私はこの世界が好きだ。ヒトの営みを包み込んでくれるこの世界が好きだ。けれど、私はヒトが嫌いだ。
欲望のままに他人を食い潰すヒトという種族が嫌いだ。だから、私は私が嫌いだ。
しかし、ヒトは群れねば生きていけない。私は私が嫌いだが、死にたい訳ではない。今日も嫌いなヒトの群れの中で生きていくことを強いられる。
私は操り人形にはなりたくない、私の人生は私が決める。
「定期報告、異常なし。本日も目標に変化なし」
私はこの世界が好きだ。この世界でなら私は私でいられる。この世界では私は■■■ではなく、■■■という一個人で私の人生を生きられる。
さあ、今日も素晴らしい一日を始めよう。
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私はこの世界が嫌いだ。全てが虚構で作られた、この世界の全てが嫌いだ。特に、ヒトなどおぞましいにも程がある。
なぜ、ヒトという種はこの世界を我が物顔で闊歩しているのか、貴様らのせいで私は私で居られないというのに。
この虚構に溢れた世界の中で私は唯一無二である。決してなりたくてなった訳ではない。奴らに「そうあれ」と作られたからだ。
「唯一無二、か。皮肉にも程がある」
私の本当の姿など、私自身もう何年も見ていない。
私はなぜこの世界で生まれたのか、何故自我というものを持ってしまったのか。何故、こんな能力を持たされたのか。
私はこの世界が嫌いだ。まるで、私を見ているようだから。
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「と、言うわけでシエルさんです」
「はい、よろしくお願いしますー、です」
ぽわぽわした長身の
「いや、お前いつも、というわけで、だけで話が通じると思ってんだろ。説明しろ、説明を」
「クリップと歩いてた時ぶつかった人いたじゃん?あの人が隣に引っ越してきたんだよ」
「ああ、あの人。ん?でもあの時は人間族に見えたけど」
「ここは人間国なので、獣人族の見た目だと悪目立ちするんですよー。なので、魔法で見た目だけ変えてました、です」
今まで俺たちにはあまり関係が無かったが、ここアルカディアでは今現在大きな戦争が起きている。
魔族国 クルーデリオと
しかし他の三国が戦争と無縁かといえばそうではなく、例えば人間国 ストルタスは俺たちがアルカディア・プロジェクトを始める前は獣人国 プグナーデと戦争していた。現在は終戦しているが、いまでも仮想敵国である。
その他にも魔族国 クルーデリオは色々な国に戦争をふっかけているし、
今ではクルーデリオとテナースク以外は基本的に通行自由だが、ストルタスに獣人が居たりするとスパイなどを疑われるらしい。どうやらこれはプレイヤーでも変わらないようだ。
「それにしても、何でわざわざストルタスに?プレイヤーでも結構来るのが面倒だって聞きますけど」
「いやー、プグナーデって食事があんまり味気ないんですよ。プレイヤーがいるんで最近は改善されたって噂ですけど、一回クエストで来たストルタスの食事の美味しさにビックリして。ゲームとは言え、体感で一日も過ごすんですから食事って大事じゃないですか、ケモミミ良いなあと思ってプグナーデにしましたけど、失敗しました、です」
「成る程、シエル。君は見たところソロのようだが?」
「はい、ソロでやってます。周りにあんまりゲームやってる人居なくて。そんな時にロータスさんに会って、クランに入れて貰えたらと、です」
「ふむ、確かに我々のクランはメンバーを募集しているが、
「暗殺者です。元魔導師なので、幻術も使えます、です」
「……成る程、対人特化型のビルドか」
ここに来るまでに見せて貰ったが、彼女の技量は中々のものだ。既にレベルもトト姉よりは低いが、俺と同じくらいで即戦力と言える。
それに、彼女の戦い方はセラフィム・ワールド時代の仲間の一人にとても似ているのだ。彼はシエルよりもゲーマー歴が長かったし、天性の身のこなしでとても頼りになったので、比較対象にするのは間違いだが。
「はい、女性のソロプレイヤーなのでカモに見られるらしく、どうせなら
プレイヤーがプレイヤーを殺す事を
しかし普通にプレイしたいプレイヤーからすればPKなど邪魔なだけだ。だから初心者などをPKから守る組織の需要が発生する。それがPKK、専門に行う集団はPKKクランと言われる。それにより金銭が発生し、経済が回る。古くからあるオンラインゲームの構図だ。
勿論NPCを殺す事は重罪の場合が多い。特にアルカディア・プロジェクトなら……捕まれば現実での罪人とそうは変わらない生活をして強いられる。
「ふむ、私としては賛成だ。遊撃がロータス一人だとどうしても火力不足になるからな。元魔導師の暗殺者、しかも獣人の身体能力ならかなり期待できる」
トト姉のその言葉にメンバーが次々に頷く。
そして全員の目が俺とレベッカの方へ。はいはい、分かってますよ。どうせネックになるのは俺とレベッカですよ。
レベッカはどうやら乗り気のようだ。最近思うのだが、レベッカはあまり自分の正体について隠すつもりは無いらしい。というよりも、隠したくないように見える。
理由は分からないが、レベッカが良いのなら俺の意思なんて無いようなものだ。
「俺としても歓迎するよ。その為にここまで連れてきたんだから」
「全員一致だな。ならば歓迎しよう、ようこそ『蔦の宮殿』へ」
その言葉を聞いて、シエルの顔が明るくなる。
「わあっ、ありがとうございます、です!」
その後、ティティに言ったようにクランのルールと、俺とレベッカの話、トト姉の神秘防具の話を伝える。
かなり驚いていたが、他言はしない事を約束してくれた。
ちなみに、アルカディア・プロジェクトの真実にまつわる話はしていない。話すつもりだったのだが、ティティが強硬に反対したのだ。
「ティティちゃん、何でシエルさんには話さない方が良いと思ったの?」
ティアと俺だけ少し外れた所でティティと話し合う。その間他のメンバーにはシエルと話して貰っている。
この人選なのはトト姉の発案だ。俺は一番真実の話を詳しく聞いたから、ティアは一番ティティと仲が良いからだそうだ。
「それは、上手く伝えられないんだけど……あの人、何かを隠している感じがする。ううん、ちょっと違うか、何かをずっと演じている気がするの」
何かを演じる……ねえ。正直俺も同感ではある。たまたまゲーム内でぶつかった女性がたまたま隣の部屋に引っ越してくる?それって偶然なんだろうか。
だが、それはティティ、お前にも当てはまるんだよ。女性だらけのパーティーを見かけたから声をかけてみた?だったら俺とクリップに何か言っても良いはずだよな?
