【完結】馬場このみのリフレイン   作:沖縄の苦い野菜

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 まずは、評価の方に感謝を示しまして。本当に、ありがとうございます!
 まさかそこまで高評価を頂けるとは思わず、内心かなり舞い上がっております。

 そして同時に、その評価に恥じないクオリティに仕上げなければならない、という使命感もあり、ハイテンションで全力をもって書き上げた次第。

 今回は今までの話の中で一番長めです。

 それでは、本編をどうぞ!


ひとり映る

「あ、そうそう。次の日曜日、空いてる?」

 

 飲み屋の喧騒の中、亮が悪女と呼ぶ彼女の声が妙に耳に入って来た。都合三度。彼女とは木札ビールの店で邂逅したわけだが、たかだかその程度の面識で悪女は彼のパーソナルエリアにいとも容易く踏み入ってみせた。

 

「予定なんざねぇけど」

「よかったぁ。なら、次の日曜日、ちょっと買い物に付き合ってくれない?」

「ふざけんな」

 

 吐き捨てるように言うと、半分残っていたジョッキの中身を一気に飲み干した。付き合ってられるか、とばかりに空になったビール片手にサーバー向けて立ち上がり、何度目かわからない挑戦。レバーを引き、頃合いを見て戻すだけの作業。流石の彼も手慣れた手つきで、ジョッキ一杯にビールを注いで、木札を片手に席へと戻る。

 

「で、どーなの? 私としては、男の子からの意見も欲しいのよね」

「何だそれ」

「ほら、私服選びとか特に。男の子にはどんなタイプがいいのかとか、女目線じゃはっきりとわからないのよ」

 

 何だそりゃ、と彼は呆れたように彼女に視線を向ける。その顔には未来への期待がありありと浮かんでいる。まるでラブロマンスに憧れる少女のような様子に、彼の口からますます溜息が深くこぼれる。

 

「大体、何で俺なんだ。まだ数回しか会ってない男にデートの誘いとか。狼に食われても知らねぇぞ」

「男の人の知り合いなんて少ないし。それに大丈夫よ。だって、『女送り出した男が、取っ替え引っ替え惚れ腫れして堪るか』なんて言い出しちゃう子が、悪食な狼のわけないでしょう?」

「……お前、やっぱりとんだ女狐だな。その言葉引っ張って尚、俺をデートに誘うのか?」

「飲み仲間とのショッピング、よ。それに、私は一言もデートなんて言ってないわ」

「抜かせ。家族でもなけりゃ、男と女のショッピングは全部デートだ。却下だ、却下」

「別に、もう付き合っていないのならいいでしょう? むしろ、未練を断ち切るって意味も込めてショッピング、なんてどうかしら」

「……未練、か」

 

 思い当たる節は山ほどあった。テーブルクロスを引いた食卓には未だに携帯電話が放置されている。仕事のミスも変わらず多い。そして何より、いきつけの飲み屋に行っていない現状こそが、相手の事を意識している何よりの証拠だ。

 

 心当たりなど、思い出そうとすればキリがない。図星どころではない。もはや溜息さえ出てこない。

 

「まぁ、引き摺っているのは認めるが」

「なら、次の日曜日にショッピング決定ね。時間は昼の十二時。〇〇駅の改札付近に集合しましょう」

「おい待て。俺はまだ行くとは――」

 

 その言葉は、彼女の携帯の着信音に遮られる。ちょっと出るわね、と携帯片手に店の外に行ってしまった。

 

 時間にして一分少々。彼女は店の中に戻ってくると、急いだ様子で「お勘定お願い!」と店主に声を掛けながら荷物をさっさと纏め始める。

 

「おい待て。どこ行くんだ」

「ごめんなさい。ちょっと急ぎの用事が出来ちゃって。じゃあ、次の日曜日、楽しみにしてるわね」

「だから俺は行くとは――」

 

 言葉も伝えられないまま、彼女は店の入り口ですぐさま会計を済ませると、足早に店から出て行ってしまった。あまりに強引な物事の運び様に、彼はしばらくの間その後ろ姿を見送る形で硬直する。

 

