武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました- 作:belgdol
会社でレイットの事に思いを馳せて少々手元が留守になったマスターが、上司専属のストラーフMk.2にしっかりして欲しいと軽いお叱りの言葉を貰ったり、上司本人からは「神姫可愛いよねぇ。私にとっては娘みたいだが、君にはまた違う可愛さがあるでしょ」というお言葉を頂戴しつつ仕事をこなしてから帰宅。
そして帰宅してレイットにおかえりなさいのキスをしてもらってから、自分からも小さな彼女の頬にお返しをする。
食事の時にはレイットも一緒にヂェリカンを飲んで、昼間自分が居ない間レイットが何をしているのか聞いたら、折角買ってもらった武装なのでトンファーの扱いを練習していると言われて、「思ったより武闘派なんだね」と驚いたり。
そんな日々を過ごして一週間と少し。マスターが休日で二人一緒にゆっくり過ごせるという、そんな日だった。
前日に休日は昼まで寝ていたいと指定されていたレイットが、そろそろ昼食時になることを体内時計で感知して、寝起きでも食べられる軽めの食事。
神姫でも扱える調理器具で花型の卵焼きと、マスターの好みに合わせた先にマーガリンを薄く乗せて焼いたパン二枚。それから買い置きのレタスを千切って、マスターの好きなチーズをサイの目きりにして包んだチーズサラダを用意してからそっとマスターを起こしに掛かる。
「マスター。マスター。お昼ですよ。ご飯も出来ましたからおきてください」
「んぅ……眠り姫はキスで目が覚めるけど眠リーマンは何で目覚めると思う?」
「えっと、それは……ほっぺたでいいですか?」
「うん。いいよ」
「本当に仕方の無い人ですねマスターは」
少し困ったような表情になりつつも、そっとマスターの頬に唇を落としたレイットの頭を、大きく暖かい手が撫でる。
まだ出会って半月も経っていない二人だったが、神姫の持つマスターへの適応性と、レイットの母性のようなものを刺激する普段落ち着いているのにどこか甘えたがりな所を見せるマスターの相性は良い様で、すでにバカップルのような状態になっている。
目を覚ましたマスターはまず洗面所に行き顔を洗う、洗い終ったマスターの顔をタオルで拭いてあげるのはレイットの仕事だ。
始めの内はマスターも自分で拭いていたのだが、料理をするレイットの、その小さな体からは想像し難い結構な力を見るとこれをねだるようになった。
上手くリアパーツを使って飛びながら丁寧にマスターの顔から水気を拭い取ると、ようやく食事である。
「うん。美味しいよ。特に野菜嫌いの俺に美味しく野菜を食べさせてくれるチーズのレタス包みは特に良いよ」
「よろしければシーザードレッシングもどうぞ」
「ん。それにしてもパンも香ばし……んぶふっ!げほ!げほ!」
「ああ!マスターの喉は敏感なんですからパンを食べるときは喋ったらダメですってば」
「ごふっ……んぐっ。いやぁ、悪いね。でもまぁむせるだけだから」
「いけません。こういうのは習慣づけないといけません。話し相手が居ても口を開くのはちゃんと飲み込んでからです」
「んー。ご飯ならこんなこともないんだけどけど。炊飯器買おうかなぁ」
「マスターは毎回、「米袋担ぐのはやだなぁ」って結局うやむやにしちゃうじゃないですか」
「まったくそのとおりで。ははは、こういうのも尻に敷かれてるっていうのかな」
「マスターの方から敷物になろうとしてるきがしますけれど……」
「だってレイット頼りがいがあるからさ。敷かれがいがあるよ」
「もう、またそんな事を。私、マスターがこんな甘えん坊さんだなんて思いませんでした」
「ん……うん。どうかなぁ、どこか自分の全てを許してくれる、神姫を求める人にはそんな存在を求める人が多いと思うけどね」
「なぜですか?」
「普通の人間同士で相手を受け入れるというのは難しいことだよ。一見上手くいっているように見える長年付き合っていた男女でも、些細なことで相手の事を嫌うようになる場合もある。それが神姫にはないからね」
「そう、ですね。私達神姫はマスターである人間の皆さんに寄り添うものですから」
「俺が思うに、もう神姫の愛情は高度になりすぎて機械の仮初めの愛を越えていると思うんだよね。始まりがプログラムでも、それを守り続けるならそれは本物だよ」
「マスター……マスターはもしかしてぼっちと呼ばれる人ですか?」
「ぼっ……そんな言葉どこから仕入れてきたんだレイット」
「あ、あの、悪い言葉でしたかっ。その、神姫ネットの書き込みで見かけた、交友関係の狭い寂しい人を指すような言葉だと類推したんですけれど」
