リリカルなのは-KIBA-   作:belgdol

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話し合い(戦士風)なの

 なのはの案内で辿りついた家は、立派な門構えに塀越しに二階建ての自宅が見える大きな家だった。

なのはは周囲の様子を伺うように、そっと門の戸を開く。

そしてゼッドを伴って迷うことなく家の中を目指す。

 

「なのは。こんな時間までどこに行ってたんだ?それに、その男の子は誰だ」

「お、お兄ちゃん!」

「あらなのは、こんな時間に男の子を連れてくるなんて十年早いわよ。もう、心配したんだからね」

「お姉ちゃんも!」

 

 家の中で事情を話す覚悟をしていたから、余計にこの急な兄と姉の出現になのはは惑った。

どういえばいいだろう、どうすればいいだろう、それは九歳としては聡明な方に入る彼女にも経験の無い事態で、返答に詰まった。

だがそこでゼッドが間に入った。

 

「俺はゼッド。遅くなったんでなのはを送ってきたんだが、心配をかけたなら申し訳ねえ。すまなかった」

 

 すっと素直に頭を下げるゼッドに、なのはの兄である恭也はいぶかしげな顔をしつつ、どういう事なのかゼッドに問う。

なのはの姉である美由希も、少々ゼッドを警戒している。

 

「こんな遅くにうちのなのはを連れ出して何をしていたんだ?事と次第によっては警察に補導してもらうことも考えなければならない」

「その事なんだけどな。きちんとなのはの親にも話したほうがいいと思うんだ。こんな夜遅くにわりいけど、家にいれてもらってもいいか?」

「ふむ……父さん達にも話さなければならない、事情か。いいだろう。なのは、先に上がっていろ」

「え、えっと……ゼッドさんは」

 

 ゼッドを心配する名のはを見て、恭也は目で美由希を促す。

それに気づいた彼女はなのはを家に上げようと動く。

 

「恭ちゃんはちょっとまだ聞いておきたいことがあるみたいだら、先に入ってましょ。ほらほらなのは、ってその子なに!?可愛い!」

「あ、この子はユーノくんって言って」

「あ、昼間に話してたフェレット君なのね。うーん、可愛いわね。お母さんが見たら悶絶しちゃうかも」

「にゃはは……確かにそうかも」

 

 そうしてさりげなく自宅の中になのは達が入って行ったのを確認してから、恭也はゼッドに問いただした。

 

「お前からは普通の人間ではない、戦いの中に居る人間の匂いがする。なのはとはどういう関わりだ」

 

 警戒をあらわにする恭也に、ゼッドは目を瞑り、軽く頭を掻くと、それに答える。

 

「それもまとめて話す必要があると思ってんだけどな。まぁ、いうなりゃ戦友だよ。じゃあお邪魔するぜ」

「戦友?おい、どういうことだ!」

 

 戦友と言う言葉に含まれる危険な意味を感じ取り、恭也はゼッドの両肩を掴む。

大切な家族を戦友などと言う、一見晴れがましくも、戦いがあったという危険を意味するものに含まれたのだから、恭也の反応は穏当な方だろう。

 

「だからそれをあんたの親父とお袋も含めて話すんだよ」

「ふむ。分かった。その分ごまかしは許さないぞ」

「分かってる。筋は通すさ」

 

 思わず視線を険しくした恭也の瞳を、静かな瞳で見返して、自分にやましい事は何もないという態度を取るゼッドを、恭也はひとまず開放した。

そして、先に家に入り、早く入れ、なのはの置かれた状況が早く知りたいとせっつく恭也の姿は。

ゼッドにとってはとても好ましいものに写った。

 

 

 

「邪魔するぜ」

 

 ゼッドがその言葉と共に入ったリビングは、普段はダイニングキッチン傍にあるテーブルが動かされてキッチン側になのはの両親、士郎と桃子が座り、通路側に美由希が座っていた。

なのはは、今は両親の正面でテーブルの上にユーノを乗せて、かなり緊張した様子で座っていた。

ゼッドも空いていたなのはの隣に座り、最後に入ってきた恭也が美由希の横に座ると、話し合いが始まった。

 

 まず、なのはが何故こんな時間に家を出ていたのかを包み隠さずに話す。

先日みた夢や、下校途中に聞いた声、そして今晩外に飛び出すに至らしめた声について。

 

