武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました-   作:belgdol

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神姫、お買い上げの巻き

 一人の青年が神姫センター内にある神姫SHOPの扉を開いた。

開いたと言っても2036年の現代で、手押しで開ける入り口など入り口のスペースが限られる店舗か、店主が敢えて手動ドアにしている店舗くらいな物だが。

とにもかくにも、青年は扉を開いたのだ。

 

 彼は近年流行っている武装神姫という玩具を買い求めに来たのだ。

最初は彼も、自律するとはいえ小さな少女型の玩具なんて……と思っていた。

だが、彼は街中で見たのだ。

 

「早苗さん、そのまま20m直進しても問題ありません。障害物、人影共にクリアです」

「そう、ありがとうね。貴女の声掛けがあると安心して外を歩けるわ」

 

 そんな会話を交わしながら街を歩く、盲人用の杖を突く女性と緑を基調にしたカラーリングの小さな人形……神姫の連れ合い。

それを見て青年は強く思った。

あんな風に人に寄り添ってくれる存在が神姫なら、ちょっと人付き合いが苦手な自分を大きく助けてくれるのではないかと。

後は思い立ったが吉日というが、お金を貯めるのに数ヶ月を要し、ようやく神姫を購入するために神姫SHOPにやってきたのだ。

 

 こうして神姫SHOPに入ったはいいものの、店内案内を見て神姫素体売り場……武装神姫は武装と武装を扱う素体である神姫を別売りも行っており、素体売り場とは神姫本体のみの展示がされているコーナーである……を見たものの、妙にがらんとしている。

なんでだ、と青年は思ったが、その理由はすぐに解った。

その時売り場にはアーンヴァルMk.2型の素体しか並んでいなかったのだ。

コレはどういうことだろう、出来ればあの女性を誘導していた神姫、ハウリン型の神姫が欲しいなとなんとなく考えていたのだから、青年は少し近くに居た店員に声を掛けてみた。

 

「すいません。今売ってる素体ってアーンヴァルMk.2型しかないんですか?」

「はい。申し訳有りませんお客様。近頃は特にライドバトルの人気の沸騰により武装神姫の素体は需要が高まっておりまして……ただいま取り扱わせて頂いている神姫はアーンヴァルMk-2型のみとなっております」

「ハウリン型の入荷ってどのくらい先になりますか?」

「全国的に品薄ですので、早くても一月は先かと」

「じゃあ他の型神姫は……?」

「同様でございます」

「うーん。じゃあ出直そうかな」

「失礼ですが。お客様はハウリン型を御所望なのですか?」

「あ、はい。ちょっと街で見かけていいなーと思ったので」

「街で見かけて、ですか。もしかして性格設定などにこだわりがおありですか?」

「え?んー、そういわれるとこういう性格がいいって言うのはぼんやりとしかないかな。俺の事をきちんと補助してくれる神姫がいいなって」

「それでしたらお客様、アーンヴァルMk.2型もお勧めでございますよ」

「そうなんですか?初心者向けの基本設定になってるっていうのは知ってるんですけど、どんな感じなんですかね?」

「それでしたら……アール。アール少しお客様にアーンヴァルMk.2型のプロモーションを」

 

 店員の声に応えて、陳列棚の陰から声が返ってきた。

それは可愛らしい少女を思わせる声で、青年に純粋な少女という印象を与えた。

 

「はい、澤田さん。こちらのお客様ですか?」

「そう、少しお時間を頂いて、アーンヴァルMk-2型の良い所をご理解頂いて」

「解りました。いらっしゃいませお客様。私アーンヴァルMk.2型神姫の店頭展示用に起動させていただいているアールと言います。よろしくお願いします」

「あ、はい。よろしく……」

 

 青年は雑誌などで事前に調べして感じた以上にしっかりした受け答えをするアールに、ちょっと引け目を感じた。

もうちょっと玩具らしく気安い感じを想像していたのだが、アールの応答は業務的過ぎると感じたのだ。

 

「あのさ、もうちょっとこう、砕けた感じとかってできるかな?」

「お客様の許可が頂けるなら」

「ああ、そっちでお願い」

「解りました!ではお兄さん、アーンヴァルMk.2型の特徴を教えてあげますね!」

「ああ、頼むよ」

 

 仕事中だから硬かったというのが解って、驚きながらもなんとなくすとんと安心する感覚を味わう青年。

 

「まず私達アーンヴァルMk.2型は天使型という名前も付けられています。その名の通り、起動された子達は表現の形の差はあれ、マスターのお世話をするのが嬉しくて仕方ない、そんな性格に成る事が多いいんです」

「多い?そうはならない事もあるの?」

「私はまだ見たこと無いんですけど、基本設定の性格から外れた神姫というのも確かに居るみたいですよ。奔放なマオチャオ型が丁寧語等を使ったりするようになったり……でも、そういうのは大抵お客さんに購入された後のコミュニケーションに拠るものも大きいって聞きますけど」

「神姫の性格って変わるんだ?」

「そうですね、基本の性格があって、まずお客さんが神姫を購入する時にCore Setup Chipを神姫の胸部にある中枢にセットしてもらう事になります。CSCは数多くの種類が存在し、その組み合わせによって個性や性格の差異を生み出します」

「なるほど、CSCって何種類くらいあるの?」

「それは私には答えられません。CSCは日々開発、発売される上に、神姫センターごとの独自のものなどもあって全てを把握することは難しいです。お兄さんがどうしても知りたいなら神姫ネット経由で情報を取りますけれど」