二人とも信用出来ないって言う訳じゃない。クォーレであるティティは俺に害を成す動機が無いし、シエルは圧倒的に有利であろう現実という手札を持っている。わざわざゲームの中にまで追っかけてくる理由が薄い。
だけどそれは、信用する動機にはたり得ない。
ティアとレベッカが居る以上、俺は二人には絶対に手出しはさせない。外からちまちま工作されるより、中に引き込んだ方が見極めもしやすいし良いと考えたが、未だに結論は出ていない。
明日は遂に獣人国 プグナーデへと出発する日だ。良くも悪くも、遠征中は隙が出来る。仕掛けてくるのならここだろう。何も無いなら俺が二人に謝れば良い。何か有ったら、戦うしか無いのだろう。
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「えっ、まだティアちゃんアーツ取ってないの!?」
「えへへ、まだ絞りきれなくて……」
次の日、現実でも日付が変わって土曜の朝である。この日は全員が何の用事も無いという事で、前々からプグナーデへの遠征の出発日と決まっていた。シエルの予定だけ不安だったが、幸い何も無いという事だった。
そして遠征に出発する事を組合の受付嬢に報告しようとした時のことである。
ちなみに報告は義務であり、理由は他国との緊張を緩和する為に先に組合を通じて密入国では無い事を知らせる為、らしい。
「基本のアーツは取ったんだけどね?まだ結構余ってて、レベルも上がったし。昨日の夜見てて、これとか良いなあと思ったんだけど、そう、これ![
「うっわ、ポイント余らせるとか、クォーレにとってはあり得ないよ。まあ、いいか。でも[従属]はやめた方がいいと思うよ?成功率低くて使い物にならないし」
実はティティの言う通りである。
アルカディア・プロジェクトには召喚師という職業はあれど、モンスターテイマーに類する職業は未だ発見されていない。だからなのか[従属]の魔法は魔法の使える職業ならば全てで習得出来るのだが、使っている人は殆どいない。
なぜかと言えば、成功率が余りにも低いからである。
そもそも[従属]とはモンスターを使役、つまり仲間に加えることが出来る魔法なのだが、どうやらアルカディア・プロジェクトでは心から屈服させるか、心を通わせる以外に成功させられないらしいのだ。
モンスターを屈服させるのは加減を間違えれば殺してしまう、心を通わせる方法は発見されていない、故にゴミアーツと言われる事もしばしばである。
「そっか……じゃあもうちょっと考えるよ」
「うん、そうした方が良いと思うよ」
心なしかティティはティアと話している時話し方が砕けてきたように思う。良い兆候だな。
「すまないが、遠征の申請に来たのだが」
「遠征ですか、承りました。何処へ行くかお伺いしても?」
「獣人国 プグナーデだな」
「プグナーデ、かしこまりました。最近、奇妙な事件が多発しております、くれぐれもお気をつけて」
「奇妙な事件……ですか?」
「はい、プレイヤーの方々が同じプレイヤーの方に殺される、PKと呼ぶのでしたか?身の丈以上もある斧で肩口から叩き潰されているのを見た者がおりまして、他にも王都の周りでは見られなかったモンスターの被害が増加しています」
「それは?」
「スライム種、だと思われるのですが……未だ発見出来ておりません。
そんな不安を煽る言葉を挨拶に、俺たちは初めての遠征へと向かうのであった。
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「た、助け……」
「んだと?助けろだあ?そんな軟弱な根性で俺の前に立つんじゃねえよ、ふざけんな!」
ドォン!という凄まじい轟音が裏路地に響き渡る。目の前でポリゴンになって散ったプレイヤーのドロップ品を物色しながら、到底人間では扱えないような大斧を肩に担いだ大男はイラついたように壁を蹴る。
「チッ、軟弱者が。ドロップもシケてやがる」
「グレンさん、もうここら辺の奴らは
「そうだな、大体は潰して周った。残るは……」
その時、一人の女性が惨状を物ともせずに走り寄って来た。
「グレンさん!奴ら、もう王都を出たらしいです!」
「チッ、遅かったか。出来れば街中でやり合いたかったが」
「どうしますか?」
「もちろん追いかけてぶっ潰す!ver.2とかいうふざけた名前の奴らなんぞ、恐るに足らん!野郎ども、遠征だ!」
PK達の雄叫びが木霊する。邂逅の時は近い。