 話を聞いた士郎達は困惑し、家族に相談しなかった事を叱ったが、なのはに対する責めはそれで終わった。

元から可愛い末娘だ、家族からの扱いは甘い、という事は無いが柔らかい。

 

 そして、ユーノの説明が始まった時こそが高町家に嵐が通る時だった。

 

「始めまして。ユーノ・スクライアと言います。今回はなのはを危険な目に遭わせてしまって申し訳ありませんでした」

 

 ユーノが口を開き、声を発した事にはそれを知らないなのはの家族全員が唖然と、いや桃子だけは余裕のある様子であらあらといった様子で見ていた。

とにかく、驚きを呼んだが彼が語ることはさらに先ほどは驚かなかった桃子をも驚かせた。

 

「今回なのはを夜分に呼び出すことになったのには理由があります。ロスト・ロギア。僕達の世界での遺跡から発掘される古代遺産なんですが、本来適切に扱えば、そんなに危険なものばかりではないんです」

 

 一度言葉を切ってから、ユーノは後悔の滲む声で続けた。

 

「それが、今回僕が発見したジュエルシードというロスト・ロギアは、魔法の力で人の願いを叶えるという機能を持たされていたのですが、その望みを叶える機能というのがかなり不安定で」

 

 ため息を区切りにユーノは更に話を進める。

 

「動物や人間の意図を捻じ曲げて叶えたり、使用者を求めて今夜なのはを呼び出す事になった原因の思念体、と呼ばれる暴れまわる危険な存在になったりするんです」

 

 最後に長い身体と尻尾をうな垂れさせながらユーノは言った。

 

「僕が、あんなものを発掘しなければなのはは危険な目に遭うこともありませんでした。本当にごめんなさい」

 

 うな垂れる様が土下座のように見えるユーノに、平静さを取り戻した士郎が言った。

 

「話は大体分かった。うちのなのはがとても危険な物に巻き込まれそうなった事や、君の後悔も。そこで聞こう、君はわざとジュエルシード?をばらまいたのかい」

 

 士郎の穏やかな問いかけに、ユーノは必死になって弁明した。

 

「ち、違います!僕は調査団の人に保管してもらって、次元航行船でジュエルシードを運んでもらうように頼んだんです!でも、事故なのか、船が墜ちて……ジュエルシードがこの近辺に落着して。どうにかしなきゃって……」

 

 ユーノの言葉に、士郎はわざとらしくしかめっ面を作る。

ユーノはそれをチラリと見て、怒られるのも仕方ない、たたき出されるかもしれないな、と腹を決める。

だが、士郎の言葉はそんなものではなかった。

 

「確かに大本の原因は君かもしれない。でもね、きちんとその扱いを専門の人に頼んで、その上で事故で散らばってしまったというなら、君は悪くないよ」

 

 慰めるように微笑む士郎に、ユーノはそれでも罪悪感を消しきれないようででも、でもと続けようとする。

だが士郎はそれを遮って言う。

 

「もう一度言う。君だけが悪いんじゃない。だから責任を感じすぎず、もっと気楽にすると良い。話した感じ、まだ君は大人と言うわけじゃないだろう?それを、一方的に責めたりはしないさ」

「あり、がとうございます……う、うぅ……」

 

 動物の姿で泣き崩れるユーノをなのはが腕の中に囲い込むのを見てから、ゼッドは口火を切った。

 

「こっから先は……本当はユーノが話のが筋なんだろうが、俺が代わる」

 

 今まで黙っていた見慣れぬ銀髪の少年に、士郎はとりあえず何者かを聞く。

 

「君は、なんと言う名前で、どういう人かな」

 

 士郎の当然の質問に、ゼッドは静かに答える。

彼の声は少年にしては落ち着いた色を持っていた。

 

「俺の名前はゼッド。信じてもらえるかどうかは分からないが、まぁ色んな世界をふらふらしてる。しいて言うならシャードキャスターだ」

「シャードキャスター?」

「シャードっていう……力だな、火を出す玉っころや電撃を出す玉っころ、そして人間を圧倒するスピリットシャードっていう珠を扱う、戦士だ」

「戦士?君の歳でか。見たところ十五、六歳といった感じだが」

「実践はそれなりにこなしてる。で、なのはが危険な目に遭うのは今回で終わりじゃねえ」

 

