とある転生者の試練《改訂版》   作:雷灯かがり

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第1章 とある編
第1話 わたしの識らなかった世界


 

 

林立する高層ビル群。

宙をゆうゆうと走る飛行船。

そして、この物静かな公園にて無数のハトに襲撃されている金髪の女子生徒。

このような平和な時間が流れるこの場所は、わたしの得た知識によれば『学園都市』と呼ばれているらしいのだが、謎は多い。

東京西部のほとんどに陣取っているその巨大な実験施設の最終目的は何なのかとか、どこにマトモな食材を使ったレストランがあるのかだとか、ツンツン頭の黒髪男に助けられた少女の運動神経の酷さだとか。

正直に言うとそういった謎を解き明かしたい気持ちはひどく大きいけれど、それを後回しにしなければならない事情がわたしにはある。そして、その事情は噛み砕こうとするとえらい時間を取るであろうことは先刻承知しているので、これをたった一言で片付けてしまうことにした。

 

『試練』

 

死んだときに授けられた、神様からの贈り物。

一度の甦りを可能とする、転生者への挑戦状。

そして、それはわたしの場合、絶対に掴まなければならない希望への架け橋。

彼を救うことは、あの国を亡ぼすことと同義。

しかし、あの国の可能性を残すためには彼を救うことが必要不可欠。

自らを神と名乗るあの超常的な存在は言った。彼が正しい道に進もうとしたときには、彼の姉が絶対に彼を殺すだろうと。

 

なら―――――わたしが彼を助けないと。

 

彼には、ロンドンで助けられた恩があるから。

彼はわたしだけじゃなくて何十万人もまとめて救ってくれたから、一人一人の顔と名前まで覚えてくれてないだろうけど。それでも、わたしは彼を助けたいんだ。

 

「(でも、まずは住む場所を)見つけないと……」

 

人を助けるなら、まずは自分が万全にならないといけない。しかし、今のわたしは万全とはとても言えない状況にあった。

人脈がなく、お金もなく、戸籍すらもないわたしが学園都市でホームレスになったら確実に死ぬ。だからせめて、夜になる前に安全な寝床を確保したいのだが、しかして現時点でのわたしは迷子である。

当初は神様から貰ったチートの一つである『原作知識』のおかげで、宿泊先をいくつか考えることができたのけど―――――コトはそう上手く運ばない。

 

「(記録を洗いざらい探しても無理。学区や外観だけじゃ、どこに誰が住んでいるかなんて)絶対にわからない…………」

 

腕を宙で組みながら、唇を噛み締め唸る。

これはもちろん、周囲に人がいないことを確認してである。誰かにこんな情けない姿を目撃されたら、羞恥で悶え死にそうだ。

 

「(ううん、)考えるの(よ。たとえ住所が分からなくてもどうにかする手は)必ずあるはず)」

 

第一候補は桃色ヘアーの妖精さんだった。

生活環境に目を瞑れば、面倒見がよく、さらに教師であるため色々と融通のきいて、しかも暗部との繋がりはないという絶好の立ち位置に座す妖精。

彼女なら戸籍問題も解決してくれそうだし、ひょっとしたらわたしも学校に通えて、運が良ければ超能力を身に付けられるかもしれない。

しかし、その居所をわたしは知らない。己の足で探索したけれども、記録の中にあるあのボロ小屋はどこにもなかったのだ。

 

「(誰かそこを知っている人を探す、とか。たとえば同輩のじゃんさん―――――ううん、この人も難しいんだよね、妖精さんと同じ理由で。主人公のツンツン頭さんも厳しいかな……)―――――うん?」

 

彼はさっき、いた。

今も、いる。

ベンチに椎茸姫と仲良く座っている。

今日のわたしは、運が良い。ラッキーデイ。

行こう。姫を怒らせないように。精神操作に良い思い出はないから。

 

「ごきげんよう」

「……どうした? 俺と食蜂に何か用か?」

 

ツンツン主と姫の正面に立つ。

姫はフキゲン。バッグからリモコンを取りだそうとしているくらいに。『よくも二人の時間を邪魔してくれたな』と腹に据えかねている様子のよう。背後から忍び寄っていたら危なかったな。ううん、ツンツン主がわたしに興味を示していなかったら、それこそどうなっていたことか。

「君に用。妖精さんの居場所を教えて」

「…………は?」

 

うん、だよね。

妖精さんなんて言われても、それで通じるヒトはそうそういないのです―――――が、今ここには頭を覗くことができる超能力者が居てらっしゃる。

学園都市に七人しかいないレベル5。心理掌握(メンタルアウト)その人が。

彼女がもし悪辣な人柄なら、このような手段は使えなかったけれど。性根は善人。わたしのことを怪しんではいるけれど、頭の内を読み取るコトだけに留めておいてくれてるはず。

