アルカディア・プロジェクト   作:ムササ

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#30 旅路、出会うは

「これが古代遺跡アルサマ、すっごいね」

 

 レベッカの言葉がみんなの心情を表していた。それほどまでに目の前に広がる光景は現実離れしていた。ゲームの中でそんな事を言うのもなんだがそうとしか言いようがない。

 遺跡が空中に浮いているのは語彙力を奪うのだ。

 そう、古代遺跡アルサマは空中に浮かぶ巨大な遺跡群の総称である。村一つ分程の面積が地面ごと空中に浮かび上がっている光景は聞いたことがあったとしても始めてみる者の心を奪うだろう。

 

「ようこそ皆さま、観光でしょうか?」

 

 もちろん空中になど簡単には行けないし、行けたとしても許可なく登れば犯罪になってしまう。中に入るには受付から正式な手続きに則って入らなければならない。

 

「いや、転移門の使用で来たのだが」

 

「成る程、転移門の使用には然るべき団体からの許可が必要なのですが、許可はお持ちですか?」

 

「探求者組合に申請を出している、トトの名前で申請しているはずだ」

 

「では、この板に手を乗せてください……はい、確認致しました。探求者クラン『蔦の宮殿 ver.2』の皆様、合計八名様、探求者組合より正式な許可が降りています。話を通しておきますので、お手数ですがまた転移門付近の受付にもう一度同じ作業をお願いいたします。では、良い旅を」

 

 受付の所にあったゲートが開く。その先は光に包まれており、先を伺い知ることは出来ない。

 

「これは転移門の技術を流用した小型転移門です。技術的にこの付近でしか使えない上に、あまり大人数での使用は出来ないのですが。門の先はアルサマの入り口になっております。あまり勢いよく入られますと先が狭いのでぶつかる可能性がございますので、ご注意を」

 

「ええ、ありがとう」

 

 トト姉に続いてネオンとクリップ、それにシエルとティティはすぐに光の中に入っていった。おそらくあの四人は使った事があるのだろう。

 初めて見る転移門は見た感じ光の膜という感じで手で触れてみても何か感触があるわけでもない。手の先をバタバタさせてみても空気を掴むばかりで恐らく出口の空気を掴んでいるのだと思う。潜り抜けるとすぐに空気が変わったのが分かった。アルサマが上空にあるからだろうか、気圧の変化で少し耳に痛みが有ったがそれだけだ。

 すぐにティアとレベッカが光の中から現れた。するとすぐに光は小さくなり無くなって何の変哲も無い石造りの壁があるだけだった。

 

「うわあ! 凄かったねお兄ちゃん! 私転移門って初めて!」

 

「ああ、なんかもっと変な感覚がするとは思ってたけど一瞬だったな」

 

 そんなことをレベッカと話しながらトト姉達に続いて小さな部屋から出る。そこには沢山の人と時代を感じさせる大きな石造りの遺跡が悠然とそびえ立っていた。

 

 

 ──それは遺跡。黙して語らず、けれど雄弁に物語る。その生き様を、時代の移り変わりを、自らの使命を。名をアルサマ、其はこの国の歴史を刻む生き証人。

 

 アルカディア ガイドブックより抜粋──

 

 

「ねえ、お兄ちゃん……ここってさ」

 

「レベッカも思ったか? いや、当然かレベッカは俺より何度もあの遺跡に通ってるんだもんな」

 

「うん。ここ、多分だけど大精霊を祀るための遺跡だ。ううん、だった、かな」

 

 そう、似ているのだ。レベッカが守人を務めた火の大精霊の遺跡に。しかしレベッカの言う通り、過去形だろう。大精霊がいるなら存在が認知されていて然るべきだし、守人の一族も居ない。さらに言えば、朽ち過ぎている。あの遺跡よりももっと昔の遺跡だろう。

 

「何か感じるか?」

 

「ううん、何も。私がなりたて(……)だからかは分からないけど、少なくとも私はなにも感じない」

 

「うーん、関係無いのか? 建築様式が似てるだけか?」

 

「分かんない、でも今は先に進んだ方が良いと思う。今ここで何かある気はしないかな」

 

 精霊としての勘、とでも言うのだろうか。レベッカは火の大精霊になった日から精霊としての能力に目覚めつつあった。大精霊はクララ達が魔法の管理の為に生み出した世界の機構だと言っていた。ならばレベッカは今、世界の真実に最も近い存在なのかもしれない。

 いや、もう一つあったか。アルカナもそうなのだろう。【エルドゥーク】は戦う際に「試練を与える」と言っていた。それにAIとも話していたようだ、彼らもまた世界側の存在なのだろう。

 

「おーい、ロータス、レベッカ、置いてくぞー」

 

「ああ、すまん。行こう、レベッカ」

 

「うん!」

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 また転移門の所に居る受付の人にさっきの手順を一通り繰り返すと、遺跡の一番奥の部屋に通された。

 

「ここが転移門になります。それでは皆様、地面に書かれております円の中にお入り下さい」

 

 言われた通りに俺たちは円の中で待つ。それを確認してから案内をしてくれた人が近くの装置を操作すると円が光り始めた。

 

「では、良い旅を」

 

 円が光ったまま上がり、俺たちを囲むように一際大きく輝くと、今度は石造りの綺麗な場所に立っていた。

 

「ここは?」

 

「城塞都市ボランレー、その中央に位置する神殿の一室、です」

 

