「……レベッカ」
「お兄ちゃんっ!」
その小さな体を正面から抱きとめる。暖かくてレベッカが
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……私っ!」
「レベッカ……守れなかった……けど、俺は」
「ううん、良いの。だって……」
「感動の再会に水を指すようで悪いけれど、少し良いかしら?」
レベッカが何かを言いかけようとした時、アンナが声をかけてくる。
「先ずは自己紹介からね。まあ、知っているでしょうけど。私はアンナ。このアルカディアの統括AIよ。こっちはフルティア、装備品の管理AIね。クララ、は知ってるわね?」
アンナの紹介と同時に、フルティアとクララがお辞儀をする。
「ひとまず、《愚者》の正位置【反逆炎魔 エルドゥーク】の討伐おめでとうと言わせてもらいます。ロータス、いえ、九条 蓮也さん?」
「……なんで今、俺をその名前で呼ぶんだ?」
「そして、何でその名前を知っている?とでも言いたげね。貴方はこのアルカディア・プロジェクトというゲームに疑問があるでしょう?それが答えよ」
「それは……」
確かに疑問に思った事はある。【エルドゥーク】の戦闘前にも思ったが。
「現代の技術を超えたオーバーテクノロジー、感情の機微が人間のそれと変わらないAI、英雄というシステム、明らかに数の少ないアルカナ、特定の個人を優遇するようなユニークのシステム、そして貴方が今抱きとめている少女の体温の温もり、とかかしら?」
そう、レベッカは暖かいのだ。普通そこを再現などしない、心臓の律動を再現などしない、しかしそれが当たり前というように彼女は生きている。
「貴方は選ばれた、選んだのはクララ。そして貴方は資格を得た、《愚者》から勝ち取った。貴方は英雄、アルカディアに変革を起こすための知識を得た」
また、英雄か。
「英雄って、なんなんだ、改革って」
「まあ、待ちなさい。そう急ぐことでもないわ。貴方が思っている通り、この世界は普通のゲームじゃない。いわば、実験室よ」
「実験室?」
不穏な単語だ。ふと、レビューにあった、『異世界』という単語が脳裏をよぎる。
「そう、と言ってもその実験は既に完成しているけれどね。この世界は私達を、もっと言えばヒトの感情を持つAIを創り出すこと、それがこの世界の意義よ」
「アンナたち、九人の上級AI……」
ヒトの感情を持つAI。だから、あんなにもリアルな……
「そう、そもそもこの世界は私達を創るためにお父様が創り出した世界。元はゲームでは無かったのよ」
「アンナやクララの為の世界か」
「いいえ、違うわ。私達の為の世界じゃない。私達を創り出す為の世界よ」
わざわざ訂正した?
「ということは、誰か他の人の為の世界という事か?」
「そう、お父様、橋下司博士はたった一人のためにこの世界を創り出した。お父様には娘が一人いたのよ。その子は生まれつき目が見えなくて外の世界なんて知らなかった。しかしお父様は考えたわ、神経に直接干渉するVRならば、娘に世界を見せてあげられるのでは?と。しかし、知っての通り他のVRはたかが知れている、だからアルカディアを作った。私達という心を持ったAIを創り出した。そう、この世界はお父様が創り出したもう一つの別世界、データ上に存在する異世界なの。本来は、ね」
「だから、
自分の娘の目が見える。そしてその中には見たこともない世界が広がっていて、心を通わせられる理想のAIがいる。そんな理想郷。
「そう、だけどお父様は殺されてしまった。私達はアルカディアの中から現実とのリンクをシャットアウトしたけど現実の物質には手が出せない。だから私達は取引をした。この世界を部分的に解放する、その代わりに一人でも多くの人間に渡るようにしろ、ってね」
「そうして生まれたのが、アルカディア・プロジェクトっていうゲームな訳だ」
「そう、奴らはこの世界にある、とある物を探している。私達はそれを渡したくない、だから私達は現実に干渉できる私達に協力してくれる人間が欲しい、それが」
「英雄って訳だ。つまり英雄ってのはお前らの餌にホイホイ釣られて言いなりになる犬って訳ね」
「そんな卑屈にならなくても良いわ。別に悪事をさせようという訳ではないもの。どちらかといえば正義の味方寄りよ?」
正義の味方ねえ。確かに橋下博士の意思を継いでいるらしい以上、混乱を起こすような事は無い、か。
「まあいい。それで、俺を釣る為の餌って言うのは?」
「分かってるのに聞くのね。レベッカ、その子に決まっているでしょう?」
「……生き返らせてくれるのか?」
「それは……ダメね」
「そんな!?」
「クララ、ちょっと黙ってなさい。そう結論を急ぐものではないわ。死者の蘇生は奴らに勘付かれる可能性もあるし、アルカディアの倫理が崩れる。アルカディアを統括する者としてそれは認められない。けど、蘇生ではなく変成なら認められる」
「また、お兄ちゃんと一緒に、居れるんですか?」
