「ふう、何とか乗り切りましたか。前提条件はクリア……と」
私たちには管理者としての特権がいくつか存在している。その一つが自分の英雄の現在を映し出す事が出来るというもの。
「ドミニクス、何か変化は有りますか?」
「いいや? まだ二つしかアルカナの反応は無いな。というより、この近くにあの二人以外のアルカナに繋がるクエストを発生させているものは居ないぞ?」
「何ですって?」
ラプラスの演算が狂った? いえ、まだ私たちには分からない不確定要素が紛れ込んでいる?
「クララ、どうする?」
「……少し待ちましょう。もし、何かあれば……私が出ます」
ロータス、私の英雄よ。信じていますよ。
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「成る程、クララの英雄……それに
ちょっと待って欲しい。私は何を聞いている? 英雄? アルカディア・プロジェクトの管理者AIは本当に生きていて、何かしらの使命を一プレイヤーにしか過ぎないロータスに与えた?
ふざけるのもいい加減にして欲しい。私は世界的にもはや世界市場をも左右するアルカディア・プロジェクトのデータに日本で揺らぎが有ったから調査しに来ただけで、そんなオカルトを調査しに来た訳じゃ無い。
でもこのグレンという男と『蔦の宮殿』のメンバーはそれを信じている。やはり何か裏を知っているのか?
ここまで来たらもう仕方がない、アルカディア・プロジェクトの管理者AIが一個人を依怙贔屓しているとなれば国際的な大問題だ。日本人だけを依怙贔屓しているなんて事になったら最悪、戦争にもなりかねない。それほどアルカディア・プロジェクトというゲームは今の地球で大きな影響力を持っているのに。
どうしようも無くなったら私の所属を明らかにするしか……
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「あらら、そう上手くはいかないわよね」
「作戦通りになっただけだ、だろう? アシミナ」
こいつ馴れ馴れしいのよね、新しく私たち側に来た奴だけど、良いもの持ってるし裏の事情も知っている。何より強いから邪険にする訳にはいかないけれど、本当なら殺してやりたいわ。
「ええそうね、だから貴方の出番は無いの。だから黙っていて、ゲルガル」
「おお、怖い怖い。ああ、黙っておくとも。本来は今回は俺の教習、やり口を見せてもらうだけだからな」
ふん、軽い男。こういう奴嫌いなのよね。まあ、良いわ、やるわよティティリエル。私達の気配を見せれば覗き見しているであろうクララが出張ってくる、アルカナをぶつかれば運が良ければ死ぬでしょう。
「んー! んんーっ!!」
「あら、忘れていたわ。それが人生最後の言葉でいい?」
猿轡を噛ませて、足元に転がしておいたクォーレ……と呼ぶのでしたっけ? まあNPCで良いわね。NPCを中心に魔法を唱える。
「[召喚]」
モンスターをランダムに召喚する魔法で呼び出された狼型のモンスターが、目の前で身動きの取れない獲物を見て舌なめずりをする。
「んー! んん──ー!!」
狼はNPCの喉元に噛み付くと、一撃で息の根を止め。品定めをするように腕に噛み付く。
「ふっ」
と、ゲルガルがその狼の首を刎ねた。
「あら、これからが楽しみだったのに」
「すまんな。弱い物いじめは性に合わなくてね。それにこれでもう満たしたんだろう?」
「ええ、ほら」
『ユニーククエスト『正義の天秤』をクリアしました』
『特殊条件を満たしました』
『アルカナクエスト『断罪セシメル正義ノ翼』が発生しました』
「私達はアルカナを保有する事は出来ない、ドミニクスとフルティア、何よりアンナが許さないから。だったらせめて嫌がらせに使いましょう、貴女達はNPCが大量に死ぬのを良しとしないのでしょう? さあさあ、止められる物なら止めてみせろ!」
狂った笑い声をBGMに『正義』の代行者が現れる。
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「うわあ、お兄って結構凄かったんだね。ティティ」
「……」
「ティティ?」
やっぱり、この世界は嫌いだ。私の望むものなんて、手に入らない。
ほら、『正義』の味方が来た。
「どうしたの? ティティ」
ティア。こんな私にも笑いかけてくれた人。だけどダメなの、私は……ヒトでは無いから。
「ゴメン、ティア。私は、私が憎いのよ」
「え?」
『ユニーククエスト『フィータス』をクリアしました』
『特殊称号『無二を冠する者』を所持しています』
『特殊称号『死神の友』を所持しています』
『特殊条件を達成しました』
『アルカナクエスト『模倣スル死神ノ嘆キ』が発生しました』
ああ、やっぱりそんな目で見るのね。さようなら『蔦の宮殿』、さようならティア。ちょっとは楽しかったわよ。
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森の奥からなんか光り輝く巨大な天使が出て来たと思ったら、ティティが溶けて巨大なスライムになった。
ちょっと待って、キャパオーバー。
「ロータス! あの森の奥へ! ニトワイアよ!」
その上氷が目の前で爆ぜたと思ったらクララが出てきた。
って、ニトワイア!?
「完全にしてやられたわ。あいつらは私たちと比べたら落ちるものの結構な管理者権限を持っている。ニトワイアに所属しているプレイヤーは観測できないの。その内の一人がわざとここでアルカナクエストを発生させた」
「それがあの天使か!?」
「そう、このままだとラプラスの演算通りになる!」
「だがまだ一体足りないぞ」
「それは……」
クララの視線の先にには……グレンか?