 シエルの言葉を裏付ける様に直ぐに神官の姿をした男の人が二人やってきて、外は案内してくれた。

 ボランレーは城塞都市の名が付いているように外周が高い壁で囲まれている都市である。それはもはや中で暮らせるレベルで整備されており、壁というより砦に近い。

 何故こんなにも過剰とも言える防衛措置を取っているのかと言えばここが国境付近である事が影響している。前に話した通り人間国ストルタスと獣人国プグナーデは戦争状況にあった。ストルタスの最前線は常にこのボランレーであり、プグナーデと小競り合いを繰り返し続けるたびにボランレーは拡張に拡張を続けた。それが長い年月を経て今の城塞都市になったのだ。

 

「よしここからは馬車も無いが、目的地まではあと少しだ。取り敢えず今日中にはプグナーデに着いておきたい、あまりボランレーには滞在出来ないがなにかやりたい事はあるか?」

 

 馬車はアルサマの麓で預かって貰っている。馬は転移門が苦手らしく潜ろうともしなかった。というより人類以外は転移門を潜ろうとはしない。そのおかげでモンスターも通らず、安全に運用することが出来るのだ。

 トト姉の質問に誰も答えなかったのでリスポーン地点の登録の為に宿屋だけ取って、ボランレーはすぐに出る事になった。

 

「うーん、やっぱりちょっと買い物すれば良かったかなぁ」

 

「言えばトト姉は止まってくれると思うけど?」

 

「ううん、でもいいの。今度ゆっくりお買物しようね、お兄ちゃん」

 

「ああ、そうだな。このクエストが終わったらゆっくり買い物でもしようか」

 

「うんっ!」

 

 ボランレーは国境付近という事で様々な文化が流入している。その上大きさだけで言えばストルタス第二の都市だ。エターリアでは買えないものが大量にある売っていた。歩けばプレイヤーズメイドの防具や武器がちらほら売っているし、店を持っている人もいる。

 ここならばレベッカの欲しいものも、俺の防具も見つかるだろう。まあ俺の防具はあまりまだ必要とは思わないが。

 見ればティアとティティが二人で店売りのアクセサリーを見ている。まあ買う気は無い様ですぐにトト姉達の方は戻ってしまったが。

 

「お兄ちゃん、嬉しい?」

 

「うん?」

 

「ティアお姉ちゃんと一緒に旅が出来るの」

 

「そうだな、嬉しいよ。正直二人で長旅なんて夢物語だったからな。それにレベッカとかみんなと一緒なのも嬉しい。ティアは明るい声だけど、同年代の友達と外で一緒には遊べないからな、こんなにたくさんの人と団体行動出来るとは思ってもみなかった」

 

 あの台風の日から俺はどうやって花蓮に償えばいいのかずっと悩んでるいた、けどその悩みは他でも無い花蓮とレベッカの二人によって晴らされた。

 アンナにアルカディア・プロジェクトが目の見えない橋下博士の娘がのために作られたと聞いた時、それなら花蓮だって。と思った。

 花蓮がティアとしてこの世界を自分の足で歩いている、それだけで俺はこの世界を守る理由になっているのだろう。そこにさらにレベッカの生きる世界である。ならば俺は英雄()にだってなってやろう。この二人の笑顔を見せてくれたこの世界を守る為に必要ならば。

 

「ふふっ、頑張ろうね。お兄ちゃん」

 

「そうだな、レベッカ」

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 ボランレーを出て、少しすると国境である。地球のように国境がわかりやすく引いてある訳ではなく、ボランレーの北の森からプグナーデと決められているだけだ。

 よってその近くには監視塔がたくさん建てられており、兵士の巡回も行われていた。一応休戦状態であるので物々しい雰囲気では無いのだが、緊張感は肌で感じることができる。

 探求者は国境に縛られないため、素通りする事ができるが両軍の兵士から監視されながら通り抜けるのは正直あまり良い気分では無かった。

 

「ふう、どうやら監視もいなくなったようだな」

 

 森に入って暫くしてからプグナーデ側からとみられる兵士が行なっていた監視も無くなった。怪しい素振りを見せなかったのもあるだろうが、それよりシエルが変装を解いたのが大きいだろう。怪しい一団から獣人を加えた探求者の一団になったのだ、信用度は如実に変わる。

 レベッカという子供がいるのも大きいだろう。何かのクエストだと思ってくれたのかもしれない。そのレベッカはシエルの大きい狐の尻尾に捕まって楽しそうである。

 

「確かこの近くに村があったのでそこで情報収集をしましょう」

 

 プグナーデ出身のシエルがいると他国でも動きが取りやすい。基本的にその国の地図はその国でしか売っていない上に、その国の長の種族以外が合法的に手に入れる事は難しい。もちろん現実のネットなどで見ることは出来るが、アルカディアの中には持ち込めないので覚える必要がある。

 

「ああ、わかった……伏せろレベッカ!」

 

「え?」

 

 振り向いた瞬間、最後尾を歩いていたレベッカの後ろから真っ直ぐに矢が飛んでくるのが見えた。直ぐに走り出したが、間に合わないっ! 

 

「ふっ」

 

 しかしその矢はレベッカに当たることはなく、ティティの放った速射の矢が撃ち落とした。

 

「何者だ!」

 

 トト姉の言葉には返答は無く、代わりに大量の魔法が森の奥から飛んできた。

 

「ちっ、逃げるぞ。私が殿(しんがり)を務める。ロータス、手伝ってくれ」

 

「了解!」

 

 

 

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