なのはとゼッドに対する高町一家からの試練のようなものが終わった後の話だ。
ユーノはフェレットなのでなのはが喜々として自分の部屋で面倒を見ようとしたのだが。
ユーノの本当の姿は人であるという事を忘れていなかった恭也が待ったをかけた。
そして、その時にユーノ自身が自分は男で、魔力が回復すれば人の姿になるので女の子の部屋に一緒に寝起きするのは……と遠慮した。
するとなのははふぇえぇ!?と慌てて男の子だったの!?などと動揺し、ユーノと同室で寝起きする事を諦めた。
そうなると次はゼッドだ。
住所を聞かれたゼッドが適当な場所で野宿をするのが普通と答えたことに桃子が反応した。
いくら武術をやっている夫や息子が認めたからと言って、子供が野宿なんて良くないと、ユーノ共々高町家の客室で寝起きする事になった。
こうして高町家に寝泊りする事が決まった夜、ユーノはゼッドと話しあっていた。
「ゼッドさんが居れば、昼間もジュエルシードの探索ができますね」
「俺は捜し物とかあんまり得意じゃねーからな。そこらへんは任せた。用はお前を運ぶ運び屋になればいいんだろ」
「そうですね。もしジュエルシードを発見したら、なのはが学校を終わる時間に連絡をいれて、それまで監視するという事で」
「連絡はどうやって入れるんだ?」
「あ、これはなのはには明日教えようと思ったんだけど。僕達魔法を使える人間は念話っていう、無線通話が可能なんです。それで連絡を取れば……」
「そうか。なら念話の使えない俺は基本的にどっちかについてないといけねーな」
明日以降のジュエルシード探索の算段をつけたところで、ユーノの興味の対象は少しずれたようだった。
ゼッドの布団の枕元に置かれている剣の柄が合わさって花の蕾のようになっている柄を見ながらゼッドに質問する。
「ですね。所でゼッドさん。あの時使っていたこの剣、腰に下げていましたけどストレージデバイスですか?」
「ストレージデバイスってなんだよ」
「ええと、インテリジェントデバイスと違って処理速度や記憶領域を確保する為に人格を入れていないデバイスの事です」
「そんなもんがあるのか。とりあえずそれはデバイスじゃあねえよ」
「え?じゃあもしかして……あの魔力刃みたいな赤い刀身はなんですか」
「この剣にはシャードをセットしてその力を刃にすんだよ」
「え!?じゃ、じゃあ非殺傷設定とかないんですか?」
「んなもんねえよ」
「あ、危ないじゃないですか!人間相手には絶対使わないでくださいよ!?」
用意されたベッド代わりの籠の中から身を乗り出して迫るユーノに、ゼッドは少し顔をしかめて答えた。
布団にもぐりこんだ所を見ると、いい加減寝ろと言うつもりなのかも知れない。
「わーたよ。俺だって無駄に人を殺したいわけでもねえ。もしもの時は拳でやってやる」
「お願いだよ!ほんとだよ!」
「解った。だから寝ろ」
「そうだね、さすがに僕も本当に、限界……」
先ほどまで威勢よく声を張り上げていたとは思えない口調で籠の中で丸まると、ユーノはすぐに寝息を立て始めた。
ゼッドも、不慣れな和式布団だったが、すぐに眠りに就いた。
そして翌朝。
携帯の目覚ましで目覚めたなのはは、いつものように制服に着替え、階下の洗面所で身支度を整えた後、リビングに向かうとそこにはいつもと違う、二つの影を見つけた。
一つはユーノで、昨日は食卓に乗せられていたが、さすがに食事時に机の上に居てもらうのは、という感じで床に置かれた皿から、桃子が作った手料理を前にお行儀良く待っていた。
もう一つの影は、静かに眼を閉じて腕と足を組んでいるゼッド。
「おはようお父さん、ゼッドさん、ユーノ君、あと、お母さんも」
「はいおはようなのは。牛乳、運んでくれる?」
「はーい!」
「それが済んだら恭也達を呼んできて。お願いね」
「うん!」
少しの彩をくわえて、異世界の話を高町家の面々が客人である二人に聞くという変化はあったものの、高町家の朝は過ぎていった。
