アルフの証言により次元要塞である、時の庭園の座標を割り出したアースラのクルーは攻勢に出ようとしていた。
赴くのは執務官であるクロノと武装局員の部隊、そしてユーノとゼッドだ。
なのはは、フェイトが目覚めた時傍に居てあげたいとアースラに残ることを選んだ。
艦長であるリンディは、ゼッド一人ですでに過剰戦力であるとすら思っている。
クロノや武装局員は、あくまで生身の人間であるプレシアを拘束する為の人員だ。
「クロノ執務官、及びに武装局員各隊、それと臨時局員であるゼッドさん、ユーノさん。今回の目的はプレシア・テスタロッサの確保している残りのジュエルシードの回収です」
「了解しました艦長。総員、戦闘準備」
「了解です!」
武装局員達の返事が集まり、怒号のような音になってクロノとリンディに届く。
「ゼッドさん、ユーノさん。お二人ともよろしいですか?」
「ああ」
「心の準備は出来ています」
「よろしい。では総員、転送ポッドから出撃!」
リンディの号令と共にアースラの転送ポッドに控えていたクロノを初めとする人々が時の庭園へと転送される。
事件は終着を迎えようとしていた。
転送先にはなんらかの防衛システムが待ち構えているかと思われたが、それが無かった。
クロノはその状況をいぶかしんだが、迷っている暇は無い。
プレシア・テスタロッサに対するため、自分とゼッドとユーノを戦闘に、プレシアテスタロッサが居ると思われる玉座の間へと急ぐ。
だが、その道のりにも妨害は無かった。
クロノはますます不可解な状況に思考の一部をまわしたが、結局その意味は解らなかった。
そして、時の庭園の中枢へとたどり着く。
「プレシア・テスタロッサ!貴女を時空管理法違反、及び管理局艦船への攻撃容疑で拘束する!」
柱が立ち並び、その奥に玉座に座るプレシアの周囲には五個のジュエルシードが浮かぶ。
それを武装局員達が取り囲む。
だが、彼女は気だるそうに椅子に座ったまま言った。
「足らないわ」
「何?」
「ジュエルシード……たった五個では、到底アルハザードには辿り着けない。私の夢も終わり、かしらね」
「……抵抗しないのか?」
「ふ、ふふふっ、あははは、あはははははははは!抵抗!これは抵抗ではないわ!私のアリシアの復活を邪魔する化け物への報復よ!」
「な!?」
デバイス無しで魔力を制御し、それを放つプレシア。
その矛先は、ゼッドだった。
「報復ってのはどういうことだ」
プレシアの放った紫電だが、ゼッドは素早くスペルシャードを変化させた盾で防いでいた。
「私は、ジュエルシードを集めて忘れられた都アルハザードへ渡り、アリシアを蘇らせるつもりだった。それをことごとく邪魔されて、貴方は一体なんなの!?なぜ私達にこんな、こんな仕打ちを……!」
叫び、息を切らし、時折血を吐きながらゼッドに雷撃を放つプレシアだが、ゼッドはこれを全て防ぐ。
「貴方さえ、貴方さえ居なければ!私はあの人形を捨てて、アルハザードでアリシアと永遠に!」
盾を構え、雷撃をものともせず進むゼッド、そして彼は弱々しい放電しかできなくなったプレシアの前に立つと、吼えた。
「うるせぇ!しったことか!アリシアとかいうのが何者かはしらねえ。だがあんたは間違った!死人に囚われて全て間違っちまった、大馬鹿女だ!」
重い一撃が、明らかに弱っていたプレシアの腹部に入る。
「アリ……シア……」
相当弱っていたのか、ただその一撃でプレシアは意識を失う。
それを見てクロノが慌てて彼女の周囲に浮かぶジュエルシードを確保する。
「ゼッド、君はむちゃくちゃだ。大魔導師プレシア・テスタロッサの魔法を盾一つで防いで、一撃で意識を失わせるなんて」
魔力を封じる拘束魔法でプレシアを捕縛したクロノの言葉に、ゼッドは淡々と答える。
「その女、元からかなり弱ってた見てえだな。大方海で仕掛けてきたのが精一杯だったんだろう」
「……なるほど、確かにあの魔法は魔力を大幅に使いそうだ」
「そういう意味だけじゃなくてな。そこの床見てみろ、血だ」
「血!?誰のものだ」
「多分この女のだ。もしかするととっ捕まえても先は長くないかもな」
「……病を抱えているのか」
「多分、な」
言葉を交わし終えると、二人の間に沈黙が訪れる。
そして、そのタイミングで武装局員達の一部が、玉座の後ろにある扉を開いて、中に収められていたものを報告する。
それはフェイト・テスタロッサに酷似する、少女を納めたカプセルだった。
「もしかしてこれが彼女の言っていたアリシアか?」
「だろうな」