『ユニーククエスト『鋼鉄の腕』をクリアしました』
『特殊条件を達成しました』
『アルカナクエスト『堅牢タル節制ノ息吹』が発生しました』
「嘘だろ!?」
「本当よ、この状況だとニトワイアを追うのは愚策ね、癪だけどアルカナの相手をしてもらうより無いわ」
おいおい、こんないきなり囲まれるなんて聞いてないぞ。
「ちょっと待ちなさい!」
シエルか俺とクララを見ていきなり声を荒げる。
「ロータス! 貴方に不正の疑いがかけられています! 本名も住所も抑えられています! 抵抗は無駄です、大人しくログアウトをして事情聴取を受けなさい!」
「はあ!? シエルさん、何言ってんの!?」
不正!? 俺そんな事してない……いや、クララと話してるのを見たらそう思うのも仕方ないか? ていうか、シエルさん何者?
「私は
I.V.C.M!? 国連の公的機関じゃねえか!?
その時、頭上から光が降り注ぎ、ひとりの女性が降りてきた。
「しめた! ちょっとロータスとレベッカとシエルを借ります!」
「アンナ姉さん!?」
アンナが踵で地面を叩くと、光が俺とレベッカ、シエル、クララを包み込む。
「きゃぁ!?」
ちょっ、状況が目まぐるしく変わりすぎて意味が分からん。誰か説明してくれ!
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『愚者』を倒したあの日の様に目を開けると、あの時の部屋に立っていた。
横にはレベッカとクララが立っていて、少し離れた所にシエルとアンナが向かい合って座っている。
「ここは……どういうつもりか説明して頂けますね、アルカディア・プロジェクト統括AI、アンナ」
シエルが周囲の環境の変化に驚いた様子を見せつつ、アンナに問いかける。
「ええ、先ずは謝罪を。ご迷惑をおかけして申し訳有りません、ですが
アンナが今から話そうとしている事はなんとなくだが予想がつく。俺にしたように地球でのアルカディア・プロジェクトを取り巻く状況を話すつもりなのだろう。その為にはアンナやクララといったAI達が本当に自我を持ち、自らの意思で動いているという事を信じてもらえなければ意味が無い。
「……いいでしょう。我々としても貴女達の事は不思議に思っていました。貴女達は人類の作り出せる数世代先の技術だ。あの橋下博士ならば……そういった存在を作り出せても、不思議ではない」
「ありがとうございます。それとここでの時間はほぼ経過していません、安心して下さい」
これはむしろ俺に言った言葉か、たしかにアルカナ三体に囲まれた状況で置いてけぼりの様な状況にしてしまったのは不安だった。
「ロータス、レベッカ、クララ、あなた達も座りなさい。関係のある話ですから」
アンナに促され、二人の座っている近くに行くと椅子が三つ地面からせり上がってきた。俺たちが席に着いたのを確認してからアンナが話し始めた。
「貴女達はこのアルカディアで不自然な波長が出たのを見て、調査を開始した。その認識でよろしいですか?」
「ええ、I.C.V.Mの定期監査で引っかかりました。ご存知の通りアルカディア・プロジェクトは今最も世界で注目を集める仮想現実です。その影響力はたかがゲームと侮る事は出来ません。ですが発売元のニトワイアは詳細なデータを提出したがらないので、どうやって運営しているのか全く不明でした。しかし一週間程前に明らかに不正なコードが確認され、我々は真っ青になりました。もし特定のプレイヤー、もしくは勢力に運営が肩入れしているとすれば大問題です。しかもアルカディア・プロジェクト程の規模ならば尚更。最悪、現実での国同士の小競り合いまでありました」
一週間前……その頃は。
「もしかして、私達の事?」
「ええ、ロータスとレベッカのあの出来事とそれの後始末。管理者しか入れない場所にプレイヤーとクォーレを引き込んだのです、ニトワイアには嗅ぎつけられないようにしましたが、I.C.V.Mにはやっていない……というよりわざと見つかる様にしました」
「アルカディアを取り巻くこの現状を知らせる為か」
「ええ、ロータス……いえ、九条 蓮也が現実でそんな事を言っても狂人扱いされるだけ、ならば公的機関に実際に見せる他ないでしょう」
シエル……柳沢 雫さんが難しい顔をして黙り込む。
「……ニトワイアとは敵対しているのですか?」
「ええ、勿論。あいつらは
それがニトワイアの探しているものか。
「ニトワイアは……アルカディア・プロジェクトを使って何をしようとしているのですか?」
それは、俺も気になっていた事だ。ラプラスひとつ取っても未来の技術が詰め込まれているが、人殺しをしてまで手に入れたいものでは無いだろう。そもそも、橋下博士が公表する筈だ。
ならばあの希代の天才が公表する事が出来ない、何かがこのゲームには隠されている。そう考えるべきだ。
「『メメント・モリ』、そう言えば雫さんには分かるかしら?」
その単語を聞いた途端、シエルが勢いよく立ち上がった。その顔は真っ青である。それどころか少し震えている……か?
「あれが……ここにあるのですか……」
「おい、説明してくれ。その『メメント・モリ』ってなんなんだ。そんなヤバイものなのか?」
その言葉を受けて、クララが話し始めた。
「『メメント・モリ』はお父様の消したい過去の一つよ、その中でも最悪でしょうね。電波感染するコンピューターウイルスよ、簡単に言えばね。効果としては、操作を一切受け付けなくさせるというもの」
「流出すれば一晩で世界中のインターネットが機能不全に陥るでしょうね、その解除方法は『メメント・モリ』の設計図にしか書いていない。そしてその設計図とウイルスのサンプルがアルカディアに隠されているのよ」