「おいそこ!手を止めるな!その怠慢が俺たちの命を決めるかも知れねえんだ、妥協は許さんぞ!」
「薬草が足りないわ!ありったけを持ってきなさい!」
「へばってる暇はねえぞ!そんな時間があれば一回でも多く素振りでもしてろ!」
「おかーさーん!お芋取れたよー!」
「ベッドの用意を!何?足らない?だったら毛布だけでも持ってきて!」
「石を持ってこい!積んで柵を補強するぞ!」
「塹壕の位置が違うぞ!設計者の言う通りに作り直せ!」
「鹿と兎が取れたぞ!干し肉にするから吊るしとけ!」
「手の空いている女性はこっちへ!包帯の巻き方だけでも覚えてもらうわ!」
昨日までののどかな生活を送る村が嘘のように喧騒に包まれている。
あちこちから指示と怒号が飛び交い、生き残る為に全力を尽くしている。
そんな中、ポツンと佇む四人組である。
「いやいや、ここにどうやって割り込めって言うんだよ」
「村の事をよく知らない私達では役に立たなさそうだな」
ロータスら『蔦の宮殿』のメンバーはロータスの呼びかけにより、集まったは良いものの村の熱量に押されて、端っこで何をするでもなく立っていることしかできないでいた。
「あっ、お兄ちゃん達!おじいちゃん!お兄ちゃん達が来たよ!」
と、そこへ
「ああ、よく来て下さいました。正直言ってスライムの手を借りたいほどの忙しさでして。プレイヤーの方々がいらっしゃるのならば大変心強いです」
「ええ、ありがとうこざいます。それで、私達は何をすれば?」
「今からまとめ役の者たちを集めて会議を開きます。あなた方には戦闘の際に主力として戦って頂く事になりそうです。そこで、ほとんど戦闘経験の無い私達に
「成る程、ではそのように。私達四人ともで良いのですか?」
「はい、もちろんです。しかし、本当にいいのですか?我らが言うのもなんですが、この戦い勝てる見込みは殆どありません。そんな戦いに無関係の方々を巻き込んでしまうのは……」
当然の懸念だろう。しかし、忘れてはならないのは俺たちはプレイヤーだということである。代表して受け答えをしているトト姉も同じ思考回路、というかトト姉が一番この中では
「何を仰います、ご老体。我々はプレイヤーです。
そう。こんなイベントを流す方がゲーマーとしては失格だ。トト姉ほどの廃人とまでは行かなくとも俺たち三人もまあまあゲーマー歴が長いし、例え素人だろうとこんな大規模イベント逃す訳が無い。
その答えを聞いて村長はきょとんとしたものの、直ぐにプレイヤーという生物の習性を思い出したのか苦笑して、俺たちを案内してくれたのだった。
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時は少し遡る。アルカディアでの三日前、現実で言えば24時間前に俺とレベッカは火の大精霊の忠告を聞き、名も無き村へと帰って来た。そこでのレベッカの肩書き、火の守人の巫女というものは絶大な効力を持つものらしく、村は大混乱に陥った。しかしそれは一時のもので年配者の一喝で直ぐに収まった。その後は詳しい話を俺とレベッカで主要な人物に話して防衛計画を練ることとなった。一応避難を提案したのだが、村人全員が徹底抗戦を訴えたのであえなく断念した。
防衛計画の主力となるのが俺たちプレイヤー、というより蔦の宮殿のメンバーになることが決定するまでにはかなりの時間を要した。俺たちの実力を疑う者もいたし、自分達の問題は自分達だけで解決したい者もいた。しかし、最も多かった意見は人数が少ないので不可能だという意見だった。それについては俺も同意見でその為災厄に関しては俺たちで、その他の災厄に追われて出てくるであろうモンスターに関しては村の人達で対応してもらうことになった。
その話し合いが終わった後、俺は直ぐにログアウトして蔦の宮殿のメンバーに連絡、直ぐに承諾をもらい久し振りに王都エターリアに迎えに行って、先の場面に戻るというとこである。
「ーーというのが今までの詳しい経緯です」
「成る程、事情はわかった。プレイヤーに主力を、村人に周辺の敵をという配置は間違ってないし、我々にとってもその方が良い」
トト姉が代表として答える。一応概略は伝えてあるが、詳しく説明するに越した事はない。
「して、不躾な質問なのは分かっておりますが、本当に我々と共に戦って貰えるので?あなた方には何のメリットも無いのでは?」
会議に参加している一人がそう発言する。最もな質問であるが、プレイヤーにそれを聞くのは間違っている。
