俺一人など一振りで数十人殺せるような灼熱が迫る。
1フレームでもタイミングがズレたり、手元が狂えばそれで俺のHPバーはゼロまで削れるだろう。それで無くても、『名無しの南瓜』と『火の大精霊の祝福』の耐熱効果が無ければ火傷の状態異常、そうでなくても熱気の余波でダメージを食らいそうだ。
「[クイックムーブ][モーメントシフト]」
一時的に自分のAGIを倍加させる[クイックムーブ]、体感時間を引き延ばす[モーメントシフト]。先ずは攻撃をきちんと見極める。
「[テールウインド][遊撃の妙技]」
モーションの動作速度を上げる[テールウインド]、アーツのクールタイムを5秒減らす[遊撃の妙技]。避けられる攻撃は全て避け、避けられないものはパリィして受け流す。
「[ドリフトステップ][ダブルステップ]」
曲がるステップモーションである[ドリフトステップ]、ステップモーションを二回連続で使う[ダブルステップ]。攻撃後の隙が出来たらステップで一気に懐に潜り込む。
「[エアジャンプ][イリュージョン][クロスカウンター]」
空中ジャンプをする[エアジャンプ]、次に使うアーツを二連続判定にする[イリュージョン]、パリィを成功させた時に自動でカウンターを繰り出す[クロスカウンター]。通常では届かない位置にある頭を目掛けて、エアジャンプを併用して飛ぶ、[イリュージョン]の効果で二連撃となった[クロスカウンター]を叩き込む。
俺が現在使用できるアーツのほぼ全てを併用してようやく一発、効いている様子は殆ど無い。
『グッ、小賢シイ。[噴煙]』
【エルドゥーク】が溶岩剣を地面に突き立てると、【エルドゥーク】を中心に地面から高熱のガスが勢いよく噴出した。
(それはマズイ!)
俺が最も苦手とするのは広範囲に及ぶ大質量の攻撃だが、それと同じくらい苦手なのがこういった逆に質量の無い攻撃だ。パリィ出来ないということは俺のスタイルでは致命的なのだ。
じゃあ辞めろよって話だが、俺は他に出来ないのだからしょうがない。
「[バリア]!」
飲み込まれると思ったその直前、光の膜が俺を包んだ。ガスは膜を破る事が出来ず、俺は何とか地面に着地して体制を立て直す。
「ありがとうネオン、助かった」
「いえ、それが私の役割ですし。それより、一旦下がって、細かいダメージが蓄積してます」
「いや、まだイケる。[遊撃の妙技]」
[遊撃の妙技]の
軽戦士系統のジョブは高いDEXとAGIも魅力だが、最も魅力的なのはこのクールタイム減少系のアーツが多い事である。アーツを使って前線を跳ね回り、撹乱と遊撃をこなすタイプのジョブだ。
「わかりました。じゃあせめてこれを、
「やけに、あっさり引き下がったな」
「ロータスさんが言っても聞かないのはいつもの事なので、セラフの時から慣れました」
ちょっと頰を膨らませながらそんなことを言う。ネオンが拗ねている時のサインだ。
「それに、トト姉さんとクリップさんもいるので大丈夫です」
ネオンのその言葉とものすごい風が吹き荒れたのはほぼ同時だった。
「ーー爆ぜろ[アトモスフィア]」
小声で詠唱していたのだろう、クリップが杖を掲げると【エルドゥーク】の目の前の空気が凄まじい勢いだ膨張し、【エルドゥーク】は大きく仰け反った。
「今使える最大威力の、しかも完全詠唱の魔法で仰け反っただけかよ、自信無くすわー」
「まあ、そのおかげで私がこうして一撃入れられる訳だが?[狼爪・一撃]」
【エルドゥーク】の腹部に大きな三つの裂傷が刻まれる。その傷自体は溶岩が覆い隠してしまったものの、初めて【エルドゥーク】が苦痛に喘いだ。
[アトモスフィア]は風属性魔法の第五階梯に分類される魔法である。階梯とは魔法の難易度を示すもので、全部で一から十まである。数が増えれば増えるほど難易度は上がる。
[アトモスフィア]は圧縮した大気を対象の目の前に出現させる魔法である。すぐさまそれは膨張し、即席の空気爆弾となる訳だ。
[狼爪・一撃]は剣の周りに魔力で出来た刃を作り出すアーツである。
「大丈夫、勝てますよ。ロータスさん」
「そうだな、大丈夫だ」
「何をぼさっとしている!二人とも、きっちり自分の役割をこなせ!」
「「了解、リーダー」」
さあ、仕切り直しだ。
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戦闘開始からおよそ、20分。状況は俺たちの有利で進んでいた。
……のは、さっきまでだ。
俺がひたすらパリィで受けて、クリップが怯ませて、トト姉がダメージを与え、ネオンが補助をする。理想的な四人パーティの構成で、順調に攻略をしていた。しかし、どうやらそのまま
『[溶岩波]』
「しまっ、全体攻撃」
【エルドゥーク】が剣を突き立てた所から、地面が溶岩に変わり、こちらへと侵食してくる。
俺はギリギリ高いAGIのお陰で回避出来たが、攻撃の直前だったトト姉と詠唱途中だったクリップが飲まれた。
デスペナが頭をよぎる、ここで二人に抜けられると攻略は絶望的だ。
