アルカディア・プロジェクト   作:ムササ

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#33 少女達よ希望を抱け 第三項

「……成る程。確かにそれは私達を動かすに値します。分かりました。組織としての返答はここでは出来かねますが、私個人としては協力を約束します」

 

 少し考え込んだ後、シエルは神妙な面持ちでそう告げた。

 

「あら、そう簡単に信用しても良いのかしら? 貴女達にとって私達は未知の塊でしょうに」

 

「もし貴女方が『メメント・モリ』の悪用を考えていたのなら、地球はとうに機能不全に陥っていました。そうなっていないという事は信用する材料になる足り得ると思いますが?」

 

「成る程、道理ね。ニトワイアの虚言だとは思わない、と」

 

「ええ、正直……あそこならやりかねません。陳腐ですが……世界征服を狙っていたと言われても信じるだけの、得体の知れなさがあそこにはある。事実、黒い噂が絶えないですからね」

 

「もし良ければ内部データでも流出させましょうか? 思わず口を覆いたくなる人体実験のデータとかわんさか有るわ」

 

「正直喉から手が出る程欲しいですが……どうせ上層部に握りつぶされるのがオチです、なら余計な事をして睨まれない方がメリットが多い」

 

「国連も大変ね、どこでもヒトの(さが)は変わらない、懲りないわね」

 

 そう言ってアンナは大袈裟に溜息をついた。

 しかし直ぐに立ち直ると、一転さっきまでの皮肉めいた表情から真剣な面持ちに変わって、話し始める。

 

「では協力を取り付けられた所で今の状況を話し合いましょうか。ドミニクス、キャンセル出来そう?」

 

「いや、残念だがもう俺の制御下からは離れているな、間に合わなかったようだ」

 

 いつのまに現れたのかアンナの後ろから筋肉質な大柄の男性が話し始める。その巨躯と厳しい黒の軍服のような服とが相まってかなり威圧感がある。

 そんな俺の目線に気が付いたのか、ドミニクスと呼ばれた男性が静かに目礼をし、自己紹介を始めた。

 

「申し遅れた、俺はドミニクス。モンスター担当のAIだ。よろしく頼むぞ、国連からの客人(シエル)火の大精霊(レベッカ)最も新しき英雄(ロータス)

 

 何というかかなり丁寧だ。自意識過剰かも知れないが、敬われていると感じるくらいに。

 

「クォーレの大量虐殺は看過する事は出来ません。よって、改めてお願いします、三体のアルカナを止めて下さい。誓約によって私達はあまりクォーレ達に干渉する事は出来ません」

 

「一つ、聞きたい。ティティは……何なんだ? あいつは、俺たちのクランメンバーじゃ無かったのか?」

 

 ティティの名を聞くとアンナを始め、クララとドミニクスの三人が沈痛な表情を浮かべる。

 

「彼女は……いいえ、そもそもあの子に性別なんて有りません。元からあの子はアルカナの一体、《死神》の逆位置 模倣粘球ティティリエル。あの子の役割は……重すぎた」

 

 やはり、アルカナ。レベッカがティティの本当の名前を聞いた時に、なんとも言えない顔をしたのが印象的だった。

 

「私達に何か言う資格は有りませんが、最近のあの子は楽しそうでした、どうか、助けてあげてはくれませんか。役割は果たしたと、言ってあげて下さい」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 体を覆う光が薄くなり、目を開くと先程アンナに強引に拉致された場所と寸分違わぬ位置にまた転移してきたようだ。

 あの後アンナ達と話を詰めてから、またここに戻って来た。幸いまだ戦闘は始まっておらず、アンナの言った通り時間経過はほぼ無いようだ。

 

「トト姉! 今戻った、状況は!?」

 

「こっちでは一瞬だ、変化してないと言えるな!」

 

 だったら……

 

「トト姉、ティティは俺とレベッカ、あとティアに任せてくれないか。絶対にどうにかしてみせる」

 

