――十年前冬、第四次直前―― 城下の誓い
意識が浮かび上がる。
陽光すら届かない深海より爛々と輝く蒼穹へ。
そしてさらに、漆黒のソラに揺蕩う「」へと。
………いや、それは根源という意味でのソレではなく、ただ其処を何と呼ぶかを思い付かなかったため便宜上「」と表しただけの話。
―――其処はソラにあってソラにない。
―――其処は漆黒のはずが純白にある。
―――其処は頼りとなれる目印がない。
――――――――そう、つまり其処は。
『神々の住まう場所。どの世界線上にあっても座標が特定不可能つまり虚数世界に在るとされる場所。概念的には「」や座に限りなく近い場所。あえて付け加えるならば、ボクの私室にして客室。この中でならどの解釈でも構わないよ、キミ』
声がした方向を見ると、そこには球体があった。
もっとソレについて詳しく知りたいと何故か自然に思えたので、よく眼を凝らして見てみると、その周りには、薄い、円環のようなものが回転している。
『んー。今のキミには眼がないから、正確には違う表現になるのだけれどね。ま、そんなことは置いといてだ。
………これからキミには試練を受けてもらうことになる。天界の理ってやつでね。それに当たって結ぶことになる契約を解消できるクーリングオフ的なのは一切無い。オーケー?』
ん、天界ってのは近代日本よりも個人の権利が制限されているのか。意外だな。
てか、考えてるだけで言葉には出していないはずなのに受け答えしてるってことは確実に思考を読まれてる。もし敵だったら厄介な能力だ。
『敵にはならないよ、特殊な能力を得ない限りはね。神殺しに高度なレベルの次元跳躍。
それと―――――に至ること。
この三つのうち一つでも条件を満たせば、決められた権限の範囲内で殺しにいくけど、そんなことは有り得ないんじゃない?』
むむっ、思考が筒抜けになっている?
相手はどうやら本格的に神らしい。
―――――ならば、変えるべきか。
………。
………………。
………………………パッと思い付いた限りですが、一つ目はスカサハや両儀式が、二つ目はヒポグリフや白井黒子、三つ目はフェイトの魔法使いが当てはまるのでは?
『んー、別にそこまでしなくていいよ。ボクの心は宇宙よりも広くて深いから気にしない。キミの好きにすればいいさ。
それと神殺しの認識は正しいが、次元跳躍については違う。どの次元にでも行けないとダメなんだ。あ、最後に関しては、どうかな?』
あぁ、なるほど。
それはそれとして、試練とか何とか仰っておりましたが、あれはいったい………?
『もう本題に入るのかい。仕事は下っ端に任せてるから暇なんだ、もう少し雑談しようじゃないか♪』
仕事、と云うのは見当がつきます。
わたしのような死者の案内でしょう。あのご時世、人が1秒に1人以上のペースで死んでいてもおかしくありませんし、下働きの人はかなりのハードワークを請け負っているはずです。
上が怠慢ですと下が苦労します。
もちろん、そのことは承知していますね?
『しているとも。新人のキャリアを積ませたり、ボクだって気を遣っているんだよ。それにボクの事情についてアナタにとやかく言われる筋合いはないね。
………ああ、それとキミ、デスゲームといえば何を思い浮かべる?』
ソードアートオンライン1択ですが?
一昔前の流行でそれも書籍化されたものしか知りません。なにぶんたった一年間の平穏で得られる経験は限られていますから。
『わかった、これで試練についての説明ができるよ。
………まず最初に、キミはこれから三つの世界に転生してもらうことになることについてだ。フェイトやとあるシリーズと、SAOの世界にだ。ここまでで質問は?』
フェイトと言うからには月姫や空の境界は含まないのでしょうが、それにしたって範囲が広すぎます。わたしはいったいどの聖杯戦争に参加すれば?
『あー、そうか。なら、うん、わかった。ちょっとサイコロ振って決めるから待っててくれ』
サイコロ………。
この運命はサイコロで………。どこかで聞いた話によりますと、くじ引きで次代の天皇を決めると云うのがありましたが、それ並みに………。
『神のサイコロ舐めんなよ。これはな、必ず(ボクにとっての)良い目を出す代物なんだ。ある選択に困ったとき、これを振るだけで(ボクにとっての)最適解が導きだせるんだぞ。何度でも言う。神のサイコロ舐めんな』
凄い代物なのですね、そのサイコロは。
それで、結局何になったのです?
