武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました-   作:belgdol

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マスター、レイットに甘えるの巻き

 あの柴田少年達とのライドバトルから1月が過ぎた。

マスターは基本的に休日にしかバトルを行わないので戦績は13戦4勝9敗と負けが込んでいて、マスターもやはり男として悔しいのか、最近はバトルの戦術書やライド時のマスターがすべき事などを書いた週刊誌を購読するようになっていた。

が、彼のレイットに対して求めるモノはお嫁さんである事だ。

バトルに多少拘って知識をつけたとしても、それはレイットとの会話の幅になればいいという程度のものだった。

勝ったなら当然嬉しいが、負け戦は負け戦で、後からレイットとここの判断が良くなかったとか、武装を追加するべきかを話し合ったりする事そのものでレイットとより関係が深くなるのが一番嬉しい。

マスターはそういう人だった。

 

 そんなまったりバトルライフを過ごしているマスターも、さすがにこれは現実なのかなと思う記事が週間神姫バトルに載っていた。

どうにもあの日に見た試合の当事者だった小波万と小早川千歳が公式大会F3バトルの頂点を争ったというのだ。

マスターはカーペットの上に寝そべり週間神姫バトルの該当記事のページを開いて、腕の間にちょこんと正座しているレイットと共にそれを読みながら言う。

 

「すごいねぇ小波万さん。一ヶ月でプロになっちゃったよ」

「ちょっと信じられないというか、凄いですよね。私達と同時期程度に始めた方がもうプロだなんて」

「まあ、話によると俺達とはバトルをする密度が違うから、それもあるのかもしれないけどね」

「それでも凄いですよね。その試合、撮っておけばよかったですね」

「いやー。バトル頑張るなら公式戦もチェックした方がいいかな。でもうちってそういう映像記録媒体ないんだよねぇ」

「私の映像記憶領域にも限りがありますしね。全ての試合をチェックするのも不可能ですし……」

「ん、いや待てよ。レイット、この本によると特選バトルチョイスチャンネルっていうのがあるみたいだ。これの神姫ネットでの評判はどんな感じだい」

「少々お待ちを……でました。えーと、どうもその日のFバトルの中から特に見ごたえのあるバトルを30戦、Fバトルのランク問わずに選んでノーカット放映の後シーン切り出しして解説を入れるので見ごたえあり、と中々高評価ですね」

「それは1日かけて30試合の内容を放映するの?」

「このチャンネルは1日の製作番組は3時間程度に纏められて24時間流されるそうです。ただ、その番組形式の関係上実際に試合が行われる日とメディアに流す日に間があるみたいですね。情報源としては少し遅い部類みたいですね」

 

 レイットの答えに、体を横たえて肘をつき、彼女の毛先を弄るマスターは少し考え込んでから口を開いた。

その声は何を想像しているのか、多少遠くに向けて放たれているようだ。

 

「マスター、何を考えてます?なんだか声が浮いていますよ」

「んーとね、レイットの留守番中の暇つぶしにはいいかなって。俺の居ない間に試合を見てワクワクしてる君の様子を想像したらね」

「えと、マスターの想像の中の私ってどんな風ですか?」

「それはもう、好奇心旺盛で何を見ても楽しい的なやんちゃ系美少女」

「私そんなやんちゃな所ありますか……?」

「ははは、冗談冗談。1人なのに動画見るときは正座でピクリともしないで画面に集中する優等生タイプみたいな。あ、優等生タイプなら眼鏡欲しいね。今度買おうか」

「優等生と眼鏡って何か関係あるんですか?」

「ん。そりゃああるさ。優等生といえば眼鏡、眼鏡といえば優等生っていうくらい」

「なんでそんな関係に……」

「優等生は真面目だろ?真面目すぎるから勉強を頑張りすぎちゃんだ、そしていつしか視力が落ち……眼鏡の装着に至るというわけさ」

「現代なら視力矯正手術があるので、それは眼鏡を掛ける理由としては弱いと思います」

「むむむ。後はほら、コーディネイトの一部だよ。ブレザーの制服に赤縁のスクウェアレンズの眼鏡なんて、とっても真面目そうだろう」

「良く解りませんが、眼鏡には制服と同じ程度、社会的な人間であるという印象を相手に抱かせる、という事でよろしいですか?」

「あ、うん。大体そんな感じ」

 

 まだちょっとマスターのアレな嗜好を理解しかね、理解しようと頑張るレイットの姿にマスターの口も鈍る。

でもちょっぴり何も知らない神姫に世俗の垢を自分の手でつけているような感覚がして、少し興奮する。

正しくマスターはダメ人間だった。

だがそんな彼もレイットの慕うマスターな訳で。

 

