リンディが高町家で時空管理局の任務と、それに関わろうとするなのは達の熱意を説明し、正式に臨時局員として所属することが決まった後。
なのは達、現地でジュエルシードの回収を行っていた三人がアースラの乗員に紹介された。
そしてそれから十日の間、ジュエルシードの一特定をアースラが行うことで五つのジュエルシードを発見していた。
だがシリアルVIII、XI、XIIしか確保できず、残る二つはフェイトによって確保されてしまった。
管理局が現れたことで影の中に潜むように行動をするようになったフェイトと、なのははいまだ対話を行えないで居た。
なのはたち管理局側が確保を確定しているのは八個、フェイトが確保したジュエルシードで確認できる数は、五個。
なのは達と出会う以前からフェイト達もうごいていたとしたら、おそらく残る数は六か七かという、状況。
多少不謹慎だが、なのははジュエルシードの残りの数が減るたびに、フェイトと出会う確立が減って行く、そんな気持ちになっていた。
そしてアースラの食堂でのこと。
なのはとユーノ、ゼッドは食事を取りながら話していた。
「浮かない顔だね、なのは」
「うん……こんなこと言っちゃいけないんだろうけど。フェイトちゃんと会えないのが、ちょっと寂しい」
「……まぁ、あの子も堂々と僕等の前に現れるわけにはいかないからね」
「それは解ってるの。でも、このまま事件が終わっちゃうのは嫌だなって」
「落ち込むなよ、なのは」
不安を湛えた瞳のなのはに、トレイに乗った固形食糧をかじりながら言うゼッドはあくまで自然体だ。
それは、僅かになのはの不安を和らげる。
「落ちてる分だけ拾ってはい終わり、って仕事じゃねえだろ。必ず直接お前とあいつがかちあう時は来る。心配するな」
「そう、だね。管理局の皆さんは、フェイトちゃんが持っていった分も回収しないといけないんだもんね。その時、会えるかな」
「きっと会えるよなのは。だから、僕達皆で頑張ろう」
「うん。ありがとうユーノ君。私頑張る」
そういうと、笑いあいながら食事を続けるなのはとユーノ。
そして、澄ました顔で全てをゼッドが平らげた時に、艦内に警報が鳴り響く。
それを聞いて、三人は立ち上がり、ブリッジへと走っていくのだった。
「一体何があったんですか!?」
勢い込んで駆け込んできた三人の中で、一番に声をあげたのはなのはだった。
それに答えたのはクロノだ。
「ああ、黒い少女。フェイトと言ったかな。彼女が大規模な魔力でジュエルシードを発動させて位置を特定した」
「フェイトちゃんが!?あの、私を現場に行かせてください!」
「その必要は無い。遠からずあの少女は力尽きて墜ちる。そこを確保すればジュエルシードも容易く確保できる」
「そんな……」
「君には辛いだろうが、話なら彼女をアースラに確保してからでもできるだろう。ここは万全の状態でジュエルシードを確保する為に待機してくれ」
「でも!フェイトちゃん、苦しそうだよ!放っておけないよ!」
「なのは。臨時局員になった時の約束、忘れたのかい」
「あ……う……」
クロノの正しい言葉に、なのはは折れそうになる。
でも感情がフェイトを助けなければいけないと訴えているのだ。
この状況で助けられなければ、友達なんて名乗れないと。
「それでもお願い、クロノくん。私、チャンスをくださいっていったよね。フェイトちゃんと話をするチャンスを」
「だから、それは彼女を確保した後に」
「今、出て行かないと私はフェイトちゃんに信頼なんてされないと思うの。だから、お願い」
必死に訴えるなのはを、ユーノも援護する。
「確かに敵の体力切れを待つのは有効だよ。でも、フェイトはすでに消耗してる。今からジュエルシードの封印に介入しても確保できる公算は高いと思う。だから、時間をかけて次元震発動のリスクを高めるより、勝負をかけたほうがいいんじゃないかな」
ユーノなりの、なのはへの精一杯の援護を聞いて、まったく君達はと呟いてからクロノは思考に入る。
「艦長、執務官である僕となのは、ユーノの三人で一気にジュエルシードを封印、制圧を行いたいと思います。許可をいただけますか?」
「……ゼッド君も連れて行きなさい、クロノ執務官」
「ゼッドを?しかし過剰戦力では」
「彼の呼ぶスピリットはジュエルシード発動中の障害から貴方達を守るディフェンスとします。クロノ、貴方は彼女達が転送で逃げられないようにサポートに徹して頂戴」