「う、うん。どっちかって言うと俺はぼっちかな……実家ともあんまり連絡取ってないし会社の人との付き合いも飲み会の一次会に付き合う程度だし……」
「あ、あぁ!そんなに落ち込まないでくださいマスター!マスターには私が居ます!一人ぼっちじゃないです!」
「……なんてね、あんまり気にしてないよ。それよりも俺にはレイットが居てくれるかぁ。いやぁ嬉しい事を言ってくれるね」
「マ、マスター……っ。もう知りません!」
「あ、ごめん。心配させるような事言って怒らせちゃった?ごめん、ごめんよ。だからこっちを向いて」
「ふーんだ。少しは反省してください。私がどんなに心配したか解ってくださるまで、知りません」
「うぅ。レイットー」
「し、知りません」
その光景はダメな亭主とそんな亭主に弱い嫁さんといった様相だ。
マスターは割りと本当にまるでダメな男、マダオなのであった。
そんなまるでダメなマスターがレイットに背中を向けて屈んでいると、いつしかレイットの方がマスターを気にして声を掛ける。
「あの、マスター。お願いを一つ聞いて下さったら、さっきの嘘は水に流しますけれど、聞いてくれますか」
「……ほんとに?」
「私は嘘なんてつきません」
「じゃあ、お願い言ってみてよ」
「私を、ライドバトルに連れて行ってください」
「んー、ライドバトルかー。こうなったらもう行ってみるしかないかな」
「本当にいいんですね?」
「う、うん。なんだかそんな念押しされなきゃいけないことあるの」
「ええと、実はこの街のゲームセンターってちょっと個性的な人が多いみたいで……」
「そんな覚悟の要る個性ってなんなんだ……」
「と、とにかく!もう約束したんですから、ライドバトルで私と一体になりましょう!マスター!」
「ふむ、レイットと一体にか。いいよ。じゃあ出かける準備するから、ちょっと待ってね」
「はいっ。マスター」
嬉しそうにマスターの襟元に飛び上がったレイットに、マスターは「それじゃ着替えられないよ」と笑いながら、衣装の入った箱からスリムジーンズと少し大きめの錨柄のシャツを取り出して左手に持った後、レイットを右手で優しく襟元から取り上げる。
そして、「もう春も随分暖かいから上着はいらないかな?」とレイットに聞いて、「大丈夫だと思います」と答えが帰ってくると「じゃあ着替えるから、と言っておもむろにパジャマを脱ぎだす。
レイットがそそくさとそれに背を向けると、しばらくごそごそとして着替え終わるとマスターはレイットを呼んだ。
「財布良しっと、レイット。出かけるから肩に乗りなよ」
「はいマスター。お邪魔しますね」
「よし。じゃあ行こうか」
レイットを肩に乗せてマスターは家を出る。
ライドバトルの出来る施設があるゲームセンターは街外れにあるので、その近くまでバスで行く。
その最中、マスターはレイットにバトルの基礎的な事を聞くことにしたようだった。
「ライドバトルって神姫とマスターがシンクロして戦うって売り文句だけど、実際マスターはどのくらいのことができるのかな」
「理論的には私達神姫がマスターに全てを委ねればマスターは私の体を完全に掌握できます」
「それは凄いね。でもそれだとリアル格闘家のマスターとか、神姫と協力する必要なくなっちゃうんじゃないのかな」
「それをするには格闘家の才能とはまったく別な才能が必要だと思いますよ。例えば、マスターは自力でリアパーツの制御ができますか?」
「あ……多分、無理だね」
「それに、神姫には武装の扱いがデフォルトでインストールされていますけれど、マスターはそういったものを一から自分の物にしなければいけないんです。こうなると神姫との協力は必要不可欠なように思えませんか?」
「うん。確かにバトルをしていくならレイットの協力は欠かせないみたいだ」
「他にも、人間であるマスターが使わない部位の制御の他に、マスターのイメージを機動に反映させるのもライド中の私達神姫の役割ですね」
「えーと、それは例えばどういう事かな」
「例ええばマスターが空中三回転捻りジャンプで敵神姫の背後に回りこんで、ハイキックからの廻し中段蹴り、さらに体を寄せての首狩り投げをしたい、と考えたとしますよね」
「う、うん」
「マスターは当然、そんな機動をする経験がありません。ですがイメージさえしっかりしていればその実行を神姫の演算機能を使って私が代行するんです」
「なるほど……それは頼もしいね」
「そういっていただけると光栄です。ですからマスター、バトル中も私に沢山、頼ってくださいね」
そういってマスターの首筋に寄り添うレイットの髪を、彼はさらりと撫でて言う。
「うん。頼りにしてるよレイット」
そんな話をしている内にバスは目的地、レイットの初陣を向かえる戦場近くへと到着するに至ったのだった。