 本来三人でアルカナと対峙するなど無謀も良いところだ。しかし、ティティだけは、俺たちがどうにかするしかあるまい。特に、俺の可愛い可愛い妹の友達が勝手に出てこうとしてるんだからな、お兄ちゃんとしては引き止めてやらにゃならんだろうが。

 

「……分かった。グレン! お前は自分の発生させたアルカナの対処だ! 私もそちらに合流しよう、その代わりにクランメンバーを半分こっちに回してくれ!」

 

「ああ、勿論だぜトトの姉貴! さあ野朗共! 俺らのせいで昔の仲間に手間掛けさせるわけにはいかねえ、速攻でぶっ殺して神秘の力をとやらを拝ませてやろうじゃねえの!」

 

 凄まじい雄叫びがグレン達から上がる。あれなら大丈夫だろう。

 

「クリップ、ネオン。お前達はあの天使の方だ。グレンのクランメンバーが手伝ってくれるし、どうにか持たせろ……なんて事は言わん。どうせならぶっ倒して、アルカナを手に入れて来い」

 

「あいあいさー、っと。相変わらず無茶振りするねえウチの大将は」

 

「でも、それがウチの方針、です」

 

 ネオンとクリップはいつもの事だと笑いながら無茶振りを受け入れる。それで『蔦の宮殿』はトップクランに上り詰めたのだと知っている。そんな目で、天使に向かって眼差しを向ける。

 

「シエル、手伝ってくれるんだな?」

 

「ええ、我々としても……いえ、私はクォーレを殺す趣味は無いので、今は一個人として、ただのシエルとしてクランマスターに従います」

 

「良い目だ。吹っ切れたようだな、だったらクリップとネオンの方に回ってくれ、どうせだったらアルカナをもぎ取ってくれると、クランマスターとしては有り難い」

 

「ええ、仰せのままに」

 

 シエルが天使の方へと向かったのを見て、トトもグレンの加勢へ向かうべく地を蹴った。

 

「やれやれ、指揮官としての才能はあまり無いのだがな」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 森の中から飛び出してきた天使も、グレンのアルカナクエストで発生した奴もかなり広場の中心から離れているので殆どのプレイヤーがいなくなり、近くには四人(・・)だけが立っている。

 遠くからは戦闘音が聞こえてきたりしているが、不思議な静寂がこの広場の中心に漂っている中、俺はティティに向かって話しかける。

 

「よう、ティティ。随分デカくなったな」

 

『ロータス、クララの英雄だったのね。道理で随分この世界に詳しいと思っていたわ』

 

「今アンナ達と話して来たよ、アンナから言伝を預かってきた」

 

『へえ、聞こうじゃない。あのクソ共が今になって何を言うのか』

 

「随分と嫌っているな、まあいい。伝言は一つ、「役割は果たした、好きに生きろ」だそうだ」

 

 その言葉を聞いた途端、明らかにティティが怒るのが分かった。不思議なもので青色の粘性物体になったとしても、クランメンバーだったときのように何となく分かるのだ。

 でも、アンナの言った通りか、やっぱりティティは……

 

「今更! 今更、貴様らが何を言う! 私という悍ましい生命を生み出しておいて、あまつさえ何百年も放置しておいて、今頃になって好きに生きろだと!? ふざけるなよ、貴様らは私を何だと思っている! 貴様らの傲慢が決めた私の在り方を、ここに来て放り出すと言うのか!」

 

 心からの叫びだと、そう理解出来る、咆哮であった。

 その巨体は徐々に縮んでいき、俺たちと殆ど変わらない、見慣れたティティの姿をとった。

 違うのは右腕から生えてきた大剣を持っている事と、ドラゴンの様な翼が生えている事だろうか。

 

「私はこの世界が嫌いだ。私にありとあらゆる物の対になる(・・・・・・・・・・・・・)という役割を押し付け、無理やり生み出したこの世界が嫌いだ。人が私を生み出したというのなら……人の作り出したこの世界を……ヒト(・・)ならざる私を、止めて見せろ、英雄」

 