「なるほど……了解しました艦長。なのは、ユーノ、ゼッド。それでいいな?」
執務官として、三人に確認を取るクロノにゼッドが答える。
「文句ねえ。行こうぜ、あいつがダメになっちまう前に」
後は勝手知ったる他人の船とばかりに、ゼッドが戦闘になって転送ポートへと駆け込む。
そして、ユーノが転送魔法で全員を嵐吹きすさぶジュエルシード六個の発動点である、アルフの結界の中へ転移させる。
「あんたら!フェイトの邪魔はさせないよ!」
転送先では血気にはやる獣形態のアルフがユーノに躍りかかった。
だが防御魔法でそれをいなしたユーノはフェイトとアルフに声をかける。
「今は戦いに来たんじゃないんだ!協力しにきたんだよ!」
「協力?管理局を背中にはっつけて、なにいってんだい!」
警戒をあらわにするアルフはひとまずおいて置いて、なのははフェイトに呼びかけながら傍へと飛ぶ。
「あのね!今は協力しよう!だてフェイトちゃん、もうぼろぼろで、見てられないよ。だから、封印、一緒にやろう」
レイジングハートから攻撃でも防御でもない、純粋な魔力がバルディッシュに受け渡される。
「フェイトちゃんからお話聞きたいけど、それは後。封印が終わったら、なんで急にあんな怖い攻撃をするようになったのか、教えて、フェイトちゃん」
「なのは……」
「さぁ、いくよレイジングハート!ディバインバスターフルパワー!」
「シューティングフォーム、セットアップ」
「バルディッシュ……」
「了解です。シーリングフォーム、セットアップ」
なのは達の準備はこうして整った、だがジュエルシードを含む渦の動きが止まらない。
ユーノがアルフに構わず拘束をしようと試みるが、その直前にゼッド叫んだ。
「こい!アミルガウル!」
左腕からは以前とは違う、翠色の光。
それは豪風を伴って現れ、何時しか灰色の髪に同色の角、そして頭や背中に翼を生やし、黄金の鎧を着込んだ翠色の巨人が立っていた。
その威圧感は凄まじく、その場に居る全ての人間が気圧される。
「アミルガウル!やれ!」
ゼッドの指示を受けてアミルガウルはたちまち立ち上る渦を、背中から抜いた翼の一対で振り払うたびに一個一個ジュエルシードを露出していく。
「いまだ!ユーノ!アルフ!」
さらに叫ぶゼッドの声に、二人は思わずジュエルシードを縛る魔法を発動させる。
それを見て、なのはとフェイトは頷きあう。
「ディバインシューター!」
「サンダー……レイジ!」
放たれたなのはとフェイトの膨大な封印魔法は、六個全てのジュエルシードを封印することに成功する。
それはアースラ側でもモニターしていた。
「なんてデタラメな力だ……なのはとフェイトという少女もそうだが、ゼッドの、アミルガウル。あれはロストロギア級じゃないか……?」
一人ごちながら、フェイトとアルフが転移を発動しないように転移を制御する結界を展開するクロノ。
そんなクロノの気持ちも露知らず、なのははフェイトに呼びかけていた。
「あのね、ジュエルシードは半分ことかいけないと思う。危険なものだから、ね。でも、フェイトちゃん、貴方を何が変えちゃったのかとか、そういう事情は話し合えば半分粉に出来ると思うんだ。それで、私、フェイトちゃんと重荷を分け合える友達になりたい」
「そんなこと、言ったって……」
「フェイトちゃん、あの時本当に冷たかった、それまでは闘いって言っても、どこか暖かくて、楽しいものだったのに。それを捨てちゃうなんて、どうしたの。教えて!」
「わた、私は……私は!母さんの子だから!完璧に仕事をこなさないといけないんだ!ジュエルシードで願いを叶える母さんを助ける為なら、私は、私は……!」
「フェイトちゃんがお母さんの為に頑張ってるのは解った。でも、その為に全てを振り切って戦うのは辛いんだよね。その辛さを、私に分けて。私、受け止めるから」
「う、うわぁぁあぁぁぁあ!」
サイズフォームで斬りかかるフェイト、だがなのははそんなこと恐れず、懐に飛び込んで、フェイトを抱きしめた。
「辛かったねフェイトちゃん。でも大丈夫だよ。フェイトちゃんのお母さんの願いだって、ちゃんとしたものなら管理局の人だって叶えて……」
なのはの細い体からは考えられないほどの強い力で抱きしめられたのは、栄養失調気味のフェイトには振り払えないものだった。
だから、最後の抵抗に泣いた。
「母さんに笑って欲しいんだ……優しい母さんに戻って欲しい……母さん、母さん、私どうしたらいいの……」
疲れ果て、もうどうしたらいいのか解らない管理局に囲まれた状況。
