【完結】馬場このみのリフレイン   作:沖縄の苦い野菜

13 / 13
ここまで、お付き合いいただいた読者の皆様、本当に、ありがとうございました。

『馬場このみのリフレイン』は、この話をもって、完全完結。更新が終わります。
最後まで、その余韻を楽しんでいただければ、幸いです。


それでは、本編をどうぞ。






後日談(終)

 思えば、自分の時間が動き始めたきっかけは、この赤い暖簾だったと、凪いだ心が感傷に浸る。たまたま入った飲み屋で、たまたま女狐と出会った。その女狐との出会いが、亮の時間を進め始めた。まるで、切れたネジを巻き直したかのように。

 

 今日は、ちょっとしたドッキリを仕掛けていた。仕掛け人は、このみと亮の二人だ。このみが誘い出し、亮がサプライズで登場する。子どもの仕返しのような計画であったが、二人は嬉々としてその計画を練り上げた。子どもの頃のように、無邪気に笑い合って。軽口を叩いて。

 

 時計の針は、いつも仕事が終わる時間の、一時間くらい後を指している。日曜日だが、まぁ飲みすぎなければいいだろう。そんな安易な気持ちと、芽吹いた復讐心が、亮に赤い暖簾を潜らせた。

 

 いらっしゃい、と相変わらず活きの良い店主の声に苦笑をもって答える。そして、いつもと同じ、カウンターの一番奥の席に向けて歩き出す。出来るだけ自然な風を装って、気配を殺して、足音をうまく立てないように。

 

 そして、いつも座る席の手前まで歩いた時。そこに座っている人物に、背後から声を掛けた。

 

「随分とやってくれたな、女狐が」

「――えっ?」

 

 まるで幽霊にでも遭遇したように、目を丸くして、莉緒は固まった。そんな間に亮は自分の席につくと、そのまま「とりあえず焼き鳥で」と軽い調子で注文を取った。あいよ、と元気な店主の声は、相変わらずこの狭い店の中で心地よく反響した。

 

「あら、亮。ようやく来たの?」

「時間通りだろ。それで、収穫はあったか?」

「バッチリね。莉緒ちゃんったら、私の話を聞いてから、何から何まで仕組んでいたみたいよ」

「へぇ? どこから?」

「無理やり、約束取り付けたところ。あのとき、莉緒ちゃんの携帯に電話かかってきてた……ように見せかけて、アラームだったみたいよ。全部、莉緒ちゃんの仕込み」

「……名優だな。しかも悪女ときたもんだ」

 

 やれやれ、と亮は大袈裟に肩を竦めてみせる。そこでようやく莉緒は混乱から回復して、悲鳴に近い声で「どうしてここに亮くんが居るの!?」と疑問が飛び出した。

 

 それを聞いて、亮とこのみは「してやったり」と悪い笑みを浮かべて、お互いの顔を見合わせてから。

 

『仕返し』

 

 と、まったく同時に声を合わせてそう言った。亮とこのみ、二人の表情を見て、声を聞いて。ようやく事態を把握した莉緒は、崩れ落ちるように卓上に突っ伏した。ブツブツと、恨み言か何かを呟きながら。しかし、それも数秒のことで、すぐさま顔を上げると。

 

「このみ姉さん、亮くんとは別れたんじゃないの!?」

 

 裏切られた、とばかりに強い語調で問い詰める。表情に余裕はなく、冷や汗を浮かべて焦っていた。そんな莉緒に、このみは悪戯に成功した子どものような笑みを浮かべて、悪びれもせずに。

 

「えぇ、別れたわよ。だから、亮とは幼馴染で友達。飲みにいっても、御咎めされる謂れ何てないわよ」

「そんなの、屁理屈よぉ!」

 

 うわぁぁん、このみ姉さんがぐれたぁ! と、莉緒は何とも大きなリアクションを取りながらまたも卓上に突っ伏した。これを見て、「ちょっといじめすぎたかしら?」とこのみは口にするが、亮が首を横に振って否定する。

 

「演技も程々にしとけ。胡散臭いったらありゃしない」

「あ、バレた?」

 

 亮が指摘した瞬間、泣き言がプツリと途絶えて、代わりにケロッと平然とした様子で、舌をほんの少し出しておどけてみせた。その様子を見ていたこのみは、呆れたように額に手を当てて、首を横に振った。