「……あんの女狐ッ」

 

 我を取り戻した時、彼は苦渋に顔を歪めこぶしを握り締める。改めて考えると、彼は彼女の連絡先を知らなかった。即ち、一方的に約束だけ取り付けられて、本人の同意も確認せず去って行ったのだ。

 

「こんな強引な約束、生まれて初めて結んだぞクソッタレ」

 

 悪態を吐きながら、片手を添えたジョッキを見下ろした。表面には、ぶっきらぼうな顔で見下すような目つきの男が写っていた。

 

「……はっ」

 

 居酒屋のテレビに、ちょうどアイドルの姿が映し出される。この前見たものとは違うCMだ。彼女の出演回数は、日を追うごとに増えている。否が応でも、目についた。

 

「みっともねぇ」

 

 ジョッキに写った男に吐き捨てると、彼はその中身を一息に飲み干した。そしてすぐさま立ち上がり「お勘定!」と財布を取り出しながら声を張る。

 

「俺だけ、止まってられるかよ」

 

 居酒屋を出ると、一等星が見える夜空が広がっていた。久方ぶりに見た星に機嫌を良くした彼は、いつもよりも軽い足取りで帰路についた。

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 甚だ不本意な約束であっても、それを反故にしていい理由にはならない。一方的に取り付けられた約束だとしても、待ち合わせを連絡もなしに無視するのは最低だ。約束を果たすため、という言い訳を心の中で呟きながら、彼は彼女との待ち合わせ場所で立っていた。

 

 安っぽい白いシャツに紺色のジーンズと非常に簡素な服装で訪れたのは、ショッピングに付き合わされる身としてのせめてもの抵抗の証だ。

 

「本当に来てくれたのね」

 

 柱を背に改札の方に目を向けていると、真横から声を掛けられる。誰かは当然わかっている。失礼な第一声に眉をひそめながら、彼は声の方に半眼の視線を向け……すぐに見開いた。

 

「……気合入れすぎだろ」

 

 そこに居たのは、いつもの残念美人ではなかった。

 胸の谷間が視えそうで見えない、薄手の黒いチャールストン・ドレス(ローウエストの膝上丈のドレス)を身に纏っている姿は、彼女が普段見せる「残念」な部分を払拭させるほど扇情的に映えていた。フリルがあしらわれている白いトートバックは、ドレスの色と対照的でよく服を強調させている。そして手首の金色のブレスレットはワンポイントとして、彼女の大人としての魅力をさらに引き出していた。

 

 彼の結論は、唯一つ。

 

 ――男からの視線が鬱陶しい、と。

 

「男の子と出掛けるんだから。これくらいはね」

「……こんなのとこれから街歩くのかよ」

 

 彼女についた視線の多さにうんざりして、彼は溜息を吐いて肩を落とす。あからさまに印象の悪そうな様子に、彼女は自信満々な笑みから一転。瞳を不安そうに揺らしながら、急いで自分の格好を見直し始めた。

 

「……そんなに変かしら」

 

 妙に視線を感じたのは変だったから? と、まるで迷子になった幼子のように揺らぐ瞳を彼に向け答えを待つ。

 

 要らぬ心配を与えたことに対する後味の悪さが半分。似合っているコーディネートに不安を覚えさせてしまった、男としての情けなさが半分。彼のそんな意地とプライドから、言葉がこぼれる。

 

「似合ってる。心配すんな」

 

 ぶっきらぼうに、いつもの調子で。しかし、それだけの言葉でも彼女の顔には大輪が咲き、暗雲は一蹴された。

 

「でしょでしょ!? もうっ、ほんとにびっくりしたわ。……というか、いきなり褒めてくれちゃって。もしかして、こういうサービスがほしかったのかしら」

 

 言いながら、彼女は胸を持ち上げるように腕を動かした。女性の割に身長が高めな彼女は、計算してやっているのか。周囲からは見えないように、しかし間近で見下ろす彼には見える絶妙なポジションで谷間を強調した。そして、挑戦的な笑みを浮かべて彼女が彼を見上げてみると。

 

「――いたっ」

 