その全てを吐き出すように泣いていたフェイトだったが。
「何!?次元跳躍攻撃!?ゼッド!」
「なんだ!?」
「遠距離からの攻撃反応!防御を!」
「っ、アミルガウル!」
クロノがゼッドに指示をだした刹那、アミルガウルが舞う様にジュエルシードを近くに漂わせるなのはとフェイトを覆うように飛び上がり、舞い降りた紫色の魔力光を放つ雷を翼で払う。
それを見たフェイトが呆然とした顔で呟く。
「かあ、さん……?」
「お母さん?あの、フェイトちゃん、今の攻撃って」
「……」
何も言わずにうな垂れるフェイトに、なのははこれ以上この状態で問いかけtも、何も得られないと判断した。
脱力するフェイトの体を支えながら、なのははフェイトを元気付けようと頑張った。
「フェイトちゃん、アースラに行こう。そこで皆にしっかりおはなしするの。ちゃんと、大人の人にも話せば道はできるよ。だから、行こう。フェイトちゃん」
優しく、言い聞かせるなのはに、フェイトは全てを委ねるように抱きしめ返した。
「あ、あのババァ!フェイトを狙うのはどういうつもりなんだ!やっぱり、やっぱりあの女、フェイトに愛情なんて無いんだ!」
「ちょ、ちょっとどうしたのアルフ!?あの女て誰さ」
「フェイトをいつも苛める鬼婆だよ!もう、我慢できない!フェイトが傷つくことになっても、あの女をどうにかしなきゃいけない!」
今にも天に噛み付かんばかりの様子を見せるアルフをユーノが宥める。
「落ち着いて。まずはアースラで話そう。状況次第では、きっと君の主人であるフェイトも、そう悪くは扱われないはずだから」
「本当かい?本当に、フェイトを酷い目に合わせないかい?」
<クロノ、アルフから情報が引き出せそうなんだけど>
<使い魔の考えることはすぐ解る。主人のあのフェイトという子は悪いようにしない、執務官の名に懸けて約束する>
<ありがとう、クロノ>
クロノとの念話をきり、ユーノはアルフを宥めるようにその鬣を撫でながら言う。
「大丈夫。執務官が証言するなら君達を悪いようにはしないって約束してくれた。だから安心してアースラに来るといいよ」
「うん。全部話すよ……あたしゃもうフェイトが苦しむのは、いやなんだよ。あの女の愛情を求めて、鞭打たれても頑張る姿を見るのは辛いんだよ。あたしも、疲れちまった……」
うな垂れて搾り出すように言ったアルフは、付け加えた。
「管理局はともかく、あんたら三人は少しは信用出来そうだしね。少なくともあんたら三人は、自分達に出来る最後まで約束を守ってくれた。同じ様に、出来る限りフェイトのこと、また助けてやっておくれ……」
「解った。僕達もアースラの人達に悪くしないであげてってお願いしてみる。だから、きてくれるね」
「ああ、全部任せるよ」
クロノはフェイトとアルフの両名が逃亡の意思も無くしたのを見て、ジュエルシード六個を回収し、結界を解除。
アースラへの転送を開始する。
その際にリンディに念話を送る。
<艦長。実行犯……恐らく従犯ですが、容疑者二名をロスト・ロギアと共に確保しました>
<ちょっと賭けの大きい出撃だったけれど、皆のがんばりで予想以上に上手い事事態が収まったわね>
<ええ。彼女達は少々理想が大きすぎると思いますが、上手くいってなによりです。案外、気持ちがいい>
<それは何よりね。しかしゼッド君のことだけれど>
<はい。次元跳躍攻撃をあっさりと防ぐあの召喚魔法の技術はロスト・ロギア判定もやむなしかと>
<後で彼と話し合う必要があるわね。とにかくお疲れ様クロノ。アースラも攻撃を受けたけれど、航行に大きな支障はないから。次はフェイトという少女を操っている人間の本拠地を攻めなければならないから>
<了解です>
念話が終わると、全員がクロノの指示を待っている状態だった。
クロノは少しだけ思考を走らせると言った。
「なのは、君はその少女が少し参っているようだから医務室へ。この十日間で位置は解っているな?」
「大丈夫」
「よし。ユーノは待機、ゼッドは艦長のところへ顔を出してくれ。僕は、そのアルフという使い魔から事情聴取を行う。素直に話してくれるんだな?」
「いいよ。あたしゃフェイトの使い魔だ。ちょっとは精神リンクもしてる。だからフェイトがプレシアの奴をどんなに求めてるかは知ってる。でも、でももうあたしは、限界だっ」
よほど腹に据えかねているのか、見えないプレシア……恐らくフェイトの母だろう……に牙をむくアルフ。