「我々にとってはこれ自体が報酬です。我々にこの世界での死の概念が無い以上、スリルを味わう事自体が我々の楽しみ、プレイヤーとはそういう狂った人種だと聞いた事は無いですか?」
おお、引いてる引いてる。そりゃそうだよな、クォーレの人達からしたらプレイヤーはただの狂人だ。死が確定している戦場に嬉々として参戦し、無謀な冒険を繰り返す俺たちプレイヤーはさぞ狂って見える事だろう。人の多い首都や大都市ではプレイヤーはそういうものとして認識されているらしいが、ここみたいにプレイヤーとの交流がほとんどない所だと奇異に映ること間違いなしだ。まあ、村長は前に都市に住んでいたこともあって知っていたらしいが。
「ここの状況を鑑みるに、現在の防衛設備の状況からまだまだ改良の余地はあると思います。今は大体目標の半分くらいですね」
これは俺のクエスト情報から考えて正確な数字だろう。
現在の『限界村落を立て直せ』のクエスト進行状況は53%。三日で半分以上終わっているというのは中々に順調だ。残り時間の目安は約四日、出来る限り引き伸ばして欲しい所だが、そこは俺たちには関与出来ないので祈るしか無い。
「みなさんには災厄が訪れる前に出来る限りの事をしていただいて、俺たちはそれまでに少しでも周辺のモンスターを減らす事に専念したいと思います。そうすれば俺たちも強くなって一石二鳥ですから」
その言葉に会議に参加していた全員が頷くのを見て、取り敢えず今日の会議はお開きとなった。
「あー、肩凝った。やっぱああいう堅苦しい雰囲気嫌いだわ」
「はは、大学生になればそういったことも言ってられんぞ。就活という言葉が迫ってくるからな」
「あー、やっぱり?トト姉でもナーバスになったりすんの?」
「そりゃあなる。先輩を見てるとな、ノイローゼみたいになってる人も居るから」
「うわ」
そんな話をしながら俺たちには与えられた一軒家に向けて歩く。クリップとネオンにはそこで待っていて貰っているのでそこでプレイヤーとしての作戦会議だ。
「ただいまー」
「おう、お帰り。どうだった?」
「ん、順調だよ。大体希望通り」
「良かった、です」
プレイヤーとしては災厄、恐らくは強力なモンスターのドロップを狙いたいからな。そこに注力したい。
「で?そっちはどうだった?」
「いやー、こっちは微妙。だーれも興味なしって感じ」
クリップとネオンは何もしていなかったのかというとそうでも無く、二人には掲示板で協力を呼びかけてもらっていた。アルカディア・プロジェクトにはゲーム内に存在する公式の掲示板と現実のネットに存在する非公式の掲示板の二つがあり、二人で手分けして協力を呼びかけて貰っていたのだ。
「いやー、時期が悪かったね。丁度ストルタスでは今
「私の方もそんな感じ、です。大氾濫の方が確実に稼げます、から」
大氾濫とはアルカディアで一定期間で繰り返されるモンスターの大繁殖時期の事である。モンスターが群れをなして現れる事が多く、人的被害、農作被害問わず多くのクエストが
「となると、プレイヤーの戦力は私たちだけ。か」
まあ、想定通りではあるがやっぱり村人達の安全性を考えるともう一クランくらいは欲しかった所だ。
「まあ、ぐちぐち言っていてもしょうがない。やるべき事をやれるだけやるしかあるまい」
トト姉のその言葉でお開きとなり、俺たちはレベリングと間引きを兼ねてモンスターの討伐へと出かけた。
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そして六日目の夜。忠告の日まであと一日というところで『限界村落を立て直せ』のクエスト進行状況が100%に到達した。
村では村人全員が集まって大宴会となっている。やる事をやりきったお祝いに、明日からの戦いに備えるために、もう会えないかもしれない家族最後になるかもしれない楽しい思い出を作るために。
今日から俺たちは災厄の襲来に備えて、ずっとログインしっぱなしとなる。幸い俺とトト姉、クリップは春休み、ネオンも終業式で時間の心配は無い。
今は連続ログイン制限がかかりそうなので俺以外のメンバーはログアウトしている。俺も制限がかかりそうではあるが一人は残らないと中の状況がわからないので留守番である。
一人中心から少し離れた所で昨日狩ってきた鹿肉を頬張っているとレベッカがやって来るのが見えた。
「どうした?レベッカ。村の人達と一緒にいなくていいのか?」
「うん、いいの。お兄ちゃんと一緒に居たいから」
「そっか」
二人でぼーっと焚き火を見つめる時間が過ぎる。パチパチという木の弾ける音が村の喧騒を遠くへと押しやる。
「なあレベッカ、前に言った俺の話。聞いてくれるか?」
