ふと、眩しさを感じて目を開ける。
「う、うぅん」
まず初めに感じたのは不安定さ。私の使っているベッドは安物だけど少なくともこんなに不安定に揺れたりしない。
そして、まわりがいつもの朝と違う事に気付く。鼻から感じるのはしつこいほどの森の香り。何故?
瞬間、今の状況に気付く。私は朝から月根草を森に取りに来たのだ。
お爺ちゃんには森に一人で入ってはいけないと言われていたけど、お爺ちゃんの風邪を治すのに必要なので仕方がない。仕方がない……よね?怒られないといいなぁ。
何とか月根草は手に入れられたけど、帰る途中でエルダーエイプに会ってしまった。気がつかれる前に逃げたけどエルダーエイプは直ぐに私に気付いて追いかけて来た。
もうダメかもって思った時、凄い風が吹いて私は飛ばされて気を失ってしまった。
なら、ここはどこだろう。私、死んじゃったのかな。
「あ、起きましたよ」
その時優しそうな女の人の声が聞こえた。誰だろう、そういえば私は今どんな状況なんだろう?
ふと、上を見上げると私より少し年上の男の人が私の顔を覗き込んでいて、その人の腕の中に抱かれているのがわかった。
これどんな状況!?大人のみんなが言ってた人攫いってやつ!?
でも違うみたい、女の人もいるし男の人も怖くなさそう。
それに、なんかこのお兄ちゃんには暖かいのを感じる。
なに、これ?朝の礼拝の時のあの気持ちに似てる。神様?
ううん、違う。神様とはちょっと違う。これは、神様が言ってた『プレイヤー』の人?
「こ、こは?お兄ちゃん、誰?」
つい言葉が出てしまった。恥ずかしい、この年になってお兄ちゃんなんて。でも、何故か違和感が無い。私に兄なんて居ないのに。
すると男の人、お兄ちゃんはきょとんとした後凄く優しい顔になって名乗ってくれた。
「俺は、ロータス。君は?」
ロータス、ロータスお兄ちゃん。うん、覚えた。
「私?私はレベッカーー」
その時月根草が少し空白が出来た森の側に落ちているのを見つけた。あんな所に!
「ーーあっ、そうだ!私月根草を取りに来たんだった!」
そう言って駆け出す。と、首に衝撃。
「ちょっと待って!」
「ひゃう!」
どうやら襟を掴まれたらしい。その衝撃で首の位置が変わって見えてしまった。
ーー森の主だ。
「あ、あれ、森の主……なんで?もうずっと奥の方にいるから安全だってお爺ちゃんが言ってたのに……」
だから私は一人で来たのだ。主がいなければ気を付けていれば危険性は少ないから。けど、主がいたら、もう……
するとまた衝撃。今度は肩だ。
見ると目の前にロータスお兄ちゃんの顔。とても真剣な表情だ。
「レベッカ、よく聞いてくれ。俺たちは
「わ、私は村から、来たの」
思わず答えてしまった。お爺ちゃんにはあんまり他の人には言っちゃいけないって言われてたけど。お兄ちゃん達なら大丈夫、だと思う。
「わかった。そこまで案内してくれ、俺たちが護衛する。大丈夫か?」
大丈夫、何が?
ーーまさか、主から逃げ切るの?
