アルカディア・プロジェクト   作:ムササ

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#26 新しい生活

「うおあ!?」

 

「くぺえ」

 

 ああっ、レベッカが転んだ。

 

「大丈夫かレベッカ」

 

「ぺっ、ぺっ、うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

 口の中に入ったのだろう土を吐き出しながらレベッカは起き上がる。服に付いた土埃を払い落として二人で辺りを見回す。

 

「いやー、にしても……」

 

「……お爺ちゃんに見られたら、怒られちゃうかも」

 

 俺とレベッカを中心に、辺りには焼け焦げたモンスターや燃え尽きて灰になった樹木が大量に散乱している。それどころか地面も焼け焦げており、所々に未だに消えない銀色(・・)の炎が煌々と輝いている。

 それは幻想的であったが、モンスターの死臭や、焼け焦げた肉の匂いで台無しであった。

 

「難しいな、これ」

 

「うん。すごーく強いけど、制御できないね。火の大精霊の力でも扱いきれないや」

 

神秘(アルカナ)の力だからだろうな。クララ達の説明によれば神秘と魔法は別権限らしいからな、大精霊の力でも制御しきれないんだろう」

 

 すると、轟音に睡眠を邪魔された仕返しか、はたまたこの死臭に誘われたのかモンスターがまた大量に現れた。

 

「ふー、また来たぞレベッカ。今度は成功させよう」

 

「うんっ、頑張ろうね、お兄ちゃんっ!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「あ〜、つっかれたー」

 

「お兄、起きた?」

 

 約3時間ぶっ続けでモンスターを狩りまくって疲れたのでログアウトした。時間を見ると午後4時を過ぎた辺りというところ、ということはおそらく花蓮の用事は。

 

「おう、起きたぞ。夕飯の準備か?」

 

「うん、せっかく引っ越した後の初めての夕飯なんだし豪華にいこうよ」

 

「そうだな、花蓮は何が良い?」

 

「んー、ビーフシチューとかどうよ」

 

「いいねえ、材料は……あるわけないか、じゃあ近くのスーパーにでも買い物に行くか」

 

「うん、レベッカちゃんは?」

 

「レベッカなら寝てるよ。ずっと練習に付き合わせてたからな、疲れたんだろう」

 

『魂の灯』の中でぐっすり寝てしまった。

 

「なんだ、一緒に買い物とかしたかったのに」

 

「アルカディアの中でしたんだろ?そっちはどうだった?」

 

「お兄達と別れた後?響子姉に連れられてモンスターと戦ったよ。みんな強いね、ティティちゃんなんか響子姉から驚かれるくらい強かったんだから」

 

「へえ、じゃあユニーククエストもクリアしたのか?」

 

「うん!クリアしたと思ったら次のが出てきたけど」

 

 それは全部のユニーククエストで共通なのか?俺の時もユニーククエストをクリアしたらまた次のが出てきたな。

 いや、それはアルカディアストーリーだったか?確か、『名も無き寒村から愛を込めて』だったかな。ストーリーの進行を考えるに俺とレベッカの事に間違いないだろうが、これも『ラプラス』とやらが名付けてるのかね。

 

「あっ、もうこんな時間。お兄、早く買い物行こうよ、そろそろ混む時間帯だよ」

 

「げっ、本当だ。よし、出よう」

 

 外に出ると、俺たちのアパートの前に引越し業者のトラックが停まっているのが見えた。

 

「あれ?まだ運んでない荷物あったっけ?」

 

「いや、無かった筈だ。ああ、多分隣の部屋だな、ダンボールが積んである」

 

「ほんとだ。どんな人だろうね」

 

「まあ帰ってくる頃には終わってるだろ、そしたら顔見せにでも行くか」

 

「賛成っ」

 

 しかし買い物から帰ってきても引越しは終わっておらず、どうやら今日は隣の住人は違うところで夜を過ごすようだった。

 

「ふう、ごちそうさま」

 

「お粗末さまです。お兄、明日入学式でしょう?早く寝たら?」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 花蓮には悪いが、先に寝かせてもらおう。一番風呂も頂いたので、明日も早いし早々に布団に潜り込んだ。

 その時、枕もとに置いてあったタブレットの画面が突然光り出した。

 

『お兄ちゃん、起きてる?』

 

「ん?レベッカか起きてるぞ」

 

『良かった、あのね。今日はティティちゃんがお夕飯作ってくれたの、ティティちゃんとっても料理上手なんだよ』

 

「それは良かった。やっぱティティがクランに入ってくれて良かったな」

 

『うんっ、それだけ伝えたかったの。じゃあね、おやすみお兄ちゃん』

 

「ああ、お休み。レベッカ」

 

 どうやら俺もレベッカとの練習で体感よりも疲れていたらしく直ぐに意識が暗闇に落ちていくのを感じながら、眠りについた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ふう、やっと終わった」

 

 なんでこう「〜式」というのは長ったらしいのだろうか。別に良いじゃんという事まで長々と話すし、同じような事を毎回言われるせいで余計に長く感じる。もちろん、全部が全部そうとは言わないが。

 

「えっと、この後はサークルの説明会か。その前に和樹(クリップ)に会わないとな」

 

 そう、実はこの大学には和樹(クリップ)響子(トト)姉が在籍しているのだ。というか、響子姉の大学に和樹が付いていったというのが本当だろうが。本人は隠し通せていると思っているのだろうが和樹が響子姉に惚れているのは周りの奴にはバレバレである。会った初日の花蓮に看破されるのだから相当だ。そのくせ響子姉は自分に向けられる好意については鈍感なので気が付いていない。

