アルカディア・プロジェクト   作:ムササ

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#14 灰は灰に、塵は塵に 第一項

 人間国 ストルタス。

 絢爛たる白亜の城とその城下……いや、城中町(・・・)を王都とする大陸中央部に位置し、最大勢力を誇る国であるが、現在の煌びやかさとは裏腹にその歴史は血を血で洗う内戦と怨嗟の積み重ねである。

 建国したのは現大陸に存在する五大国の中で二番目に古く、当初はその身体能力の低さから迫害されていた人間が四大魔法の加護を受け、ドラゴンから授かったという聖剣を持つ一人の勇者の元に集まり、困難の中ようやくたどり着いた安住の地である。

 その勇者は安住の地をストルタスと名付け、初代国王となった。加護を授けた四大魔法の賢者達は四賢者と呼ばれ、とても重宝されたという。その四家は現在の公爵家となった。

 しかし、長く平穏が続いた人間国では利権を求めて、内乱が起こる様になりつつあった。その頃には勇者の威光もすっかりと薄れ、聖剣はただの飾りになりつつなっていた。四賢者も既に賢者という名前の偉大さはすっかりと薄れ、権力を求める愚者と成り果てていた。そんな中、少数派の魔法と古からの研鑽と勤めを担っていた者たちはストルタスの僻地へと争いを嫌い、逃れていった。その後勇者も四賢者も居ないストルタスは一気に内乱の時代へと突入して行くこととなる。

 

ーーテナースク王立教育学院中等部 歴史の教科書ーー

 

 

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 少なくとも建築されてから500年は経とうかという巨大な遺跡。所々に植物が根や枝を伸ばしているが、それがかえって雄大さを表している様に感じられる。全てが石で造られていて、中央に巨大な本殿らしきものが一つとそれを取り囲む様に四つの塔が建てられている。風化をしているところを見ると、ほとんど誰も寄り付かない場所なのだろう。

 しかし、ここが重要な建造物だったのは確かである。こんな目立つものが森の中にあったらいくらなんでも誰かが気づく。そうでなかったのはレベッカと手を繋がないとこの遺跡が見えなかったのに起因するのだろう。しかし、こんなところを知っているレベッカ、それにその家系というのは何なのだろうか。

 

「あの中央の祠に祀られているのが火の大精霊様。火の守人の一族がずっと守ってきた精霊様なんだって」

 

「火の大精霊?」

 

 たしかに中央部の本殿の頂上には祠が建てられていてそこには火が燃えているのが分かる。ちょうどオリンピックの聖火のようだ。

 しかしその火は心なしか弱いように感じられる。そんな大精霊ともあろうものがあんなに弱々しい炎なのだろうか。

 

「うん。大精霊様はもう全然力が残って無いんだって、私が生まれるより前に信仰が途絶えて、力を維持できなくなったんだってお爺ちゃんが言ってた」

 

 精霊信仰?クォーレが信仰しているのはクララたち上級AIじゃないのか?

 

「神さまとは違うのか?」

 

「ううん。大精霊様は神さまの(しもべ)なんだって。神さまが私たちを見守るために遣わしたのが大精霊様、神さまが使命を与えて私たちのところに送り出したのがお兄ちゃんたちプレイヤー(使徒様)だってお爺ちゃんが言ってた」

 

 クララたちの僕……つまり、土着信仰みたいなものか。おそらく神さま、つまりAI信仰はこのアルカディア全体に広がる宗教で、精霊信仰はエターリア(王都)近郊、もしくはストルタス(人間国)独特の宗教ということだ。

 

「でもなんでレベッカの家系は火の守人って呼ばれてるんだ?レベッカが火魔法を使えるのと関係あるのか?」

 

「うーんとね、なんか私のすっごく前のご先祖さまが偉い人だったんだって。確か、四賢者って呼ばれていたの。私のご先祖さまは火の賢者、火の大精霊様と契約して勇者様を助けたんだって」

 