 そのおでこに手刀が直撃する。彼女は思わずたたらを踏み、おでこを抑えて、恨みがましい視線を彼に向けた。

 

「いきなり何するのよぉ」

「付き合ってもない男に向けて、欲情煽る様な挑発するからだ。もっと身持ちはしっかりしとけ」

 

 これだから残念美人は、と彼は心の中で吐き捨てる。呆れたように片手で頭を押さえて、溜息を一つ。

 

 一瞬の後、彼はふと妙に熱の入った視線を向けられていることを肌で感じる。まさかと改めてみてみれば、彼女は期待と希望に満ち溢れたミルキーウェイのように瞳を輝かせていた。彼がそんな姿を認めたと分かるなり、彼女は一息に距離を詰めた。

 

「ねぇねぇ、今の男の子的にはポイント高かったの? 欲情を煽る、なんて。狙い通りいったってこと?」

 

 何言ってんのコイツ、と今度こそ呆れ果てたように彼の瞳が気だるげに垂れる。

 

「お前、話し聞いてなかったのか? 身持ちはしっかりしとけ、って今さっき注意したばかりなんだが」

「……身持ちはしっかりって言われても、そもそも男の子が寄り付かないのよね。だから、ねぇ、男の子的に今のはどういう感想だったのか、教えて?」

 

 その言葉に「あぁなるほど」と彼は瞬時に理解した。同時に「今までよく悪い奴に引っ掛からなかったな」と彼女の悪運の良さに感心する。

 

「じゃあ、正直に言うが……普通にやられたら痴女と勘違いして引くわ」

「ええっ、それってひどくないっ!?」

「事実だ、事実。気の知れた仲だとしても、あんなにグイグイ攻められたら反射的に一歩引く。もし男が釣れたとしても、やめとけ。ロクな奴じゃない」

「……最後は偏見だと思うけど」

「身体を見て人間を見ない野郎なんざ、女から見ても信用ないだろ。そんな男が好みっていうなら、悪趣味というほかない」

「ふーん……見た目の割にロマンチストなのね」

「帰るぞ」

「ああっ、冗談よ、冗談! だからショッピングで意見聞かせて! ね?」

 

 呆れ果て背を向けて帰ろうとすると、彼女は彼の右腕を両手で掴んで引き留める。あまりの必死な様子にもはや吐く溜息もなく、彼は彼女に向き直って両手をそっと振りほどく。

 

「次ふざけた事抜かしたらマジで帰るから」

「わかった、わかったわよ。ほらっ、行きましょう?」

「行くって、まず何処に?」

「ファッションのために、まずは服飾店!」

「はいはい」

 

 彼女は彼の手を引っ張って前へ前へと進んで行く。どんな店に行くのか、何を買おうとしているのか、聞いてもいない予定を喋りつづける後姿を見ながら。

 

 ――何でこんなことしてるんだ、と彼は溜息を飲み込んだ。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「ほら、これなんて男の子的には嬉しいんじゃないかしら?」

 

 そう言いながら、彼女が手に持っていたのは胸元の開いたカフタンのような服と、ノースリーブ且つ短いパンツのコンビネゾンだった。どちらも露出が多く、視線を胸元や太ももに集中させるようなデザインだ。着ればさぞ肌色が眩しく色の強い魅力に溢れるだろう。事実、彼女が着れば似合うことは、彼もよく理解している。

 

「……なぁ、さっきもっと露出少なくしろって言ったよな?」

 

 しかし、だからと言って彼はアドバイザーとしての役割を放棄する気はさらさらなかった。

 

 思えば、彼が「好きなように選んでみろ」と言ったのが始まりであった。

 

 彼女が選んでくる服は、とにかく露出が多い。スカートならミニは当たり前。パンツの丈が長ければ上の露出度が高くなり。ドレスを選べば胸や鎖骨のラインを強調するデザインのものばかり。ボーイッシュな選択肢に走ればヘソ出しタンクトップの上にジャケットと、とにかく布面積を減らしにかかる。

 