「アルハザードなんて、夢物語でしかないのに……本当に、さっき君の言ったとおりの女性だよ。プレシア・テスタロッサは」
フェイトには辛いことになりそうだ、と呟いてからクロノは武装局員達を集め、撤収の準備を始めた。
ユーノはその合間にゼッドに問いかけた。
「あの、あの人が言ってた人形って……」
「お前の想像通りだろ」
「でも、それじゃあフェイトがあんまりにも!」
思わず声を荒げるユーノに、ゼッドは言った。
「そのためのお前となのはだろ。しっかり支えてやれ」
「あの、ゼッドさんは?」
「そうだな。けりも付いたしここいらでおさらばといくか」
「え?そんな!なのはや高町の人達に挨拶は」
「そういうのは性分じゃねえ。ただ……」
「ただ?」
「なのはとフェイトの奴には言っといてくれ。お前らはもう、親に勝るとも劣らないつながりを持ってるってな」
「ゼッドさん……」
「本当に。俺の見るお袋って奴はどうしてこう……いや、なんでもねえ。あばよユーノ」
「ゼッドさん!本当に行っちゃうんですか!?」
ユーノの声にクロノがゼッドの方を向く。
「ま、待て!君には管理局へ出頭を……」
「しらねえよ。じゃあな」
ゼッドは背中から翼をあらわすと、そのまま中空へ浮かび、金環が連なる翠の空間の中へ飛んでいきその姿を消した。
「……魔力を使わない転移、だと」
「クロノ、移動先をサーチできる?」
「今アースラに問い合わせている!クソッ、事件が終わったら居なくなる予定だとは聞いていたが、早過ぎるだろう……すこしは事後処理にも付き合うといっていたのに、自分勝手な奴だ」
「そうですね……でもなんだか、ゼッドさんなら仕方ない気もしちゃうな」
「庇うのか?」
「なんていうか……出会ったときが唐突だったから、別れもそうなるんじゃないかなって、なんとなくね」
「そうか。はぁ。艦長になんと報告すれば良いんだこれは」
「ありのままをいうしか、ないんじゃない?」
眉根を掴むクロノに、開き直ったように軽い調子のユーノが返す。
こうして消えたゼッドを残して、プレシアを収監すべく、彼らはアースラに帰還したのだった。
その後、フェイトに寄り添って、目覚めた彼女とぽつぽつと改めて話をしていたなのはにもゼッド失踪の報が届けられた。
その時ばかりはなのはも思わずフェイトから意識を外して大声で叫んだ。
「私、ゼッドさんにずっと守ってもらったのに!お礼も言ってないんだよ!?なんでとめてくれなかったのユーノ君!」
「いや、止められないよ。だって本当に、すっと転移しちゃったから……」
「なのは……ゼッドって、あの銀髪の人?」
「うん。そうだよ。初めてジュエルシードの思念体と戦った時から、ずっと傍に居てくれた人なの」
「私にとっての、アルフみたいな存在?」
二人の間に、栄養剤の投与で僅かだが血色のよくなったフェイトが入り込む。
「えっとね、うーん、アルフさんほど口は出さないけど……背中がね、見てると安心するんだ」
「そう、なんだ」
「んー、表情もあんまり変わらないしね。あ、そういえばゼッドさんが笑ってるところ、私見たことないかも」
「本当に?」
「うん。優しい顔をしてたことはあったけど、ゼッドさんの笑うところは結局見てないの」
「……羨ましいな」
ぎゅっと、なのはの服の裾を握って、フェイトが医務室のベッドの枕に顔を埋める。
「私も、そんな優しい人が居て欲しかった……」
「フェイトちゃん、それアルフさんに聞かれたらすっごく悲しむと思うよ」
「え……」
「だって、いつもアルフさんはフェイトちゃんの事一生懸命だったもん。だから、フェイトちゃんにとっての優しい人は、アルフさんだよ」
「そう、だね。そっか、そうだよね。アルフに、後でありがとうって言わなきゃ」
弱々しく微笑みながら答えたフェイトに、ユーノがなにか言いあぐねかけ、それでも度胸を決めたのか、フェイトに報告する。
「プレシア・テスタロッサは逮捕されたよ」
ユーノの言葉に、ビクリ、と肩を揺らすフェイトだが、ユーノは少し咳払いして続けた。
「これで君達母娘は管理局に捕まったわけだけれど……多分、フェイトの刑期はそう長くならないと思う。アルフの証言もあるしね」
「私の刑期が短くても……」
「何とか嘱託魔導師としての貢献作業なんかの手を使って、君の刑期を短くするから、君が真面目にやっていればまたプレシア・テスタロッサとゆっくり話す機会もできるだろう、だって。プレシアさんはちょっと、その精神の状態が良くないから、許可が降りるかは微妙らしいけど。それがクロノ執務官からの言伝」
