武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました-   作:belgdol

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大事な大事なお嫁さん、の巻き

 マスターの刑期明け、と言っても警察にご厄介になっていたわけではない。

ライドバトルで現金を賭ける賭博をしていた一味が警察にご厄介になったりはしたようだが、マスターとそれは何の関係もない。

要するに40万の神姫関係のお買い物でレイットが締めていた財布の紐がマスターの手に戻ったという事なのだ。

 

 思わず「ヒャッハァ!新鮮なクレジットカードだぁ!」と買い物に走る欲求に駆られるかもしれない所だが、マスターは我慢した。

まず丁寧に貯めてきたお小遣いを確認する。

レイットはしっかり財布の紐を締めていたが、会社での飲み会などでのお金は経費で落としてくれる有情さがあった。

なのでマスターは比較的楽に月当たり5,000円程度の、レイットが管理する貯金とは別の貯蓄が出来ていたのだ。

それが4ヶ月間。

例の小波万がF1チャンプとして栄光の座に立ったと思ったら、なにやら神姫絡みの大きな事件が起こり、ライドバトルが一時期規制されたり、F0バトルという更なる高みの舞台が用意されたと思ったら、スポンサーが謎の墜落死を遂げたり。

色々と世間的にはめまぐるしく神姫を取り巻く環境に動きがあった。

 

 まぁそのあたりはさておき、マスターには自由に出来るお金が20,000円ほどある事になる。

マスターはこれじゃちょっと足りないなと思いながら、レイットと相談する。

曰く。

 

「レイット、俺は貸衣装になるけど、神姫サイズのウェディングドレスを買って写真を撮ろうよ」

 

 と。

レイットはまたお金を無闇に使おうとするんですから、と思いダメだしをしようとした所で、口を止める。

しかしはたと気づく、今マスターはなんと仰った?ウェディングドレス?じゃあマスターの貸衣装って、と優秀なCPUが要素要素を繋ぎ合わせて結論を出す。

この人は式は挙げないまでも、本当に自分をお嫁さんにしようとしている。

その結論に至ったレイットは普段の落ち着きが嘘のように「あ、あう、あー」としか声を出せなくなり、へたり込む。

ぺたんとお尻をついたレイットをひょいと摘み挙げて、手のひらの上に載せて目と目で見詰め合えるようにしたマスターは改めて言った。

 

「まだ俺達であって半年も経ってないけど、ずっと言ってるよね。レイットはお嫁さんだって。だから、結婚式代わりの写真取りに行こう」

 

 さらりと変態発言をするマスターに、レイットは手をわたわたと動かして。

瞳周辺に配された水分凝縮装置で涙目になりながら言う。

 

「で、でも私今みたいにマスターと二人っきりで居られればそれで満足で、あの、こういうのって昔ゲーム内彼女と結婚した人みたいにニュースになって、マスターが晒しみたいな目にあったりしたら……私そんなの嫌です」

「うん。まぁレイットの言いたい事もわかる。この間の事件以降、神姫とその所有者への視線は厳しいものになった。でもだからこそ俺はレイットとの間に証が欲しい」

「証、ですか?」

「こんな事を言うのは残酷だけど、レイットと俺の間には子供とか、作れないよね。だからレイットが俺のお嫁さんだっていう証が、写真1枚、画像データ1個でいいから欲しいんだ」

「マスター……」

「俺、人間としては外れものかもしれないけど、それぐらいレイットのことが好きなんだよ」

 

 そういいながら、マスターは自分の顔の高さにあわせていたレイットを、両手で包んで自分の胸の中に閉じ込める。

すこし固く大きな手と、筋肉質とはいえないが男らしい筋張った胸板をシャツ越しに感じるほど挟まれて、レイットのCPUは熱暴走寸前にあるかのような感覚に陥る。

あくまで感覚だけだが。最新のパーツを使用された神姫のCPUはこの程度で熱暴走は起こさない。

安全上当然の事だ。

だが感覚は厳然として発生する、そのためにレイットは酔いといわれる状態を味わっていた。

擬似的に手足の駆動部分に動力が通らなくなり、マスターに完全に体を預けてしまう。

 

「なぁレイット。ダメかな?」

 