『ステイナイトになったようだ。………ほう。よく視ると、大きな幹のように見える三つの生存ルートと、その他数多くのデッドルートに分かれている。ちなみに、それぞれのクリア難易度はノーマル、ルナティック、インポッシブルのようだね』
普通はいいとして、狂気的と不可能とは。急に難易度上がり過ぎでは?
何をどうしたらそのようになるのでしょう?
『それは言えない。ネタバレってヤツだから。
………うーん。強いて言えば、どうやら手段を選ばなければルナティックはクリアできるっちゃあできるっぽいけど、それは手段を選ばなければの話だからねー、どうかなぁー?』
つまり不可能ではないと。
しかし、そうであれば最後のインポッシブルと銘打たれたルートが気になります。本当に文字の通り不可能なのですか?
『不可能は不可能だよ。そのルートに進んだら、試練の突破は不可能だ。生存さえ不可能に近いんだから、クリアなんて夢のまた夢さ。地球から何の器具も能力もなしに月まで歩くのに等しい難易度って言えば解りやすいかい?』
………………えぇ。
もしそうなれば、第二の人生を歩むことについて真剣に検討しないといけませんね。
『よし。次は試練のクリア条件についてだ。それは行く世界によって異なるが、今回は最初のステイナイトのだけを説明する。そこでのクリア条件は三つ。
一つ。第五次聖杯戦争に参加し、最後まで生き残ること。
二つ。キミ自身かキミのサーヴァントが第五次聖杯戦争の期間中に大聖杯を破壊すること。
三つ。最低五騎のサーヴァントが聖杯に回収されるまで大聖杯を破壊しないこと。
以上だ。これに関して、何か訊きたいことがあれば受け付けよう』
二つ目の条件についてですが。
つまりは、わたしやわたしのサーヴァントではない人間が大聖杯を破壊すればクリアにならないと云うこと?
『そうだね』
三つ目に関して。聖杯は白黒問わず?
『それらの合計と考えてくれればいいさ』
では最後に。
万が一、第五次聖杯戦争中に破壊できなかったとします。その後、何らかの方法で時を遡り、もう一度参戦してクリア条件を達成した場合は?
『次の試練にシュート!』
了解しました。
あぁ、そういえば転生ものには特典が付き物だった気がしますけど、それは?
『なんだいノらないのかい。
………コホン。それは一つだけ良しとしよう。ただし、著しく試練の突破を容易くするようなものはダメ』
ならば、わたしが望むは一振りの刀。
一族に代々伝わる家宝の1つ、妖刀大和守安定を持ち込みたい。
『ふぅん。どれどれ…………ん、これは。ははぁ、構わないが、扱いきれるかキミに?』
相性が良かったようで。手入れしてれば切れ味は文句無しですし、扱いきれるも何も既に扱っていますが?
『いや、そういうのじゃなくてだね。もっとこう、うーん、まぁいいか、なぁ………。ちょうどいいハンデで、しかも物にすれば強力な武器だからボクとしては大歓迎なんだが………』
良かった。持ち込み可ですね?