 更にティティの体の表面が鎧の様な形状になり、硬質化した様に見える。

 

「ティティ……」

 

「ティア、ここから離れなさい。貴女はこの件からはまだ引き返せる位置にいる。エルドゥークが倒れた時にも貴女はいなかったのでしょう? 貴女とて死にたくは無いはず、ここが分水嶺よ。とっととログアウトしなさい」

 

 ティアはティティからの忠告を受け、僅かに後ずさる。そして俺の方へと視線を向け、目線だけでどうするべきか問うた。

 俺とて最愛の妹をこの件に巻き込むのはどうかと思う。だが、それ以上に。

 

「ティア……いや、花蓮。お前が決めろ。ティティの言う通り、ニトワイアの奴らに目をつけられた以上、アルカディア・プロジェクトというゲームはゲームの範疇に収まらない可能性が高い。もしかしたら、死ぬかもしれない。ここで引き返せば、無関係を決めこめば、そんな危険は無い」

 

「お兄……」

 

 花蓮はうつむき、なにかを堪える様に拳を握る。

 

「だが」

 

「えっ?」

 

「それでも、友達(・・)を助けたいのならお兄ちゃんが一緒に連れ戻してやる。お前がそう決めたなら、俺は反対しないよ」

 

「いい、の?」

 

「ああ、あの時(・・・)俺はお前を止めなかった事を後悔したけど、今回は一緒に居てやれる。なら、悔いの無いように自分で決めろ」

 

 その言葉を受けて、ティアは俺たちより一歩前に出て、あらん限りの大声で叫ぶ。

 

「ティティの、バカ──!!!」

 

「はあ!?」

 

 いきなりの罵倒に思わずといった感じでティティが返す。

 

「いきなり世界が嫌いだー、何てカッコつけちゃってさ、そういうの何て言うか知ってる? 厨二病って言うの! なーにが世界が嫌いよ、ダサい事この上ないわよ! その上本当はスライムみたいな体の事を隠しちゃってさ! そんな何でもかんでも体系を変えられるならダイエット必要なんてないじゃない! 羨ましい! 裏切り者! チョコレート一個を食べようか迷った事なんて一回も無いんでしょう! しかもその格好見る限り服だって自由自在じゃない! 可愛い服とかお金をかけずに何着でも新品同様に着れるんでしょう! その上勝手に私たちと敵対関係になっちゃって! 前にしたショッピングと食べ歩きの約束どうしてくれるのよ! 現実でも超有名パティシエのプレイヤーの新作スイーツの予約とるのすっごい頑張ったんだからね! しかも自分の悩みとかぐちぐち一人で溜め込んじゃってさ! 何かあるなら私たちに相談しなさいよ! どうせ一人で悩んでる私かっこいいとかそんなこと思ってたんでしょう! イタいだけよそんな奴! そもそも裏切るなら私に一言言いなさいよ、友達(・・)でしょう!?」

 

 ティアの長々とした罵倒にティティは唖然としている。横を見たらレベッカは苦笑していた。多分俺も同じような顔をしているんだろう。

 ああ、やっぱ花蓮をアルカディア・プロジェクトに誘って良かったよ。ここまでティティに肩入れ出来る程ゲームに没入出来るなら、もっと早く誘うべきだったな。

 

「もーあったまきた! お兄ちゃん(・・・・・)手伝って! 無理やりにでも連れ戻すよ!」

 

「ふふっ、だってさ、お兄ちゃん」

 

 

「可愛い可愛い実妹と義妹の頼みじゃあ仕方ないな、ブン殴ってでも連れ戻すとしようか!」

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 ・アルカナクエスト『模倣スル死神ノ嘆キ』

 発生者『ティア』

 クリア条件《死神》の逆位置 【模倣粘球 ティティリエル】の討伐

 推奨レベル──

 参加人数2

 

 ──────────────────────────────

 

『アルカディアストーリー『道化は己の夢を嘲笑う』最終フェーズです』

 

『プレイヤー名『ティア』にアルカディア・プロジェクトを発令します』

 

 

 

 

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