アルカディア・プロジェクト   作:ムササ

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#17 灰は灰に、塵は塵に 第四項

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 ・アルカナクエスト『反逆ナリシ愚者ノ篝火』

 発生者 ロータス

 クリア条件 《愚者》の正位置【反逆炎魔エルドゥーク】の討伐

 推奨レベル ーー

 参加人数 4/∞

 

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 おそらく時を同じくして王都の近くで大氾濫が起こったのだろう。西の空を時折魔法のものと思われる光が飛んでいるが、それらも全て目の前の光景に押し潰されている。遺跡のあったであろう場所には都市一つ飲み込みそうな火柱が夜空を真昼のように染め上げていた。

 

「……嘘だろ」

 

 火柱が消えるとそこに立っていたのは全長5mはあろうかという巨人であった。いや、人ではないのだろう。その漆黒の皮膚は所々が燃えており、頭部は人間の感覚で言えばヤギに近く、禍々しい巨大なツノが天を突くように生えている。

 その時点でプレイヤーの四人にはその巨人の名前が視界に映し出された。

 

「《愚者》の正位置【反逆炎魔エルドゥーク】、アルカナクエスト……まさか本当に」

 

 クリップのその呟きは全員の代弁であった。アルカディア・プロジェクトが発売されたから約一年。1000万人ものプレイヤーが攻略に励んでなお、討伐数13体なのがアルカナである。まさか、たった四人のパーティーが引き当てるとは想定していなかった。

 

「それでも……やるしかない」

 

 俺は、そう呟く。いかに相手が強大であろうが、ここで諦める訳にはいかないのだ。つい先刻誓ったばかりではないのか、ここで諦めたらレベッカはどうなる。二度と失わないと誓ったのではないのか。

 たかがゲームの一キャラクター、されど俺の義妹である。理由は十分であろう。

 エルドゥークが吼えると同時に村へと跳躍し、到達した。それに合わせて俺も吼え、戦闘が始まる。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「っ!みんなぼーっとしない!ロータスが先陣を切った、援護!」

 

 自身も思わず呆然としてしまった事を棚上げしてパーティーメンバーに指示を出す、指示を聞いてネオンとクリップも動き出した。合わせて自分もロータスの盾(タンク)となるべく動き出す。

 火柱の中から現れたのは想像を超える異形であった。私が戦った事のあるリュージットとは全く違う、しかしその脅威は変わらない暴力の化身。

 エルドゥークはロータスに向けて手のひらから人一人飲み込む大きさの火球を何度も放つが、ロータスは全て避けるか受け流している。

 正直あいつにタンクが必要かと言われれば無いと答えるだろう。私はクランリーダーとして、そして友人としてロータスの、蓮也の技量を信頼している。

 しかし、ロータスはそのビルドの特性上一撃が致命傷になり得る。そしてパリィを主体とする先頭方法は質量攻撃に弱い。だからこそ、盾が必要なのだ。

 

(全く……リーダーに尻拭いをさせるとは、人使いの荒い事!)

 

 しかし、トトを含めたロータス以外の蔦の宮殿のメンバーはこの戦いの主役はロータスに譲ると決めていた。元々はロータスのユニーククエストから派生したクエストであるし、それよりレベッカの存在が大きい。

 南 響子(トト)葛城 美夜(ネオン)榎本 和樹(クリップ)、そして九条 蓮也(ロータス)はもう5年にもなる付き合いである。『セラフィム・ワールド』で偶々出会って意気投合しただけの付き合いであるが、その付き合いは現実にまで影響を及ぼし、今では互いに家に招く程の仲である。正直ゲーマーとはいえ女性なので直接会うのは怖かったのだが、蓮也も和樹も良い奴であった。美夜が女性だったのと、全員年が近かったのも大きい。

 そんな中、蓮也の家に招かれる事もあり、妹である花蓮との交流ももちろんあった。特に美夜は一つしか年が違わない事もあり、とても仲良くなっていた。そして蓮也は花蓮と自分の境遇を私たちだけに話してくれた、花蓮ちゃんはその時居なかったが、わざと離れさせたのだろう。

 正直同情を禁じ得なかったし、あんなに妹を溺愛する理由が分かったのも良かった。女性プレイヤーが困っていたら助けずにいられないのはそういう事も関係しているのだろう。

 そんな時に出会ったのがレベッカである。レベッカの事を花蓮と重ねて見ているのは直ぐに分かった、だからこその危うさを見て何回か注意したし、それでも止まらなかったので尻拭いをする事に決めた。そんな事を決めたのは自分一人では無かったらしく、ネオンとクリップも同じくだった様だ。

 だからこそ、ロータスの物語をバッドエンドにする訳にはいかないのだ。

 

「行くぞラルヴァ!ロータスを援護する!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 熱が肌を焦がす、光が目を焼く、迫り来る炎を受け流すべく無我夢中に二刀を振るう。

 

(ああ、この感覚だ)

 

 絶え間なく迫り来る攻撃を紙一重で受け流す、セラフィム・ワールドから続ける狂人の戦闘法。

 その動きを俺は説明する事は出来ない。セラフィム・ワールドの時はアーツの補助があった、しかしいつのまにか体に染み付いていた。どこをどう動かせば軌道がどう変わるか、感覚が覚えている。

 そして幾度目かの火球を受け流すと、目の前の魔人が醜悪な顔を更に歪めた。それは、笑みと言えなくもないような顔であった。

 

『見事ナリ、貴様、我ヲ恐レヌトハ、プレイヤーダナ?』

 

 意外にも流暢な日本語で語りかけてきた。いや、アルカディア・プロジェクトにも自動翻訳システムが導入されている以上、本当に日本語を喋っているのかは分からないが。

 

『ソレニ、ドウヤラ貴様クララ(・・・)ノ加護持チカ』

 

「……どういう意味だ。アルカナともあろう奴が管理AIを呼び捨てにしていいのか?」

 

『管理AI?管理AIダト?笑ワセル、アイツラガソンナ小サナ存在ダト思ッテイルノカ?イヤ、思ワセテイルノカ』

 

 何だと?さっきからこいつは何を言っている?

