リリカルなのは-KIBA-   作:belgdol

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伝えたい気持ちなの

 なのははあの森での一件から、一層魔法の練習に力を入れるようになった。

具体的に言えば、ユーノに結界を張ってもらって、ゼッドと模擬戦をするようになった。

ゼッドは魔力こそ無いが、キャスティングシャードで作った盾を持った的役くらいは出来る。

 

 そして、あの後高町家とユーノがアリサとすずかの姉の忍、そのメイド達でいった温泉旅行さきで。

再びフェイト出会い、善戦したものの敗北したなのはは、帰宅後ゼッドに悩みを打ち明けていた。

 

「ねぇ、ゼッドさん」

「なんだ」

「フェイトちゃん、お母さんの笑顔の為にジュエルシードを集めるって言ってた」

 

 なのはの言葉を、ゼッドは無言で聞く。

 

「私、お母さんに笑ってもらいたい、こっちを見て欲しいって言う気持ち解るんだ」

 

 アルフさんには、守られてぬくぬくしてる私なんかに解るわけないって言われちゃったんだけどね。

と、泣きそうな色が混じる声を、それでもゼッドは黙って聞き役に徹する。

 

「ちっちゃい頃ね、お父さんが入院して、お母さん忙しくて、お兄ちゃんもお姉ちゃんもお母さんの手伝いやお父さんの看病で私のこと見てくれなくて、私一人で……その時に、お母さん達に笑って欲しい、見て欲しいって思ったことがあるから、なんとなく、解るの」

「……お袋には、自分のこと見てもらいてえよな。俺も解る」

「だから、私ユーノくんの手前フェイトちゃんと勝負してジュエルシードを取り合おうなんてことにしちゃったけど、迷ってるんだ」

「そこは迷うな」

「え?」

 

 ゼッドの静かな言葉に、俯きかけていたなのはは顔を上げる。

 

「お前は、一度ユーノの味方をするって決めたんだろ。だったらユーノにとっても大事なジュエルシードを確保するのに全力を尽くせ。それが筋だ」

「そう、だよね。私、ユーノくんの事忘れそうになってた。あの子に同情するだけじゃ、ダメだよね。あの子の気持ちも考えて、その上で私は私のするべきことする。じゃないと、きっとダメなんだ」

「そうだ。半端な奴は信用されねえ。お前がもっとあのフェイトとかいう奴とお互いを知り合いたいなら、全力で行け」

 

 珍しく多弁なゼッドに、もしかしてゼッドさんもお母さんに思うところがあるのかな、と思いながらなのはは頷く。

その後に、ゼッドははっきりと言った。

 

「俺は、親友だと思ってた相手と試合をすることになった時、本気になれなかった、それは俺と並びたいと願ってたあいつを傷つけた。だから、お前は手を抜くな」

「……解ったの。私、フェイトちゃんと毎回、全力全開で、私の譲れない気持ちもが通じるように戦ってみる!」

「ああ、その意気だ」

「じゃあ早速、訓練!いいでしょゼッドさん」

「ま、やりすぎない程度にな」

 

 ゼッドはただ静かに、魔法という非日常で出会った少女に共感し、親しくなろうとするなのはを見守った。

それはゼッドだけではない、日々魔法のことで報告を受けるなのはの家族達もだ。

最初、ゼッドが守るというはずだったのに、なのはが同じ魔法少女と戦うかもしれないという事態は、当然歓迎されなかった。

しかし戦いを望んだのはなのはであり、ゼッドがもし本気で戦うなら生き死にの話になるという事と、恐らく相手はなのはと同い年程度だと解ると、その態度も軟化した。

ジュエルシードを集める理由は確かに怪しい。

だが頑張っているなのはと同い年の少女に、多少同情する余地はあるということで。

なのはがフェイトと直接戦う許可は降りた。

その許可が降りた側面には、撃墜……空を飛ぶ魔法少女同士の戦いは空戦になることから撃破されることをいう……されたら、かならずユーノとゼッド、どちらかが受け止めるという説得も、また許可が降りる事を後押ししたのかもしれない。

 

 

 

 さて日と場所を移してここはなのはが通う私立聖祥大学付属小学校。

貴重な学校生活での休憩時間。

なのははアリサとすずかに挟まれて色々と聞き出されていた。

 

