武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました- 作:belgdol
食事を終えてからゆったりと二度目の来店をしたマスターを、あの時の会計をした店員が目ざとく見つけて声を掛けてきた。
神姫は基本的に返品の効かない商品だ。
だからだろうか、店員の声は固いようにマスターには感じられた。
「いらっしゃいませ。神姫になにか不都合でもございましたか」
「いや、そういうわけじゃないんだ。この子が一人の時に家の中で動き回れるようにリアパーツを買いたくてね、早いほうがいいだろうと」
「なるほど。さようでございますか。しかし神姫は家の中を自由に動き回れなくとも神姫ネットで常に有線で神姫同士で情報をやり取り、他愛の無いおしゃべりを出来る物なので、リアパーツは無しのお客様が多いのですよ」
「そうなの?でも俺は不在時の宅配受け取りとかもしてもらいたいから、やっぱり鍵の開け閉めにリアパーツが欲しいなって。うちの家、ちょっとアナクロだから」
「なるほど。それは要らぬ気遣いをしてしまいましたようで。ではリアパーツをお求めですね」
「うん。コーナーはどこかな?」
「ご案内します。こちらへどうぞ」
相も変わらぬ丁寧な物腰の店員に、「行き届いているなぁ。やはりそういう部分に金が掛けられるほど儲かっているのかな」などと思いつつ後に続くマスター。
その道すがらでリアパーツについて、幾らかの説明を受ける。
リアパーツは空戦型と陸戦型、それから水中型に特殊兵装型の四種に分類され、基本的に飛べるのは空戦型と呼ばれるリアパーツらしい。
さらに、現実における性能とライドバトルにおける性能に差異のあるものがかなり多いらしい。
ライドバトルはゲームだ、ゲームというからには武装の性能にかんして規定があり、ある程度の標準化は計られなければならない。
例えばだが、空戦型のリアを装備した神姫が延々空中から陸戦型の神姫にミサイルを打ち続けるのは、リアルを求めるなら『有り』だろうが、ゲーム性やエンターテイメント性を求めるなら、そこは是正されなければならない。
それは例えば、シミュレーター内でリミッターが掛かり飛行時間の限定化を行う要素であるブースト量や、シミュレーターをドーム状に設定する事で一定以上の高度を取れなくするという措置で現れる。
どうもライドバトル内では基本的にゲーム的な制限が掛かるという話には他にも色々ありそうだったが、今回は遠慮してもらったマスターだった。
今日の彼は、レイットが日常的に不便のないように空を飛べるリアパーツを入手できればいいのだ。
そもそも彼はライドバトルの為に神姫を購入したのではなくて、あくまでお嫁さんのようなサポーターとして購入に至ったわけで、ゲーム上の都合など言われても半分も頭に入らなかったに違いない。
せいぜい、リアパーツには飛べるのと飛べないのがありますくらいしか頭に入れていないだろう。
ただ、そんな彼も少し気になるところがあったのか、リアパーツの並ぶコーナーについたところで店員に質問を投げかける。
「ところで、神姫ってアーンヴァルMk.2型とか型で分けられてるよね?型によっては装備できないパーツとかあるのかな」
「その点でしたらご安心を。武装神姫の武装は装備するパーツ同士の形状による干渉が無ければ、接続部の共通化により理論的にはあらゆる型の武装を装着させる事が可能でございます。特に今回のお客様のような、単一機能を付加する為にパーツを一つだけ装着すると言った場合には何の問題も発生しないことを保障させていただきます」
「ふーん。結構自由が利くんだなぁ。ところでまた少し聞きたいんだけど」
「はい。どのようなお問い合わせですか」
「このシンペタラスっていうの何種類かあるみたいだけど、値段が随分違うけど。これは実際に性能が違う、ってことなの?」
「はい。お値段そこそこのものは性能もそれなりに、例えばこちらのシンペタラス型のパーツのレベル1の物とレベル7の物では速力に最大で二倍以上の違いがございます」
「ふーん、レベルって言うのが高いほどいいものなのか……そのレベル7のシンペタラスの値段は?」
「はい、こちら12122sptとなっております」
「……リアルマネーで約十二万?」
「はい。こちらをお買い求めになられる方は神姫を扱う事にかけてのプロの皆様の為の商品ですので。どうしてもお値段のほうもお高くなってしまいます」
「うーん。買えない額じゃないから悩ましいな」
「あ、あの!マスター!私そんな高級なパーツじゃなくてもいいですから!普段遣いのパーツに高級品を買っていただいても私が困ります」
「そうかい?じゃあ、レベル1のシンペタラスはどのくらいするかな」
「そちらでしたら376sptとなっております。正直、神姫の方も始めての飛行ならこういった初心者向けの速度のパーツがよろしいかと」
「あ、神姫もそういうの慣れる必要あるんだ」
「左様でございます。神姫もCSCに経験を蓄積し、日々成長するのですよお客様。そのためにはやはり段階を踏んだ方がよろしいですよ」
「なるほどね。ところで、このパッケージの見本、コーリペタラスとシンペタラスで神姫の髪型が違うんだけど」
