そして物語は現在へと巻き戻る。
「ネオン!
「なんでこんな範囲攻撃連発してくるっ!」
「ヘイト稼ぐのが限界に近いっ!」
「[シールド]![エリアヒール]![ディフェンスエンチャント]!ダメですっ、これ以上はターゲット貰っちゃいます!」
「おい!
「無理に決まってんだろぉーがぁー!!」
[フラッシュ]で目くらましをしてから村の方向へと全員で走り出したのは良かった。しかし、ようやく半分は森を走り抜いたかという頃、今まで舐めプをしていたシャドウリザードはやっとの事でその重い腰を上げた。
「kishaaaaa!!」
「影を纏うエフェクト、範囲攻撃が来るぞ!」
「またかよ!急に頻度が上がったぞ!」
敗走ギリギリまで追い詰められている原因はこれ、シャドウリザードの魔法である。
周囲の影を巻き込んで矢のようにして飛ばして来る[シャドウレイン]の魔法。あの耳障りな鳴き声が人間でいう詠唱にあたるのだろう。
「ネオン!我々の事は後回しで良い、レベッカとロータスに[バリア]だ!」
ユニーククエスト『限界村落の村娘』のクリア条件は村娘、すなわちレベッカを無傷で守り抜いての『森の暴れん坊』のクリア。故にレベッカだけには絶対に攻撃を当てられてはいけない。
それにユニーククエストを踏んだのが俺ということも状況を厳しくしている。推奨レベルが70のクエストにLv.12が挑んでいるのだ。もちろんシャドウリザードの攻撃を一撃でも受けたらそこでHP全損である。ユニーククエストを踏んだ俺がクエストの途中で
「すまん!俺が完全に足引っ張ってる!」
「構わん、それより私達の負担を減らしたかったら自力で避けてくれ!」
「了解っ、と」
辺り一帯に生えている樹木から伸びた枝の影が実体を持って矢のように俺たちに降り注ぐ。
[ダブルステップ]で狙いもへったくれも無い矢の雨を躱す、右、左っと、避けた先に又も影の矢、[ドリフトステップ]で強引に曲げて回避。
「kishaaaaa!!」
「やばっ」
アーツ終了時の硬直を狙いすましたようにシャドウリザードの鋭い爪が迫る。このタイミングは間に合わない、ので上小太刀を下段に構える。数瞬の後体全身に凄まじい衝撃、それに[バリア]が割れる音とエフェクト。俺のプレイヤーアバターが一時的に[バリア]という防護壁を無くし、無防備を晒す。目の前には俺という虫ケラを追撃しようと迫るシャドウリザードの爪。
「あ、まいわっ!」
体を横に開き、右側に大きく捻り俺の頭上から迫り来る当たれば俺の紙のようなDEFでは一撃でHP全損は免れない一撃を下から一見心もとない小太刀で迎え撃つ。真っ正面から打ち合っては絶対に勝てない、なので横に逸れるように力を加えてやる。
俺の右横数十センチを凄まじい勢いで爪が抉り取る。空気を裂く音と衝撃でHPが減ったのように感じるほどの一撃、これで通常攻撃とは笑わせてくれる。
けど、その隙はたかがLv.12と言えど見過ごせるものではないなよなぁ!
振り下ろされた脚にナイフを突き立ててそれを足場にして背中までよじ登る。
「Grrra!!」
傷口に更に捩じ込まれるようなナイフの痛みにシャドウリザードがうめく。自分にそんな苦痛を味合わせた虫ケラを自分の体から追い払うようにめちゃくちゃに暴れまわる。
「けどそれはお前の傷口を広げるだけなんだよ!」
俺は振り落とされまいと小太刀を納刀し、ナイフを両手で突き立てる。痛みでシャドウリザードが更に暴れまわるが、それはナイフの傷口を更に広げるだけで終わる。
しかしシャドウリザードの体から黒い影、[シャドウレイン]の予備動作だ。
「させるかっ」
それより俺の小太刀がお前の骨髄を突き刺す方が早い。
突き立てた、と思った瞬間強い衝撃を受けて小太刀が吹き飛ばされる。
嘘だろこいつ、自分で纏った影からも打ち出せるのかよ。そう思ったとき足裏にチクっとした痛み、VRで痛みが有るって事は結構なダメージということだ。左足に踏ん張りが効かなくなっているのが分かる。
こりゃ、ヤバイな。数秒後には全身穴だらけになっている俺が想像出来る。
それより早くこいつの背中から降りなければ。あっ、無理だわこれ。
もう影の矢が発射直前だ。そして、矢が発射される。
前に凄まじい衝撃がシャドウリザードを吹き飛ばした。
その反動で俺はシャドウリザードの背中から弾き飛ばされる。
「大丈夫か!?」
「悪い助かったよ、クリップ」
「例はいいからネオンのとこまで早く行け、HPヤバイぞ」
「サンキュー、っと」
クリップの魔法が間一髪でシャドウリザードを吹き飛ばしたお陰で直撃は免れたものの、俺のHPはそれまでの爪の余波やクリップの魔法の余波、一番はやはり足裏に突き立てられた矢での傷で削られている。
途中、吹き飛ばされた小太刀を回収して先頭を走るネオンとレベッカの所まで駆け寄る。
「お兄ちゃん!?凄い傷、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっとしくじったけどまだ平気だ」
「今、治しますね。[ヒール][ハイヒール]」
ネオンの回復魔法がHPを回復するとともにアバターの傷を塞ぐ。VRゲームでは痛みは痺れと衝撃に変換され、動かしにくいという実感を伴ってプレイヤーに伝えられる。回復魔法は減ったHPを回復すると共に、そういった傷を塞ぎ痺れと動きにくさを取る。