そうしてなのはや恭也達は今までどおり学校に通い、ゼッドとユーノの時間がやって来た。
「ごちそうさん。俺とユーノはちょっくら街を見回ってくる」
「あら、もう行くの?」
「頑張れよゼッド君。でも、無茶はしないこと」
朝食を食べ終えたゼッドがユーノを連れ出す旨を告げると、士郎と桃子はそれを激励した。
ゼッドは、その言葉に、何か感じるものがあるらしく、しばらく動きを止めた後にユーノを肩に乗せて答えた。
「ああ。ジュエルシードは危険らしいしな。ところで」
「何かしら?」
ゼッドの、穏やかな瞳の中に静かなゼッドには珍しい明らかな色、羨望を受けながら桃子が返事をする。
「朝飯。美味かったぜ。俺は、結局一度もお袋の飯を食ってやれなかったから。ありがたかった」
そんな言葉を残してリビングを出て行くゼッドの背中に、士郎も桃子も、彼が母との間に何かあったのを察して静かになる。
「お母さんの手料理を食べてあげられなかったですって」
「どういう意味かは正確には解らないが……君の手料理が彼の心を少しでも慰めたならいいね」
「ふふ、そうね」
「まぁ、僕は毎日愛しい奥さんの手料理で一日頑張る活力を貰っているんだけどね!」
「あらあら、あなたったら。もうっ!」
残された桃子と士郎のおしどり夫婦ぶりは喫茶翠屋へ出勤するまで続くのだった。
「どうだユーノ。何か感じるか?」
首の周りに巻きつくように肩に乗るユーノがふるふると首を振るように何かを探る様子を見せた後。
ある一点でぴたりと顔の向きを固定すると、それをみたゼッドは頷いてそちらに向かい始める。
このような地道な見回りの結果、近所の神社に落ちていたジュエルシードを発動させずに監視し続けたり、深夜に学校へ潜入したりした結果。
三人は始めに封印したシリアルXXI、シリアルXIII、シリアルXII、シリアルXVI、シリアルXXを順調に回収して行ったのだった。
そんな生活だが、ゼッドとユーノが昼に街を探索し、ジュエルシードの発見を行い、放課後になのはが封印という手順を取る事で、若干の余裕があった。
その余裕が、なのはにこんな事を言わせた。
「ねぇユーノ君」
「なんだいなのは」
夕飯前に学校の宿題をゼッド達の部屋で行うなのはが、ユーノに問いかける。
ゼッドは学校の宿題などわからねえ、と言って、本当に眠っているのか寝転がって眼を瞑っている。
そして当の問いかけられたユーノは、魔力を随分と節約できたおかげで既に人間としての姿……金髪の半袖半ズボンの美少年の姿をとっていた。
「あのね、思ったんだけど。私も魔法でゼッドさんみたいに飛べないかな」
「え。あ、それなら基本的な飛行魔法ならレイジングハートにインストールされてるから、練習すれば飛べるんじゃないかな」
「本当!?」
「うん。なのはは魔力の制御も上手いからきっとすぐにうまく飛べるようになるよ。練習したいならレイジングハートに言ってごらん。練習させてくれると思うよ」
「解った!ありがとねユーノ君!」
魔法の杖で空を飛ぶという、実に魔法らしい事が出来そうだと考えてウキウキとするなのはに、ゼッドからの横槍が入った。
「なあユーノ。そういえばレイジングハートには基本的な攻撃と防御の魔法も入ってるんだよな」
「え?うん。そうですけど」
「そうか。なぁなのは、空を飛ぶ魔法はお前が逃げたりするのに最優先で覚えるとして、防御と攻撃の魔法もしっかり練習しとけよ」
ゼッドの言葉に、なのははなんで?という顔で眼をぱちくりさせている。
「今まではなんとかジュエルシードは先手を打って封印できた。けどな、この先もそうとはかぎらねえだろ。俺とユーノが居なくても戦う、までいかなくても、時間稼ぎが出来るくらいには魔法をつかえるようになっとけってことだ」
「あ、そっか……そういう事も、あるかもしれないんだ」
「そうだ。レイジングハート、なのはのこと頼むぞ」
「問題ありません。私はマスターをいかなる困難からも守ります」
