ターゲットの暗殺教室 改訂版   作:孤独なバカ

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弱み

「あの。」

しばらくたって冷静さを少しだけ取り戻す

「どうしたの?」

「えっと授業始まっているんじゃ。」

とどうでもないことを聞いてしまう。すると矢田先輩は

「授業さぼっちゃった。」

と笑顔で言う。その笑顔に少しだけドキッとしてしまう

クラスで人気のある女子と聞いて少しだけ納得してしまう

こういう優しいところが彼女の魅力なんだろう

「でも羽川君がこんな状態でさすがにほっとけないよ。」

本心から心配する声に俺は少しだけ泣きそうになる

優しい人は嫌いだ

……本当に嫌いだ

助けを求めそうになるから

助けてほしいと願ってしまうから

裏切ることを躊躇してしまうから

「……えっと私からもいいかな?」

「……はい。」

「そのさっきのことって殺せんせーは知ってるの?」

俺は首を横に振る

「そっか。」

「すいません。お見苦しいところを。」

「ううん。いいよ。全然。」

「すいません。あの。」

「言わないから安心して。」

俺の言いたいことがわかったのか矢田先輩は先回りして言う。

「……ありがとうございます。」

そうしてまた少しの間無言になる

でも今でも矢田先輩のことが少しだけ怖い

自分の弱さは今まで誰にも見せてはこなかった

それに優しい人はすぐに裏切る

そんな経験が俺を支配してしまっている

「そういえば、あの薬なんで睡眠薬って分かったんですか?あの薬はアメリカでしか出回っていないはずですよね。」

すると矢田先輩は驚いたようにこっちを見る。

「知ってたんだ。」

「……元々は俺が開発して睡眠薬なんで。」

「……えっ?」

矢田先輩が驚く

「……アメリカ政府に体に影響を及ばない強力な睡眠薬として生活費と借金の返済のために売った知識に一つなんです。元々は俺の睡眠不足のために睡眠剤として使ってたんですけど。」

「そ、そうなんだ。」

「でも日本ではまだ政府は認めていないはずでは。」

「……私の弟に勧められた薬の一つなの。」

すると矢田先輩が少しだけ悲しそうに言う

……そうだ。矢田先輩はテストを容態が急変した弟さんの見舞いにいったからE組に落ちたんだった

「すいません。」

「いいよ。それにどう見ても羽川君の方が。」

そう。分かっている

生き延びている代償に俺は多くのものを失っている

その中でも一番危ないのは健康面だ

特に精神面に関しては無茶しているので睡眠不足や食欲不振はしょっちゅうおこっている

「……本当は怖いんですよ。」

「……えっ?」

「殺されるって本当に怖いんです。誰も信用できなくて、でも弱気になんかなれなくて。」

狙われる恐怖心を今でも味わっている

「だから優しい人が怖いんです。弱さを受け入れてしまったらもうその人には少しでも油断してしまうので。そして優しい人ほど裏切りやすいから。」

醜い世界で俺は生きている中で純粋な優しさを持った人は今まであの姉妹しか見てこなかった

全ては自分の欲のために俺という人間は生き抜いてきた

利用され利用し

騙し騙され

自分が生きているってこと以外信じないで生きてきた

「だから正直殺されると思ってました。あの時。」

今でも思い出せる

あの時の恐怖は本当に計り知れなかった

「本当はこういった明るい場所が苦手なんですよ。俺は薄汚い世界で怯えながら生きてたんですよ。だから悪夢を見たり、あぁいったパニック障害が起こることも多いんです。」

「病院にはいかないの?」

「……病院も俺からしたら危険な場所なんですよ。一度睡眠障害で毒を薬と言って渡してきたのがトラウマになって。この睡眠薬も自作なんですよ。」

その言葉に息を呑む矢田先輩

「一応俺だって中学生なんですよ。そんなに精神的に強いわけじゃないし。」

まぁ、俺はある仕掛けを使って身体能力を上げている以外は他の誰が見ようとも普通の中学生だ

「…元々は臆病で怖がりで……いや今でもか。怖がりで臆病だから生き抜いてきたんです。だからこんな隙を見せる事なんてそうそうないんですよ。」

未だ体に力が入らない。六年も緊張感を切らさずにいたのだ。多分もう二時間は動けないだろう。

「……これが本当の羽川康太という人間なんです。強いから生き延びているんじゃなく弱いから生き延びられる。それがターゲットの、逃げる時の基本なんです。」

優れていてさらに弱くなければならない

相手より優れているが相手より弱くなければならない

多くの人が矛盾だと答えるだろう

でも弱さを知っとかないと

相手より弱いと思い込まないと俺は今まで生きてこれなかった

「相手は一度殺せばいい。俺は一度殺されても致命傷を負っても死にますから。」

その一言がとても重たく辛いことだ

「……すいません。聞いてていい話じゃないですよね。」

「ううん。いいよ私が聞いたんだから。」

……本当に優しいよなこの人

気遣いもできるし、それにどこかあぐりさんと似ているような気がする

だから安心できるのかもしれない

多分本質も性格も好きなものも全然異なるだろうが

それでも、どこか似ている

「……あの、すいません。もう少し話を聞いてくれませんか。」

だから俺は無自覚で矢田先輩を引き止めていた。いつもなら優しい人を遠ざけようとしていたのだが、もう少し弱音を聞いてほしかった。一人になるのが嫌で。

気付いた時には矢田先輩は少し驚いたような顔をした後

「うん。いいよ。」

と笑顔で答えた。

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