もう、何回目だろうか。
いつも同じ夢を見る。
9月、この国には多くの台風がやって来る。
例に漏れず、今年もどうやら上陸してきたようだ。
雨戸に大粒の雨が打ち付け、独特の音を家中に響かせている。遠くでは雷の鳴る音が轟いているのが聞こえる。
「じゃあお兄ちゃん、行って来るね」
「本当に一人で大丈夫なのか?」
「うん、へーきへーき」
妹はこんな日にもかかわらず、出掛けにいくと言ってカッパを着込み今にも飛び出して行きそうな雰囲気だ。
ああ、やめてくれ。
雨はどんどん強まっているようだ。ニュースではどこかの川が氾濫しただとか、海岸に大波が押し寄せているだとか、土砂崩れで道が塞がれて孤立状態だとか流れている。
それはいつもの事で毎年見ているニュースであって、俺には関係の無い事だ。少なくとも、その時までは。
「今日は父さんも母さんも早く帰ってくるらしいから、遅くなるなよ」
「うん!わかってる!」
頼むから動いてくれ。せめて、もう少し声をかけてくれ。
長靴を履いて、もう出てしまう。
時刻は午後2時。普段ならばまだ日の出ている時間で夕方とも言えない時間帯だ。
だけど今日は分厚い雲に覆われて太陽は全く見えない。代わりに見えるのは大粒の雨粒と時々視界を白く染める雷だけだ。
なぜあんなにも雨雲は黒いのだろう、なぜあんなにも曇り空の日は暗いのだろう。
やはり、嫌いだ。
「じゃあいってきまーす!」
「うん、行ってらっしゃい」
ドアノブに手を掛ける。
やめろ、やめてくれ。
体よ、動け。
声よ、出ろ。
お願いだ、家から出ないでくれ。
やけに大きな音を立てて、玄関は閉まった。
俺は妹を見送ってからリビングへと戻った。
もう、何回目だろうか。
いつも同じ夢を見る。
いつだって俺は同じ動きを繰り返す。
過去の再現なのだから当たり前だろうか。
夢は記憶の整理の為に見るのだという。
ならば同じ夢を何回も見るというのは何故なのだろうか。
俺が見たいからなのか、はたまた呪いなのか。
俺はいつかこの夢を見なくなる日が来るのだろうか。
多分俺はずっとこの夢を見続けるのだろう。
だって俺は、お兄ちゃんなのだから。
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「……さん。兄さん!」
目を開けると目の前に花蓮の姿。
「やっと起きた。うなされてたよ?大丈夫?」
「……ああ。大丈夫だよ、花蓮」
「なら良いけど。そろそろお兄も荷造りしないと間に合わないよ?」
「そうだな、ありがとう花蓮」
「良いんだよ、じゃあ私は部屋に戻るから」
そう言って花蓮は自分の部屋へと戻っていった。
レベッカを無事に村へと送り届けたあと俺たちは村の人達から大歓迎を受けた。どうやらレベッカは村の人に無断で出ていったらしく凄く心配されていた。しかも森の主であるシャドウリザードが狩をしているのを見かけた人がいて、もうレベッカの生存は絶望的だと思われていたようだ。
そんな時に俺たちがレベッカを連れて来たものだから俺たちも大歓迎されたのだ。レベッカは凄く怒られていたけれど。それでも最後は無事に帰ってきたことを喜ばれていた。
クエストの達成が通知され、ようやく終わったかと思いきや新しいユニーククエストが二つ増えていたのは想定外だった。
・ユニーククエスト『限界村落を立て直せ』
発生者 ロータス
クリア条件 名も無き村の防衛計画を立て、敵性モンスターから守り抜く。
推奨レベル 60
・ユニーククエスト『村娘の願い』
発生者 ロータス
クリア条件 レベッカの願いを叶える
推奨レベル ーー
この二つが『限界村落の村娘』をクリアした通知の後に立て続けに発生した。ユニーククエストなので発生したのは俺一人だ。
