武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2-お嫁さんを買いました- 作:belgdol
ゲームセンターは想像以上に巨大な建物だった。
ボウリング場かなにかと併設されていると言われても信じられる広大な敷地の一割ほどを通常のゲームで埋めた後は、残りは全てライドバトルに特化したつくりになっているようだった。
まず、ゲームセンターの外周は昔ながらのアーケードゲームや体感筐体が並んでいるのだが、外周を除けば観戦用のスクリーン、神姫達が闘うことになるバトルシミュレーションコートに、ライド用のシンクロボックスと呼ばれる個室。
それらが円滑な対戦の進行の為に数セット並んでいるのだ、旧来のちょっとしたゲームセンターとは一線を画する場所がバトルの舞台だった。
「うわぁ……広いなぁ」
「マスター。まずはマッチングの為に選手登録が必要です」
「いや、それよりもあの試合……見届けたい」
「あの試合……あ、あれは確かに凄いですね」
マスターの視線を追ったレイットの神姫アイが捉えたのは激しいバトルの様子だった。
アーンヴァルMk.2型とストラーフMk.2型の対戦。
変則的な高速機動でアーンヴァルMk.2の視界の外に消えたはずのストラーフMk.2のドリルによる突撃をひらりと回り込んでかわして小剣を突き立てるアーンヴァルMk.2.
神姫とマスター、どちらが焦っているのかはわからないが、ストラーフMk.2の攻撃はその後も苛烈になる一方だ。
だがアーンヴァルMk.2は火花散るドリルの攻撃を小剣で柔らかく捌き、その手数の多さで着実にダメージを与えて行く。
観戦素人のマスターにも解る。
これはストラーフMk.2の方が弱いわけではない。少なくともあの苛烈な攻撃を自分で避けろと言われたら、なす術も無く打ち抜かれるだろう。
その攻撃をアーンヴァルMk.2とそのマスターはまるで濁流に身を投じ一体化するかのごとく受け流し、柔を持って剛を制した。
アーンヴァルMk.2の武器がそこまでの大威力武器ではないので、戦いは長引くかと思われた。
だが極まった焦りにとうとう大振りの一撃のドリルを繰り出そうとしたストラーフMk.2の懐に、瞬時に入り込み武装を小剣から杭のような物が突き出した武装へ変更、そして無慈悲に敵の中枢を爆裂を伴う刺突攻撃で一気に勝負を決めたアーンヴァルMk.2に勝者としてのアナウンスが流れる。
「勝者小波万&レディ!惜しくも小早川千歳&リリスは敗北してしまいましたが素晴らしい勝負でした!このような勝負はすでにFバトルクラスと言っても過言ではないでしょう!皆さん、期待のマスターと神姫達に祝福の拍手を!」
アナウンスの答え、大勢の観戦者達が大きく拍手をする。
当然、マスターとレイットもその中に入っていた。
「レイット、バトルっていうのは凄いんだね。俺はじめて見たけど、あんな凄い試合が当たり前なのかな」
「少々お待ちください……あの小波万さんという方と小早川千歳さんは神姫ネットのノンタイトルバトルスレッドで今話題の二人のようですね」
「ノンタイトルバトルスレッドっていうのはなんだい?」
「ええと、Fバトルという公式バトルはTVや有料ネット配信で全国、いえ、Fバトルの頂点であるF1バトルになれば全世界へ放映される事は知っていますか?」
「ああ、さすがにそれは小耳に挟んだことがあるよ。例の上司が会社から神姫を預かったことで興味が出たみたいでね。「竹姫葉月とアルテミスは本当に偉大なチャンピオンなんだ!」って興奮して語ってるよ」
「それらの試合で戦うマスターと神姫はタイトル持ちか、そうなる可能性があるとしてF3、F2、F1の個別スレッドで語られます。そしてノンタイトルとは公式ではない試合……つまりこういった地方のゲームセンターごとに強いマスターと神姫を語るスレッドです」
「うーん。つまり今の人達はこの地方の、神姫好きの間での有名人ってことになるのかな?」
「その通りです。特に小波万さんは一週間前から頭角を現し始めた方で、日にゲームセンターの営業時間が許す限り戦って、現在使っている武装は全てその試合で得たsptで揃えているらしいといわれる超新星です」
「そうなんだ。凄い人なんだね小波万さんって」
「強さもそうですけど、きっとお金持ちですよ」
「え、なんでそんなこと解るの」
「ええとですね、ゲームセンターの営業開始時間から入店して、営業終了時間まで三十回は試合をこなしていくという目撃談がありまして」
「……仕事してるように思えないからお金持ちって事?」
「それもありますけど、ライドバトルは一回三百円掛かるんです。これでも赤字覚悟の値段なんですけど、一日九千円を一週間ですよ。七万三千円です。このペースが続くようだと出費の方も……」
「なるほど。それは確かにお金持ちだね。でもあの人ならあっという間にプロになっちゃうんじゃないのかな」
「そうでしょうか?私は経験が少ないので判断しかねます」
「ああ、俺も初めて見た試合が凄かったからあの人ならプロになれるって思っただけ。と、それはさておき登録だっけ?」
