武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました-   作:belgdol

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マスター、新婚気分になるの巻き

 カーテンの隙間から朝日が差し込む。だがその光は部屋の主の眠る場所まで届かず、睡眠は続くかと思われたが、電子音が部屋に響いた。

携帯のタイマーによる目覚めのリズムだ。

快適な目覚めを追求した心地よく脳を起こす音楽だったが、覚醒していく意識の中でマスターは失敗したな、と思った。

「マスター、朝ですよ」と言いながら自分を小さな体で揺さぶり起こすレイットの姿を想像してしまえば、昨日の就寝前にそれを頼まなかった自分の頭の回転が鈍いなと思わざるを得なかった。

同じ目覚めるなら、無機質な覚醒音楽より可愛いお嫁さんに起こされたいというのが男と言うものだろう。

 

 だがとりあえずはそんな雑念を振り払って、自分に合わせてクレイドルで休眠状態に入ってくれたレイットの、CSCが納められた胸元にそっと触れながら「おはようレイット」と声を掛けた。

マスターの音声を認識したレイットのAIが即座に眠りに就いていた機能を覚醒させ、ゆっくりと瞳を開ける。

そして完全に身を起こそうと言う時には既にマスターの指先は胸元から離れていたので、そのまますくっと立ち上がり武装を展開してマスターの顔の高さまで飛び上がり、笑顔で挨拶を返した。

 

「おはようございますマスター。今日の天気は朝から夜にかけて晴れ、降水確率は5%。最低気温は十二度、最高気温は十五度で過ごしやすい気温になるみたいです」

「レイット、その情報ってどういう風に調べたの?」

「神姫ネットの今日のお天気コーナーで確認しました。お邪魔だったでしょうか」

「いや、助かるよ。後、これは俺の個人的なわがままなんだけど」

「わがまま、ですか」

「明日からは携帯のアラームじゃなくてレイットに起こして欲しい。起きなかったら耳引っ張ったりしていいからね」

「はいっ。神姫は勿論そういったお目覚めサービスにも対応しています。朝のお目覚めはお任せください。ただ、念のために毎晩翌日の起床時刻は教えてくださいね」

「ん、そうだね。さて、朝飯はパンでも食べるかな」

「あ、私が用意しますからマスターは座ってお待ち下さい」

「任せて大丈夫?」

「大丈夫です。電子オーブンにいれて焼いて、パンをお皿に乗せるだけですから。お飲み物はどうしますか?」

「ああ、飲み物は昨日買っておいたボトルの紅茶があるから」

「そうですか。うーん、しかし朝はもっとマスターに食べていただきたいですね」

「はは、俺朝は軽めって決めてるんだ。だからそんなに気合をいれなくていいよ」

「そうですか?マスターがよろしいならいいんですけれど。私も人間の女性のように料理が出来れば、きちんとした食事を作って差し上げたいんです」

 

 知識の上で知っている人間の女性と自分自身のできる事を比べたのか、かすかに気を落としたようで、少し俯き両手を腰の後ろあたりで組むレイット。

だがマスターはそんなレイットのおでこをこつんと人差し指で突いた。

 

「レイットは神姫としてできることさえしてくれればそれで俺は満足だよ。だから考えすぎるのは禁止。気楽に行こう。折角の二人暮らしじゃないか、楽しまなきゃ」

「マスターとの生活を楽しむ……それは、たしかに重要な事ですね。もう私達はパートナーなんですから」

「そうそう。ただ俺としては心苦しい所があるのも確かなんだ。仕事の関係上、どうしてもレイットを一人にしちゃう時間があるからね。なんなら再入荷を待ってもう一人神姫を買ってもいいね」

「そ、それはダメです!」

「え。なんで?」

「……きりがいいです」

「ん?」

「マスターと、二人っきりがいいです」

 

 恥じらい、頬を赤く染める演出をしながら二人きりがいいと言い切った彼女の言葉にマスターは意識が宇宙に飛びかけた。

思わず刻が見えるところだったが、それを笑顔で隠した。

だが隠しただけで衝動は抑えられなかった。

「俺もレイットと二人きりがいいな」と言いながらそっとレイットを持ち上げて彼女の柔らかなファイバー製の髪に包まれた頭部にキスをした。

なんとも気障ったらしい行為で、生身の女性が相手ならマスターもこんな事はしなかっただろうが、自分に好意を抱いているという前提がある神姫であるレイット相手だからこそ、こんな暴挙にでたのである。

