏れた。呼吸の仕方を忘れた。

 

『それ、私がこないだリンと図書室で話した日?』

『うん。焚き火台持ってきた日』

『その話してたの、私が帰ってから?』

『そうだけど』

 

心の中の疑問符がどろりと溶けていくのが分かった。どろりとした真っ黒な汚い何かが、確信めいた推測とともに感情を支配していく。

私は呟いた。

 

「それはずるいよ、なでしこちゃん。それはレギュレーション違反だよ」

 

リンとの図書室での会話が、時間が、それによって得られる何かが、掠め取られていくような感覚がした。

ふと、私もキャンプを始めなければいけないと思った。掠め取られる前に、行動しなければならないと思った。私も焼肉キャンプをやろうよと、――キャンプをやろうよと言える人間にならなければいけない、と強く思った。


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