 清々しいくらい露出度を上げたがる傾向に、彼は思わず頭を抑えた。心なしか頭痛までする。もういっそのこと、ある程度の露出度を保たなければ死ぬ病気なんです、と言われた方が説得力があるほど、とにかく布面積を絞ることに注力したファッションスタイルに彼は両手を挙げたくなる。匙をぶん投げたい。だが、一度結んだ約束を反故にすることは、彼自身のプライドが許さない。

 

「えっ、これでも露出は少ない方だと思うけど……。ほら、こっちのカフタンっぽいやつは、下にジーンズとか穿けばいいし。こっちのコンビネゾンは健康的に見えるでしょ?」

 

 確かに、彼女の意見も尤もだと、理解できる部分はあった。健全性という意味でも、普通の女性であればそれほど露出に拘っていない、というレベルにまで抑えられている。

 

 だが、彼女が着れば話は別だ。趣味のヨガ(聞いてもいないのに話してきた)で引き締められた体に、生来のプロポーションの良さは、そんな健全性さえもエロスに変える。ヘソ出しの健康的なファッションは彼女の「くびれ」によってエロスに早変わり。胸元の開いた服は女性由来の曲線をあまりに意識させ情欲を煽り立てるのでアウト。引き締まった肉体、程良い肉付き、健康的な肌色、瑞々しい柔肌。黄金のように美しい肢体を、そもそも意図的に露出させること自体が、男性のエロスに直結する。

 

 だから、彼女の服のチョイスはある意味正しい。普通であれば、それで程良いのだ。しかし、それを彼女が着てしまったが故に、意図しない余分な色気が生まれる。

 そして、彼女の普段のサービス精神旺盛すぎる行動だ。これで引かれて、更に露出が多くなる。美人故の負の連鎖を理解して、彼は痛みを訴える頭を押さえながら服を片付けさせる。ぶぅぶぅと文句を垂れる姿は無視した。

 

「埒が明かん。俺が選ぶわ」

「あら、じゃあお願いしようかしら」

 

 選ぶ服のコンセプトは「清楚なお嬢様」だ。色は白を基調として、下はパンツではなくロングスカート。単純にブラウス×スカートでは押しが弱い。考えて、考え抜いた結果、彼は上下の服を選び抜き、それを渡した。

 

「え、えぇ……本当にこれ?」

「着りゃわかる」

「……そこまで言うなら、試着するわね」

 

 気乗りのしない様子で、彼女は試着室の中に入って行った。彼は試着室のすぐ目の前にあった椅子に座って出てくるのを待つ。

 

 そして、およそ十分弱。その間に「これってどうやって着るの?」とか「えっと、ここをこうして……」など、試着室から漏れ聞こえた声が、如何に選んだ服への免疫がないかを語っていた。

 

「本当に、これで男の子が喜ぶの?」

 

 試着室の扉が開くと同時に、不安そうな声が彼に投げ掛けられる。

 

 胸元に白い大きなリボンがひとつ、首まで覆われた可愛らしいフリル付の、袖が膨らんでいる白いブラウスに身を包み。下はヘソを起点に左右に流れた膨らみのあるルージュのフリル付サーキュラースカートを穿いている。これで靴下を履いて、スリッポンかフラットシューズに履き替えれば、誰がどう見ても出で立ちの良いお嬢様に見えることだろう。季節に合わせて、生地も極力軽めのものを選択したため、今日から一ヶ月ほどは愛用出来る筈だ、と彼は得意げに何度も頷いた。

 

「大丈夫。何なら、他の友達にでも見せて反応見てみろ」

「似合ってるか、じゃなくて。チョイスは私もいいと思うけど、これって男の子的にありなの?」

「今まで露出派手めだったんだから、逆にした。俺としては、今までの服装より断然そっちの方がいいと思うが。まぁ、梅雨入りしたらもうちょっと軽い奴にしないと駄目だけど」

「露出が無い方がいいってこと?」

「状況によるけど。まぁ、お前の場合はプロポーションが良すぎるから、それを押し出し過ぎると服が身体に食われるんだよ。だから、それくらいが一番好印象だと思うけど」

「……男の子ってわかんないわ」

「エロけりゃ良いってもんじゃないんだよ。そのあたりは匙加減うまくやっていけ」

 