「ねぇなのは。あんた温泉行く前くらいはなんかちょっと悩んでるかなーって感じしたけど、温泉の後少ししたら、なんだかすっきりしちゃったわね」

「そうだね。なのはちゃん、ちょっとぼーっとしてたのがさっぱりなくなっちゃった」

 

 二人の言葉に困ったように笑いながら、なのはは言った。

 

「もー、ぼーっとしてたのは酷いよ」

「でも、ねぇ?」

「うん。してたよね。お茶会の後くらいかな。ユーノくんとなにかあったの?」

「え、別にそんなこと無いよ……っていうかなんでユーノくんなの?」

 

 きょとんとするなのはに、アリサがにやりと、すずかがくすりと笑って言った。

その表情はいたずらっぽさに溢れている。

 

「だってねぇすずか。今まで男の影なんて全然なかったなのはにホームステイで男の子が急接近だなんて」

「そうだよね。なのはちゃんについにボーイフレンドができたのかなって」

「ええぇ!?なんでそーなるのぉ!?」

「ほらほら、なのはぁ。正直なところいっちゃいなさいよ」

「ななな、なんで私だけそんな……男の子との話がないのってアリサちゃんもすずかちゃんも一緒でしょ!?」

 

 必死の抵抗を試みるなのはに、アリサはさっと胸を張って答えた。

 

「とーぜんじゃない。私を誰だと思ってるのアリサ・バニングスよ。私の横に並ぶなら、男の方にもそれなりのステータスがないとね。あ、これ厭味じゃなくてそうじゃないと男の方がひがんだりしたりして困るって事よ」

「そうだね。アリサちゃんのおうちみたいなお金持ちが相手だと、男の子も萎縮しちゃうよね」

「いしゅ……なに?」

「萎縮。ちぢこまっちゃって、自由に出来ないって事」

「あ、なるほど……アリサちゃん大変だね」

「そ!それにこれって私だけじゃなくてすずかもよ。運動できて勉強できて、お金もある。下手な男じゃ相手にならないわ」

「うーん。私は相手の子が私の事を受け入れてくれればそれでいいんだけどね」

「だからー!そのハードルが高いっつってんの!」

「うわぁ……アリサちゃんもすずかちゃんも大変だね」

 

 ちらりとお金持ちの苦労というのを垣間見て感心するなのはだったが、アリサのターンはまだ終わっていなかった。

なのはのほっぺをつつきながら話を元に戻した。

 

「だ~か~ら~、一番男と仲良くなりやすそうで、あんな可愛い男の子と一緒に居るなのは、あんたがまな板の上に乗るのよ!」

「ふ、ふえぇ!?酷いよアリサちゃん!」

 

 なのはがご機嫌なのは、ずっと見付からなかった自分のやりたいこと。

つまり魔法にまい進しているからなのだが、それをアリサとすずかに言うわけにはいかない。

困ったなぁと思いながら、都合がいいのも事実で、ユーノくんごめんね、と内心謝るなのはだった。

 

 

 

 そんな風に、魔法に学校にと、充実していたなのはが放課後アリサとすずかが習い事で一緒に帰れなくなったある日。

ユーノとゼッドと共にジュエルシードの反応を捜すべく、そろそろ夕食の時間になると言う時間まで探索を行っていたのだが。

急速に発達する雲、暗闇に覆われ光を失う街並み、そしてビルの隙間から海のあるはずの方向に見える遠雷という、少し異常な事態。

これを見てユーノはなのはとゼッドを近くに寄せて言った。

 

「大変だ。これはきっとジュエルシードを強制発動させて発見する為の魔法だ」

「え、強制発動?そんなことしたら危ないんじゃ……」

「その通りこんな探し方するの、きっとあの子達だと思う」

「そんな……」

「そんなことより、間に合え!封時結界!」

 

 ユーノが展開した結界が光を失った都市の中にある、ジュエルシードの発動源に展開され、外部と切り離しを行う。

そしてユーノと共にジュエルシード発動の感覚を肌で感じたなのは駆けながらレイジングハートをセットアップする。

ゼッドは、ただ黙ってその後に続く。

もしかしたら彼は既にこの事件、自分の出番はもう殆ど無いと思っているのかもしれない。

すでになのはなら思念体程度なら彼の援護無しでも十分対処できる。

問題点はフェイトとの勝負くらいなのだ。

ただ、それでも彼はなのはに付いて行く。

万が一が無いように。

 