承った試練をクリアして、元の世界に帰らないといけないといけません。他に説明事項が無いのでしたら、はやく向こうの世界に飛ばしてください。
『アナタがそう言うなら。
あとは………そう、キミの境遇は向こうに逝けば自然と分かるだろうからここで説明はしない』
『―――――では最後に。健闘を祈る』
その言葉を合図に、私の意識は、下へ下へと落ちていきました――――――――――
「…………契約について、詳しい説明はしてなかったけど、もう行っちゃったから是非もなし、だろうね」
☆―☆―☆
―――――そして、年月は経過し。
「………じゃあ、父さんも約束する。イリヤと生継のことを待たせたりしない。父さんも必ず、すぐに帰ってくる」
そう言って、衛宮切継はイリヤスフィールと、オレ―――――衛宮生継の肩を長らく固く抱き締めてから背中を向けた。
第五次聖杯戦争より十年前。第四次聖杯戦争が、もうすぐ始まろうとしている。
「じゃあ、イキツグ。お城に戻ろっか」
森の奥だ。
住処のアインツベルン城から随分と離れてしまっている。今日は霧も晴れていい天気だが、辺りに雪が積もっていることからも判るように寒いものは寒い。
それに原作の知識を知ってしまっているオレだからこそのものだろう、目の前にいる
そんなのは――――――――――。
「―――――ね、イキツグ。泣きたいときは、泣いたっていいんだよ?」
「―――――え?」
言われて、気づいた。
瞳に溜まった涙で、覗きこむイリヤの顔さえボヤけて見えないことに。
「お母様に聞いたことがあるわ。そうやってずっと胸の裡で抱え込んでいると、いつしか壊れちゃうって。だからね、そういうものは早めに吐き出しちゃいなさいって」
涙を拭う。
けどなんでか、拭っても拭っても止まらない。いまのイリヤの言葉で決壊したのか、それともそんなトコまでも年相応に戻ってしまったのか。
「(いや、でも――――)」
たまにはこういうのも、悪くない。
泣いたっていいじゃないか。見た目は子どもなんだから世間体なんてものもない。
戦って、戦って、戦い続けて。
束の間に得た本当の安息。
折角だ。こんなときくらいは、仮に実年齢は年下でもこの世界では姉ってことになってるんだ、胸を借りて泣いても、いいじゃないか。
――――そうして、どれだけの時が経ったか。
「………もう、大丈夫だ。戦える。ありがとうな」
これで、しばらくは持つ。
次の第五次聖杯戦争。それに向けて、今のうちから色々と準備をしなきゃならない。まずは召喚方法を、いや、それよりも先に。
「イリヤ。いや、姉さん。約束する、オレは絶対に姉さんを死なせやしない」
最後まで
それを、この試練のクリア条件として自らに課そう。たとえ足枷になったとしても、オレはこれを譲る気はない。
「――――――」
イリヤは突然そんなことを言われたからか、戸惑っている様子だ。
無理もない。日頃のオレの態度から判断すれば、気でも狂ったか、とでも言われそうだなと我ながら思うのだ。悪く思うなよ、おまえがオレをそうさせたんだから。
「さあ戻ろうか。アイリスフィールは、オレたちがなかなか帰ってこない事に気を揉んでいるだろうしな」
何だか気恥ずかしくなって早口で言って姉さんの手を引こうとしたときだった。
「いっつぅ………………!」
雪に滑って転んだ。
なんという屈辱。格好いいこと言った瞬間にこれとか、今日はランサーだ。
「ふふっ………ごめんね、つい笑っちゃった。
でもこんな頼りない姿じゃあ、レディを守ることなんてできないわよ?」
ぐぬぬ………。
この言われようも仕方ない、仕方ないのだが、如何ともし難い辱しめ、どうしてくれようぞ………!
「だからね、代わりにイリヤがイキツグを守ってあげる。それでいいでしょ?」
眼を細めてニイッと笑うイリヤ。
こんな幼女のときから小悪魔の素質があるとは驚きである。かわいすぎだろ。
―――――が、それに甘んじるつもりは毛頭ない。差し伸べられた手を取らずに自力で立ち上がり、真っ直ぐイリヤの眼を見て決意する。
「………ふん。じゃあこうしよう。オレは姉さんを守る。姉さんはオレを守る。これでどうだよ?」
互いに互いを守り合う。
これからずっと仲が決裂しなければ、次の聖杯戦争にて強力な布陣が出来上がる。
もっとも、そうなった場合は衛宮士郎や遠坂凛と敵どうしになるだろう。
すると姉さんは、でもねと言って続ける。
「キリツグは、必ず帰ってくるって言ってたよ。だからキリツグがイリヤとイキツグを守ってくれるわ」
オレは、それが有り得ないと知りながらも。
「―――――あぁ。必ずお父様は帰ってくるさ」
そうやって、嘯くことしかできなかった。
初回の一万字超から半減しまして、五千字でございます。この小説、一話当たりの文字数は四千字を確実に超えるのであしからず!
起承転結をちゃんとやろうとすると自然にそうなってしまうので、是非もなしなのですよ。
…………ちなみに、今作は前作とは異なりデッドエンドは作らない方針でいきます。生死を決める選択がある所は原則として☆ー☆ー☆で表しますが、例外はあります。fate/staynight編以外の章や分岐ルートです。
また、後者の分岐ルートは2つ作る予定でいますが、それは本編がしっかりと終了してからにします!
以上!