「って事はレベッカは四賢者の子孫なのか。でもそれならどうしてこんなにこの遺跡は寂れてるんだ?もっと国民が押し寄せていてもおかしくは無いと思うんだが」

 

『そこから先は私が話しましょう』

 

「!?」

 

 突如頭の中に直接響くような声が聞こえてくる。思わず上小太刀を抜いて構えるが、レベッカが驚いていないのを見て構えを解く。

 

「大丈夫だよお兄ちゃん、火の大精霊様の声。お兄ちゃんも大精霊様の声が聞こえるんだね」

 

『おそらくその兜のお陰でしょう。フルティア様の手製の品です、お陰で私の声を伝えられます』

 

 フルティア、確か上級AIの一人だったな。装備管理AIだったか。

 火の大精霊の声は中性的で男とも女とも取れる声だ。おそらく性別なんていうものは無いのだろう。

 

『すみませんがもっと近くまで寄ってもらえますか、私の力は弱まっていてこの祠から出る事も出来なくなっているのです』

 

 レベッカが頷いたので二人で階段を上って祠の前まで行く、やはり近くで見ても炎は弱々しい。

 

『では改めて挨拶を、私は火の大精霊と呼ばれているものです。あいにくと名乗る名前は持っていないのでお好きにお呼びください』

 

「では、大精霊と」

 

『ええ、構いませんよクララ様の加護持つ者よ。お名前はなんと?』

 

「ロータスとお呼びください」

 

『敬称など不要ですロータス。私はじき消えるもの、昔ならいざ知らず今は吹けば消えるようなか弱き存在です。それと、久しぶりですねレベッカ。火魔法を覚えたと伝えに来た時以来でしょうか』

 

「はい、大精霊様。あまり会いに来れず申し訳ありません」

 

『いいのです。人の営みが忙しいのは繁栄の証拠、私の望みです』

 

 頭の中に声が響くたびに、目の前の炎が風も無いのに揺らめく。

 大精霊の話には聞き流せない箇所があった、クララの加護と大精霊は言ったな。クリップの言っていたクララに気に入られているってやつか?それがクララの加護?でもステータスには何も書いていないし、実感も無い。強いて言えば『名無しの南瓜』を貰ったのだが、あれは1000万人目の記念だ。あとはクララ時々俺を見ているという話か?しかしそれは加護と言えるのだろうか。

 

『そうそう、私がこんなにも力を失った理由でしたね。それは王家の意向の為です。ストルタス王家は我ら四大精霊の力を取り入れようとそれぞれの守人を襲撃しました。その一環として四大精霊の信仰を廃止したのです。それがおよそ50年程前の事でしょうか、守人の一族は我らを転移の魔法で遺跡ごと飛ばし、自分たちも散り散りになって逃げました。それが先々代の巫女です』

 

「巫女、とはなんです……だ?」

 

『巫女は私の声を聞き、私の言葉を人々に伝える役目を負う者の事。基本的に直系の長女が継ぎます。故に守人の一族は女系家族なのです』

 

「じゃあ今代の巫女はレベッカなのか」

 

「えっへん」

 

 いや、ドヤられても。凄いけどね。あと可愛い。

 けど、そうか、だから村長はあんなことを言っていたのか。

 

『その代の巫女の活躍もあって我らの力が奪われる事は無かったのですが、守人の一族には迷惑をかけました。それに、均衡が破れつつあります』

 

「均衡……とは?」

 

『地、水、火、風。それぞれを司る我ら四大精霊の均衡です。全員がもう限界に達しています。封印が破られるのも時間の問題です』

 

 封印。嫌な単語だ。もちろんゲーマー的にはワクワクする単語だが、正直レベッカが関わっているのなら話は別だ。

 

『ロータス、レベッカ、気をつけなさい。そして出来ればこの地から逃げるのです。もうすぐこの地には災厄が現れます。私の力はもう及ばない』

 

