武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました-   作:belgdol

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会社での一幕、の巻き

 マスターはいつも神姫と一緒に居たい。

だがそれは往々にして叶わない願い事でもある。

学生マスターであれば、精密な計算機器であり、まさに生き字引となれる神姫ネットと接続された神姫の存在はテストなどの学習の妨げになるため認められていない。

当然、社会人になれば部外秘といった物も扱うようになるであろうし、それを私物の神姫に記憶されるような行動はもっての外だ。

ずっと一緒である事を実行できるのは一部自営業と、既に社会的にはお疲れ様と送り出される高齢者マスター、後は親が面倒を見るサポートとして乳幼児に神姫を買い与えた場合くらいだろう。

このように、神姫とマスターの一緒の時間というのは、様々な理由で削られるのだ。

 

 それはマスターが昼休みの時間にレイットお手製のサンドイッチの入ったお弁当を広げて食べている時の話だった。

彼の背後を上司である係長が通りかかった。

係長の胸ポケットには部下達との中継ぎであるストラーフMk.2がちょこんとポケットインしていた。

そのストラーフMk.2型神姫は、部署の皆には竹野秘書とよばれる業務用神姫で、褐色の肌と空色のツインテールに灰色のスーツ姿で部内の人間を観察するのが仕事だ。

今回そのマスターとして竹野秘書を会社から貸与されている竹下係長がマスターの弁当に目をつけた。

 

「やぁ、いつもコンビニ弁当の君が手作りのサンドイッチとは珍しいね。手料理を作ってくれる人でもできたのかな」

「係長。それはプライバシーの侵害だと思うぞ」

「いやぁ、部下のプライベートもある程度は把握しておかないとね。このくらい軽い世間話さ。そうだろ君」

「そうですね。後料理を作ってくれる人が出来たかと言われればノーです。人じゃなくて個人で購入した神姫が作ってくれました」

「ほう!神姫に弁当をね。その様子だと良好な関係の様だね」

「……いやぁ、実は弁当を作ってくれるようになったのはちょっとした理由がありまして」

 

 歯切れの悪いマスターに、竹下係長は好奇心を面に出さずあくまで上司として何か問題を抱えていないか確認する、といった態で問うた。

 

「ふむ。どんな問題かな」

「いや、貯金貯まってたので問題ないといったんですけど」

「何か大きな買い物でもしたのか?それも神姫がマスターに対して問題を起こすような物を」

 

 竹下係長より竹野秘書がやや表情を厳しくしてマスターを見る。

今頃彼女の記憶領域には彼の金遣いが荒いというメモでも付け加えられているだろう。

当然これは査定に響くだろう。

払っている給料で安定した生活を送れない社員など、いつ会社の弱みになるかもしれないからだ。

 

「いや。実は武装レベル7で良さそうなのがあったのでセット購入してしまってですね……財布を握られました」

「はっはっはっは!そんな事をしたのかい!それは握られても仕方ないね。普通の会社員の君がレベル7武装なんて買ったら、君の所の神姫は腰を抜かしたんじゃないかね」

「放心状態になったーとは言ってましたね」

「貴方は馬鹿だ。そんな高価な贈り物をいきなりされても神姫だって戸惑うに決まっている」

「はい、竹野秘書。確かに滅茶苦茶動揺されました」

「それで神姫に家計を管理させるとは計画性のない証。そんなことでは安心して会社として業務を任せられない」

「いえ、これに懲りてもうあんな無茶な買い物はしませんよ。電車通勤なので軽自動車でも買えばまた違ったんでしょうけど」

「そうだねぇ。しかし君もやるね。武装レベル7の商品をプレゼントだなんて。恋人がいたら絶対縁を切られてたよ」

 

 至極真面目な竹野秘書とうって変わって、意地悪く楽しそうに笑う竹下係長。

マスターはそんな彼に苦笑で返す。

 

「独身と若さがあるからできる事ですよ。しかし神姫が居ると恋人をつくろうって言う気がすーっと失せますね」

「まぁ無茶はいけないよ。私も竹野君が付いてからあまり残業をさせてもらえなくなった」

「当然だ。業務が終了しているのに残業だなんてさせられない」

「貯金のために残業したい時もあるんだけどなぁ」

「一応、私のマスターは竹下係長だが、あくまで貸与品だからな。私が考えるのは会社の利益だ」

 