その興奮を抑える為、勤めてクロノは冷静な声で伝える。
「全ての話は聴取室に入ってからだ。その後の証言は全て記録される。いいな」
「解った」
「よし、じゃあ行こう。ああ、ユーノ。さっき待機とはいったが、暇ならなのはを手伝ってくれてもいい。話すときは、二人きりがいいだろうが」
「うん。そうだね」
「よし、じゃあ各自解散。それぞれの場所へ行くように」
指示を出し終わったクロノがアルフを伴って歩き始めると、なのは達からそれぞれから返事が帰ってきた。
「うん。フェイトちゃん、すぐゆっくり休める場所につれていくからね」
「手伝うよなのは。浮遊魔法の応用で運ぼう」
「解った。じゃあまたな」
こうして、聴取室に連れて行かれたアルフは、首謀者であるプレシア・テスタロッサと娘であるフェイトの関係の実態と、本拠地である時の庭園の座標を全て吐き出した。
そして、その上であれだけ警戒していた管理局の執務官であるクロノに、フェイトの事を何度も、何度もお願いして土下座までしかけるほどの勢いで処置を軽くするように頼み込んだ。
これでクロノ達管理局側は重要な情報は一部手に入れたのだが、プレシアの動機という、事件の中枢となる部分は、いまだに謎のまま決戦に挑む事になると思われた。
なのはとユーノはフェイトを医務室に連れて行ったが、検査の結果は芳しくなかった。
ストレスと小食が重なり、健康面はすぐにでも適切な指導と治療を受ける必要があることが示された。
それを聞いたなのはの顔が曇る、ユーノだってあまりいい顔はしない。
だがなのははすぐに表情を切り替えた。
泣きつかれて眠っているフェイトが起きた時、優しく迎えて上げられるように。
自分を心配しながらも送り出してくれた、優しい母の顔はどんな顔だったかを思い出しながら、フェイトの寝顔を見つめ続けた。
そして、リンディの元へ向かったゼッド。
以前も使った会議室に二人きりで向き合う。
「ゼッド君。あのアミルガウルは何?」
「キースピリットだ」
「キースピリット?」
「神であるタスカーを復活させる鍵の内の一つ。それがあいつだ」
「神って……」
唐突に飛び出した神という単語に驚きと呆れが混じった表情を見せてしまうリンディ。
だがゼッドは気にした風もなく続ける。
「まぁ、あんたが考えてる神じゃねえよ。スピリットの元締めを神なんて呼んでただけだ」
「スピリットの元締め、ね。アミルガウルの力を見ればそれは大きな脅威だと思うけれど」
「タスカーはもう復活しねえ。アミルガウルは俺と一心同体になったからな」
「一心同体?でも貴方はアミルガウルを使役していたわよね」
疑問の色を浮かべるリンディに、ゼッドも答えあぐねる様子でしばし眼を閉じる。
「あれはなんつうかな……あんたらの使う魔力も、身体と一体だろ?それを……放出してるっつーのか。そんな感じだ」
「では、先ほどのあれは全力ではないと?」
「さーな。それは試したことがねえからわからねえ。アミルガウルに全力を出させたら、俺がスピリットになるのか、俺とアミルガウルがまた分離するのか、な」
これで語るべきことは語ったという表情になったゼッドに、リンディは続けた。
「思うに、貴方の事を時空管理局に報告したら、貴方は生きるロスト・ロギアの認定を受けることになると思います」
「それがどうしたっていうんだ」
「最悪。私達アースラのクルーが貴方を拘束しなければならなくなるかもしれないという事です」
リンディの強い視線に、ゼッドは軽く笑って答える。
「まぁ少しなら付き合ってやるさ。でもな、俺の行く先を決めるのは俺だ、俺は自由にさせてもらうぜ」
「管理局の監視の眼を掻い潜る自信がある、という事かしら」
「世界は広いからな。事実あんたらはシャードキャスターを知らなかった。なら、あんたらの手の届かない世界なんていくらでもあるさ」
ゼッドの答えにため息をつくリンディ。
ゼッドは明確に言っているも同じなのだ。
現在関わっているジュエルシード事件に片がついたら、管理局に縛られるつもりはないと。
できればリンディとしてはゼッドに管理局に管理されるとしても、それは仕事を選ぶような穏やかな管理で、ただでさえ手の回らない管理世界の秩序を守るのに手を貸してほしいと思っている。
だがこの少年は突き詰めればどこまでも個なのだ。
その気になれば、なのはやユーノとの繋がりも断ち切って、行ってしまうだろう。
事件が収束に向かっている今、別れは近いのかもしれない。