 災厄……そうか、繋がったぞ。やっぱり二つのユニーククエストは繋がっているのか恐らくこれは『村娘の願い』の方の関係だ。そして、災厄が訪れる、すなわち防御を固めろという事だろう。逃げろと大精霊は言っているが、レベッカの育った村は他に行くところがない者たちばかりが集まってできた村だ。逃げる場所なんてどこにも無い。だから守りを固めるしか無いんだ。だからこその『限界村落を立て直せ』だ。モンスターを間引いて少しでも危険を減らし、大精霊の言う災厄に備えるために防衛設備を整える。それがこのクエストの目的なんだ。

 厄介なのはいつその封印が解けるか分からないってところだ。大精霊ももう及ばないとは言っているが少なくともまだ警鐘を鳴らすほどの余力は残っているはずだ。ならば俺はあの村を守る為に全力を尽くしてやらなければならない。

 

「それはどういう事なんですか!大精霊様!村は、村はどうなるんですか!?」

 

『レベッカ、落ち着きなさい。私ではもうどうにもならないのです。だから、逃げなさいレベッカ、みなを連れて』

 

「出来ないです!村以外の場所なんか知らないし、あそこにはみんなのお墓があるんです!」

 

『……分かりました。ではせめて私の加護を与えましょう。ロータス、貴方はこの子の、レベッカの大切なものを、そしてレベッカ自身を守る覚悟はありますか?』

 

 覚悟か……言ってくれる。俺に妹を守る覚悟を聞くのか。

 

「……あります。今度こそ(・・・・)は絶対に」

 

『よろしい。では私の最後の加護を与えましょう。手を出しなさい』

 

 俺が手を前に差し出すと、火花が散って俺の右手の甲に飛び込んでくる。不思議と熱さは全く無く、ほのかな温もりが右手を包んだ。

 

『称号 火の大精霊の加護 を獲得しました』

 

『私の加護は火に対する耐性を与えます。フルティア様の防具の効果と相まって耐火性能はそれなりになっている筈です』

 

「という事は、災厄は火に関係しているのですね」

 

『ええ、私が封印しているのは反逆の炎です。地、水、風の大精霊もそれぞれの得意な属性の災厄を封印しています』

 

 今度トト姉たちにも教えてあげないと。というかこの情報も共有しないとな。流石に一人だと手に余りそうだ。

 

『良いですか二人とも、少なくともあと7日は保たせます。しかしそれ以降はどれくらい保つか私でも分かりません。逃げる気が無いのならせめて防御を固めなさい』

 

「わかった」

 

「はい、大精霊様」

 

『それと今までの謝辞を、ありがとうレベッカ。守人の一族と巫女がいたお陰で私はここまで生きることが出来た。大いなる流れに還っても私は貴女たちを見守っています』

 

「こちらこそ、ありがとうございます大精霊様」

 

『ふふ、礼など不要です。さあ、早く戻りなさい、私は少しでも封印が破られるのを遅らせる為に力を蓄えます。早くこの事を皆に伝えるのです』

 

 そこまで言い切ってから頭の中に響いていた声は途切れた。

 おそらく力を蓄える為に会話すら惜しいのだろう。

 

「……戻ろう、レベッカ。この事を伝えなきゃ」

 

「……うん。お兄ちゃん」

 

 災厄の襲来まで残り7日




クララ「今回は大精霊についてです」

フルティア「ここを逃すと当分出てこないからね」

クララ「四大精霊は私たちが作った機構の一つです。人類種に魔法を使わせるための下地作りの一環として作りました」

フルティア「結果としてストルタスが独占する形になったけど文句はその時の勇者に言って欲しいな。あの子はマジでおかしかった」

クララ「バグでも起きたのかと思いましたからね。まあただ単に本人の努力と才能の結果でしたが。人格も良かったですからね」

フルティア「そんなこんなで弱まった大精霊だけど、封印なんて機能追加する予定無かったんだよね。なんか人間が無理やり押し付けたけど」

クララ「それもあって守人は王家と距離を取り出したんですけど当時の王家は微塵も気付いていませんでしたね」

フルティア「だから人間は魔法が使いにくいって言われるんだよ」
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