「ああ、ゼッドさんそれ僕が言わなきゃいけない事じゃないですか!」
「早いもん勝ちだ。お前はお前なりになのはにアドバイスできる事をしてけよ」
焦るユーノに自然体で言い放ったゼッドは、再び黙り込む。
なのはとユーノ、そして高町家の人々には早々に解ったが、ゼッドはあまり多弁な方ではない。
話しかければマメに答えるが、ゼッドから口を開く事は少ない。
彼が喋る時はそれが必要な時だ、というのが共通の認識になっていた。
「じゃ、じゃあさ、なのは、マルチタスクって知ってるかな?」
「ふぇ?何それ」
「ああ、レイジングハートもそういう話してないんだ。マルチタスクっていうのは思考を分割して魔法の制御を……」
ユーノは科学による魔法について、多少専門的な話を始めた。
こうなると完全にゼッドは蚊帳の外である。
だが、この部屋の中は仲間はずれにされたとか、したとか、そんな空気は一欠けらも無い。
短い付き合いだが、ジュエルシードの封印作業という危険な仕事が三人を急速に親しくさせていた。
なのはとユーノは常にジュエルシードとの対峙で先頭に立つゼッドに信頼を寄せているし、的確な処理でジュエルシードを封印していく二人にゼッドも、無言の信頼を寄せている。
ただ、その信頼ゆえに衝突が起こることもある。
それはなのはが魔法やマルチタスクの練習に夢中になり過ぎた時や、近頃ジュエルシードの発見が無い事だったり。
前者はそれとなくゼッドやユーノが無理をして体調を崩したら元も子もないと練習を中断させるのを、なのはが頬をふくらませて可愛らしい抗議をする程度なので問題は無い。
だが後者は少し深刻で、なのははまだ見付からないのかな、としきりに不安を訴える。
自分の住む街に危険物が散らばっているのだ、これもしょうがないと言える。
ただ、熱心に魔法の訓練に取り組むようになったなのはが広域に探索をかけるエリアサーチという呪文をレイジングハートから引き出した時は残りの二人は苦労した。
やる気もあらわに、私も学校を休んで探索する!というなのはにしっかり学校に行くようにゼッドとユーノで言い聞かせたのだが、以外に頑固な少女はそれを聞き入れなかったのだ。
その問題は結局鶴の一声である、母桃子の勉強もちゃんとするって約束したわよね?という言葉で収まったのだが。
ゼッドには、少しなのはが魔法にはまり過ぎている気がしていたのだ。
そんな日々の中でも、なのはがきちんとつながりを保っている友人が居る。
月村すずかとアリサ・バニングスの二人だ。
彼女達は小さな喧嘩の後で和解し、それ以来の親友同士だ。
その繋がりでエリアサーチ修得後の始めての休暇は、三人で士郎がコーチ兼オーナーを務める翠屋JFCが試合をするのを応援する、という予定で探索は無しとなった。
なのはは残念がったが、ただでは済まさなかった。
ユーノの様子をすずかとアリサが見たがっていると言ってユーノを巻き込んだのだ。
死なば諸共である。
さて、ユーノが取られると念話が使えないゼッドはどうしようもない。
彼は高い家事能力があるわけでもなく、暇だと言うこともあり、家で留守番する事になったのだった。
高町家に居れば、とりあえずなのはの携帯から連絡がつく。
そんなわけで、試合当日。
「へー、あんたがなのはのところにホームステイしてる子?ユーノ・スクライアだっけ」
「はいそうです。なのはから聞いた話からすると、貴女がアリサ・バニングスさんですか」
「そうよ!それで、こっちの大人しい子が月村すずか!可愛いからって変な事したら酷いわよ」
「ちょ、ちょっとアリサちゃん。初対面の子に変な事言わないで」
「あ、あはは。変な事をするつもりは全然ないから大丈夫ですけど」
「そうなの。ユーノ君はしっかりしてるし、優しいから大丈夫だよ」
「ふーん。なのは、随分こいつの事信用してるんだ」
「まぁもう何日も同じ家で暮らしてればね。本当にいい人だし」