「フェイトちゃん!」

「なのは……」

 

 ジュエルシードの胎動が始まっていた現場で、なのはとフェイトは相対した。

だが、その眼に憂いは無い。

ただ互いにジュエルシードを封印し、相手から勝ち取ることだけを考える。

 

「レイジングハート、お願い!」

「了解です。シューティングフォームにセットアップ」

 

 レイジングハートの形状が変わる。先端の月の輪のようだった金色のパーツがUの字型になり、柄の部分が引き伸ばされる。

 

「バルディッシュ、やるよ」

「了解ですマスター。シーリングフォームセットアップ」

 

 フェイトも、バルディッシュの形態を変化させ、バルディッシュの先端を竜のアギトの様に横たえて射撃体勢に入る。

そして封印魔法を発動させたのは同時だった。

 

「リリカルマジカル!」

「ジュエルシードXIX、封印!」

 

 ジュエルシードを中心に、はじける桃と金の光。

しばらく拮抗し、のたくったそれは、しばらく経つと無事にジュエルシードの封印を完了させる。

ゆっくりと、歩いてお互いの元へ向かうなのはとフェイト。

そしてジュエルシードを挟んで向かい合う。

 

「また、勝負だねフェイトちゃん」

「私は、負けない」

「うん。フェイトちゃんの譲れない気持ち、解ってる。だけど私も、ユーノくんとの、友達との約束の為に譲れないから」

「じゃあ」

「勝負だよ、フェイトちゃん!」

 

 お互い、それを合図に宙に浮き一旦は距離を取る。

そして、結界に包まれた街の中を桃と金の砲撃魔法が交錯する。

時折、フェイトが高速移動魔法でなのはの懐や背後に回ってサイズフォームで格闘戦を仕掛けるが、なのはもすでに慣れたもので。

プロテクションや自らも修得した移動魔法を使って逆にフェイトの背後を取ってみせる。

 

 数週間前、二人の間には明確な技量の差があった。

だがそれもなのはのたゆまぬ努力と、それに協力するユーノ、レイジングハート、ゼッドの助けもあってフェイトに並ぶまでに成長していた。

フェイトが弱いわけではない、なのはの魔法に対する適正が異常といってもいいレベルなだけだ。

才能を持ち、その道を好み、努力を怠らない天才性、実戦を感じさせる模擬戦の相手。

これらが合わさってなのはという華は急速に花開いたのだ。

 

 幾度目かの接近戦をいなし、フェイトに誘導弾を向かわせながらなのはは叫ぶ。

 

「最初は、私は守られてばっかりだった!」

 

 その言葉に、フェイトの顔が一瞬険しくなる。

そんな彼女は瞬く間に迫る誘導弾を切り捨てる。

 

「でも、フェイトちゃんと出会って、それだけじゃダメだって思った!」

 

 誘導弾を切り捨てたフェイトが、僅かに照準を変えながらフォトンランサーの光をなのはへ向けて走らせる。

なのははこれをプロテクションでは防がず、飛行魔法の軌道だけで回避する。

 

「戦うって決めたなら、一人でも戦う気持ちをちゃんと持たないといけないって、フェイトちゃんを見て思ったから!」

「私には、アルフが居る!」

「そういう事じゃないの!助けてくれる人がいるのはいいの、でも、もしその人がその場に居なかったら……そんな時にも、立ち向かう気持ちを持たなきゃいけないって、そう思った!」

 

 回避を終えたなのはは、しっかりと空に大地があるかのように身構えると、レイジングハートをシューティングフォームに変えて砲撃の為のチャージを始める。

 

「それに気づかせてくれたのはフェイトちゃん、貴女なの!だから私、フェイトちゃんと友達になりたい!」

「……友達……」

「だから、フェイトちゃん。ジュエルシードの取り合いが終わったら……」

「くっ、私には、母さんとアルフがいればそれでいいんだ!」

 

 高速移動魔法で、フェイトはいまだに収束の甘いなのはの砲撃準備中を狙って一気に距離をつめ、その首筋にサイズフォームのバルディッシュの魔力刃を突きつける。

 

「魔法の組み立てが甘い。私の、勝ち」

「にゃはは。また負けちゃったね……あのね、フェイトちゃん」

「……なに」

「私が勝ったら、お願いがあるんだ」

「無意味、私は負けない」

「聞くだけ聞いて。私が勝ったらね、お互いの名前をきちんと呼んで、友達になろう」

 