 彼が言い終わると、彼女は考え込むように顎に手を当てた。その姿は心なしか、普段よりも落ち着いた様相だ。今までの「算段を立てる傾国の美女」といった印象はなく。「未来を憂うるか弱いお嬢様」といった印象を抱かせる。

 

 彼女は程なくして顔を上げた。直後、「あら」と彼ではなくその奥、入り口側に視線が向いたが、すぐに戻される。

 

「何かあったのか?」

「ちょっと気になる服があったの」

「へぇ。どれだ?」

「ほら、あのテール・スカート」

「……お前が着たらちぐはぐになりそうだな」

「あ、ひっどーい! ……まぁ、せっかく選んでもらったんだし。今日はこれを買うわ」

「そうしとけ」

 

 ここで待ってる、と彼は手をひらひらと振りながら椅子に腰をうずめた。彼女はそれを見て「おじいちゃんみたい」と茶化すと、彼に言い返される前に逃げるように更衣室の中に入って行った。

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 まさか、そんな筈はない。絶対に違う。

 そんな言葉を頭の中で繰り返しながら、このみは逃げるようにショッピングモールから出た。それでもまだ距離を開けたくて、気持ちを紛らわせたくて、更に離れるために走っていく。

 

 ダンスで鍛えられた足は、急激な運動にも痛みひとつ感じさせない。歌で鍛えた喉と肺は、力強く空気を取り込んだ。アイドルになる前なら、これだけ走れば急激な運動に筋肉が張り、呼吸も大きく乱れていただろう。成長は、確かにしていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 立ち止まり、冷静に先ほど見た光景を思い出すと、疲労によるものでない動悸から呼吸が荒くなる。そんな現実は認めたくないと頭を振って、もう一度思い出す。しかし、何度思い出したところで、記憶が変ることはなかった。

 

(あれって、莉緒ちゃんに……亮、よね)

 

 百瀬莉緒の方は、顔まで見えたから間違いない。視線が合ったことから、おそらく向こうもこのみの存在に気づいていただろう。

 

 問題は、莉緒のすぐ近くにいた長身の男である。後姿しか見ていないが、間違いないと彼女の勘が告げている。

 

(でも、あいつ普段はあんな安物の服着たりしないし……)

 

 あの服は確か寝巻にしていた筈だ、と彼女の記憶から掘り起こされる。まさか、寝巻の服で外に出るなんて、女の子とデートだなんて、そんなわけはないだろう。誰かと出掛ける際には、それに見合った服装で挑む。律儀な彼の性格を、このみはよく理解している。

 

(……あれ、でも本当に莉緒ちゃん? あの服装、莉緒ちゃんの好みではなかったはずだけど)

 

 ふと冷静に思い返してみれば、莉緒に見えた女性の方にも違和感を覚える。莉緒は、冬場でもファッションと称してミニスカートをストッキングなしに穿いたりと、とにかく自分のおしゃれにこだわりを持っている。その傾向は、男受けをするそれなりの露出を含んだもの、であった筈だ。そこまで思い出して、もしかしたら他人の空似かも、なんて都合の良い可能性が頭の中を支配した。

 

(そうよ。きっと、他人の空似よ。莉緒ちゃんも、亮も、服装の好みが違うし。そうよ、よく言うじゃない。世界には三人自分に似た人が居る、って)

 

 だから違う、とこのみは結論を下して顔を上げると、すぐ横には服飾店のショーウィンドウがあった。

 

 ショーウィンドウ越しに写るこのみの顔は。

 前向きな決断を下したとは思えないほど疲れた顔で、ひとり佇んでいた。

 

(……劇場に行って、汗でも流そうかしら)

 

 そんな自分を吹き飛ばすために、このみは歩き出す。今度は目的地を決めて、綺麗さっぱり忘れるために。成長するために。

 

 暑い日差しから逃れるように、彼女は日陰を通りながら、劇場に向かうのであった。

 

 




感想、評価、コメント、批評、などをお待ちしております。

……莉緒姉ってこれでキャラ合ってるのかしら。
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