 ゼッドの言葉に、士郎と恭也、美由希が身構える。

桃子はかすかに眉をひそめただけで何も言わない。

そんな中恭也がゼッドに鋭い語調で言葉を投げかける。

 

「どういうことだ。今回は事故のようなものなんだろう。なのははもう開放されてもいいはずだ」

 

 気が昂ぶっているのか、腰を浮かせている恭也に、ゼッドはことさら静かに言った。

自分が落ち着くことで相手も落ち着かせようというかのように。

 

「ジュエルシードの思念体を封じるにはある程度の魔力って奴が必要らしいんだが、それを持ってるのはこのなのはくらいしかこの街には居ないらしいぜ。そして、なのはは俺達に協力するつもりだ」

 

 ゼッドの言葉に一番最初に反応したのは父でも兄でも姉でもなく、母の桃子だった。

 

「本当なの、なのは」

「お母さん……」

「危ないことなのよ?この街という範囲で自分しか出来る人がいないと言われてやる気になったのかもしれないけれど、この街以外ならそれができる人は居るかもしれないのよ」

「でも、でも……」

「お母さんは反対よ。運動も、お世辞にもよくできない貴女が戦うなんて」

 

 母の言葉に、覚悟を決めたはずなのに、大好きなお母さんが止めなさいというなら、その言葉に従った方がいいのではないか。

そんな風に思いそうになった時、ゼッドがなのはに言った。

 

「思い出せ。どんな気持ちで戦う事を決めたのかを。敵でもないお袋に負けてたら、敵なんかに勝てねえぞ」

「ゼッド、君は余計な事を言わないでくれ。なのはの心がぶれる」

 

 恭也の言葉に、ゼッドは黙る。

もう援護は無い。

しかし、だからこそなのはは自分の言葉で、家族に自分の気持ちを伝えようと思った。

精一杯の自分の気持ちを。

 

「あのね、私自分にとりえなんて無い、できないことばっかりだと思ってたの。それで、将来したいことなんかも全然イメージわかなくて……でもね、今やりたい事ならあるよ!絶対にやりたい事!ゼッドさんとユーノくんと、力を合わせてジュエルシードを封印して、この街を、皆を守るの!やっと見つけた「私にできる事」、どうかわがままでも許してください!お願い!お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん!お願いします!」

 

 なのはが頭を下げ、リビングに沈黙が降りる。

士郎も、桃子も、恭也も美由希も、黙り込んでなのはの言葉を反芻する。

 

 それは、危険な子供の思い込みかもしれなかった。

肉親としては幼い末の子供を戦いの場になど送りたくない。

しかし、本人がようやく見つけた自分の特別なのだと頭を下げる。

叶えてやりたい、しかし危険は……誰もがそう葛藤していた。

 

 そんな中、ゼッドが再び口を開く。

ただし、それはなのはに向かってではなく、高町家の面々に向かってだ。

 

「俺が守る。絶対とは言えねえ。だが、俺がなのはの盾になる。それで納得してやってくれねえか」

 

 ゼッドの言葉に、恭也は静かに立ち上がった。

そして自分を見上げる美由希の視線を背中に受けながら言った。

 

「着いて来い。俺は多少武術を齧ってる。道場でお前の実力を見せてもらってから判断させてもらう」

 

 ゼッドは黙ってそれに続く。

美由希はしばらく迷っていたが、恭也に続いた。

 

「あなた、なのはは私が見ています」

「分かった、頼んだよ。僕も恭也達を見てくる」

「あの子達が無茶しないように気をつけてあげてね、あなた」

「分かってるさ。君も、なのはの話、もっと良く聞いてあげて欲しい」

「分かったわ。それじゃあ、また後で」

「うん、また後で」

 

 こうして、家族は二手に分かれた。

恭也はゼッドを障子の向こうにある板張りの道場に招き入れると、壁にかけてあった小太刀の木刀を二刀流で握り、その感触を確かめる。

 

「ゼッド、壁にかけてある木刀から好きなのを選べ。それで立ち会う」

「ああ、分かった」

 

 それ以上は語らず、木刀の握りや重さを確かめるように比べたゼッドは、具合の良いものを見つけたのか。

壁際から道場の中央付近に居る恭也の前で向かい合う。

その時には既に士郎も美由希も道場の中に入っていて、立ち会う二人を見守っていた。

 

「いつでも掛かって来い。先手は譲る」

 

 見た目中高生のゼッドに対して、大学生である自らが力量を測る為に先手を譲る。

ゼッドはそれを受けて一気に踏み込み鋭い袈裟切りを放つ!