しかし問題があってこの二つのクエスト、どうやら俺一人でしか取り組めない様なのだ。クエストを受注するとクリップ達とのパーティーが強制的に解除されてしまった。しかしレベッカだけは特別らしく、二人だけでならクエストを受注する事が出来た。
ユニーククエストに関してはまだプレイヤーはわかっていない事が多く、この様な事例も何件か確認されているらしい。俺は見た事がないのでよく分からないが、アルカディア・プロジェクトのプレイヤーがネット上で作った掲示板では色々な考察がなされているらしい。しかし、ユニーククエストはユニークとだけ言われるだけあって千差万別でどんなクエストなのか、どんな規模なのか、どこで行われるのか、どれほどの難易度なのかが全くバラバラで考察が難しい上に、自分のユニーククエストを隠そうとするプレイヤーも少なくない。
ユニーククエストはアルカディア・プロジェクトというゲームをプレイする上で絶対に外せる事はない大きな要素だ。しかしユニーククエストの内容によっては他の大勢のプレイヤーと敵対する様なものも少なくない。それでなくてもユニーククエストは現在最もアルカナクエストに繋がる可能性が高いと言われるクエストだ。隠匿したいというプレイヤーも多い。
それどころかこのユニーククエスト、どうやら自分が縁を繋いだクォーレによっても内容が変わるらしいのだ。俺にとってはレベッカがそれに当たるのだろうか。
あの有名なアルカディア・プロジェクトのレビューにある『国王の暗殺』というユニーククエストは失敗に終わったらしいがそれでも五千人ものプレイヤーとクォーレが死んでいる。舞台になったのは深き森のエルフの国 アロガネア。しかしそれ以降アロガネアの国王は疑心暗鬼になり、結局内戦が起きた。あまりの弾圧に市民が蜂起したのだ。しかもそれにプレイヤーが両陣営に加担した為に内戦は泥沼化、五千人もの犠牲を出して終結した。現在の国王はその次代である。
更に恐ろしいのはアルカディア・プロジェクトにプレイヤーが現れてから唯一起こった戦争も一人のユニーククエストが発端という事だろうか。
世界最高の武器を生み出すドワーフの国 テナースクと魔法と科学を融合させた世界最強の魔族の国 クルーデリオのぶつかり合いは様々な余波をアルカディア全体に撒き散らしながら終結した。
そんなユニーククエストを今どうにかするのは無理だという結論に至った俺たちは取り敢えず今日のところは解散としてまた明日という約束してログアウトしたのだが、どうやらそのまま眠ってしまった様だ。
「雨か」
ふと雨が降っている事に気付く。
そういえば予報では午後から雨だったな。
「そんな事より荷造りしなきゃな」
花蓮も言っていたがそろそろ荷造りをしないと来週の引越しに間に合わない。元々大学に進学したら一人暮らしをする予定だったので大型家具や家電製品は既に買ってありもう設置しているが、まだ細かい雑貨や服がまだ荷造り出来ていない。
それに花蓮が急遽一緒に暮らす事になったので家具や部屋割りもまた考え直さなければいけないのでその辺りも相談したいところである。
ダンボールからはみ出している服を手に取り、綺麗にたたみ直して詰める。多分花蓮がさっき部屋に入ってきた時にぶつかったのだろう。
「お兄ー!そろそろ夕飯の支度しないー?」
一階から花蓮がそう叫ぶのが聞こえた。時計を見ると、確かにそろそろ支度を始めないと遅くなってしまう時間だ。
「わかった!今行くよ」
さて、早く行かないと花蓮が拗ねるな。まあ、そんな所も可愛いのだが。
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次の日は特に用事が無かったので、朝食を摂った後家事と荷造りを少し終わらせて気分転換も兼ねてアルプロにログインした。