森の主に会ったら逃げなければいけない。村の法学ではなく、その逆に。村の方は逃げてそれ以上被害を増やさないように。
怖かった、恐ろしかった、死にたくなかった。
けれどそれ以上に、私はーー
「うん、わかった……お兄ちゃん、大丈夫?」
「おう、お兄ちゃんに任せとけ」
この南瓜の被り物をした不思議なお兄ちゃんなら助けてくれるって思った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「先ずは全力でバフだ。ネオン、MPはまだ残ってるか?」
「は、はい。エルダーエイプ戦に残しておいたから、大丈夫、です」
「よし、クリップもMPは残ってるな?」
「ああ、バッチリだ」
「ロータス、お前は無理しなくていい、ユニークを踏んだお前が
「いやいや、ここは無理するところでしょう。
「お前……」
そう、ここは無理のしどころだ。
ここで踏ん張れなければ、お兄ちゃんでは無いのだから。
「……わかった。だがやはり無茶はするな。妹の前で死ぬのは兄の仕事では無いだろう?」
「ああ、そうだな。わかってるよトト姉」
妹を守れない兄に存在価値など無いのだから。
ここで俺が死んだらレベッカの生存確率は格段に落ちる。
無論、このパーティーメンバーで一番Lvが低い俺が出来ることなど高が知れているだろう。
それでもこのユニーククエストを発生させたのが俺である以上、レベッカがどうなるかは俺にかかっていると言っても過言では無いと思う。
なにせユニーククエストはこのアルカディア・プロジェクトの根幹を成すコンテンツでありプレイヤーにおけるメインコンテンツであるのだから。
『英雄よ、挑み給え、これは貴方へと贈る物語、貴方が作る物語、貴方の為の物語。そして、願わくば、貴方の旅路が光溢れるものでありますよう』
不意に、チュートリアル終了時のクララのセリフが脳裏に浮かんだ。
そうなのだ、これが、これこそが、俺の物語。その第一歩。
確信が有った。レベッカこそがアルカディア・プロジェクトにおける俺の物語である、と。
その時ーー
『ーー』
ーー誰かが、微笑んだ気がした。
「ロータス」
不意に、トト姉の声で引き戻された。
「なんだ?トト姉」
トト姉は悲しそうな顔をして、優しそうな顔をして、また悲しそうな顔をして、言った。
「あまり、入れ込むなよ?」
見ると、ネオンとクリップも同じような顔をしている。
ああ、わかってる。ありがとうみんな。
「ああ、わかってるよ。大丈夫だ」
大丈夫、わかっている。
もう二度と、あんな思いはしない。
俺は、
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「では作戦の確認だ。基本的にはいつもと一緒。セラフィム・ワールドの時にもやった護衛クエストと一緒でいく」
「トト姉がタンク兼物理ダメージソース、ロータスが撹乱、ネオンがヒーラー兼バッファー、んで俺が魔法ダメージソース兼デバッファーだな」
「加えて、私が、レベッカちゃんから離れず、付きっ切りでバリアを張り続ける、です」
「最悪の時は俺がレベッカを抱えて村まで逃げる、と」
「その通りだ。これが私たち『蔦の宮殿』初めてのアルカディア・プロジェクトでの活動だ」
「あっ、それ確定なんだ」
「まだクランハウスも建ててないのにな」
「馴染み深くて良い、と思います、よ?」
トト姉、本当に好きだよなぁ。
まあ確かにセラフィム・ワールドの時のクランハウスはこだわりにこだわり抜いた結果、滅茶苦茶居心地良かったからなぁ。
居心地良さすぎてクランメンバー全員が入り浸り過ぎて親に怒られたのは良い思い出だ。
「『蔦の宮殿』?」
「ああ、俺たちの集まりの名前だよ」
「へー、お兄ちゃん達は仲良いんだね」
「まあね。もう5年。ゲームの中なら15年の付き合いだし」
「凄い!私が14歳だから私の歳より長いね!」
14か……にしては幼いな。体格も日本人の平均よりは下だろう。
体つきが小さいのは栄養不足か?そもそもアルカディア・プロジェクト内のクォーレに栄養バランスの概念があるのか分からないが。
「おい、