 

「ほんとに名優ね、莉緒ちゃん。もしかして、亮に選んでもらった服着て来たときに、私が亮の名前聞いた時の反応……あれも演技?」

「えっと、それは、割と本心だったわ。だって、亮くんだろうって推測できても、確証なんてなかったから。名前聞かなくて、失敗だったなぁ……って。だって、それで間違ってたら私、とんだピエロじゃない」

 

 どうやら、この飲み屋で三度目の邂逅を果たした際には、既に莉緒は「このみと亮」について把握していたらしい。その上で、その時から亮を狙って、二人の復縁を目論んでいたようだ。

 

「まぁ、亮は名前を訊かれても教えなかったでしょうね」

「ま、そうだな。飲み仲間なら、名前を知らないくらいがちょうどいい」

「えぇ……亮くん、硬派すぎない? ねぇ、このみ姉さん」

 

 同調を得ようと、そんな言葉と共にこのみに視線を向ける。このみは「そうねぇ……」と顎に手を当てて、少し考えた素振りを見せた後。

 

「でも、それが亮の良いところよ」

 

 と、はにかみながら言い切った。あまりに純粋な答えと表情に、莉緒は「うっ」と声を詰まらせて、きまり悪くジョッキの方に視線を落とすと。時間から逃げるようにビールを呷った。

 

 亮も、その様子を見ていると少し気恥ずかしくなり、しかし莉緒みたいに逃げるジョッキもなく。仕方なく、席から立ち上がると「ビール注いでくる」とビールサーバーへと向かった。ジョッキを手に取り、セットをするとレバーを引いて、戻すが。しかし、ほんの少し足りない中身に、亮は内心で溜息を吐く。

 

「それで、莉緒ちゃんは結局、私と亮をどうやってくっつけようとしたの?」

 

 亮が席を離れている間に、話しは本題に戻っていた。ここは話を聞くだけだ、と亮は邪魔にならないように静かに席に着くと、乾いた口の中をビールで潤した。

 

「えっと、このみ姉さんって、亮くんのこと凄くわかってるし、信頼しているじゃない?」

「まぁ、二十年くらい幼馴染やっているから、当然ね」

「だから、亮くんが目につかないところに居ても、このみ姉さんは亮くんを疑わずに、ただ待っちゃってたから。時間が解決してくれるのを。その硬直状態を動かすためにも、亮くんのそれとない現場を、このみ姉さんに偶然を装って鉢合わせて、その信頼を崩してから進展させようとしたの」

 

 なるほどよく見てよく考えている、と亮は苦笑した。今にしてみれば笑い話で、いい話になっているが。下手をすれば、破局さえあり得るとんでもない作戦だ。それを実行できる度胸と、大胆さ。そこには尊敬の念を素直に抱いた。

 そして何より、それだけ危ない橋を渡る覚悟を、このみの為にしてくれたということが、亮にとってはこれ以上なく嬉しかった。

 

「それ、一歩間違えたら私たち破局しちゃうじゃない」

「その時は、私が全部、種明かししようかな、って。それに、そんなに簡単な関係じゃないでしょう?」

 

 どうやら、莉緒もまた信頼していたようだ。このみと亮。二人の強い関係を。全てを計算した上で、橋は絶対に落ちないと、確信していたようだ。

 

「……ありがとう、莉緒ちゃん」

 

 このみは、呟くように小さく、感謝を口にした。

 

「ずっと、心配してくれて。私の為に、動いてくれて。ほんと、幸せ者ね、私って」

 

 噛みしめるように、呟くこのみの様子を見て、莉緒は静かに微笑んで、摘みを口にする。亮も口元を緩めて、またジョッキを持ち上げてビールに口をつけた。

 

 そうして、しばらく沈黙が続いた後――その間に亮のもとに焼き鳥が届いた――不意に、このみが「そうだ」と何かを思い出したように口を開いた。

 

「でも大胆よね、莉緒ちゃんも。亮が莉緒ちゃんを家に送っているところで、私を呼ぶなんて」

「……は? このみを呼んだ? あの日に?」

「あぁ、その話? いや、あのね……」

 