 一回和樹から真剣に恋愛相談された時は流石に憐れんだよ。

 

「いたいた、ようスーツ似合ってるぞ、蓮也」

 

「うっさい、服に着られてる事くらい自分でも分かってるわ」

 

 そういう和樹は悔しいが女受けの良いイケメンフェイスだ。どんな服でも着こなして見せるのだろう。ロングコートが似合っているのが腹立たしい。

 散りかけの桜の花びらが舞っているのも相まって絵画のようだ。それを見て他の新入生であろう女生徒が黄色い声を上げている。

 

「謙遜すんなって、そんな悪くないぞ」

 

「まあいいや。で?入って欲しいサークルがあるって話だったけど」

 

「そうそう、付いてきてくれ。取り敢えず見学だけでも」

 

 全方位から聞こえる勧誘の声と差し出されるチラシ攻撃を何とかくぐり抜けてたどり着いたのは大学の端も端勧誘する人すらいない寂れた場所だった。

 

「ここだ。響子姉もいるぞ」

 

 案内されたのはいかにも響子姉が好きそうな蔦で覆われた洋館風の建物の一室だった。

 

「ああー、確かに響子姉が好きそうな建物だ」

 

「一目見てここに決めたらしいぞ。交渉して一棟丸々使ってる」

 

 ここを丸々一棟か。あまり大きくないとはいえ、大学の建物を貸し切れるとは、流石響子姉だな。

 

「この部屋だ。響子姉、入るぞ」

 

「なんだ、遅かったな。蓮也、ようこそ『蔦の宮殿』へ」

 

「ここもかよ。本当好きだよな、こういうアンティーク調の建物」

 

「ふむ、我々の原点だからな。今でも覚えているよ、セラフィム・ワールドの初代『蔦の宮殿』になるあの洋館で出会った時のことは」

 

「大型イベントで強制的に組まされた野良パーティーだったな。あの時はこんな長い付き合いになるとは思ってなかったな」

 

 美夜も含めて、全員近くに住んでいて、年も近くて、感性も合って、そんな奇跡は殆ど起こりえないだろう。でもだからこそ、この縁は今でも続いているのだろう。

 

「そういや、ここは何のサークルなんだ?他のメンバーとか見えないし」

 

「非公式だが、eスポーツのサークルだ。主にアルカディア・プロジェクトのだな」

 

「完全に個人の道楽じゃねえか」

 

「ふっふっふっ、そうでもない。知っての通り、最近の世界のトレンドはアルカディア・プロジェクトだ。そこで成績を残す事は十分にサークル活動足り得る」

 

「なーんか、屁理屈っぽいよな」

 

「まあ、非公式なのは確かだ」

 

 まあ言ってしまえばただ単にゲームをするだけのサークルだからな。

 

「それでは新入生一人確保っと」

 

「……俺の意志は関係ない訳ね。良いけどさ」

 

「今日の活動は予定していない。ああ、ちなみにここでフルダイブのVRは流石に危ないので禁止なので悪しからず」

 

「本格的に駄弁ってるだけじゃねえか」

 

「それでは解散。夜にまたアルカディアで会おう」

 

「うい。それじゃあ、さっさと帰りますか」

 

「愛しの妹様に会いに帰るのか」

 

「そうだけど?」

 

「悪びれもしないのかよ」

 

「こいつのは自他共に認めるシスコンだからな、今更我々に何を言われようと別に起こるまでもないって事だ」

 

 はいはい、その通りですよ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 すっかり遅くなってしまった。もう6時だ。春とはいえ、もうすぐ暗くなる時間帯だ。

 

「ただいまー」

 

「おかえり、お兄。ご飯出来てるよ」

 

 ふんふん、カレーのいい匂い、花蓮の好みからして……

 

「キーマカレーか」

 

「正解!そんな貴方にトッピングでチキンカツ」

 

「おっ、いいねえ」

 

 じゃあ早速着替えてっと。

 

「じゃあ頂き……」

 

 ピンポーン。

 まさにベストタイミングて玄関のチャイムが鳴った。

 

「夜分遅くにすみません。今日隣に引っ越してきたのですが」

 

 ああ、引越し終わったのか。にしても、どこか最近聞いた声の様な?

 

「はいはーい。今出まーす」

 

 花蓮がドアを開けると……誰だっけあの人……何処かで見たことあるような……

 

「これ、つまらないものですが」

 

「ありがとうございます」

 

「あっ、カレーですか。いい匂いてすね」

 

「……良かったらお裾分けしましょうか?いっぱい作ったんで」

 

「良いんですか!?引越しで忙しすぎて今日はコンビニて済まそうかと思ってたんです!」

 

「どうぞ、中へ、兄が居ますけど」

 

「ああ、ありがとうございます……あれ?貴方は」

 

 中に入ってきたその女性が予想以上の長身という事に驚い……あっ!思い出した!

 

「もしかして、アルカディア・プロジェクトやってます?」

 

「やってます、やってます!じゃあやっぱり!」

 

「はい、あの時はぶつかってしまいすみませんでした」

 

「いえいえ、あれはこちらが横からぶつかってしまったのでこちらの不注意です」

 

「あれ?お兄、知り合い?」

 

「ああ、といっても名前も知らないけどな」

 

 そう、隣に引っ越してきた女性はティアが組合に登録した日にクリップと歩いていたとき、ぶつかってしまった女性だった。

 

「申し遅れました。私は柳沢 雫(やなざわ しずく)、アルカディア・プロジェクトではシエルの名前でやってます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後にこの日を俺は思い出す。

 多分俺たちはこの日に、あの事件に巻き込まれる事が決定したのだろう。

 

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