 そんな状態で囁かれたレイットは何とか動く首を動かしてより強くマスターの胸元に顔を埋める。

神姫という根底を越えて、レイットという個で言えば答えは「Yes」だ。

しかし冷静なマスターのサポーターである神姫としての部分は、「No」を返すべきだと言っている。

人は、人の中で生きるべきなのだから。

そこにマスターは1つ、命令をする。

お願いと言ってもいいかもしれない。

 

「レイット。神姫であることとか、捨てられないのは解るよ。でも今回の俺の問いには心で答えて欲しい。掛け値なしの本音で」

「あ、ああ……マスター……私、なりたいです……マスターのお嫁さんに、なりたい……。マスターの迷惑になるかもって思っても、私、マスターが好きです」

 

 マスターの手の中で、動力が行き渡り始めた腕を動かして顔を覆い、涙を流しながら、搾り出すような声で答えるレイット。

そう、彼女達神姫は涙を流せるのだ。

涙を流さないただのロボット、マシーンとは違う。

限りなく人間の少女に近い、思考と判断能力、そして欲求を持つ存在なのだ。

 

「よし。じゃあ三週間後の休みまでに俺は全部準備を整えておくから。レイットは楽しみにしててよ」

「はい、はいっ……」

 

 マスターの言葉に頷きながら、涙を流し続けるレイット。

そんな彼女を胸中から解放して、心の滴が零れ落ちるそこにマスターはキスをする。

マスターが拭い去るそれは元素で表せばただのH2Oで、泣くことを機能として備える神姫が流す涙に何の意味があるという人間もいるだろう。

だがマスターはその中にレイットの幸福と罪悪感の入り混じる心が溶け込んでいる事を感じ取る。

感じ取ってしまうような、ある意味で奇矯な人間でなければ、神姫にプロポーズじみたことなどしないだろうが。

 

「あの、マスター」

「なにかな」

「本当に、私で良いんですか」

「そうだね、レイットが良い。他の子じゃダメだよ」

「マスタァ……」

 

 マスターに問い、答えられるとレイットはようやく涙を止め、本当に満ち足りた表情でマスターの指に捕まり、身体の替わりに抱きしめる。

万感の思いと愛しさを込めて。

 

 

 

 そして三週間後の日曜日、期せずして大安だったその日に、レイットはマスターの肩に乗り市内の撮影スタジオに来ていた。

マスターがレンタルのタキシードを仕舞いこんだ大き目の鞄と、小さな白い合金でうねる蔦や雲に天使を造型した飾りの付いた小さな箱を手に提げて。

彼が持っている小さな箱には勿論レイットの着るウェディングドレスが入っている。

個人で一点物の神姫用衣装を作成してる縫製職人から60,000円で買い取った純白のヴェールと、肩を出して腰までのラインを出して、脚はふんわりと広がるドレスで隠す一品。

おまけで神姫サイズの武装ではないシルバーの指輪が付いていたので、マスターもそれにあわせてリングを買った。

リングの交換は出来ないが、写真を見てすぐに「ああ、この二人は夫婦だな」と解るような細かい目印になればいいと願って。

 

 予約したスタジオに入ってから、マスターとレイットは別々の部屋で着替えた。

マスターはいつも以上に入念に、何度も身だしなみのチェックをして、完璧を期して部屋を出た。

レイットはウェディングドレスが入った箱の中に付属している化粧セットで記念の日の為にめかし込む。

この日の為に、マスターには先にドール用から派生した神姫用化粧用品を購入してもらって今では手馴れたものだ。

それでも、彼女の口紅を引く手は震えていた。

 

 先に着替えが終わったマスターはレイットの入っている部屋の前で待っていた。

ウェディングドレス姿では武装で飛ぶ事はできないので、レイットが読んだらマスターが迎えに入り、そのままカメラの前に行く事になっている。

 

「マスター、準備できました」

 

 ドア越しのか細い声、マスターはゆっくりとドアを開け、中で待つ純白の天使の元へと歩いて行く。

彼に見えるように、着替えに使ったカウンターの上でどこか所在なさげに手に嵌めた指輪を摩るレイットは美しかった。

白いヴェールで金髪を覆い、元のカラーリングも覗く花嫁姿は彼女が人では無い事を強く意識させたが、ほんのり頬に乗せられた元の色白の顔色に馴染む薄色の頬紅、そしてほんの少し唇を透明に近いパールピンクで輝かせてマスターを笑顔で迎えた彼女はまさしく花嫁だった。