 莉緒が途端に、歯切れ悪く、バツが悪そうに視線を落とした。そんなところまで仕組まれているとは思わず、亮は目を白黒させて莉緒の方を見た。

 

「その、ね。あれって、ほんとに、送る先を間違えたの。風花ちゃん、と。本当はね、もっと後に……しようと、ね。だって、それでこのみ姉さんが定期公演で調子が悪くなったら、私どうしていいか……」

「テメエまじかよ」

 

 ここまで抜けていることに、亮は今度こそガクリと肩を落として天を仰いだ。このみとしては、それが更にバネとなって公演では大成功を収めたのだから気にしていないが。流石にそんな裏エピソードがあったことには、苦笑を禁じ得ない。

 

「莉緒ちゃん……もうちょっと、慎重にね? お姉さん、莉緒ちゃんのこれからが心配だわ」

「まったくだ。何度も言うが、お前は何でそうやって、大事なところで抜けているんだよ」

「……猛省しています」

 

 両脇から口を挟まれて、莉緒はより小さく縮こまってしまった。

 

 的確なところは突いているし、やることもよく理解している。それなのに、肝心のタイミングを見当違いのミスから台無しにしているのだから、どう評価していいのやら。だが、少しはフォローをしておこうかと、亮は控えめながら口を開く。

 

「まぁ、そういうところも魅力なのかね」

「ま、確かに。憎み切れないもの」

「ううっ、フォローになってないわよぉ……」

 

 そんな莉緒の様子を見て、亮はくつくつと小さく笑いを漏らす。このみは「あはは」と無邪気に笑った。莉緒は、顔を両手で隠してその場で悶えていた。

 

 その時間をひとしきり楽しんだ後、三人はふと顔を見合わせて、その口元に弧を描く。

 

「それじゃあ、仕切り直しか。音頭は、どうする?」

 

 中身が半分ほど残ったジョッキを片手に、亮はそんなことを口にする。

 

「うーん、定期公演打ち上げ、には遅いわね。亮関係ないし。仲直り……も、ちょっと違うかしら。莉緒ちゃん、何かない?」

 

 少し悩んで、考えを言葉にして漏らすがいい案は見つからず。このみは莉緒に向けて話を振ると、莉緒は「待ってました」と言わんばかりの得意そうな顔になって。

 

「私たちの友情に乾杯、なんてどうかしら?」

 

 莉緒のそんな一言に、亮とこのみは顔を見合わせて、お互いに朗らかに笑った。

 

「そりゃいいな、莉緒。それくらいが丁度いい」

「いいわね、それ。それじゃあ、私たちの友情に――」

 

 

 

 ――乾杯!

 

 

 

 カチン、とグラスとグラスがぶつかって、心地の良い音を奏でる。

 

 三人で笑い合って、遠慮なく語り、飲んで、前を向いて。

 楽しい時間は、いつまでも続く。

 

 宴は、まだまだ終わらない。

 

 

 




少し雑に書きすぎたかとも思いましたが、むしろこれくらいが丁度いい、と考えました。あまり綿密に書きすぎても、推理小説みたいになりますからね。この二次創作には、これくらいが丁度いい。

この後の展開というのは、皆様の想像にお任せいたします。

具体的には、亮がこれから女性関係どうなっていくのか、とか。
このみ姉さんと亮の未来であったり。
莉緒姉と亮はどういう風に接していくのか、とか。


ある程度の妄想や考察の余地、というものとして、残させていただきます。



さてさて、ようやく完全なる完結。
これをもって、今作『馬場このみのリフレイン』の更新は、最後となります。

ここまでお付き合いいただき、まことにありがとうございました。
もしよろしければ、友人にでも広めてやって下さい(笑) 拡散歓迎ですが、その場合は節度をもってお願いしますm(_ _"m)



また、活動報告に今後のミリオンライブ二次創作についてのことにも触れていますので、お時間ある方は見ていってやってください。


それでは、ここまで長い間のお付き合い、本当にありがとうございました。

感想、コメント、評価、批判、推薦、お気に入り登録(今更感)、何はともあれ読者の皆様のリアクションを、どうか教えていただければと思います。今後の執筆活動の参考にします。

それでは、長文、失礼いたしました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。