あくまで1章はロータスとレベッカの物語なので。ごめんね、三人とも。
満身創痍。そんな言葉が出てくるほど酷い状況だった。
「まだ、立てる?」
「いやあ、正直もう限界っすわ。あと1分位でスリップダメージで溶けます」
「わ、私も。もう、MP切れです」
ロータスが強制ログアウトになってから45分。既に後ろに村と呼べるものはなく、木々すらも私達を中心に灰になっていた。
『ソレデモ、良ク保ッタモノダ。《月》ガ有ロウト、英傑タルニハ十分ダ』
「お褒めに預かり、光栄ね」
『シカシ、我ガ侵攻ヲ止メルニハ力不足ダッタナ。眠レ、英傑ヨ。[溶岩流]』
そして、目の前で投げつけられたポーションが全てを吹き飛ばした。
『ヌ?』
「全く……遅いぞ、ロータス。本当にギリギリではないか」
「悪いな、トト姉。花蓮と大事な話をしてたんでね」
「大事な話(意味深)」
「んなことほざく余裕があるなら勿論この後も手伝ってくれるんだよなぁ?クリップ?」
「いや、マジ無理。あと10秒くらいで死ぬわ」
「ロータス、さん。大丈夫、ですか?」
「ん?大丈夫、大丈夫。さくっと終わらせて、後で戦果報告するよ。ネオン」
「そう、ですか。じゃあ……頑張って下さい」
「負けたら承知しないからな!」
そして、クリップとネオンは【エルドゥーク】と周囲の熱気でHPバーを全損。
「ロータス……」
「なんだ?トト姉」
「平気、だな?」
「……ああ。可愛い妹に背中を押してもらったどころか、サマーソルトぶちかまされたからな」
「そうか、なら。存分にぶちかませ」
「アイアイ、マム」
そして、トト姉もポリゴンとなった事を確認してから、【エルドゥーク】へと向き合う。
「よう、【エルドゥーク】。早速だが、お前は一身上の都合により俺が叩き潰す」
『カカ、ヨク言ッタ。デハ、我モ全力デ迎エ撃トウ』
【エルドゥーク】が二本の溶岩剣を構える。同時に、俺はマジックバッグから3つのポーションを取り出す。一般的に売られているポーションとは違い、目に優しくないどぎつい色をしたポーションの内1つを自分で飲み干し、2つを【エルドゥーク】に投げつける。
2つが【エルドゥーク】の近くに行った事で容器が割れ、大爆発を起こす。
『グッ……』
さあ、第2ラウンド開始だ。
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ここで、少し昔の話をしよう。
『
トト、ロータス、ネオン、クリップを中心に合計12人という極少数で構成されたクランにも関わらず、セラフィム・ワールドのプレイヤー内ではかなりの知名度を誇っていた。
理由としては2つ、全員が所謂、二つ名を付けられるほどの有名な古参プレイヤーだった事。もう一つは一時期とはいえ、クランランキング1位を取っていた事に起因する。
ちなみに今でもこの時のクランランキング1位決定戦はセラフィム・ワールドの動画、視聴数トップ3に入っている。
王者『ホワイトキングダム』と挑戦者『蔦の宮殿』、戦力比100:12という馬鹿げた戦争は12の勝利で幕を閉じる。
その後、様々な事情があり『蔦の宮殿』は解散。今でも交流は続いているが、アルカディア・プロジェクトでは別々のクランとなっている。
そして、その時の戦いを振り返って後にクランリーダーのトトが公式のインタビューに答えている。
曰く、全員奮闘していたが一番頭がおかしかったのはロータス、セラフィム唯一の〈剣舞騎士〉である、と。
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俺が飲み干したのは、HPの最大値が1になる代わりに、他のステータスが爆発的に上昇するポーション、『窮鼠猫を噛む』投げつけたのは空気に触れると大爆発を起こすポーション、『オテガール2』
どちらも村で知り合った錬金術師から貰ったものだ。
正直『窮鼠猫を噛む』は賭けだが、俺は『名無しの南瓜』と『称号 火の大精霊の祝福』の火耐性+1のお陰で【エルドゥーク】に接近する事で受ける、熱気によるスリップダメージは受けない。どちらにせよ、ネオンがいないこの現状、一発でも直撃を食らったらその時点で詰みだ。だったらHPは投げ捨てて、他のステータスを上げる方が良い。
(思った以上にステータスが変わった影響で動きにくい)
『窮鼠猫を噛む』は正確に言えば、HPの最大値を1にする代わりに、現在との差分、他のステータスを上昇させるものである。
チートもいい所のドーピングアイテムだが、アルカディア・プロジェクトは現実との差が無さすぎるが故に、「ころぶ」だけでダメージを受ける。デスペナルティがキツく、蘇生の難易度が桁違いに高いアルカディア・プロジェクトではそういったHPを削るタイプのドーピングは敬遠される傾向にあった。
さらに言えば、こういった没入型のVRゲームはプレイヤーの体を自分が全て動かしている関係上、ステータスが急激に変わると前との乖離が激しく、大抵はまともに動けなくなる。
(分かってはいたけど、想像以上に体が動きすぎる。先ずは慣らせ、高速の世界に頭を順応させろ)
「[モーメントサイト]」
[クイックムーブ]は使わない。速すぎてまだ事故る可能性が高い。代わりに[モーメントサイト]で少しでも早く目を慣らす。
『小賢シイ、[噴石]』
溶岩剣を薙ぎ払うと凝固した溶岩がショットガンの如く飛んでくる。
(よく見ろ、思い出せ、あの時はこんなもんじゃ無かった)
『上小太刀』と『鋼造のマンゴーシュ』を構え、全て受け流す。
隙が出来たら懐に入れ、溶岩剣はその巨大さ故に射程は広いが、死角も多い。
「[ダブルステップ]、「クイックムーブ]」
直線を走るなら[クイックムーブ]は使える。一直線に最短距離を駆け抜けろ!