「ええと。眼鏡を掛けると真面目そうに見えるのは解りました」

「うん。解ってくれて嬉しい」

「じゃあ、眼鏡って私に似合うと思いますか?」

 

 寝そべるマスターの顔を、両手を後ろに組んで見上げるレイット。

そんな彼女からの期待の篭った声を向けられてマスターは思わず言った。

 

「そうだね。出来るならタイトスカートのスーツも一緒に買って、銀縁のスリムなフレームの奴にしよう。きっと金髪に似合うよ」

「マスターはそういうファッションの女性がお好みですか?」

「好みなのは否定しないけどね。それ以上にレイットに似合うなって思ったのが大きい」

「私、武装以外のそういったお洒落もマスターにご満足いただけるでしょうか」

 

 自分がマスターに認められるか。

その一点に不安を感じてレイットの声が揺れる。

彼女にとって服とはマスターが似合うといえば似合い、似あわないといえば似あわない、そういうものなのだ。

だからこそ、純粋な存在承認への不安が現れる。

マスターはそんなレイットの髪をなで、さらさらと引っかからずに流れる感触を楽しみながら優しく言った。

 

「レイットは武装神姫だ。武装をするために生まれてきた子だ。でも、武装以外の着用物が似あわないなんて事ないんだ。大丈夫。レイットはちゃんとした服を着ればどんな服でも綺麗だよ」

「マスター……」

 

 撫でる手に身を任せ、恍惚として目を瞑り、思わず猫のようにマスターの手に自分からも身を寄せるレイット。

彼女のCPUは幸せで溢れ、CSCはその処理機能の大多数をマスターの言葉の反芻に廻す。

その結果として彼女が導かれるのは桃源郷だ。

人間が幻想とする境地に、彼女達武装神姫はマスターからの優しい一言で簡単に辿り着いてしまう。

この純粋さは時として彼女達を傷つけるが、それ以上の幸福も彼女達に与えてるのだ。

 

「しかし、神姫用の一般服って高いよね。この前レイットの神姫ネットと普通のネットでディーラーさんのサイト見たら凄かった」

「1セット当たり5万円とか普通にしますからね。私もあそこまでハンドメイドの15cmフィギュア用衣装が高いとは思いませんでした」

「んー。昔からそれなりの値段はしてたんだろうけど、神姫が流行ってそこに拍車をかけたっていうのもあるかもね」

「そうでしょうか?今の神姫の人気の原動力はライドバトルが大きいですから。それでおしゃれ用の普通の服が高くなる理屈が少しわかりません」

「何、簡単なことだよ。折角家族にした可愛い子に可愛い服を買ってあげたいと思うのは俺だけじゃないって事。需要に対して供給が少ないんだろうね」

「可愛い家族ですか……そういっていただけると嬉しいです」

「それなら良かった。マスターなんかの家族なんてごめんこうむりますとか言われたらどうしようかと思った」

「わ、私そんな事いいません!時々変だけど、いつも優しいマスターの事、大好きですから!……あうっ」

「うんうん。俺もいつも綺麗で優しくて、時々抜けてるレイットのこと好きだよ」

「も、もうマスターったら。女の子の心を弄ぶような事ばっかり言って、知ってますよ。そういうのジゴロっていうんです」

「ジゴロじゃないよ。仮にジゴロだとしたらそれはレイット専用だよ」

「んー、本当ですか?」

「フロントライン社の名に掛けても良い」

「それは私の台詞です!マスターとフロントライン社のつながりって私だけじゃないですか!」

「ばれたか、ははは」

「もう、マスターは本当にしようがない人です」

 

 マスターの軽口に、私ちょっと怒ってますアピールするためにマスターに背を向けつんと上向いたレイットのおでこに、覆いかぶさるように姿勢を変えたマスターの胸板が迫る。

かと思うとマスターは腕と胸元でレイット囲う様にして、レイットの髪を吐息で揺らすほど近くまで顔を近づけて静かに言った。

 

「うん。俺はしようがない奴だから。ずっと傍に居てねレイット」

 

 囁かれたその言葉に、レイットは表情を柔らかく崩して、マスターの顔の方を向いて、座ったまま手を伸ばしその顎に触れていった。

 

「この身体がどうしようもなく壊れるまで、ずっと一緒ですよ。マスター」

 

 その一言はマスターに感無量といった喜びを与え、安心感を与える。

神姫は、ある意味で消耗品だ。

時を経るごとに部品の耐用年数は削られていき、それがCSCを冒しその機能を失わせる時、神姫は永遠にマスターから失われる。

だが、それでもマスターはレイットと居る時間を後悔にはできないな、と思う。

もうそれほど彼はレイットという神姫に魅せられているのだ。

こうして、二人の蜜月は長く続くこととなった。

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