「アリサちゃん。なのはちゃんに出来た初めての男の子の友達だからって警戒しすぎだよ」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!ふんだ!」
紫の髪を白いヘアバンドで止めている、お嬢様ぜんとした胸元をリボンで飾った白い半袖の袖を折り返した上着とワンピースを着たすずか。
そして腰近くまである長い金髪を僅かに跳ねたような髪のくくりを作った、赤い肩掛けのついた長袖のワンピースを着たアリサ。
後はいつもの格好のなのはの前に、桃子から買い与えられたカジュアルな子供服を着たユーノが立って、試合開始前のウォーミングアップの合間にユーノを話の種に盛り上がる。
ユーノは話題の中心にいながら、ちらちらと背後の運動に興じる少年達を見やる。
と同時にマルチタスクの練習がてら、念話と普通の会話の同時進行を試みるなのはとユーノ。
「そういえば、ユーノくんはこういうのあんまりみないんだっけ」
<あ、もしかしてユーノくんの世界ではこういうスポーツってあんまりない?>
「うん。そうだね。僕はどちらかと言えば読書とか、屋内での趣味が多いから」
<今言ったとおり。と言っても僕の場合屋内での趣味って遺跡発掘なんだけど>
涼しい顔で同時会話を楽しむ二人。
アリサとすずかはそんな内緒話に気づかない。
「あらそうなの?ならすずかと話が合うんじゃない?この子、かなりの読書好きよ」
「そうなんですか。どんな本を読まれるんですか」
「私は、どちらかと言えば工学系かな。姉の影響で機械に興味があるから」
「そうなんですか。僕は……」
<ねぇなのは、この世界でも古代遺産とかに関する本ってあるのかな>
<ふぇ、それはあるけど私もあんまり詳しくないから……>
念話は完璧、だからこそ逆にどうしようという感じでお互いが眼を合わせてしまう二人。
それは僅かな違和感をアリサとすずかに与えたが、すぐにそれも会話の波に飲まれていってしまった。
「僕は古代遺跡に興味があるんですけど、どちらかと言えばなんていうのかな、神秘的な方面に興味があって……図書館にはあんまりそういう本、ないですね」
「オカルトねー。たしかにそういうのになると図書館にはあんまりなさそうね」
「オカルト雑誌ならあるかもしれないけど、確かに古代遺跡っていうくくりがあるとアリサちゃんの言うとおり、あんまりないね……あ、なのはちゃん。試合始まるみたいよ」
「あ、ほんとだ!みんな頑張れー!」
「あんたら!あたしが応援するんだから勝ちなさいよね!」
「あはは、アリサちゃんむちゃくちゃすぎ。頑張ってね皆」
両チームの選手が配置につくと、気合の入った応援を始めるアリサ。
すずかはそんなアリサをちょっとたしなめてから、自分も静かに応援を始める。
同じお嬢様なのに、その様子は火と水くらい正反対だった。
「あ、ここに立ってたら僕邪魔だよね、ちょっと動くよ」
そういって、さりげなくユーノはベンチに座るなのはの後ろに回る。
ついでに、マルチタスクの練習の終了を念話で告げて、自分も応援を始めた。
そんな彼女達の応援もあってか、四点差の完封勝利を決める翠屋JFC。
その勝利を、子供達の敢闘を祝う為に士郎が翠屋でクラブの少年達に昼食を振舞っていた最中の事だった。
アリサ、すずか、ユーノと共に食事を楽しんでいたなのはが、クラブでキーパーを勤める少年が、鞄のポケットから見覚えのあるものを取り出して何かを確認しているのに気づく。
<ユーノ君!ジュエルシードを持ってる子が居る!>
<え、ええ!?大変だよなのは!ジュエルシードは人の願望で力を解放すると、最大の力を発揮することになるんだ!なんとか回収しないと!>
<で、でも、どうしよう!>
<そうだ、携帯でゼッドさんに連絡を取って相談してみて!何か思いつくかもしれない!>
<わ、解った>
「ごめん皆、私ちょっと……」
「なによなのは。ん?あ、そういうことね、いってらっしゃい」
「いってらっしゃいなのはちゃん」
「え?どういうこと?」
