アルカディア・プロジェクト   作:ムササ

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#29 ナフタにて

「えっと……」

 

「簡単、だったね」

 

結論から言えば、あまりに過剰火力だった。という事だろう。目の前には瞬殺された哀れな銀色ゴリラの残骸のポリゴンが僅かに残っている。一応ボスモンスターなので何かしらが確定ドロップするのだが、今回はポーションのようだ。いや、まあ確かに初心者(ノービス)がボスモンスターを倒した後には重宝するだろうけどさあ……

 

「一応、もらっておこうか。あって困るものじゃ無いし」

 

そう言ってティアがポーションをインベントリにしまう。ネオンはLvが上がったことで俺たちのHPを全回復させて有り余るほどのMPを持っている。正直、詠唱の時間を考えてもポーションの価値は低い。即座に使えるので緊急時には意外と侮れないのだが。

 

「ふむ、流石に楽勝か。しかしほぼ一撃だったな」

 

トト姉の言う通り、戦闘は一瞬で終わっている。ティアがレベッカとティティに攻撃力増加の付与をして、シエルが背後から奇襲をかけてエルダーエイプを振り向かせ、背中にティティの矢とレベッカの魔法が直撃、それで終わりだった。

しかも矢が貫通した所に爆発が重なったのでエルダーエイプのポリゴン化が間に合わず、微妙にではあるが血肉か飛び散った、直ぐにポリゴンに置き換わったが、それでも少々グロテスクであった。

オーバーキル過ぎて当人達の方が唖然としていたくらいだ。

 

「ま、まあ取り敢えず?ボスも倒した事だし、これて森を通りぬけられるんだよね?」

 

「うむ、それでは一度クランハウスまで戻って馬車を取りに行こう。安心しろ既に準備はしてある。この人数だから大型なので少々値段は張ったが」

 

「えっ、二台じゃ無いんですか!?男の人も居るんですよ!?」

 

「ふむ私としては長年の付き合いだし、別に気にする必要も無いと思うが」

 

「わ、私もロータスさんとクリップさんなら……」

 

「うーん、クリップさんはともかくお兄ちゃんなら平気だよ?」

 

「お兄とは兄妹だし、クリップさんはともかく」

 

「私もお隣さんですし、気にしませんよ?クリップさんはともかく、です」

 

「えー……そういうものかな……」

 

そんな事より隣がヤバイ。なんというか、どんよりオーラが出てる。

 

「ともかく……ともかくって、何だよ」

 

「まあまあ、トト姉とネオンはリアルでも付き合いあるけど、他はまだ付き合い浅いじゃん」

 

「まあ……良いんだけどさ、やっば凹むわー」

 

結局、流石に夜はモンスターなどの警戒も解くわけにはいかないので、俺たち男性は馬車のとなりで野宿、何人か偵察のために交代交代で起きていることになった。

 

「うわあ!!でっかい!でっかい馬だ!」

 

クランハウスに戻るとそこには確かに馬車が止まっていた。それを引くのはレベッカが興奮している通り、二頭のかなり大型の馬である。というか、これ軍馬じゃね?

 

「紹介しよう、マックスシュバルツ号と赤虎馬(せきこば)だ」

 

「ネーミング!!」

 

ダメだ、トト姉に何かの名前を考えさせるとうちのクランが変な集団になってしまう。ただでさえ蔦の宮殿 ver.2とかいう変な名前なのに。

 

「マックスは英語だし、シュバルツはドイツ語だ、それより赤虎馬て、それを言うなら赤兎馬だ」

 

「兎だと弱そうではないか。それにマックスシュバルツ号までで名前だ間違えるな、可哀想だろう?」

 

どうやら黒毛の方がマックスシュバルツ号、赤茶色の方が赤虎馬のようだ。

 

「そんな名前を付けられたこいつらの方が可哀想だよ……」

 

例によって撤回出来ないし、まあver.2の衝撃の方が酷かったからまだマシだけどさあ。てか弱そうって……たしかに兎より虎の方が強そうだけどね。

 