 お堅い竹野秘書の言葉にはぁっとため息をついてから竹下係長はマスターとの話題を変える。

そこにはほんの少しの好奇心の色があって、それはどんなものかすぐに明らかになった。

 

「ねぇ君。君の神姫もこんなにお堅いのかい?どうも竹野君のおかげで私は神姫というのに苦手意識ができてね」

「竹野秘書は業務にそれだけ真剣なんですよ。それはさておき、うちの神姫ですか、可愛いですよ」

「どんな風に可愛いのかな」

「朝は体内のタイマーをセットして俺より早く起きて優しく起こしてくれますし、簡単な料理もしてくれます。それに素直で、少し控えめで、でも俺に好意を示してくれる時は大胆な所が凄く可愛いです」

「そうか。そんな夢みたいな存在なんだな……なぁ竹野君。君は私の事をどう思ってる?」

「業務上の仮マスターだ。それ以上でも以下でもない」

「これは手厳しいですね、竹下係長」

「だろう?私ももう少し可愛くしてくれると仕事に張り合いがでるんだがね」

「……可愛くしろといわれてもこれが性格なんだ。仕方ないだろう。私は悪魔型神姫ストラーフMk.2、甘えさせて欲しいならアーンヴァル型でも買うといい」

 

 マスターと係長の言葉に気分を害したのか、ふんとそっぽを向く。

それを見て係長は「おやおや、いじめ過ぎたかな」などと言いながら、竹野秘書の頭を撫でながらその場を立ち去りざまにマスターに言った。

 

「ま、さっきはもう少し可愛くなんていったがね。付き合うとやはりその神姫なりの可愛さは見えてくるものだよ。じゃ、またね」

「そうですか。竹野秘書はどうですか?」

「君も神姫を持ってるなら解るんじゃないかな」

「はは、ですね」

 

 こうして上司と部下のささやかな交流は終わりを告げ、マスターはお弁当の残りを片付けに掛かった。

それは勿論胃袋の中に仕舞いこむという意味での片づけだ。

レイットの作ってくれたお弁当を残すつもりは無い。

そして綺麗に完食してから軽い食休みがてら憩いの場になっている社屋の屋上をぶらついた後、心機一転午後の仕事に掛かったのだった。

 

 

 

 そして帰宅後、夕食の魚を中心とした和食を食べながら(米だけはマスターが自分で焚いた)マスターは件の竹野秘書と竹下係長の話をしていた。

それを聞いたレイットは、どこか安心した様子でヂェリカンを一口飲んでから口を開いた。

 

「きちんとその竹野さんというストラーフMk.2は、自分のいい所を解ってくれるマスターに貸与されてるんですね」

「ん。同じ神姫仲間として安心した?」

「そうですね。ストラーフMk.2は生真面目な……それも私達アーンヴァルMk.2とはまた違って、頑固者と見られがちな基本性格をしていますから。少し、マスターへの愛情が伝わりにくい部分があると思います」

「部署内では結構彼女好評だよ。仕事のミス、といっても彼女に裁量を任されてるのはデータの誤記入の指摘とかだけど。きちんとどこが間違ってるのか教えてくれるからね」

「それはなによりです。同じ神姫として皆さんに好意をもたれているのは嬉しいですね」

「自分とは違う型でも?」

「神姫は発売元は違っても、同じマスターに仕えるという一点で共通していますから」

「そっか、神姫は神姫ネットで無形のつながりがあるからよけいそういう感覚が強いのかな」

「そうかもしれませんね」

 

 話しながら夕食を平らげたマスターが食器を片付けるのを見ながら、レイットが口を開く。

それも少し不安そうな声でだ。

 

「あの、マスター」

「ん?何」

「勤め先のその竹野さんというストラーフMk.2にその、恥ずかしい話とかしてないですか?」

「恥ずかしいって、どんな」

「その、あの事とか」

「ああ、あの事ね。言ってないよ」

「……ならいいんです」

「言えるわけないだろう。言ったら俺の会社内での立場ぼろぼろだよ。よくわからないけど神姫の上司にセクハラって適用されると思う?」

「さぁ、そういった法整備はまだまだですからね……とりあえず、他の神姫との胸部の違いとかも聞かないほうがいいです」

「解ってるって」

 

 解っててもいいそうだから、こんなお小言みたいなことを言うんですけどねと思うレイットの老婆心を他所に。

その夜も平和に過ぎていくのだった。

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