 首元に刃を突きつけられても笑顔でそんな事を言うなのはに毒気を抜かれたのか。

フェイトはバルディッシュを通常フォームに戻し、なのはに背を向けて言う。

 

「勝負は私の勝ちだから、貰って行くね」

「うん。ジュエルシードの所まで一緒に行こう」

 

 こうして、一方通行に見えるが二人の交流は続いていったのだ。

そしてジュエルシード置き去りにされた地点では、ゼッドとユーノが巧い事フェイトの為にジュエルシードをせしめようとするアルフとにらみ合いになっていた。

 

「あんたらさぁ、頼むよ。ジュエルシードを譲っておくれよ」

「全部、あいつらの勝負の結果次第だ」

「そんな硬い事言わずにさぁ。あの子にはどうしても必要なんだよ」

「だ、ダメです!僕は発掘した責任者としてロストロギアを無事にしかるべき場所に送る義務があります!」

「ちっ、なんだい随分けち臭いね。要はあんたらはこの街でジュエルシードが発動しなきゃいいんだろ?なら封印した後はゆずってくれてもいいじゃんか」

「なのはは僕がジュエルシードをきちんとした人達に預けるのも込みで手伝ってくれてるんだから、そういうわけにもいかないよ」

「あーもー、ああいえばこういう。あんた頭硬いね!」

 

 言い合うアルフとユーノの間でゼッドは殆ど喋らず、ただなのはとフェイトを待つ。

どの程度待っただろうか、ゼッドの眼がフェイトに続いて飛んでくるなのはを捉える。

 

「おい、来たぞ」

 

 ゼッドの言葉に、今まで喧々諤々としていた二人はそれぞれの友達、主人の下へと駆けて行く。

 

「フェイト、フェイトォー!どうだったんだい!?苛められなかったかい!?」

「なのは!大丈夫!?」

 

 駆けながら声を張り上げる二人に、フェイトは珍しく小さく微笑む。

なのはは申し訳なさそうに手を顔の前に立てて頭を下げる。

その反応の違いに、アルフは喜びの声をあげ、ユーノは小さくため息をつくが、念話で怪我の有無などを聞いてなのはを気遣う。

 

<なのは、怪我は無い?>

<えと、それが、また首元にしゅってやられて負けちゃったからないよ>

<それならいいけど。これからも毎度なのはが一人で戦うのかと思うと僕は心配だよ。不慮の事態だってあるんだからね>

<ありがとうユーノくん。でも大丈夫。フェイトちゃんは、きっと優しい子だから。そうじゃなきゃ、あのアルフさんだってあんなに気にかけないよ>

<そうだといいんだけどね>

 

 念話を終えて並んだ二人がフェイト達の方を見ると、ゼッドの前でジュエルシードをバルディッシュに格納している所だった。

アルフがさすがフェイト!だとか、こんな甘ちゃん連中に負ける鍛え方なんかしてないもんねぇ!とか。

とにかくフェイトをべた褒めにする様子が伺える。

だが、フェイトは冷静にアルフを伴うと、結界の外へと消えていった。

 

 そして、なのはとユーノがゼッドの所にたどり着くと、ゼッドは一言言った。

 

「負けちまったな」

 

 静かなその言葉に、なのはは少しだけ、自分のわがままでこういう状態になっていることを考える。

だが続くゼッドの言葉はなのはを責めるものではなかった。

 

「まぁ、生きてればいい。生きて次に向かえる希望がなくなってなけりゃあ、また戦える。だから早く帰ろうぜ。桃子さんの飯が待ってる」

 

 そういって結界が解除され、ジュエルシードを発動させる魔力が去り電灯と人の気配が戻ってきた街の中を、高町家へと向かって歩み始めた。

ゼッドの言葉は、なのはの少し萎れそうだった心を元気付かせ、次がある!という思いを抱かせた。

 

<レイジングハート、今度こそ勝つためにも、訓練よろしくね>

<やりすぎにならない程度になら喜んで>

 

 もう一人の魔導師が現れ、荒れるかと思われた世界だが、そんなことは無かった。

それはなのはの心がフェイトに届いたからか。

あるいは、届くように場を作ったゼッドの力なのか。

とにかく、物語はいまだ穏やかな姿を見せ続けていた。

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