「それは武装によって変わるヘッドギアアクセサリの違いによる髪型の変化でございます。この見本のような髪型に変化のあるパーツは適合した型の神姫の髪型を変更します」
「ん?型があったらっていう事はこれをマオチャオ型がつけたりしても変化内ないのかな」
「はい。性能的には変わりのない、遊びの部分でございますね」
「なるほね。さてと、じゃあレイット、シンペタラスとコーリペタラスどっちがいい?」
「話が長くなってしまったかな」と思いながら、後方に向けて鋭い片手剣のようなシルエットに小さな尾翼のついたスラスターが伸びるコーリペタラスと、真上に向けて日本刀のように僅かにそりながら伸びるスラスターと、五角形の角の部分を削り中央を凹ませたような形状のサブスラスターが下に向けてついた両者を見比べるレイット。
迷っている、だがその眼はちらちらと商品ではなく、マスターの方を見ているように見える。
マスターは「はてな、自分が何かしただろうか」と思っていたが、どうにも視線は自分に集まっているように思えた。
なのでマスターは挟むつもりの無かった口を挟む事にした。
「俺に選んで欲しいのかな?」
「!、はいっ、おねがいします!」
「しかし俺でいいのかな。初めての武装なんだから、自分で選びたい物じゃないかな」
「私は、マスターに選んだものを身に着けたいんです」
マスターは熱視線に晒されて、なんともいえない歯がゆい気分になりながらパッケージを見比べる。
見比べてみればコーリペタラスの方のサンプル画像ではアーンヴァルMk.2はポニーテイルで、シンペタラスの方は円形のパーツからふわりと数房に分かれた髪が尻尾のように流れている。
マスターとしては機能の違いはレイットが気にならなければどうでもよいし、実際ライドバトルで設定された能力の違い以上の差異は本当にデザインくらいで、選ぶとすれば髪形と武装のデザインくらいのものなのだ。
値段も変わらない。
そして最終的にマスターはシンペタラスを選んだ。理由はいたって単純で、ふわりと広がるピンクブロンドが可愛いからという理由だった。
可愛いは強いのである。
それはさてき、マスターが清算に行こうかとしたその時、レイットから更なるおねだりがあった。
おねだりと言っても、あくまで控えめに、どうせだから今済ませてしまいませんか?という柔らかな口当たりの、不快な媚を感じさせるものではなかったけれど。
「マスター今日はお休みを取って来たんですよね。ならリアパーツ以外の武装も見て行きませんか?」
「うんと、武装欲しい?」
「ええと、私も武装神姫の端くれですから、ライドバトル以外の野良バトル以外でもいいからバトルはしたいですね。その為に武装は欲しいです」
「そっかそっか。そういう事なら武装も買おう。レイットの得意な武器ってあるかな」
「どんな武器でも使いこなして見せます!ライドバトルだとマスターの好みや適正がでるかもしれませんけど、私が精一杯サポートしますから」
「お客様。アーンヴァル型のコンセプトはオールラウンダーでございます。武器の得手不得手はマスター次第。ここは再びお客様がこれだと思う武装を買い与えるのがよろしいかと」
「ふーむ。じゃあ、武装コーナーを教えてくれるかな」
「喜んで。こちらでございます」
マスターは案内される間にちらりと周囲を省みて見た。
すると普通の玩具屋ならジャンルごとに分けられる1コーナーにも匹敵する陳列でパーツが分類されている事に気づく。
これは本格的に武装を選び始めると一日の休日など泡沫のように消えてしまうだろうなぁという事をぼんやりと考える。
そして、それらの陳列のあちこちに視線を飛ばし、一所に留まらぬ視線の旅人になっているレイットに声を掛ける。
「なにか気になる武装でもあったかい?」
「いえ、その、色々な武装を見ているとですね、スペックのカタログがデータバンクから呼び出されるのが楽しくて。ええと、人間の女性が洋服を選ぶような、ちょっと浮かれた気分になってしまったんです。その、すいません」
「何で謝るの。良いじゃない、女の子なんだもの。身に付けるものには気を使いたいよね」
「はい……とはいっても、私のLOVEレベルがまだ低いから、着けられる武装にも限りがあるんですけど」
「ん?LOVEレベルってなんだい」
「それは私とマスターの戦闘における相互の信頼度を可視化したデータです。ライドバトルではこのLOVEレベルに応じて武装を認証するコスト制の、装備可能コストが上昇します」
「そんなものあるんだ……でもそれって現実の武装には関係ないよね」
「そうですね。レベルに見合わない武装をしているとライドバトルをするときにコストオーバーで弾かれてしまうくらいで、特に問題はないです」
「なら良いんだよ。あんまり気にしすぎもよくないね」
「そうですね。マスターはあまりバトルとか、気になさらない方のようですから」
とまぁ、こんな具合にちょろちょろと細い水路から水を注ぐような感覚でライドバトルの基礎知識が与えられているわけだが、果たしてレイット以外がそれをしたとしてどれほどマスターの脳内に残ったか。
彼の耳は聞きたい相手からはの言葉は良く捉えるが、そうでない言葉はするりと抜ける都合の良いつくりをしているのだ。
そして彼が「愛情を数値化するというのは少し無粋だね」と言った所で小さな小人サイズの武装がずらりと並ぶコーナーへと到着したのだった。