「母さん……はは、ダメだな……どんなにされても、夢の中で私じゃない誰かを呼んでいても、私やっぱり母さんの娘だ。会いたいよ、母さん……」
僅かに見えた希望に、思わず涙を流すフェイトを挟んで、ユーノはなのはに念話を繋げる。
<なのは>
<なあにユーノくん>
<フェイトの出生には、ちょっと公に出来ない事情があるみたいなんだ。だから、それを知らされたときフェイトは凄く落ち込むと思う。だから、その時こそ助けてあげて>
<言われなくっても、助けるよ。私はフェイトちゃんの友達なんだから>
<そうだね。なのはは、ずっとフェイトと友達になろうとしてたもんね>
<うん!どんと任せて、なの>
こうして、ひとまずはなのはとフェイトの関係は、フェイトの裁判が終わる日までお預けとなる。
だがメールのやり取りの約束をした二人は、じりじりとその仲を深めて行くことになる。
一方、リンディとクロノは。
「ゼッド、広域指名手配になる可能性が高いですね」
「はぁ、そうね。彼が悪いわけではないけれど、あのアミルガウルは強力すぎるわ」
「そうですね、Sランクオーバーの魔導師の攻撃を撫でるように防いだあの力、確実にロスト・ロギア認定です」
「……いっそ報告しないのもありかしら」
「母さん!」
「冗談よ。多数のクルーが見ているのにそんな隠蔽、できるわけないわ」
そんな会話を交わしてからため息をつきながら。
「まぁ、下手な藪を突いて蛇を出すようなことが無いように報告書には書きましょう」
「そうですね。ところでプレシア・テスタロッサですが……」
「フェイトさんには、辛いことになるわね」
「そうですね。いくら優れた人物としての前歴があったとしても、プロジェクトF.A.T.Eやロスト・ロギアの奪取などを考えると……それこそ刑期は何百年になるか」
「きちんとアリシアさんの死と直面して受け入れられればいいのだけれど」
「それは……難しいかもしれないですね。でなければこんな事件は起こしていないでしょう」
「世界はこんなはずじゃなかったことばっかり、ね」
「そうですね。本当に、執務官をしているとそんな物ばかり見ることになりますよ」
「まぁそういってばかりも居られないのが私達の仕事よ。今回の件も、後始末までしっかりね」
「解っています」
暗い会話だが、事実をそうと認識するために必要な行動だった。
彼ら管理局の人間の仕事に、事実の認識は必要な事だ。
だから彼らはそれをしただけなのだ。
そして、なのはもアースラの面々、そしてユーノと別れる日がくる。
リンディに事件への協力を表彰された後、時空管理局の本部があるミッドチルダに航路を取る事に決定したアースラでユーノはスクライアに帰る事を決めた。
当然、その決定後すぐ別れるとなったわけではなく、きちんと高町家の面々に挨拶をしてから、だが。
そして、ゼッドの不在を残念がる高町家の面々との挨拶も済ませアースラにユーノが戻る直前、話題は魔法と、ゼッドのことになった。
「ユーノくんとも、お別れだね」
「うん。スクライアの皆が、家族が待ってるから」
「家族は大事にしないと、だね」
「なのは、魔法を悪用しないって、約束できる?」
「しないよ!ユーノ君やゼッドさん、それにフェイトちゃんと出会うことになった大切な力だもん。悪い事になんか、使わないよ」
「じゃあ、正式にレイジングハートはなのはにあげるよ」
「え、いいの?ユーノくんにとっても大事なんじゃないの?」
「僕は良いんだ。なのはとの相性もいいみたいだしね。出会いの記念に受け取ってくれないかな」
「……うん。ありがとう、ユーノ君」
待機状態のレイジングハートを握り締めながら、なのはが微笑む。
だが、すぐに思案顔になるとユーノに言った。
「ゼッドさんとも、事件解決お祝いしたかったな」
「そうだね。でもさ、なのは」
「なあに?」
「ちゃんと生きてれば、またそのうち会える。そんな風には思えないかな」
「……そうだね、違う世界に行っちゃうフェイトちゃんとも、きっとまた会える。それなら、ゼッドさんにもまた会えるよね」
「風と共に現れたあの人だから、またきっと、風が吹けば現れるよ」
「そうなのかな、ゼッドさん気まぐれだし、次は何時会えるかな」
「僕達がおじいちゃんおばあちゃんになる前には、会いたいね」
「うん!」
元気に答えたなのはに安心して、それじゃあ、となのはと別れる。
こうしてジュエルシード事件、後にP.T事件と呼ばれる事件は解決した。
幾らかの問題点は残したものの、その中心に居た高町なのはという少女の胸の中に、爽やかな風を残して。