一人部屋で眼を覚ます、ベットとテーブルしか無い殺風景な部屋だ。
外に出ると朝日が眩しく俺を照らし、思わず反射的に眼を閉じる。
「あっ、お兄ちゃん。おはよう」
「ああ、おはよう。レベッカ」
俺をお兄ちゃんとアルプロの中で呼ぶのは一人しかいない。昨日俺たちはレベッカを送り届けた後ログアウトをしようとしたら俺だけログイン地点がこの『名も無き村』に変わっていたのだ。
おそらくユニーククエストを進める上で一々この村まで来るのに森を踏破しなくても良いようにという事だろうが、これで俺が一時的にパーティーを抜けるのは決定的になってしまった。
一応マップ上ではこの村は安全地帯なのだが、どうやら他のプレイヤーはこの村をログイン地点にできないらしく、相談の上の結果で俺は主体としてレベル上げとユニーククエスト攻略を兼ねてこの村を拠点として行動、他のメンバーはクランハウスの建設費用を集める事になった。
一人だけ金策が出来なくて申し訳ないなと思っていたら、
「ユニーククエストは報酬が美味いから気にしなくて良い」
と三人から言われてしまった。
確かに『限界村落の村娘』の報酬もかなり入っていたし、なにより称号系の報酬が多かった。閑散としていた俺のプレイヤーステータス画面も一気に色々な情報が増えた。さらに言えばレベルも一気に12から25まで上がっていた。色々な敵と戦っていたのでちょくちょくレベルアップ時の効果音は聞こえていたのだが、立ち止まって確認する暇が無かったので、一気に倍以上になってしまったのだ。
流石に適正レベルの5分の1以下のレベルで突っ込んだら経験値が分散されるとは言えそれほどの経験値が入ってきたらしい。
「昨日はずっと寝てたんだね。やっぱり『プレイヤー』の人はよくわかんないね」
「まあね、確かにレベッカ達からしたら不思議かもね」
「一日中家から出てこないし、ご飯も食べてる様子が無かったし心配したんだからね」
「ごめんごめん。でも俺たちはそういう存在なんだよ」
「やっぱりお兄ちゃんも『神さまの御使』なんだね」
俺たちプレイヤーはクォーレ達に『神さまの御使』と呼ばれる。
というのもこの世界の神、というかクォーレが信仰しているのはクララ達管理AIなのだ。
クララ達によってこの世界に送り込まれた俺たちプレイヤーはクォーレからしたら実在する神の使徒というわけだ。流石に信仰はされないが、プレイヤーというだけで尊敬と畏怖の対象だし、クォーレとは違う生命体という認識を受けている。
「今日はずっとこっちに居られるの?」
「ああ、居られるよ。今日と明日くらいはこっちに居られると思う」
「やったー!じゃあさ、また色んなお話聞かせてよ!私、お兄ちゃんのお話好きなんだぁ」
「わかったよレベッカ。でも先にお仕事してからな」
「うん!じゃあまたねお兄ちゃん!約束だからね!絶対だからね!」
どうやらレベッカは他のゲームでの話が気に入ったらしい。送り届けてから歓迎のもてなしを受けたのだが、その時にレベッカにせがまれて話したのだが気に入ってくれたようだ。
「さて、じゃあ俺も始めますかね」
先ずは森の見回りかな。
クララ「今回は称号について説明いたします」
クララ「称号とは基本的に飾りのステータスですが、一部の称号には副次効果が付いて居ます」
フルティア「例えば〜大会優勝者とかの称号は見せればそれなりの扱いを受けられるよー」
フルティア「逆に大量殺人鬼とかの称号は見つかったらクォーレの衛兵とかから追われるし、ひどい時は国から追放されたらするよー」
クララ「また、特殊な称号も存在します。ロータスとの「村娘の義兄」とかはその部類ですね」
フルティア「効果はまだ秘密かなー。それじゃあ今回はここら辺で。ばいばーい」