一瞬された側は何が起きたのか把握しかねたが、視界の上部を占めたものがマスターの顎だったのを認識した途端、CSCの中に収められた心が混乱を起こし完全にフリーズしてしまった。

マスターはそんなレイットに、何度も声をかけたがしばらくその機能が回復する事は無かった。

旦那様としてはお嫁さんの可愛いその姿を何時までも見ていたかったが、社会人としてはそうはいかない。

 

「レイット、レイット。戻っておいで。朝ごはん食べる時間が無くなっちゃうよ」

「あぅっ?あ、は、はい!じゃあパンを焼いてきます!」

 

 気恥ずかしさを誤魔化すようにすっと台所に飛んでいくレイットを見送ってから、マスターも背広に着替える。

その頭の中は今日いかに早く帰るかで占められていて、軽快に鳴った朝のフードファイトの合図にも気づかなかったほどだ。

ただ、それもマスターにとっての天使が声を掛けるまでだった。

 

「マスター、パンが焼けました」

 

そういいながらパンの乗った軽量樹脂性のお皿を持って飛び、テーブルの上に置くレイットの声にマスターは現実に立ち返り、にこやかに言ったのだった。

 

「ありがとう。いただきます」

 

 レイットの焼いたパンはふっくらさくさく、焼き時間を長くしすぎて炭化するという事もなく、非常に美味しく食べられた。

ただ、マスターである彼はトースターで焼いたパンのような粉が出る物に弱い喉を持っていたので、飲み物は欠かせなかったのだが。

そして「おいしかったよ」と言いながらレイットの頭を撫でたマスターは、会社に向けて出発する前にレイットに言った。

 

「昨日のネットショッピングで買ったものは即日配達にしあから、今日には届くと思う。だから届いたらレイットが適当に設置してもらってね」

 

 適当に、なんとも曖昧で、志向性の無い指示。

これが旧来のコンピューターであれば黙りこんでしまう所だが、神姫の受け答えの柔軟性は眼を見張るものがある。

 

「はい。配達員の方にはお手数をかけてしまいますけれど、マスターが帰ってきたらすぐ使えるようにしておきます」

 

 そう、神姫である彼女が言うのであれば配達される家具類は十分に見栄え良く、使いやすい位置に配置されるだろう。

そういった人間で言うセンスが必要な事も、小難しい学問名がつきそうなデータが刷り込まれていることでさっとやってのけるのが彼女達の特色である。

まぁ、神姫の基礎人格によってはそういう仕事に向かない子が居るのも事実ではあるが。

そんな向かないお仕事でもマスターがお願いしたりして任せれば、自分なりに精一杯やってくれるところも、彼女達の愛されるゆえんだろう。

 

 と、言うわけで。

朝食のパンを飲み込み、スーツを着て風呂場兼トイレ兼洗面所でみだしなみを整えたマスターは、最終確認をレイットに頼む。

マスターが外で恥を掻かない為の最終確認という大きな仕事を任されたレイットは気合を入れてふわりふわりとマスターの顔の周囲を飛んだ後、光り輝くような笑顔でマスターに言った。

 

「合格です!寝癖無し、ネクタイOK、スーツも皺無し。自信を持ってご出勤してください!」

 

 まるで自らの事のように喜んだレイットは、その後すっと滑るようにマスターの顔に近寄った。

 

「ですので、言ってらっしゃいませ。マスター」

 

 小さく、だが確かにマスターに聞こえるように紡がれた言葉がマスターの耳にとどくと共に、小さく低反発な感触のする唇がマスターの頬に押し当てられる。

 

「えっと、レイット。今のは?」

 

 さすがに今で余裕を見せ続けたマスターも、これには少し驚いたのかレイットを問いただす。

するとレイットはいじらしく両手を突き合わせながら、頬を染め、上目遣いでマスターを見つめながら言った。

 

「その、お嫁さんが旦那様を送り出す時の様式美といいますか。ダメでしたか?」

「いいや!いいよ!可愛い!よーし、じゃあ頑張って仕事してくるからね!」

 

 レイットの言葉に足取りも軽やかに、家を出て行くマスター。

鍵を閉め忘れたのは喜びすぎか、レイットを信頼しての事か。

どちらにせよマスターの生活に張りが出るのは間違いないだろう。

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