一人だけわけがわからないユーノが首を傾げるも、アリサに一蹴される。
「男のあんたはわかんなくていーの」
「え、えぇ、なにそれ。すずかさんは教えてくれるよね?」
「え。うーん。これはちょっと……教えられないかな」
「うーん。なんなんだろう……」
「そんなことより、あんたの国の話、ちょっと聞かせてよ。なのはにはもう話してるんでしょ?」
「あ、うん。それなりには」
「私も聞きたいなぁ。教えてユーノ君」
なにやら女子二人に責められる男子一人という構図にユーノを叩き込みつつ、翠屋の中のトイレの中からなのはは自宅の固定電話をダイヤルする。
すると、間も無く家に居たゼッドに繋がり、事情を説明すると少しの沈黙の後、ゼッドが電話越しに質問を投げかけた。
「なのは、そのジュエルシードを持ってる奴はどんな奴だ」
「え、ええと。黒髪を普通の長さにしてて、白にグレーのラインの入ったジャージを着てて……えと、左胸にMのマークが入った……ダメ!これじゃお父さんのクラブの子の誰かゼッドさんに解らない!」
「落ち着け。他に何か無いか。もっと特徴のある奴と一緒に居るとかな。要は声さえ掛けられれば良いんだ。後はこっちで何とかする」
「えと、えと、そうだ!薄い青色のウィンドブレーカーを着た、茶髪のマネージャーの女の子が後についていった!その後すぐ別れてなければ男の子と女の子の二人組み!」
「解った。後は任せておけ」
ゼッドはあくまで落ち着いた様子で電話を切る。
一方通話の切れた携帯電話を握り締めて、なのははゼッドの考えが上手く行くように祈った。
ゼッドは、空に舞い上がる。
そして素早く翠屋周辺へと飛んで行き、空からなのはに聞いた特徴に当てはまる少年少女を見つけ出す。
すると彼はそよ風だけを感じさせる身軽さで目立たない場所に降り立つと、件の少年に声を掛けた。
「すまねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「ん?なにお兄さん」
「実は知り合いに捜し物を頼まれててよ。心当たりないか手当たり次第に聞いて回ってるとこなんだ」
「あ、それは大変だね。どんな物を探してるの?」
「指先くらいの大きさのひし形の青い宝石みたいな石で、シリアルナンバーが入ってる石なんだけどな。心当たりないか?」
ゼッドの言葉に、ぴくりと少年の顔に緊張が走る。
そして少年は言葉を捜しあぐねてちらちらと隣に立つ少女に視線を走らせる。
「え、えーと、その……」
「その様子だと、何か知ってるんだな?」
「……うん。実は昨日、これを拾ったんだ」
少しゼッドが揺さぶりをかけると、根は善良な少年なのか、大人しくズボンのポケットからジュエルシードを取り出した。
「おっ。それだよそれ、それジュエルシードっつーんだ。それっぽい名前だろ」
「そう、だね。はい、これ、ちゃんと届けてね」
「おう、わりいな。拾ってもらっておいてろくな礼もできねー」
「いや、いいんだよ。とほほ……悪いことはできないかぁ」
ゼッドの謝罪を受け入れながら、あわよくばジュエルシードを危険なものと知らずにねこばばする気だったのか。
少年はがっくりと肩を落とす。
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもないよ!ほんと!それよりいこっか!」
「そうだね。そのお兄さんの用事も済んだみたいだし、いこっか」
肩を落とした少年を心配する少女に空元気を見せながら、少年は去って行く。
ゼッドは騙して物を巻き上げるなんて、ヒューの野郎みたいなことをしてんな、俺は、と思いつつ。
それでも無理やり取り上げたり、下手にジュエルシードの事件に巻き込むよりマシかと自分を納得させる。
こうしてゼッドに確保されたジュエルシードシリアルXは、友人達と別れたなのはによって、カーテンを閉め切ったなのはの部屋の中で封印される事になり。
ちょっとした休日に起きた、ちょっとした事件になったのだった。