「いや、いいよ。とにかく凄い数の組み合わせがあって、神姫の個性もその数だけあるってことだね」

「そうです。そして次に、先ほど神姫の性格を変える大きな要因としてあげたマスターとのコミュニケーションです」

「ふむ。神姫は購入後もマスターとの関係性で性格が変わる?」

「はい。神姫をマスターが愛すれば神姫もマスターを愛します。でもマスターが神姫を愛さず、無視ししたり虐めたりしたら……きっとその神姫の心は傷ついたり、へこたれたりして捻くれたり、自分への自信を失ってなにもできなくなってしまうかもしれません。それくらい神姫にとってマスターというのは大切な存在なんです」

「そうなんだ……それで、さっきも聞いたけどアーンヴァルMk.2型って、マスターのお世話するのが好きなんだよね?」

「そうですよ。マスターが落ち込んでいたら優しい声を掛けたくなりますし、励ましてあげたくなります。マスターを補助するという点に掛けては他のどの型の神姫より優れていると自負させていただきます」

「うーん。じゃあ最後に聞きにくいこと聞くけど……なんで君達アーンヴァルMk.2型だけ売れ残ってるの?」

 

 青年の指摘に、販売棚の上で明るく説明していたアールは恥じ入った様子で俯きながら答えた。

 

「アーンヴァルMk.2型は初心者向け神姫、扱いやすいけれどそれで終わりというイメージを、私が覆せなかったからです。現在のライドバトルの公式大会、F1バトルのディフェンディングチャンピオンの竹姫葉月もアーンヴァルMk.2型の神姫を使っているんですけど、それを説明してもチャンプは他のF1バトル参加者と腕が隔絶していて、アーンヴァルMk.2型が強いというわけではないっていうお客さんに巧くセールスできないんです……」

「なるほどね、皆尖った性能……個性と言ってもいいかな……の神姫を求めてるわけか」

「はい。今の神姫の在庫切れはあくまでライドバトルの人気が原因ですから。その人気が沸騰する前から私の仲間を使っているマスターさんか、本当に初心者の子供に親御さんが買い与える以外はどうしても私達は余っちゃうんです……」

 

 アールのその言葉に、青年はなんとなく、バトルでの性能でしか見ないなんて、と思うと共に、自分も先入観でハウリン型がいいななんて言ったけど、別にアーンヴァルMk.2型でもいいんじゃないか?なんて考え始めていた。

その彼の考えを後押しするような言葉をアールが口にする。

 

「あ、でもバトルとは関係ありませんけど。私達アーンヴァルMk.2型はマスターのお嫁さんを一番上手くこなせる神姫だと思います!……は、はわわ!言っちゃった!前も店長に言っちゃダメって言われたのに……」

 

 慌てて口をつぐむアールの言葉をしっかりと聞きとめていた青年の目が怪しく輝いた。

 

「お嫁さんに向いているというのを詳しくお願い」

「へ?え、ええと、初心者のマスターにお迎えされて、一緒の時間を過ごしていく事で神姫とマスターはどこか通じ合うんです。その関係性の形として私達アーンヴァルMk.2型に多い評価が離れられないお嫁さんという物なんですけど……」

「買った」

「え?え?」

「アーンヴァルMk.2型の神姫、買うよ」

「……はっ!あ、ありがとうございます!アーンヴァルMk.2型の素体をお買い上げですね!しばらくお待ちください!」

 

 青年に断ってから、無線通信をしているのか静かになるアール。

青年は一言断ってから陳列棚から、フィーリングで一個のアーンヴァルMk.2型神姫の入った箱を選び出す。

そこに先ほどの店員澤田がやってくる。

 

「お待たせしましたお客様。アーンヴァルMk.2型をご購入なさる事になさったそうで」

「はい。どうすればいいんでしょうか」

「ええと、素体は既にお選びになっているご様子ですので、お会計をさせていただいた後専用のメンテナンスルームでお客様自らの手でCSCをセットしていただいてマスター認証を行った後、すぐ神姫を起動という流れになります。クレイドルはお持ちですか?」

「初神姫なのでクレイドルは無いです。一緒に買わせてください」

「承知致しました。それでは3番のレジでお待ちください。クレイドルをお持ちいたします」

「解りました。それでは先にレジに行っていますね」

「はい、速やかに商品を運びしますので少々お待ちください」

 

 こうして青年は神姫と彼女達の充電装置であるクレイドルの購入を決めた。

そして現金を一度sptと言う神姫に関する施設で使う事のできるポイントに変換し、決済を行う。

この後、彼は店員に連れられ神姫のメンテナンスルームへ入った。

 そこで彼は数百種類からなるCSCから、じっくりと考えて三種類を選び出し、ピンセットのような工具で胸部を開かれた素体にはめ込んだ。

胸部のパーツを閉め終わった後、とうとう神姫が起動する。

 

「……おはようございます。貴方が私のマスターですか?」

「うん、俺の名前は……、そして君の名前はレイットだ」

「マスターの顔を三次元的に記憶するために、失礼ですがマスターの手で私をマスターの顔をぐるりと回りこむように持ち上げてください。同時に網膜認証も行います」

「解った」

 

 起動した神姫、レイットの言葉通りに彼女を手に乗せゆっくりと自分の顔の前面180度を動かす青年。

それが完了するとレイットは満面の笑みで彼に言った。

 

「マスター認証完了しました。これから末永くよろしくお願いしますね、マスター」

 

 こうして青年は「マスター」になったのだった。

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