「まあまあ、馬車の内装も凝ったんだ、ちょっと見てくれ。これから先私たちのクランを支えてくれる仲間だぞ」

 

馬車の外観は少なくとも変なものでは無さそうだ。シンデレラに出てくるカボチャの馬車に似ている。色は白いが。

 

「中には『拡張』の魔法がかかっている。そのオプションは高かったが、そうでもしないと全員乗れないからな」

 

『拡張』の魔法はその名の通り効果範囲内の空間の体積を広げる魔法である。魔法が生活に広く浸透しているアルカディアではかなり重宝される魔法で、『圧縮』や『収納』、『浮遊』に並び習得すれば食うに困らないと言われる魔法らしい。

プレイヤーでも習得している者が居る魔法で、主に戦闘ではなく生産系の職業のプレイヤーが多いらしい。

馬車の中は10人程入っても余裕があるほどのスペースが確保されており、大型のソファが対面に設置されている。装飾は豪華……とは言いがたく、よく言えば質実剛健、悪く言えば地味である。

 

「いや、でもこれ誰が運転するの?少なくとも私は経験無いよ?」

 

「あー、良ければ私がやりましょうか?昔ですけど何度か行者をした事があります」

 

ティティがあーでもないこーでもないと話している中手を挙げてくれなかったら行者がいないという馬鹿げた理由で移動できなくなるところであった。

そんなわけでバタバタしながら俺たちの初めての遠征は始まった訳である。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

およそ現実の時間で8時間、アルカディア内の時間で1日。幾度かのモンスターの襲撃を挟み、一度の野宿を経てようやくナフタの町に到着した。この間一度強制ログアウト対策の為にログアウトを挟んだのだが、幸い馬車にログアウト地点が記録されているらしく、一回一回止まらなくて良かった。

さて、ナフタの町であるが王都であるエターリアと比べれば小さい町だが、それでもこの国の首都に近いだけあってまあまあな賑わいである。

 

「さて、みんな狭い馬車で体も窮屈だっただろう。ここで一旦休憩にしよう。1時間後にまたここで集合だ、遅れずに集合すること」

 

そんなトト姉の言葉で一旦解散となった。そんなトト姉とネオンは体が疲れたから一旦ログアウトすると言っていた。クリップは新しい魔法を見てみるとかなんとかで一人で魔法系の組合に行ったらしい、なんでも有名なプレイヤーが来てるのが見えたとかなんとか。シエルは現実での知り合いに会いに行くと言っていた。

そんなわけで残された俺とレベッカとティア、ティティは四人で市場をうろついていた。

 

「おう兄ちゃんそんな美人さんばっかり引き連れて、羨ましいねえ!どうだい?甘くて美味しいイゴの実だよ!可愛い嬢ちゃん達に買ってやりな!」

 

通りを歩いてくるとそんな声をかけてくる果物屋のおじさんがいた。どうやら俺に言っているようだ。いやでも別に引き連れてるわけじゃないし、3分の2が妹なんだけど。いや、それより、

 

「おっちゃん、イゴの実ってあの皮が凄え硬いやつ?」

 

「そうだが、そんな事を聞くって事は兄ちゃんプレイヤー様ってやつかい?なんだ、森で落ちてきたイゴの実にでもぶつかったか?」

 

「いや、キラーモンキーに投げつけられた」

 

忘れもしない、俺の初戦闘の時だ。あの時はキラーモンキー一匹に随分と手こずったものだ。

 

「奴にか、そりゃあ災難だったな。奴らは使えるものなら何でも使うからな。頭が良いからたまに討伐依頼とか出てやがる。俺らにとっても迷惑な輩よ。よし、厄介者を倒してくれたサービスだ半額で良いぞ!」

 

「結局金は取るのかよ」

 

「はっはっはっ、そりゃあこっちだって商売だからな。ほれイゴの実4つで銅貨4枚だ」

 

「どーも」

 

「おいおい兄ちゃん、8枚じゃなくて4枚で良いって言ってんだろ?」

 