 クララの事を知っているモンスター?そんな事がゲームとして成り立っているのか。これはゲームとしての仕様か?いや、何かが違う。

 

「お前は、何を知っている?この世界の何を」

 

 その質問をした時、エルドゥークの纏う雰囲気が変わった。今までのはお遊びだったのだと言う様なそんな苛烈な雰囲気。

 

『貴様ラ、プレイヤーノ知ラナイ過去ヲ。アルカディアノ本質ヲ』

 

 そこまで話した瞬間、エルドゥークの体に白いエフェクトが掛かる。すると途端にエルドゥークの動きが鈍った。

 

『ムッ、話シ過ギタカ。忌々シイ神秘ノ鎖メ。見テイルノダロウ、ドミニクス。我ガ使命ヲ果タソウ、神秘ノ鎖ヲ解ケ』

 

 するとエルドゥークの周りを取り囲んでいた白いエフェクト、エルドゥークの言う神秘ノ鎖が無くなった。

 

『デハ、試練ヲ与エヨウ。我ガ名ハ、エルドゥーク。《愚者》ノ神秘ヲ司リ、反逆炎魔ノ称号ヲ持ツ者ナリ!』

 

 エルドゥークが宣言を終えると同時に左右の地面から火柱が立ち上がり、おもむろに手を差し入れると火柱が収縮し、大剣に変わった。

 俺の身長の3倍はあろうかという大剣の二刀流。おもしろい、やってやろうじゃないか。

 

「いざ、」

 

『尋常ニ』

 

「『勝負!』」

 

 溶岩を濃縮した大剣が俺の体を焼き尽くさんと迫る。俺の耐久だと受けるのは絶対に不可能、かと言って避けるのも無理、ならば馬鹿の一つ覚えしかあるまい。

 迫り来るは圧倒的な死の概念、しかしてそれは俺の真横の地面を爆散させるに過ぎない。

 

『ヤハリ面白イ!我ガ愛剣ヲ受ケ流スカ!』

 

 エルドゥークの扱う溶岩の大剣はやはり思った通り質量はあまり無いらしい。その熱量があれば重さは必要ないからだろう。そもそも土が混ざった溶岩だとは言え、炎に質量がある方がおかしいのだが。

 アルカディア・プロジェクトに蘇生アイテムは一応存在するが、俺たちでは到底手の出ない金額である以上、蘇生魔法にかけるしか無い。蘇生魔法は神官系統のジョブの上位職が覚える魔法だが、ネオンはまだ覚えていない。故にこの戦闘で死んだら絶対にデスペナルティは避けられないということだ。

 アルカディア・プロジェクトのデスペナルティは現実の時間で24時間のログイン制限とユニーク装備と現在装備中の装備以外からのランダムなアイテムロストである。今回キツイのは前者のペナルティで現実での24時間はアルカディアでの72時間である。それだけの時間があればエルドゥークはこの村はおろか、王都までその火の手を伸ばすだろう。レベッカだって生き残れない。それだけは阻止しなくてはならない。

 というより、デスペナルティがログイン制限なのはレイドコンテンツのゾンビアタックの禁止が主な理由であるというのがもっぱらの噂である。発見者、MVP、ラストアタックに得点があるレイドコンテンツでゾンビアタックを解禁したら意味が無いからだろう。

 

 しかし、である。このアルカディア・プロジェクトというゲームの設定は俺のプレイスタイルによく合っている。それが、固有武器というコンテンツである。

 プレイヤーに最初から与えられる固有武器(相棒)はプレイヤー自身の成長と共に強化されていく。この武器がプレイヤー全てに共通してもつ特性は不壊である。アルカディアにおいて固有装備は決して壊れる事が無い。そしてその特性は武器の耐久値をゴリゴリ削る俺のプレイスタイルにおいて強烈なアドバンテージとなるのだ。

 更にユニーククエストの最終章に挑戦するにあたって俺のLvもシャドウリザードと戦った頃とは比べものにならなくなっている。まあ、それでもLv53が限度だったが。しかし、そこまで上げれば自ずと相棒も期待に応えてくれる事だろう。

 小太刀、上小太刀ときてここからがようやく固有(・・)武器だとトト姉は言った。

 固有武器 第三世代 『灼火刀 種火』

 性能は上小太刀の時とは比べものにならない。『名無しの南瓜』と『火の大精霊の祝福』の影響か火属性に寄った小太刀となっている。

 

 受け流した反動でエルドゥークの足元に接近して人間で言う健の辺りを切りつける。

 エルドゥークはものともせずに踏みつけようと足を叩きつける。流石に受け流すのは無理なので[クイックムーブ]と[ドリフトステップ]ですぐさま離脱すると思わず笑みが零れた。やっぱりこのヒリヒリした感覚は良い。

 

 

 

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