『強制ログアウトを実行しました。ヘッドギアを外して充分な休息を取って下さい』
そんな無機質なテキストがヘッドギアから鳴り響く。
目の前の暗闇は俺が現実に戻ってきた事を表していて、同時にレベッカを救えなかった事を表していた。
とにかく今は立ち上がらなければ、ヘッドギアを外して、ベッドから降りて、水分補給と小腹を満たして、それで、それで……
「あれ?」
ベッドの端に腕をついて起き上がろうとすると、一瞬の浮遊感の後、全身を衝撃が襲う、恐らく落ちたのだろう。そんな事を頭の中で自分の事をまるで他人事のように考えている自分がいる。
「ははは……」
意味もなく笑いがこみ上げてきて、思わず声が漏れる。なにかを誤魔化すかのように俺は道化の如く笑い続けた。
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「ちょっとお兄?ずっと笑ってて怖いんだけ……ちょっ、大丈夫!?」
流石に5分もずっと笑い続けていればうるさくも感じる。私とお兄の部屋は隣だし、ゲームをしているのか静かだと思っていたらいきなり笑い声が聞こえ始めたのだ。何があったのかと思うのは当然だと思う。
様子を見に来たらベッドの横でヘッドギアを付けたままの兄が狂った様に笑っているのだ。
「花蓮……」
「きゃっ、何……を」
ヘッドギアを外すと兄は泣いていた。笑いながら泣いていたのだ。どうやらずっと泣いていたらしい。目の周りが真っ赤で虚ろな目をしていた。そして私に気がつくといきなり抱きついてきた。
そのまま、声を上げて泣きじゃくる兄を私は抱きとめる事しか出来なかった。
「それで?何があったの?」
ようやく落ち着いたのか兄は泣き止んだ後、私が持ってきたお茶を飲みながらこれまでの事を話した。
ゲームの中でレベッカという少女に出会った事、兄に懐いてくれてずっと一緒だった事、その少女を私に重ねて見ていた事、そしてその
「ごめん、ごめん、レベッカ……花蓮……」
もはや何を謝っているのかも分かっていないのだろう。兄はもう取り戻せない何かに許しを請うている。
所詮はゲームだと私は思う、けど兄にとっては紛れもなく義妹だったのだ、とも思う。
「俺は……ずっと謝りたかった。いや、罵倒して欲しかった、罰して欲しかったんだ」
既に過ぎた事だと言うのに兄はみっともなく過去に縋り付いている。あの時ああしていれば、そんな事をずっと考えながら生きているのだろう。
そうでなければ兄は兄たり得ないから。妹を守れない兄に価値は存在しないから。
だから、私は口を開く。
「ーー私もずっと思っていた事があるの」
過去に縋り付いた兄を突き放すように。
「あの台風の日。私が大怪我を負わなかったら、多分私は好きだったバスケを続けて、中学に入ったらバスケ部に入って、自分で言うのも何だけど運動神経はお兄と同じく良い方だし、大会とか出て、優勝とかしちゃったりして、高校でもバスケを続けて、インターハイとか出場して」
そんな都合の良い未来を並べて。
「兄さんとの関係もこんなギクシャクした関係じゃなくて、仲の良い兄妹だねって、みんなから噂されたりして、そんな事ないよとか言ってみたりしても嬉しかったりして」
ちょっと願望の入った言葉を使って。
「
そんなだったら良いなと思う。けれどーー
「けど、そんな未来は訪れなかった。過去はどう頑張っても変えられなくて、私の足はもう二度と前と同じ様には動かない」
そんな都合の良い未来はもう絶対に訪れないのだと。
「だけど、私は兄さんの事を罰したりはしない。あの日の事故は誰も悪くない。強いて言うなら敢えて外に出た私が悪い。だから、私は兄さんを
いつのまにかもらっていたのか流れ始めた涙を拭いながら、そう告げる。
貴方は絶対に
確かにその物語はハッピーエンドだろう。そうだったらどれだけ良かった事か。
だけどどうしようもなくこの世界は残酷で、やり直しなんて認めてくれるわけかなくて、私の足が治るなんていう都合のいい奇跡も起こるわけなくて、だけど、だからこそ、その物語は成ってはいかないのだ。
「自分だけ赦されようなんて認めない、私に罪を全部押し付けて一人だけ逃げようなんて認めない、ハッピーエンドは来なかった、現実はいつだって私たちの理想を踏みにじって未来に引っ張っていく、だからずっと贖って、楽になんかさせないーー」
「ーー私は兄さんを
あの台風の日から一回も声を荒げて話をした事は無かった。何か言えば兄さんは全部やってくれて、思えば喧嘩なんかほとんどした事無かった。
「だけど!もう、レベッカは死んだんだよ!花蓮とは違う、二度と救えないんだよ!」
私とは違うとそう言った。死者は蘇らず、ゲームでもそれは変わらないと兄は言った。
「わかるか!?俺の目の前で、俺の事を呼びながら、レベッカは焼け死んだんだよ!」
「分かるわけないでしょ!?私はレベッカなんて子の事は知らない!会った事も無い!」
「だったら口を出すなよ!知らないなら勝手なこと言うなよ!」
「口を出すわよ!勝手な事だって言ってやる!兄さんはレベッカと私を重ねた、だったら私がその子の代わりに言ってやる!ふざけんな、蓮也!何こんな所でうずくまってるのよ!
「立ち上がってよ、
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「っ!」
激情のまま、心象を吐露して、初めて花蓮と喧嘩をした。
その途中で初めて気が付いた。俺は、花蓮に罰して欲しかったのだ。
なんて浅ましい、なんて愚かしい、なんて身勝手なのか。よりにもよって俺は俺を英雄と慕う妹に対して俺を貶めろと言ったのだ。
「俺は……」
「立って、立つのよ蓮也。貴方は
言葉の一つ一つが薪になる。
「散々自慢していたじゃない。『
燻った火種は、また燃え上がる。
「……俺は、また守れなかった。けど、レベッカの信じた英雄は汚してはいけないんだな」
「そうよ。当たり前じゃない」
「戻るよ、花蓮。もう15分経った」
「ええ。行って来なさい。
さあ、戻ろう。あの、名ばかりの
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ここは、どこだろう?
真っ白で、何も聞こえなくて、なんだか、懐かしい。
そっか、私、死んじゃったんだ。
お兄ちゃん、泣いてたなあ……私のせいだ。
もう、会えないのかなぁ……せめて、あともう一回。伝えたい事が、あったんだけどなぁ……
「姉さん!?クララ姉さん!?」
「何!今忙しいのよ!後にしなさいフルティア!」
えっ?
「そんな事言ったって、いいの!?」
「何が!?」
「
「いいのよ!この子は必要なの!アンナ姉さんだって分かってくれる!」
「ああー!もう!貸し一つだからね!」
「いた!レベッカ!起きてる!?」
「ふぇっ?」
「よし!自分が誰か分かる!?……よし!自我はしっかりしてる、記憶の欠落もない、データが分解する前で助かった」
「えっ、えっ?」
「死者の蘇生なんか私たちじゃ無理だよ、アンナ姉さんに会わなきゃ」
「そう、だから行くわよ二人とも。アンナ姉さんに会いに」
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灰は灰に、塵は塵に、土は土に。
されど、また薪を
心の闇に魂の火を灯せ。健在なり、その姿を示すために。