「…………ふぅん。あなたって、見かけによらず相当計算高いのねぇ。別にこれくらいはやってあげてもいいけどぉ、これは貸しにしておくからねぇ」

「どうもありが、とう(だけど、無茶な要求を控えてくれると、さらにありがたいの)」

「さぁ、どうかしらねぇ。これって結構大きな貸しだと思うのだけどぉ。まあ、のちのちに何らかの形で返してくれればいいわぁ」

それよりもと食蜂操祈は上条当麻に体を寄せて、どこぞの根なし草が伝えたかったことをながながと耳打ちする。

すると、上条当麻の反応は早かった。

「そうか、そういう事情で……ってなるか!! おまえ本当に外国のスパイなのか!? え、学園都市の動向を探るために来訪した!? それ以前に用意周到であるべきのそんなヤツが家が無いのに困るか!? 原則現地調達とか、どんだけブラックなんだよ!? そういうことで小萌先生の家に下宿したいって、なんで学園都市の外からやってきたスパイが学校教師に過ぎない小萌先生を知っているんだよ!? っ、はぁ、はぁっ…………!」「君だけが頼り(なの)、お願い(します。じゃないとわたし野垂れ死んじゃうから)」

「いや、自称スパイを野放しにしておくわけにもいかないだろ。うーん、とりあえずアンチスキルにでも連れていくか……」

「確かにそれも一つの手だとは思うけどぉ、その小萌先生って人をこの自称スパイの監視役にするのはどうかしらぁ。野放しにするわけでもなく、かつ本人の希望が通っている。これって、一石二鳥よねぇ?」

「それだ食蜂! そういえば小萌先生の仲良しにはアンチスキルの人がいたし、その人が身分保証とかをしてくれれば、自称スパイは安全だ!!」

 

こうして結論が導き出されると、その後の手続きは雪崩のような怒涛の俊敏さで終わった。

結果わたしは小萌先生の自宅に下宿させていただくことになり、かつツンツン主などが通う高校に通えることになり、さらに戸籍まで作らせてもらえた。

自称スパイという設定を教えると各地で驚かれたけれども、最終的にはどうにかなって良かった。

何はともあれ、これで人脈と戸籍と住みかは手に入った。あとはマネーだけである。

―――――が、この問題も学校に編入してから半年後には解決の見込みが立つこととなる。

 

 

 

☆ー☆ー☆

 

 

「《加地ハベモ。能力によって起こした暴風を円錐形状に纏め上げて投げることで、タングステン鋼の柱を容易く貫通させる。指定位置から半径五メートル以内の大気を酸素のみにし、引火させることで致死の爆発を引き起こした。この他にも様々な試験結果が報告されており、これらの情報を整理し統合すると、おそらく超能力者(レベル5)に分類されると思われる。これはツリー・ダイアグラムの試算報告書には無かったもので、よって当初の報告書に書かれていた空力使いや風力使いの派生系というのは取り消し、彼女の能力は原石由来のものであるとする。学園都市上層部はその能力を大気操作(エアハウンド)と命名。超能力者番付は暫定で第八位。原石由来とされているとはいえ研究が大幅に前進するだろうと、学会の期待は著しく高いが、彼女は元来スパイであることを忘れてはならない。たとえ裏付ける証拠が彼女自身の証言以外にないとしてもだ。

…………外れることのなかったツリー・ダイアグラムの試算を、彼女は初めて打ち破ってみせた。まさにイレギュラーだ。今後ともに彼女の監視は厳重に取り計らうべきというのが上層部の決定であるが、これは当然の措置と云えるだろう…………》」

 

 

☆ー☆ー☆

 

 

 

転生、というか転移してから半年も経った。

ここでの生活も次第に慣れ、やっと勉学のレベルの高さに付いていけるようになった今日この頃。

―――――わたしは超能力者に開花した。

これは本来は喜ぶべきことである。実際、周囲の友達やクラスメイトは祝ってくれたのだし。もっとも、わたしも最初は素直に感動したものだし。その日だけは涙腺が緩んだものだし。

―――――あれは急転直下だった。

『試練』なんて忘れて、忙しくも素晴らしき日々を謳歌していたわたしに、改めて突き付けられた現実であった。先生と二人きりの教室で、試験結果に小躍りしていたわたしは、突如として暗闇に強制的ダイブをさせられたのである。

眼を覚ますとそこは迷宮だったのだ―――――!