「はい。まずは受付カウンターへ行ってバトルネームと使用神姫の登録をしてください」
「バトルネームっていうのあれかな、ペンネームとかリングネームみたいな。適当なのでいいのかな」
「はい、皆さんお好きな名前をつけているみたいですよ」
「そうかそうか。じゃあ早速登録しよう」
するすると人の合間をすり抜けて、ゲームセンターの壁際の体感マシーンが並ぶ中にある受付でライドバトルの申し込みをするマスター。
その時マスターはバトルマスターズカードを作成するか聞かれた。
どうもそれはバトルで得た神姫SHOPで使うsptを直接支払いに使える貯蓄カードであり、戦績を記録してなるべく適正な相手と試合をマッチングするのに使われるものらしい。
当然、カードなしで完全に野良でバトルを申し込んで、マスター同士同意してマッチを組めば戦績に関係なくバトルはできるし、sptもきちんとその分の引換券が発行される。
だが基本的にバトルに参加するマスターは全員このカードを使っているらしい。
なぜならマスター……つまりバトルのプレイヤーの大部分は目的はバトルを楽しむことにある。
決して格下を狩り続けてsptを溜めるという、RPG的な行為にはないからだ。
当然そういった行為に走ろうとするマスターが完全に居ないとはいわないが、そんな事をして店内を巡回する警備員に見付かれば出入り禁止だ。
それが積み重なればもうまともなバトルの舞台には立てなくなる。
と、これらの説明を今回はマスターも真面目に聞いていた。
バトルへの参加はレイットからのお願いである。万が一があってはいけない。
そして一通りの説明を受けたマスターは少し考えて、いつでも気軽に変えられますよといわれるとバトルネームを「アファームド」と書き込んで、神姫の情報を登録する為に店員にレイットを預けたりした。
まぁ預けたと言っても目の前で胸元のCSCにバーコードリーダーのようなものを当ててデータを取っただけだが、マスターはレイットが自分の元に戻るとそっと胸元に彼女を引き寄せた。
レイットは良く解っていなかったが、とりあえずなされるがままにマスターのてのひらと胸板の間に挟まれ、「あ、ちょっとこれはいいですね」などとのんきな事を考えていた。
「さっそくマッチを組みますか魔星頑駄無様」
「うん。お願いしたいんだけど俺はどうすればいいのかな」
「まずこちらで料金を支払って頂いた後、バトルネームがコールされるまであちらの選手控え室で神姫の武装チェックをしていただくか、呼び出しがあるまでライドバトルの観戦ディスプレイで観戦をお楽しみください。ただ、呼び出しから十分以内においでいただけない場合、不戦敗扱いになってしまいますのでご注意を」
「解りました。じゃあ控え室に入ろうかな」
「はい、いってらっしゃいませお客様」
店員に見送られてすぐ傍に備え付けられている個室に入る。そこは自宅より広い長方形の部屋で、ジュースやヂェリカンの自動販売機や、最低限寛げるような椅子やテーブルが配置されていた。
そこでは一人の少年とアーンヴァルMk.2型神姫が他愛の無いお喋りをしていたが、マスターに気づくと少年は元気に挨拶をしてきた。
「こんにちは!お兄さん、新しく登録した人?それとも遠征の人?」
「俺は新人だよ魔星頑駄無っていうバトルネームだ。君はなんていうのかな」
「僕は柴田勝。こっちが相棒のプルミエ!」
「どうも、プルミエです。よろしくお願いします」
「あ、これは遅れて……どうもレイットです。よろしくお願いします」
「よろしくね二人とも。それにしてもお兄さん新人かぁ。じゃあ相手は僕かもね」
「柴田君も新人?」
「うん。今の所二勝三敗で、もうちょっとでリアパーツ買うsptが貯まるんだ」
「そうのか……じゃあ今はリアパーツ無しって事かい」
「そうだよ。後二回くらい勝てれば買えると思うんだけどなかなかね」
「勝率4割って所か、柴田君はバトルどんな感触だったかな」
「んと、頑張れると思った。でも最初に戦った人と比べるとちょっと自信無くすなぁ」
「誰その自信をなくさせるような相手って」
「控え室に入る前にちらっとみたけど、小早川さんって人と対戦してた小波万ってお兄さんだよ」
「あ、あぁー。あれと対戦したら自信なくしそうだなぁ」
「うん。でも戦えてよかったと思うよ。あれから試合のリプレイを何度も見直して、プルミエと僕もなんとなく強い戦い方って言うのが解った気がするから」
「お。それは油断できないな……」
「お兄さんが初心者でも手加減はしないから、覚悟してね」
「ははは、俺にだって大人だって言うのがあるし、レイットの事を信頼してるから簡単にはまけないぞ」
「マスター……私、頑張ります」
「ふふっ、私も簡単は負けませんからね、レイットさん」
「こちらこそ。胸を借りるつもりで精一杯やらせてもらいますよ、プルミエさん」
こうしてお互いに交流を深めていると程なくアナウンスが流れた。
それは見事にマスターと柴田達の勝負を告げるものだった。
柴田は意気揚々と控え室を出て、マスターはぼんやりとその後に続く。
だがその外見に反してマスターは、どうやってレイットに初勝利を取らせるかを考えていた。