「くっそ、ちまちまと面倒だ!」
「左から来てる!」
「行かせるかっ、ての!」
かれこれ五分程何者かに追われ続けている。この時点でわかったいる事は、少なくともかなりの数に襲撃されている、プレイヤーがかなりの数いる。という事である。
飛んでくる矢や魔法の数で人数が多いのは分かるし、魔法が使える獣人は適正の関係上クォーレには殆ど居ない。そこの所プレイヤーは適正を自分で割り振れるので、関係が無い。獣人国にいて、獣人以外のクォーレが襲撃をかけてくる理由はほぼ無いので、この二つは正解だと思われる。
と、それまで絶え間なく続いていた矢と魔法の雨がスパッと止んだ。
「どうやら……罠だったようだな」
前を走っていたレベッカ達が木を切って作られた広場のような所で立ち往生しているのを見て、トト姉が呟く。
「ごめん、お兄。囲まれてるっぽい」
「いや、最初から狙われてたんだ。無理もない」
ティアが謝るが、それは見当違いである。流石にいきなりここまで高度な連携で襲撃を仕掛けられてはある程度苦戦するのは当然だ。これは相手を褒めるべきだろう。
「しかしマズイな。ここでもし殺されたら、クエストには間に合わんぞ」
「しかもティティが居る。流石にプレイヤーがクォーレを殺す事は無いだろうが、一人で放り出す事になる」
包囲が完成して、ジリジリと追い詰められる。どうやら矢では殺さないと思ったようで、何人も森から出てくる。プレイヤー名が隠匿中になっている上にその文字が赤い。PKで決定だな。
プレイヤー名は基本的に他のプレイヤーに見られたら筒抜けになるが、「隠匿の札」というアイテムを使うと隠匿中という表示になる。プレイヤー名が赤くなるのは何らかの犯罪行為やPKをしたりした場合だ。これも「隠匿の護符」というアイテムで通常に見せかける事はできるが、今の人里離れたこの場所なら必要ない。なので下位互換だが、その分値段も安い、札の方にしたのだろう。
「くるぞ、全員攻撃より防御を考えろ! 乱戦になれば大規模な魔法は使えん! なるべく一人にはなるな、背中を見せれば死ぬぞ!」
トト姉が叫んだ瞬間、大量のPKが突っ込んできた。俺とトト姉だけは一人でもどうにかなるのでなるべく相手を散らす為に逆方向に走る。他のメンバーは後衛職を中心にして背中合わせで迎え撃つ事にしたようだ。
「レベッカ! 一緒に行くぞ!」
「うんっ、お兄ちゃん!」
レベッカの本体は『魂の灯』だ。単体でも活動出来るが、一番強いのは『魂の灯』と一体になっている時。一体になっている時は俺の背中に背負うような形になるが、レベッカは自分の意思で魔法を放つ事は出来る。俺自身は魔法を使えないが、レベッカがいれば移動砲台の役目も果たせるようになる。
斬りかかってきた相手を『灼火刀 焔』で押し返し、仰け反った所をレベッカの撃った『ファイアーボール』の魔法が直撃した。
「クソが!」
それをみて悪態をついた相手が仲間を燃やしたレベッカに向けて剣を振るうが、
「何っ!?」
「ベーっ、だよ」
大精霊たるレベッカの体は陽炎のように揺らめいて傷一つ負わない。本体が『魂の灯』である以上、実質的にレベッカのHPは無限である。その上普通の攻撃では大精霊に傷をつけることすら出来ない。
驚きに硬直した体は直ぐに斬り伏せられた。
「よう、やるじゃねえか。カボチャ頭さんよお」
前からかなりの巨躯の男が身の丈以上もあろうかという大斧を担いで歩きながら、声をかけてくる。顔はフルフェイスの兜で隠されていて見えず全身は赤色の鎧で隠されているものの、かなりの強者に見える。
「頭領」
「俺がやる、お前らは他の奴らに向かえ」
頭領。こいつが相手の親玉か、ならこいつを倒せば撤退するか?