 

「(…………全地下100層。5層毎に強大な敵。最奥にある聖杯に辿り着いて願いを言えば、それは叶えられて次の試練にコマを進められる)」

 

どこかで聞いたような話だけれど、この迷宮はどうやら単純に層の攻略していけばいいというものではないらしい。第0層と仮称している部屋のテーブル上にあった禍々しい説明書によれば、世界のあちこちに散らばっている原典を集めることこそが第100層への扉を開けるキーアイテムとなるのだという。ヒントは25層毎に迷宮壁に記されているともあった。

全くもって厄介な試練である。せめてもう一人くらい仲間がいれば非常に助かるのだが、ここの迷宮は転生者以外は立ち入り不可能となっている。そのため、やっとこさ出来た人脈を活用することはできない。自力で頑張るしかないのだ。

「(で、ようやくやっと5層に到着。階層扉を開けて五メートル進めばボスが現れると説明書に書かれてたけれど…………)」

 

そのくらい進んでもなお、ボスは現れない。

大理石のような紋様に装飾されている氷のブロックに覆われ、黄金色に煌めく金銀財宝が地に溢れている階層である。《大気操作》で周囲の気温を調節できていなければ凍死していたと自信をもって推定できるほどの極寒にして、財への誘惑を否応でも引き出すフロア。もしかすると、この寒さと欲望自体が階層ボスなのかもしれないと考えてしまうほどのものだ。

―――――が、その期待は、もう一歩足を踏み込んだときに、これまた氷の地面から盛り上がってきた巨人族に裏切られた。

 

 

 

「おぉおォぉおオおお―――――――!!!!」

 

 

氷の巨人の雄叫びは魔力を乗せた刃の衝撃波となって、全てを切り刻まんとわたしに向けて押し寄せる。

――――――そして額に迫った、このとき。

ツンツン頭なら右手で刃を無に返すだろう。

一方通行ならむしろ跳ね返していただろう。

彼なら神懸かり的な直感で回避しただろう。

そのどれもが、わたしにはできない究極だ。

そのどれもが、わたしでは届かない強さだ。

けれども―――――その総てが、現在のわたしには不可能なことであるとしても、別手段での対応は、可能なんだ!

 

 

 

「パターン1、窒素装甲。(わたしは大気系能力者の最上位。レベル5。よって、彼らが持つ全ての能力をわたしは使える。それも、元のそれらから規模などを上乗せした上位互換として。これもそう。絹旗最愛の能力以上の防御力を誇っている。)容易には破れない」

 

 

 

刃の嵐が総じて窒素の防壁に弾かれる。

弾かれた刃は氷の床にキズを付けていくが、かろうじて引っ掻き傷のようなものが残るだけ。突貫するには及ばない。

目算百メートル先の敵を視る。

身長はざっと二十メートルはありそうな大男は、背中に背負っていた両刃の大剣を苦もなく取り出していた。刃渡りは十メートル超。それを横に傾けて、わたしを押し潰さんと振り下ろす!

 

 

 

「だめ(、加速も重さも足りない。こんなものでは超上位互換と化した超窒素装甲は)破れない」

 

 

 

二桁トンの氷で造られた剣の形をした兵器は、最硬レベルの鎧の前に敢えなく破れた。それは必然。

でも、これは偶然。まさか、この大剣に取っ手に出来そうな装飾が施されているなんて。今日はラッキーデイに違いない。その取っ手を支点にして引っ張り、巨人の手指から兵器を奪い取る。すると、思惑通り巨人が剣を取り戻そうと怒りの表情で駆けてきた。

 

 

 

「ェッせエ! 一族の誇りをッ、返ッせぇッ!!」

 

―――――お望みのままに、返してあげる。

ああ、なんてやさしいのだろう。

一族の誇り。そのような、命に換えてでも守りたいものを、その身に直接渡してあげられるなんて。

 

 

「―――――――ッえ?」

 

 

 

男はしばし放心した後、ばたりと倒れた。

透明だった冷たい床は朱に塗り替えられていく。

………しかし、さすがは巨人だ。膝を屈した衝撃で震度4くらいの地震が起こるとはね。とんだサプライズだったよ。

わたしは、背後で真っ二つになった巨人に黙祷しながら、つぎの階層へと歩を進めた―――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――あれ(、この宝の山は)本物? なら(一旦換金しに地上に)戻ろう(かな)」

余談であるが、彼女は金銭に困らなくなった。

 

 

 

 





この小説は2主人公制で行きます!
なので、fate/staynight編ととある編は交互です。そのために展開が遅くなってしまうのにはご容赦を。



主人公と主人公とが重なるとき、物語は始まる!



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