また度を越した傷は痛みも伴うが、その痛みも回復魔法は取り除くことができる。この特性によりヒーラーはどのパーティーでも重宝されている。
「ありがとうネオン。助かった」
「い、いえ。これが私の仕事ですし、気にしないで、ください」
「お兄ちゃん、私の村まであとちょっとだけど、大丈夫?」
「本当か、ちょっとそれはマズイな」
シャドウリザードをレベッカの住んでいる村に連れて行くのはどう考えてもろくな結果にならなさそうだ。
「わかった。こっちでなんとかしてみる。レベッカとネオンはこの前走り続けてくれ。二人ともまだ体力は大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫です。伊達にレベル高くありません」
「わ、私も大丈夫。けど、そろそろ疲れた、かな?」
そりゃあそうだろう、14歳の少女が全力で走るには適さない森の中を怪物に追われながら全力疾走しているんだ。体力なんて尽きて当然だろう。
「もうちょっとだけ頑張ってくれ、直ぐに終わらせるから」
俺に出来ることはそうは多くないが、少しはある。
「うん。
「……ああ」
この笑顔は、絶対に守り抜くさ。
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「という訳だ。そろそろ村に着くし、レベッカの体力の限界も近い、何か考えないとヤバイぞトト姉」
「……わかった。正直、発動条件が厳しいしデメリットがキツイからあんまり使いたくなかったが使おう。ロータス、お前とクリップで3分稼いでくれ。ラルヴァを使う」
ラルヴァを遺したアルカナは、《月》の正位置【狂乱騎士 リュージット】
今までに討伐が確認されたアルカナの数は13体。【狂乱騎士 リュージット】は13体目に討伐された最も歴史の浅い
ラルヴァもその例に漏れず、暴走の特性を持っている。トトは【狂乱騎士 リュージット】討伐の際に累積ダメージMVPの一つのみを取っているのでその性能は本来のものの三分の一となっているがそれでも既存の防具のほぼ全てを凌駕する性能である。
話を戻すが、夜鎧ラルヴァは暴走のスキルが付与されている。
しかしプレイヤー自身がアバターを動かすVRゲームにとって制御不能状態になるのはかなり危険とされている。自身の脳の命令とは違う動きを自分の体が外部からの制御によって強制的にさせられるのだ。そのストレスは脳が焼き切れても仕方がないとされている。
ならば、暴走のスキルはどんなスキルなのか。大きく分けると以下の通りである。
・使用者のATK/DEFを1.5倍、MNDを0にする。
・使用者が死亡するか、敵対者が戦闘不能になるまで戦闘状態は継続される。特殊条件下を除き、如何なる方法でも戦闘状態は継続される。
・使用者が死亡するか、敵対者が戦闘不能になるまで暴走は継続される。任意での解除は出来ない。
これだけ見れば、メリットの方が多いように感じられるが、一般のアルカディア・プロジェクトのプレイヤーには暴走のスキルは敬遠されている。理由はこの特性が余りに厳しいからである。
・この場合の敵対者とは、視界範囲内の敵対モンスター全てを指す。
故に、暴走を使う際には殆どリスポーン覚悟の最後の切り札として切られる場合が多い。もしくは、モンスター一体しか出現しないボス戦などか。
「だが、この状況なら、
現在、この森ではおよそ30分以上のシャドウリザードとの撤退戦が繰り広げられている。森の主と呼ばれるシャドウリザードが暴れているので他のモンスターは身の危険を感じ、既に遠くに避難している。更に、レベッカの住む村に近づいていることもあり、少なくともトトの視界にシャドウリザード以外のモンスターは見つけられない。
ならば、使える。神秘防具にはそれぞれ元になったアルカナに対応するスキルが付与されている。
《月》の場合は暴走。初めて見たときは落胆したものだが、よく理解すれば私のプレイスタイルにこれほど合うスキルも無い。
「ラルヴァ、機関解放、狂乱せよ」
『Sir.My Master』
「『月の慟哭』を起動、狂い、
【狂乱騎士 リュージット】の力を受け継いだ鎧が、猛り狂う。
クララ「今回はスキルについてです」
クララ「本文中で言っていますが、アーツがプレイヤーが使用するものならスキルは装備に付与されているものです」
フルティア「装備がプレイヤーの代わりにアーツを使ってると思ってねー」
クララ「基本的に自動で発動するものが多いですが中には能動的に発動するものもあります。大まかに分けると、ある特定行動で自動発動するタイプと完全に手動で発動するものです」
フルティア「トトが最後に使ったのは手動の奴だね。クリップとかが魔法を使った時は威力アップとかのスキルが発動してるね。ロータスの火耐性+1とかは自動だよ」
フルティア「ちなみにトトの声に反応してるのはラルヴァの意識、みたいなもの。ラルヴァに意識は存在しないけどサポートするくらいの知能はあるよ。中には完全に一個体として存在する奴もいるけど」
クララ「フルティア、貴女どうやって作ったの?」
フルティア「えっへん。秘密ー」