「さあ、殺し合おうぜ!」
「ぐっ」
赤鎧の男の振り下ろした斧はその見た目通り、かなりの重量のようで一撃を何とか横に逸らすだけでかなり消耗した。
「ほう、防ぐか。ならこいつでどうだ!」
横薙ぎを何とか後ろに下がって回避、がら空きの胴体に一撃入れる。しかし、赤鎧はかなりの業物らしく、弾かれてしまった。
「くそっ、硬いな」
「んあ? その刀、火の属性が付与されてんのか、面倒だな」
その通り、『灼火刀 焔』には『魂の灯』のスキルである[火属性付与]の効果が乗っている。しかし金属鎧には効きが悪い。
何とか兜を飛ばして顔に一撃入れるしか無いか。
「[ファイアーボール]!」
「おっと」
レベッカが頭に向けて魔法を放つが、両手でガードされてしまう。
だが隙は出来た。
「[モーメントサイト][クイックムーブ]」
体感時間が引き伸ばされた中で、AGIを強化した事で悠々赤鎧の男の振り下ろしをパリィ出来た。先ずは腕の握力を奪う。刀だと痛手にならなそうなので、マン・ゴーシュの柄で左腕を思いっきり叩きつける。恐ろしい事にマン・ゴーシュの耐久値がごっそり減った。しかも赤鎧の手甲は壊れていない。
思わず距離をとった所で二つのアーツの効果時間が終わった。
「痛ってえな、そのアーツの構成は軽戦士の系統か、クリティカルが入ってんのに壊れねえって事はまだレベルはそこまで高くねえな」
やはりアーツを切ると系統がバレるな。正直軽戦士はアーツが割れてもそこまで怖くないが、それでも若干不利だ。
「お返しだ、[地割れ]」
赤鎧は大斧を地面に振り下ろすとそこを起点として地面がこちらに向けて一直線に割れ、割れた地面が鋭く尖って襲ってくる。
「[ファイアボム]!」
レベッカが爆発を起こして何とか相殺するが、土埃が視界を奪ってしまう。
堪らず後ろに下がるが、土埃を突っ切って赤鎧が迫る。
「ぐっ」
「お兄ちゃん!」
なんとかパリィ出来たが、体制が崩れた。それを逃さず、追撃が飛んでくる。まずい、次は避けられないぞ。
「これで終いだ、[大轍]」
確か、大轍は防御を貫通してダメージを与えるアーツだったか。決めに来たな。だったら。
「虚ろえ、[
「何っ!?」
レベッカが俺のMPを使うのでかなり目減りしているが、それてもレベルか上がった影響でMPの最大値も上がっているので2秒程幽体になる事が出来たので、何とか逃げる事が出来た。
「大丈夫かレベッカ」
「うんっ、まだまだいけるよ」
レベッカはダメージを喰らわないとは言え、それでも体力は有限だ。それでも最近の特訓の成果かまだまだ余裕そうだな。
「ほう、成る程神秘防具か、『
「ああ? お前『蔦の宮殿』の名前を知って襲って来たのか?」
「そうだ、『蔦の宮殿』を名乗る輩は俺の敵対勢力なもんでな」
誰だ? 『蔦の宮殿』の名前を知ってるって事はセラフィム・ワールド時代からのプレイヤーって事だ。あの頃はひっきりなしに名を上げようとPKが来たが、その内の一つか? けどセラフ時代なら兎も角、アルカディアでの俺たちは殆ど無名だぞ?
じゃあ個人的に『蔦の宮殿』に恨みがある奴か? だが、アルカディアに来てまでとは考え難い。ああ、もう分からん!
「じゃあそういう事で、いっぺん死んでくれや。神秘防具と言えどそう何回も連発出来ねえだろ」
赤鎧が神秘防具だと勘違いしているのは狙い通りで良いのだが、『魂の灯』の固有スキルを使う隙が無い。
だったら、届かない所に行けば良いか。
「レベッカ、
「うん、わかった」
赤鎧の横薙ぎの一撃をジャンプして避け、そのまま空中を踏みしめる。
「はあ!?」
『魂の灯』の
よし、ここからなら。十分な一撃を入れられる。[銀火転霊]……は無理だな。仲間を巻き込む可能性かある。
「だったら……[エアジャンプ][エアステップ]」
空中歩行はどの角度でも発動可能、だったら下に向かってジャンプすることも可能なのは検証済み。更にステップで加速。更にここで、新アーツ、さあ盛大に行こうか。
「[エアドライブ][ミラージュエフェクト]」
[エアドライブ]は空中での一時的な加速、[ミラージュエフェクト]は一瞬だけだが、分身を出して距離感を狂わせるアーツだ。
「面白え! 迎え撃ってやるよ! [金剛][アーマードシェル][金剛力]」
赤鎧が何らかのアーツを使う、エフェクト的にDEFの上昇アーツとSTRの上昇アーツか。だったら、その前に叩き斬る!