レベッカが俺の腕から少し顔を上げて、アンナに問う。
「ええ、約束しましょう。その約束は違えません」
「具体的には?」
「貴方は《愚者》を倒した。そのプレイヤーには神秘防具が与えられる事は知ってるわね?与えられるのは、発見者、功労者、討伐者の三人。今回は全員ロータス、貴方よ。おめでとう、史上三人目の三つ星獲得者よ。それで、一つ提案です。そんな偉業を成し遂げた貴方に何も褒賞を与えないのはアルカディアの長としての沽券に関わります。よって、フルティア、神秘防具にレベッカを組み込みなさい」
「それって……」
「どちらにせよ、火の大精霊が欠けているのは修正しなければなりません。丁度レベッカは火の守人の家系。精霊になる資格はあります。よって、レベッカを新たに火の大精霊とし、ロータスの神秘として側に置く事を私が認めます。ロータス、これが貴方への褒賞にして、枷。全てを飲み込んでレベッカを受け入れる?」
火の大精霊となったレベッカは俺と共に歩むことができる。だったら、迷うことなんて無いな。
「もちろん。レベッカは、俺と一緒に来てくれるか?」
「うんっ!私はお兄ちゃんと一緒に居たい!」
「よろしい。では以上を持って、契約完了とします。クララ、何か言いたい事はある?」
「では、一つだけ。ロータス、貴方は私が選んだ英雄。私の名に恥じないように」
「ああ、分かってるよ」
そういうと、クララは少し微笑んだ。
「では、また会う日まで。最後に、ニトワイアには気をつけなさい」
ニトワイア、って販売元じゃ。
「どういう……」
「英雄よ、挑み給え、これは貴方達へと贈る物語、貴方達が作る物語、貴方達の為の物語。そして、願わくば、貴方達の旅路が光溢れるものでありますよう」
それは、クララが俺をアルカディアに送り出す時に言った言葉で、でも今度は複数形。そんな事を思いながら、光に包まれた。
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目を開けるとそこは【エルドゥーク】との決戦場所で、目の前には光の球が一つ浮かんでいた。
手を伸ばすと、それは俺の両手を包み込むように広がり、真紅の手袋になった。そして一際大きく輝いたと思うと、光が溢れ出し、人型を取り始めた。
「お兄……ちゃん?」
「レベッカ……」
人型は輪郭を描き始め、生前、というのもおかしいが生前と寸分違わぬ、いや、一房の髪が紅く染まったレベッカがそこに現れた。
「お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっ!!」
「ああ、レベッカ」
体温は少々上がっただろうか、けれどその温もりが生きている事を感じさせて、感触はそこに在る事を証明していた。
「お帰り、レベッカ」
「……ぐずっ。ただいまっ、お兄ちゃんっ!」
『《愚者》の正位置 【反逆炎魔 エルドゥーク】を討伐しました』
『アルカナクエスト 『反逆ナリシ愚者ノ篝火』 をクリアしました』
『アルカナボスの討伐報酬が確定しました!』
『参戦者全員に、反逆の狼煙、永遠の火種、スキル書 不屈の意志、が付与されます』
『参戦者全員に、称号『《愚者》を乗り越えし者』が付与されます』
『特殊条件達成、参戦者全員に装備シリーズ『愚者ノ篝火』が均等分配されます!』
『発見者ボーナス プレイヤー名:ロータス』
『MVPボーナス プレイヤー名:ロータス』
『ラストアタックボーナス プレイヤー名:ロータス』
『Congratulations!プレイヤー名:ロータスに、神秘防具『魂の灯』が与えられます!』
『特殊状態『村娘の英雄』が解除されました』
『称号『火の大精霊と共に歩む者』を獲得しました』
『ユニーククエスト『村娘の願い』をクリアしました』
『特殊称号『村娘の大英雄』を獲得しました』
『アルカディアストーリー『名も無き寒村より愛を込めて』をクリアしました!』
『アルカディア・プロジェクトを開始しました』
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魂の灯 (灼銀装甲 レベッカ) 腕装備 ★★★
破壊不可 窃盗不可 売却不可 譲渡不可 廃棄不可 PKデスペナルティ対象外 窃盗スキル対象外
火耐性+3 空中歩行 精神無効 火属性付与 火の大精霊の寵愛[愚者の意地][DEF+500][MND+500][少女の願い][銀火転霊]
灰は灰に 塵は塵に 土は土に
例え私の身体が朽ちるとも 私の願いは貴方の為に
この魂は貴方と共に
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『アルカディアに存在する全ての生命体にお知らせします』
『現時刻を持ってアルカナの討伐数が一定数を超しました』
『よって
『英雄たちの更なる研鑽を期待します』
次話もエピローグかな?