 

「ああ、綺麗だよ。レイット、お化粧の練習、効果あったね」

「そうですか?あの、服はどうでしょう」

「勿論似合ってる。さぁ、それじゃ行こうか。カメラマンさんが待ってる」

「あの、マスター」

「なんだい?」

「撮影中はいえないだろうから今言っておきますね。愛してます。大切なマスター」

「俺だって愛してるよレイット。大切な俺のお嫁さん」

 

 本当はそのままレイットに口付けしたかったマスターだが、撮影前に化粧が崩れてはいけないと我慢する。

2041年の化粧品は保持力に優れているが、マスターがレイットにキスしようと思えばほぼ顔全体を覆うことになる。

鼻から上にすればいいかもしれないが、そうすると今現在はヴェールがキスの邪魔をする。

便利になった世界でもまだまだ不便があるものだ。

 

 こうして着替え室から出てカメラの前に立つと、カメラマンはいささかも動揺を見せずに二人に指示を出し始めた。

旦那さんは背筋をピンとして、花嫁さんをおなかの前にピタリと持ってくるようにだとか。

花嫁さんは指輪を嵌めた手を手の甲を前に顔の横に添えるように立てて、旦那さんは花嫁さんのお腹辺りを指輪をした左手で抑えてとか。

そんな指示を出しながら1枚、2枚と写真を撮り重ねて行く。

花嫁衣裳でマスターの頬に唇を寄せるレイット、彼女をお姫様抱っこしようとしてサイズの違いから子猫をあやすような形になってしまったマスター。

二人にとって大切な記憶である、記録が次々にデータとなっていく。

 

 そして時間一杯の撮影を終えて、着替えも済ませたマスター達にカメラマンが伺いを立てた。

 

「今回撮影したデータの中から特に印刷したいというデータはありますか?画像をクリスタル状合成樹脂にプリントしたスタンドを二週間以内にお届けします」

「ん、そうだね。じゃあ最初に撮った一枚をスタンドに」

「ありがとうございます。では一旦こちらのメディアはお預かりしますので受付でお待ちください」

 

 マスターが買い物を決定するとカメラマンは即座に記録メディアを持って引っ込んでいった。

恐らくプリント用のデータを別の媒体にコピーしに行ったのだろう。

それから、メディアが受け渡されるまでスタジオのロビーでマスターはレイットと話をした。

 

「あの、マスター。これで私、正真正銘、マスターのお嫁さんになったんですよね」

「そうだよ。これでレイットは心の底まで俺のお嫁さん」

「えと、その、キス、しちゃいましたね……普段もしてますけど……」

「特別なキスだったよ。カメラの前じゃなかったらきっとレイットが俺の頭おかしくなったんじゃないかって心配するくらい飛び跳ねてたと思う」

「マスター」

「なんだい」

「私、きっと世界で一番幸せな神姫です。マスターと出会えて、本当に良かったです」

 

 そういって、うっとりとした顔でマスターの首筋に持たれ掛かるレイット。

マスターは座っているソファに手荷物を置いて彼女の頭をこそこそっと撫でる。

そして静かな時間が流れ、マスターの名が呼ばれて記録メディアを受け取り、二人は家路に就く。

帰り着く場所は、二人の愛の巣、いつもの六畳一間の、バストイレ付きのアパートだ。

そこは明日からもっと二人にとって暖かい場所になるだろう。

まるで、そこは永遠の陽だまりともいうべきような場所に。

 

 こうしてマスターが買ったお嫁さんは本当のお嫁さんになった。

だが人が神姫に求めるモノ、属性と言ってもいいそれは多岐に渡る。

母親のように自分を見守り背中を押してくれる存在だったり、擬似的な愛人だったり、百合なあれこれ、あるいは純粋な相棒、少し暗い話をするならひたすらいびり抜くストレス発散の相手。

貴方は神姫に何を求めるだろう。

どんなものを求めても彼女達はきっとそれに答えようとしてくれるだろう。

マスターとレイットの結末は、その中の一つ。

神姫との関係はマスターの数だけ、貴方も神姫を買ってみませんか?

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