「いや、良いから。その代わりここ最近で気になる噂とか無かったか教えてくれない?」

 

果物屋のおっちゃんによると最近特段変わった事は無かったとのことであった。そんな事を繰り返しながら市場を噂を集めながら散策する。それでも特別に変わった事は無かった。

 

「んー、アルカナが現れる予兆は無いねえ」

 

「私たちの時みたいな大精霊様のお告げとかが有れば楽なんだけどね」

 

「今はレベッカが大精霊だろうに」

 

「そうだった!」

 

「ほらほら、馬鹿やってないで、そろそろ1時間経つよ?」

 

「そうですよ、もうすぐ戻らないと」

 

確かにウインドウに備え付けの時計を見ればアルカディアの時間で1時間が経とうとしていた、そんな時である。

 

「ちょいとそこのお兄さん方、寄ってかないかい?」

 

路地裏の方から女性の声で呼び止められた。目深くフードを被っているので顔はよくわからない。

 

「貴女は?」

 

「私は……そうね、アシミナと名乗っておきましょうか。占い師をしているわ、貴方と同じプレイヤーよ」

 

「占い師?ゲームの中でか?珍しいな」

 

「まあ職業(ジョブ)も『占術師』だからね、副業みたいなものよ」

 

『占術師』か、かなり珍しいジョブだな。確か、魔道士系の特殊変化ジョブだったか。転職条件が厳しくて人口が少ないとか書いてあったな。

 

「貴方、相当変なものを抱え込んでいるわね。運命が捻れに捻れているわ」

 

「……何もしていないように見えるが?」

 

「こんなの見なくても分かるわ……と言いたいところだけど、占術師の効果よ、偶に見えるの。貴方相当酷いわよ?ぐねぐねに捻れてる、こんなの見たこと無いわ」

 

まあそうだろうな。なりたくもない英雄なんてものにされてしまったし。それより、占術師ねえ。確かにそんな効果があるとは聞いたことがあるし、クォーレを仲間に入れる際には重宝するとも聞いた事がある。

 

「そうか、気をつけるよ。俺だって楽しいゲームライフを送りたいからな、大手クラン同士の面倒ごとにでも巻き込まれたらたまったもんじゃない」

 

「私もそれをオススメするわ。あとは、そうね……周りをよく見て、背中を預けた人を信頼することね」

 

「それは占い師としてのアドバイスか?」

 

「女の勘よ、だからお題は要らないわ。呼び止めて悪かったわね、じゃあまた(・・)会いましょう」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

行ったか、ああそうそう、忘れるところだったわ。

 

「ああ、それとそこのお姉さん、そうそう貴女よ」

 

「私?」

 

「そう、貴女よティティ、ああこの呼び方は適切ではないわね。ティティリエル(・・・・・・・)

 

鏃が喉元に突きつけられた。怖い怖い。

 

「どこでその名を知った」

 

「さあ?占いで知ったのかも知れないわよ?どこでだっていいでしょう?」

 

「何が目的だ」

 

「貴女への協力。利害は一致するはずよねえ?」

 

「何?……成る程、貴様は奴らの回し者か」

 

「回し者というかそのものだけどね」

 

「いいのか?そんな簡単に自分の正体を明かして」

 

「いいのよ、どうせ誰も信じやしないわ」

 

「まあいい、ならば邪魔はするな。手伝いなどいらん」

 

そう言って踵を返してしまった。振られちゃったわね。

 

「どうする?」

 

ちっ、いきなり影から現れるなといつも言っているのに。いきなり男が現れたら幾ら何でも不自然でしょう。

 

「どうするも何も計画に変更はなしよ。予定通り、けしかけるわ」

 

「邪魔するなと言われていたようだが?」

 

「いいのよ、するなと言われたらしたくなるのが人間ってものでしょう?」

 

さあ、私と遊びましょうロータス。クララの英雄にしてセラフィム・ワールドの『剣舞騎士』、私たちを止められるものなら止めてみろ。

 

 

 




アンナ「ちなみにアシミナは私達じゃないわよ」
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