「おいクリップ、今なんて書いて俺の名前読みやがった?」
「まあそれは置いといて、そろそろ日が暮れるぞ。始めないとどんどん不利になる」
ちっ、トト姉の号令なら従わざるを得ないか。まあそれはそれとして後であの
五人で茂みに隠れてシャドウリザードの様子を伺う。
レベッカの話によれば俺たちがいる場所から村の方向へ歩けば絶対にシャドウリザード、森の主に見つかってしまうらしい。視覚もさることながらシャドウリザードの最も鋭敏な感覚は聴覚である。特に足音に敏感らしい。草を踏み分けた音すらも聞き分けるその耳は斥候職のプレイヤーでも発見されないのは至難の業である。
「ネオン、全員にバフを頼む」
「はい。[バリア][ディフェンスアップ][アジリティアップ]」
[バリア]は受けたダメージを一度だけ肩代わりしてくれる魔法。
[〜アップ]は文字通りその魔法に対応したステータスを1.3倍にする魔法である。
それをレベッカを含む全員に付与して準備は終了だ。
「よし、私が先ずは[ウォークライ]でヘイトを集める。そうしたらクリップがとにかくデバフをシャドウリザードに連打だ」
「了解だ。もしもの時は頼んだぞ、ロータス」
「オッケー、任せとけ。剣舞騎士は付け焼き刃じゃ出来ないんだね」
あれがまともに運用出来るまでにどれだけかかったと思ってるんだ。俺しかいなかったし全部独学でやらなきゃならなかったんだからな。
めっちゃ大変だったし今でもあのスタイルが合ってたのか分からないけど今でも使えるスタイルだからまあ良しとしよう。
「よし、みんな準備はいいな?」
「了解、トト姉」
「準備よし、だ」
「は、はい、大丈夫です」
「う、うん!私も平気!」
「よし!行くぞ、3、2、1……[ウォークライ]!」
トト姉から赤い波動のようなものが広がっていく。シャドウリザードにその波動が届いた、その瞬間。グリン、という擬音が聞こえるほど勢い良く首がこちらを向いた。
「[ピットフォール][アジリティダウン][ミラージュ]」
それと同時にクリップが事前に詠唱をした三つの魔法を連射する。
対象の足元に込めた魔力量に応じた大きさの穴を開ける[ピットフォール]対象に幻覚を見せる[ミラージュ][〜ダウン]は[〜アップ]系の逆だ。
「Kishaaaaa!!!」
耳をつんざく大咆哮を合図に俺が飛び出す。
一気に接近して穴に足を突っ込んでいるせいで下がっている顔に向けて嫌がらせのようにヒットアンドアウェイを繰り返し、攻撃。
その間にネオンがレベッカを連れて村の方角へ走り始めた。
このフォーメーションで行くとヒーラーであるネオンが先頭を走る事になる、故に俺は基本的にはネオンと護衛対象、すなわちレベッカに向かってくるモンスターだけを重点的に対処する事になる。
クリップがデバフに専念できる様に雑魚は俺が対処しなければいけない。
ヘイトを稼ぐトト姉にもシャドウリザードに専念してもらわなければならない為、四人だとかなりギリギリの戦いを強いられることになる。
[ピットフォール]から抜け出したシャドウリザードがトト姉に向けてその鋭利な爪を振り下ろそうとする。
「光よ、眩く照らせ[フラッシュ]」
しかし的確にシャドウリザードの目に向かってクリップが放った閃光弾と呼べる魔法が炸裂し、シャドウリザードの視覚を奪う。
よし、今のうちに少しでも村へと走らなければ。
クララ「今回は魔法についてです」
フルティア「一般的に魔法職っていわれる職業はアーツの代わりに魔法を覚えるの。だから魔法職。一般的には魔法使いとか僧侶とか言われる職業だね」
クララ「魔法はアーツと違って詠唱を挟む必要があるから連射には向かないですが、事前に詠唱をストックしておくことで連射出来ます。他にも連射したければ無詠唱というスキルを取れば出来ますが、この場合大きく威力が落ちますし、無詠唱出来ない魔法もあります」
フルティア「多くの魔法職は完全詠唱と無詠唱の間の短縮詠唱を使うみたい。詠唱より短いけど威力が少しだけ落ちるスキルだね」
クララ「クリップが[フラッシュ]の時使ったのはこれですね」
フルティア「じゃあ今回はここまで!ばいばーい」
クララ「失礼致します」