レベッカと初めての狩にいったときの約束である。すっかり遅くなったが、話しておきたい。
「うん。いいよ」
他人にちゃんと話すのは初めてだ。蔦の宮殿のメンバーにも話した事はない。
「……俺には妹が居るんだ。レベッカじゃない、本当の血の繋がった妹」
もう、何年も繰り返し、繰り返し同じ夢を見る。その夢を見る日は決まって雨の降っている夜で、台風の日は絶対にだ。
俺が小学六年の九月。その日は日本始まって以来最大勢力の台風が上陸するというニュースで持ちきりだった。雨が打ち付け、雷が鳴り響くそんな中、花蓮は出掛けると言って聞かなかった。台風だから止めようと言っても絶対に行くと言い、最後には俺が折れた。
カッパを着込み準備を万全にして花蓮は出掛けた。ニュースではどこかの川が氾濫しただとか、海岸に大波が押し寄せているだとか、土砂崩れで道が塞がれて孤立状態だとか流れている。そんなニュースは毎年見ていて、でも俺には関係の無いどこか遠くの話で、そんな事態に会うなんて考えた事もなかった。その日までは。
午後3時、近くの大学病院から家に電話がかかってきた。花蓮が手術をすると、重症だと、両親は居ないのかと、矢継ぎ早に色々な事を言われて俺はパニックになった、花蓮が手術?死んでしまうかもしれない。そんな事がずっと俺の頭を駆け巡っていた。結局俺は両親が帰って来るまでずっと電話の前で呆然としていたらしい、微動だにせずただ、ひたすらに。その時のことは、よく覚えていない。
花蓮は一命を取り留めた。どうやら台風の強風で街中の街路樹が倒れたらしい。そんなところに運悪く通りかかったのが花蓮で、下敷きになったとの事だ。運が良かったのは下敷きになったのは足だけだったという事、死ぬような事態にはならなかったが以来花蓮は殆どの運動機能を失った。その後のリハビリで日常生活は問題なく送れるまでに回復したが、走る事は出来ず、スポーツなんて夢のまた夢だった。
今でも俺は考える、あの時俺がもっと強く引き留めておけば、そうじゃなくたって俺が一緒に行っていれば花蓮はそんな怪我を負う事は無かったんじゃ無いのかと。
以来、俺は花蓮に過保護になった。もう二度とあんな目に合わせないように、次こそは守れるように。
「ーーこれで終わりだ。ごめんなこんな話に付き合わせて。それともう一つ、ごめんなレベッカ。俺は多分レベッカを花蓮に重ねてたんだと思う。ただの自己満足なのにな」
あの頃の花蓮くらいの女の子を見ると今でも胸が締め付けられる。レベッカも、きっとそうなんだろう。
「それは違うよ、お兄ちゃん。私は私で花蓮ちゃんは花蓮ちゃんだよ?ちゃんとお兄ちゃんは私を見てくれてる」
「でも……」
「大丈夫、私はちゃんと分かってるよ。お兄ちゃんは優しいから今でもそんな風に思うのかも知れないけど、お兄ちゃんの思いがどうであろうと、私の今まではちゃんと私の一部だよ」
「レベッカ……」
「だから、お兄ちゃん。私には分かったなんて言えないけど今度花蓮ちゃんと話したらいいんじゃない?二人ともまだ生きていて、繋がっているなら、きっと大丈夫」
「きっと大丈夫……」
向日葵のようなその笑顔を見ていると不思議とそう思えて来るから不思議だ。
「だから前を向いて歩こう。明日はきっと今日より良い日になるよ」
「そうか、そうだな。ありがとうレベッカ、楽になったよ」
「えへへ、うん!」
さあ、蔦の宮殿のみんなが帰って来た。俺もログアウトしてログイン制限に引っかからないようにしなければ。
だが、相応にして災厄とはそういった時にやって来るものである。
何かが弾け飛んだような爆音が衝撃波となって村中を蹂躙する。見れば遺跡のあった方角から火柱が立ち昇っている。日付は忠告の日の午前0時1分を指していた。
『ユニーククエスト『限界村落を立て直せ』をクリアしました』
『称号「防衛巧者」を獲得しました』
『称号「指揮者の卵」を獲得しました』
『称号「知恵袋」を獲得しました』
『ユニーククエストが進行しました』
『ユニーククエスト『火の災厄』が発生しました』
『ユニーククエスト『限界村落の村娘』の特殊条件を達成しています』
『特殊称号『村娘の義兄』を獲得しています』
『称号『火の大精霊の祝福』を獲得しています』
『特殊状態『村娘の英雄』です』
『四種の特殊条件全ての獲得を確認しました。ユニーククエスト『火の災厄』は破棄されます』
『アルカナクエスト『反逆ナリシ愚者ノ篝火』が発生しました』
『アルカディアストーリー『名も無き寒村より愛を込めて』最終フェーズです』
『プレイヤー名ロータスにアルカディア・プロジェクトを発令します』