「[ラピッドエッジ]」
「[水流断ち]」
AGIはこちらの方が上、振り下ろしの軌道から逸れるようにして狙うはその邪魔な兜!
小太刀が跳ね上げるようにして兜を抉る……は?
凄まじい衝撃が横合いから加わり、大きく吹き飛ばされる。脇腹にめり込んでいるのは……斧の柄か!
「[水流断ち]は振り下ろしをフェイントにした柄での薙ぎ払いだ、残念だったな、カボチャ頭」
ギリギリ耐えたが、次食らったら死ぬぞ。というか空中で体制の立て直しが出来ない、このまま木にでもぶつかればその衝撃でHPが全損しかない。
「お兄ちゃん、ちょっと頑張ってね[ファイアボム]」
背中から更に凄まじい衝撃、レベッカの魔法の爆風が俺の体を押し戻す。ナイス援護だレベッカ、HPはほぼミリ単位でしか残ってないけど死ぬよりマシだよなぁ!
「ぐぉぁぁ! [半月刃]!」
「何だと!?」
弧を描くようにして上から叩きつける。錐揉み回転しているので当たった感触はあれど、どうなったか分からない。地面にぶつかり転げながら何とか立ち上がる。『名無しの南瓜』は……レベッカの[ファイアボム]の衝撃で遠くに落ちてるな。でも『灼火刀 焔』は持ってる、赤鎧は……健在か、でも兜は耐久値全損させたか。
って……あれ? あいつもしかして……
「かぁああ、痛えなおい。やるじゃねえかカボチャ頭……は?」
「あー、もしかして……グレンか?」
「ロータス! ロータスじゃねえか! って事は、本物か!」
「お兄ちゃん、知り合い?」
「ああ、あいつはグレン。セラフィム・ワールド時代のクランメンバーだ。グレン、戦う意思はもう無いな? 取り敢えず休戦してもらっていいか?」
「おう、てめえら! こいつらは本物だ! 戦闘止め!」
グレンの号令で襲撃者達が次々に武器をしまい始めた。いきなり戦闘が終わったのを訝しんだのかクランメンバーがこちらへやってくる。良かった、誰も欠けてないな。
「ああ、トトの姉貴。久しぶりです」
「グレンか! 久しぶりだな」
「クリップもネオンも済まねえな。最近……だけでもねえが、『蔦の宮殿』を名乗る偽物が多くてな。てっきり同類かと」
グレンの説明によればそういった偽の『蔦の宮殿』をPKしていたらしい。んで俺たちもそういう奴らだと思ったら、と。
「まあこっちは誰も欠けていない。だが何人か倒してしまったか、そっちは良いのか?」
「良いんだよ、こいつらはみんなセラフの『蔦の宮殿』の大ファンなんでな、お前らに倒されたと知ったら狂喜するぜ」
後ろのグレンの仲間がうんうんと首を縦に振っている。みんな心なしか目がキラキラしているように見えるな。
「んで? 何で国を跨いでまでここに来たんだ? 何か理由があるんだろう? せめてもの詫びだ、手伝うぜ」
そう言ってくれたので、俺たちはグレン達にこれまでの経緯を話すことにしたのだった。
クララ「と言うわけで、襲撃者はセラフィム・ワールド時代のクランメンバーでした」
フルティア「偽物が蔓延っているのに我慢出来なかったらしいねー」
クララ「グレンのクランメンバーは『蔦の宮殿』の大ファンで構成されています。ちなみにトトとのアルカディアでの面識はありませんでした」
フルティア「現実での住所とかも知らないからねー、ほかの何人かとは連絡ついたらしいけど」
クララ「それでは今回はこのあたりで失礼します」