「……あぁっ!熱い!」
「トト姉!無事だったか」
「無事なものか、ラルヴァ以外の防具が全損した。それにHPも殆ど残っていない。少し下がらないとすぐデスペナだ」
少しして、右側で物凄い勢いで、溶岩から上空へ何かが飛び出してくるのが見えた。
「熱っ!やべぇ、死ぬかと思った」
「クリップさんも!」
「[ウインドショット]を咄嗟に無詠唱で下に打ってなかったら、死んでたぜ」
しかし、二人が戦列に復帰するのには時間がかかるのは明白だ。
「それより、マズイぞロータス。溶岩が村の方へ向かっている」
「っ!」
見れば溶岩の先端はすでに村の近くへと迫っている。
『[溶岩竜]』
【エルドゥーク】がもう片方の剣を溶岩に突き立てる。すると溶岩が波打ち、小さな竜を象ったモンスターが出現し始めた。
「おいおい、まじかよ」
視界はすぐに敵対モンスターを表す表示で埋め尽くされる。3割程は俺たちの方に向かっているが、7割は村の方へと向かっている。溶岩はそれで無くなったが、代わりに敵対モンスターが増えては意味が無い。
一番近くにいた溶岩竜を斬りつけると、一撃で溶けて無くなった。
「脆い……けど」
「多すぎるな」
「しかし、何故コイツらは村を襲う?ただ単に人を襲う様になっているだけか?いや、待てよ……ロータス、確か【エルドゥーク】は火の遺跡という所に封印されていたんだよな?」
「ああ、レベッカの一族が守っていた……まさか」
待て、待ってくれ。その推測は、ダメだ。
気が付いたら俺は村の方角へと走り始めていた。
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「おい!ちょっと待てよロータス!」
「いや、いい。むしろ、そうしてくれと言うところだった」
「はぁ?何でだよトト姉。今この状況でロータスが抜けたら……」
「コイツらの狙いはレベッカだ。正確に言えば火の守人の一族だな。これは、あいつの物語だ。それに……」
正直、言うべきか迷っていた。だが、もうどうしようもない以上、言っても構わんだろう。
「それに……何ですか?」
【エルドゥーク】は動かない。おそらくこいつらを殲滅しない限り、動かないだろう。体感的には既に奴の体力は半分ほど削った筈だ。この隙に体力の回復を図るつもりだろう。
「
「「!!」」
「さあ、ロータスが帰ってくる前にコイツらを片付けるぞ。最高の状態でバトンを渡してやるんだ」
帰って、来るよな?ロータス。
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ついに、その時が来てしまった。
『ログインより、2時間57分が経過しました。連続ログイン制限まで残り3分です』
視界の端でそんなテキストが警告を発する。
しかしここでログアウトする訳にはいかない。
村は既に地獄絵図だった。家屋は殆どが焼け落ち、村人は溶岩竜に焼き尽くされる。それを俺は……見て見ぬ振りをしながらひたすら走る。
耳障りな鳴き声を上げながら俺を殺そうと溶岩竜が迫る。それを乱雑に振った刀で殺しながら走り続ける。
「うるさいな」
『ログインより、2時間58分が経過しました。連続ログイン制限まで残り2分です』
どこだ、どこにいる。
『ログインより、2時間59分が経過しました。連続ログイン制限まで残り1分です』
「うるさい、うるさい、うるさい!」
溶岩竜を斬り伏せながらひたすらに走る。
途中で何人かの村人を助けた、しかしそんなことに構っている余裕は無い。助けたくて助けた訳じゃ無い。ただ単に通り道にいただけだ。だから後は勝手にやってくれ。
『連続ログイン制限まで残り30秒です』
西には居なかった、東にも居なかった、北にも居なかった。
まさか、もう……そんな思考が頭をよぎったが、振り払って走る。
そして、それを見た。
「レベッカぁぁ!!」
「ーーっ!お兄ちゃん!」
後ろに何人かの子供を庇いながら、魔法で必死に抵抗をする少女の姿を。レベッカの使う火の魔法はどうやら溶岩竜には効きが悪いらしく、一撃で倒すとはいかないようで、何発も打ち込んでいた。
そのせいで、既にレベッカ達は囲まれている。
『連続ログイン制限まで残り20秒です』
ついに一人が溶岩竜に食われた、それをきっかけに均衡は崩れる。
後、30m。まるで、食い止めるかのように目の前に立ちふさがる溶岩竜を蹴散らし、進む。
『連続ログイン制限まで残り10秒です』
どんどん溶岩竜は子供を道連れに地面に溶けていく。
『……5』
「届けっ!」
『……4』
「届けっ!」
『……3』
「レベッカ!」
『……2』
溶岩竜がレベッカに迫る。迫り来る顎門に呆然と立ち尽くす少女を焼き尽くさんと龍は殺意を燃やす。俺はそいつめがけて刀を投げつける。
『……1』
「お兄ちゃーー」
刀は溶岩竜に届く前に、俺のアバターと一緒に消えた。
『強制ログアウトを実行しました。ヘッドギアを外して充分な休息を取って下さい』
クララ・フルティア「!!」