『サセルカ、[火災流]』
明らかに高熱の煙が【エルドゥーク】を起点として、こちらへと向かってくる。
「[エアジャンプ]、[エアステップ]、[遊撃の妙技]」
[火災流]を飛び越えるように空中へと躍り出る。[エアステップ]で一気に空中を蹴って距離を詰める。
『愚カナ、[噴石]』
そして、もはや自分自身にすら制御出来ない速度にまで達した俺の体を撃ち抜くように噴石が飛んできてーー
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ロータス、本名九条蓮也。セラフィム・ワールドにてクラン『蔦の宮殿』に所属。同クランのランキング最終戦において目覚ましい戦果を上げ、MVPに選出される。
撃墜数36、被撃墜数0。
特記事項、史上初の
ロータスの最も異常な点は、本人は気が付いていないが、〈剣舞騎士〉に順応出来た事である。
フルダイブでパリィを決め続ける事がどれだけ難しいかを他のプレイヤーは全員知っている。故にクリップなどはロータスの戦闘法を「馬鹿げた」と揶揄するのだ。高速で飛来する全ての攻撃を寸分の狂いもなく自分の獲物でそらし続ける。それはステータスで底上げできる能力に寄らない、いわば本人の能力だ。
弾くことなら誰にでも出来る、しかし逸らし続けるのは常人には不可能なのだ。
故にセラフィム・ワールドのプレイヤーは畏敬を込めてロータスに二つ名を付けた、戦場を舞いながら駆け抜ける騎士、『蔦の宮殿』の〈剣舞騎士〉と。
史上初の職業そのものを指す二つ名である。
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(見極めろ、見極めろ、見極めろ、
空中で身体を捻り、無理やり剣を振るう。
「そこを、どけぇぇぇ!!」
英雄は幻想では無いと、英雄は健在なりと、高らかに叫べ!
『特殊状態 村娘の英雄 が起動しました。固有武器『灼火刀 種火』、存在進化、『灼火刀 焔』へと進化します』
全てを斬り伏せ、それでも前へと進め!
『ッ!ソレデモ、我ハ……反逆ノ狼煙ヲ上ゲヨ、[無窮ナル反逆ノ業火]』
【エルドゥーク】の全身から全方向に炎の波動が押し寄せる。
これは、避けられないし受け流せないな、だからーー
「虚ろえ!『
トト姉の《月》の神秘防具、『夜鎧 ラルヴァ』を見てからずっと思っていた事がある。固有防具にはそれぞれその名を冠する何かしらのスキルがあると言う。ならば『名無しの南瓜』にもあるのでは?
結論から言えば有った。『名無しの南瓜』の固有スキルは『
現在の俺のMPはHPの最大値100から1までの差分、99をプラスして199。199×0.5×0.01でおよそ1。なので約1秒間の無効化となる。
幽体となっている間に炎の波動をすり抜け、【エルドゥーク】の頭を射程に捉える。
既に戦闘開始から1時間、トト姉達もかなりのダメージを与えてくれている。だから、これでーー
「チェックメイトだ」
俺が取った唯一の攻撃系アーツ、[ラピッドエッジ] アーツ使用時のプレイヤー速度分、ダメージが上昇するアーツである。
[ラピッドエッジ]のエフェクトを纏った、『灼火刀 種火』が【エルドゥーク】の額を捉える。
『ーー見事』
着地と同時に、後ろで巨体が崩れ落ちる音がして、一瞬の後ポリゴンが辺りに四散した。
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「はあっ、はあっ……勝った……のか?」
辺りに【エルドゥーク】は見えない。しかし、アナウンスが無い。
まさか、ここから何かあるのだろうか。そうしたらもう無理だぞ。
その時、上空から物凄い光量が降り注いだ。
「魔法陣……マジかよ」
そして死を覚悟してーー
「ようこそ、ロータス。よくぞ《愚者》を退けました。歓迎しましょう、新たな英雄よ」
目の前には、おそらく最もアルカディア・プロジェクトで有名な人物、アンナと、その後ろにクララ、見たことのない少女。
そして、レベッカが立っていた。
クララ「次回、エピローグです」