 

「オラァッ!」

「むっ!?」

 

 ただの袈裟切りだ、ただ、速く、重い。

それは確実に敵を討つための剣だった。

小太刀一刀で受け流すつもりだったが、予想外に重いその剣に木刀を取り落としそうになった恭也は距離を取る。

ゼッドの守るという言葉、その剣はそれに値するだけのものを一刀の元に恭也に見せた。

だがまだ足りない。

愛しい妹を死地であるかもしれない場所に送り、そこで守ると言った少年だ。

まだこれだけでは不足。

 

「いい剣筋だ。次はこちらから行くぞ!」

 

 小太刀二刀御神流は流れるような二刀の連撃で素早く敵を討つ変幻自在の剣だ。

逆袈裟小手狙い太ももを狙う切り払い、様々な剣筋を見せたが、ゼッドはその全てを重い剣圧とそれに見合わぬ剣速で押し返し、逆に恭也の間合いをこじ開ける。

 

 その試合を見ている美由希は自らの師匠である恭也があんな少年に押されているのが信じられないといった様子で見ていた。

だが士郎は感じ取っていた、ゼッドの剣は強敵を既に何人も斬ったことのある剣だと。

 

 そして行く度かの攻防を重ねて、ゼッドが大上段に構えて振り下ろした烈火のような一撃を恭也が小太刀二刀で受け止め、ビシリといびつな音がした時点で士郎は試合を止めた。

 

「そこまで!真剣であればまだ分からないが、武器がそんな状態ではもう試合は無理だろう。どうだ恭也。ゼッド君はなのはを守れるか?」

「恭ちゃん……」

 

 士郎と美由希の声に、荒くなった息を整え、汗を拭ってから恭也は答えた。

 

「悔しいが……ここまでの使い手なら、よほどの事が、俺達家族でも守れないような相手でもない限り、なのはは大丈夫だと思う」

「そうか。そういう事だ。ゼッド君。僕達は君を信じよう。後は、なのはの方かな」

 

 一方、ゼッドと恭也が濃密な戦いを繰り広げている間の事。

桃子は娘の、本当の気持ちを確かめていた。

 

「なのは。ユーノ君とお友達になって、助けてあげたいというのは解ったわ。それが貴女の選択なのね?」

「うん……」

「じゃあなのは、私達の皆が貴女を心配する気持ちにはどう応えるのか聞かせて」

「それは、えっと、ゼッドさんも守ってくれるし」

「ゼッド君より強くて怖い敵が出たら?」

「そ、それは」

「ねぇなのは、そんなものが現れた時、貴女は私達を残して、悲しみだけを残して、いってしまうの?」

 

 言い聞かせるような声色の桃子に、なのはの眼から涙が零れそうになる。

だが、なっただけだった。

それはギリギリの所で踏みとどまり、涙ではなく言葉で母に答えた。

 

「そんな危ないのがでるなら、皆で力を合わせて、私が封印しなきゃいけないの。お母さん達に悲しい思いをさせるかもしれないっておもったら怖いけど、でも、そこで戦わなくて皆を失う方が怖いから。私戦うよ、お母さん」

 

 まだ九歳。

そんな娘がどうしてこんなに頑固になってしまったのか。

内心ため息をつきながらも、桃子はユーノを抱えるなのはを座る椅子の背もたれごと抱きしめて言った。

 

「なのはの気持ち、良く解ったわ。私達の為に戦ってくれるっていう、その覚悟も」

「お、お母さん、許してくれるの?」

「んー、それはお父さん達のゼッド君の見定め次第だけれど……」

「お母さん……」

「お父さんがゼッド君に太鼓判を押したら、私はもう反対しない。応援するわなのは」

「本当!?」

 

 喜びに茶色いツインテールがぴょこんと揺れる。

そんな娘の頭を撫でながら、桃子は付け加えた。

 

「でも、ジュエルシード探しばっかりじゃダメよ。学校の宿題はちゃんとやる事。いいわね」

「うん!私頑張る。ありがとうお母さん!」

 

 こうして、母と娘の会話も終わり。

若干ユーノが気まずそうにしていたが、戻ってきたゼッド達に、改めて高町家の面々が改めて自己紹介を始める頃には、なんとか元気を取り戻していたのだった。

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